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NY在住日本人社長がスコットランド旅行で遭った数々の意地悪体験

久しぶりにひとり旅をすることになり「ネッシーを見たい」と、ネス湖を目指したのは、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さん。時差による眠気に苦しむ高橋さんは、スコットランドの「意地悪」の洗礼を受けたようです。筆者ならではの視点と筆致で綴る、スコットランド旅行記の第2弾。意地悪のせいもあって、まだまだネス湖には着きません。なお、第1弾はこちらです。

「ネッシーを探す旅 私的スコットランド紀行」その2

チェックインまでにはまだ時間があったので、グラスマーケットにつながるヴィクトリア・ストリートを散策します。この街、唯一のおしゃれエリア。スコットランド人デザイナーによる服やアクセサリーが売られている路面店が並びます。

ウインドウ越しに、豚が丸々一匹焼かれているサンドイッチ屋さんを発見しました。そういえば朝から何も食べていない。ガイドブックにこの街のアイコン店と書かれていたその店に飛び込み、シグニチャーを注文します。食べてみて、忘れていたことを思い出した。ここはイギリス。かつて、贅沢は敵だという風潮のもと、外食産業が伸びなかった国。アメリカ以上に、食に貧しい国。ぱっさパサのポークサンドイッチは、機内食のプレッツエルではないにしろ、まったく味がしませんでした。

ホテルに戻り、チェックインまでまだ数時間あるけれど、交渉してみます。「北米から来て、さっき到着したから寝てないんだ、余分にお金払うから、今、チェックインさせてくれないかな」と。受付の気の良さそうなメガネのお姉さんは「アメリカからの旅行者は(時差の関係上)みんな大変よね。わかった、部屋を掃除次第、すぐにチェックインしてもらうわ。でも、あいにくまだ準備できてる部屋が今はないの」と申し訳なさそうに謝ってきます。謝られるも何も、まだ正式なチェックイン時刻ではないので、こちらこそ謝って、また出直すことにします。時刻はまだ11時。そりゃそうだ。ふらふらその辺を歩いて、1~2時間後に戻ってこよう。iPhoneも充電したいし、Wi-Fiもつなげたいし、何よりベッドに倒れたいから。

その足で、そのまま「セント・ジャイルズ大聖堂」へ。ちっちゃな街なので、ガイドブックに書かれている観光名所は半日で回り終わっちゃいそう。ロイヤルマイルの中心に堂々と建っている教会が、あの有名な「シスルス礼拝堂」が入っている「セント・ジャイルズ大聖堂」。実はこう見えて、ヨーロッパの教会巡りに少しハマっていた時期がありました。宗教上の立ち位置であったり、建築の歴史であったり、むずかしいことはよくわかりませんが、ヨーロッパにくると、必ず、そこの有名な教会には足を運ぶようにしています。

渡米してきた19年前。ニューヨークは五番街にある「セントパトリック大聖堂」に初めて行ったときのことでした。日本で生まれ、日本で育った僕が初めて見たリアルな欧米の大聖堂。その迫力と荘厳さは、感動するのに十分な建築物でした。とろこがそれから数ヶ月後、知り合いのフランス人が、そのセントパトリック大聖堂を「なに、あの、ディズニーランドみたいな教会ちっくな代物は」と爆笑しているのを聞きました。

「ディズニーランド」と表現している意味がその時はわかりませんでした。日本人の僕にはあまりに立派で歴史的意義のある荘厳な大聖堂にしか見えませんでした。ただ、ヨーロッパの人たちのプライドには、この新しい国のとって作ったような教会が、なにかアミューズメントパークのような安っぽい、簡易的なモノにしか見えなかったようなのです。え。これが、本物じゃないっていうの?僕の目から見て、あまりに立派に見える大聖堂を何度も見上げたものでした。

その翌年にロンドン、その翌々年にパリに行き、そこの歴史ある教会を実際に訪れ、内部に入ると、確かに、そのフランス人の言ってる意味が少しわかった気がしました。

もちろん、信仰に「箱」は関係ない。それに「ディズニーランド」は言い過ぎだ、とも思う。ただ、確かに、新しい国の教会に比べ、彼らの自慢し、誇る教会は雰囲気だけでなく歴史そのものの香りがします。まず内部の石自体が違う。重厚感を比べると、出来て250年も経っていない国の教会の石がツルツルでマンションっぽく見えるのは仕方がないこと。でも、それだけ、ヨーロッパの教会は「違い」ます。16世紀以前に建てられたものが数えきれない数、点在します。その頃のアメリカは、もちろん、原住民しかいませんでした。

今回のセント・ジャイルズ大聖堂、別名エディンバラ高教会も、およそ900年間、この街の、この国の宗教の中心として、街のど真ん中に佇み続けています。

教会の中は涼しく、何時間でも座っていられそう。入場料は任意ということで寄付金箱だけが設置されていました。こういう時、必ず僕は5ドルくらいを毎回、箱に入れるようにします。今回は5ポンド。アメリカからの観光客は割と寄付金箱に入れるそうですが、同じヨーロッパからの観光客はこういう時はほぼ入れずにスルーするのだと聞いたことがあります。もちろん人によるのだと思うけれど。

教会を出ると、そこはいちばん賑やかなストリート、ロイヤルマイル。多くの観光客とストリートパフォーマーが集まってきていました。そのあたりのカフェに入り、カプチーノを注文し、ぼーっとその様子を眺めていました。そのうちかなり眠くなってくる。時計を見ても、まだチェックインには数時間あります。

でも、あのあと1~2時間は経過してるので、またホテルに戻ることに。受け付けの、気のいいお姉さん、僕の顔を見て、聞いてきます。 「May I help you?(ご用件は?)」…え、いや、さっき…早めのチェックインをお願いしたんだけど、ほんのついさっき。気のいい笑顔は、さっきと同様。そしてさっきと同じセリフ「アメリカからの旅行者は(時差の関係上)みんな大変よね。わかった、部屋を掃除次第、すぐにチェックインしてもらうわ。でも、あいにくまだ準備できてる部屋が今はないの」……。

まるで初対面みたいに言われます。でも声のトーンも、笑顔も感じいい。また1時間後に時間をつぶして、戻って来るもまったく同じ対応。

「May I help you?(ご用件は?)」から始まり、同じセリフ「アメリカからの旅行者は(時差の関係上)、みんな大変よね。わかった、部屋を掃除次第、すぐにチェックインしてもらうわ。でも、あいにくまだ準備できてる部屋が今はないの」……え、ひょっとして、この人三つ子?家族経営で全員別人としゃべってる、オレ?

正規のチェックイン時間まで、結局残り1時間。仕方なくロビーで待つことに。寝てないのでこれ以上歩き回る元気もない。ソファでうつらうつらしていながら、時計を見ると、チェックイン時間を過ぎています。

お姉さんはすぐそこ5メートルの距離。普通の声のボリュームで僕を呼ぶことができる距離。受付に行くと、またMay I help you?(ご用件は?)」……三つ子じゃない。同じ人間。結局、これが最初に本格的に話した最初のスコットランド人でした。

ここから先は、メルマガ読者にだけしか話せない心情を書きます。ブログじゃ絶対に書けない。このあと数日にわたるスコットランド滞在で、現地のスコットランド人は誰一人助けてくれませんでした。これは世界でも非常に稀なことだと思います。スコットランド人、スコットランド在住日本人、スコットランド大好き日本人に知られたら、炎上間違いないので、ここだけの話。

ただの観光で、出会った数十人なので、データは少なすぎるかもしれません。確かに、ニューヨークに観光にきた日本人がニューヨーカーの悪口を言えば、僕もアタマにきます。おまえの体験だけの話だろう、と。ただの観光の時だけでなにがわかる、と。

でも、確かにデータは少ないかもしれないけれど、世界一、思いやりのある人種で出来た国ニッポンで生まれ、世界一お節介の集まりニューヨークで暮らす僕には、ちょっと、あまりに閉鎖的で、排他的な、そんなカルチャーに思えてしまったんです。この後、数日にわたるスコットランド紀行、たまたまかもしれないけれど、とにかく、意地悪な人にあたりまくりました(笑)

くどいようですが、もちろん、あくまで僕自身のたった5日間だけの、ただの観光の話です。実際に暮らせば、また違う側面も見えてくるかもしれないし、もちろんいい人だっていっぱいいると思います。でもイングランドや、あのアイルランドですら感じなかったストレスをここから数日間、感じ続けることも、また事実でした。

部屋に入り、充電器のコンセプトが、アダプターがないと差し込めないことに気づきました。受付まで降りて、アダプターを借りようとお願いします。また人のいい笑顔で「ない。ごめんなさい」とひとこと。で、目を下に向けて作業続行。まるでなにごともなかったような態度。「いや、ホテルのホームページ上では、アダプター、無料で貸し出ししてるって書いてあるけど…」と食いさがると、また気のいい笑顔で「わかった、はい」と後ろの引き出しからアダプターを取り出して、僕に渡して、またテーブルに目を下ろします。でも、その人のいい笑顔の前に、ゼロコンマ1秒、死んだような目になってるのを見逃しませんでした。めんどくさかったんだろうな(笑)

気づけば、日中から部屋で爆睡しちゃって、目が覚めたのは夜半12時過ぎ。どうしよう、旅先で昼夜逆転しちゃったよ。でも、しょうがない。それでも旧市街の中心だから営業しているお店はあるだろうと、真夜中に外に出てみると、平日とはいえ、営業しているバーが1軒か2軒…。お酒の飲めない僕ですが、それでも旅先ではビールくらいは飲んだりします。

バーに入り、カウンターのお兄さんに「ひとりだけど」というと、また気のいい笑顔で、テーブルの方に座りなよ、ウエイトレスが注文とりにくるから、と言われます。

で、テーブルで座ってると、目の前をウエイトレスが何往復もして、確実に目に入っているのに、注文をとりにきてくれない。こちらから話しかければ、さすがにオーダーを取りにくるとは思うけれど、ここまできたら、僕も意味のない意地が出てきて、絶対に、こっちからは話しかけない。

最初はアジア人に対する差別かと思っていました。ところが、隣の白人夫婦も同じようにスルーされている。同世代であろう白人夫婦と目があうと、同じことを考えていたのか、お互いに笑い合う。どっから来たの?と聞くと、カナダから旅行できた、と。なんで、注文とりにきてくれなのかな、と言うと、彼らは呆れ笑顔になり「That’s so scottish!(スコット人だからねえ)」と肩をすくめ、あきらめて、店を出て行きました。

さすがに1時間無視されたので、僕も怒りというより、興味津々になり、「あのー」とウエイトレスに話しかけます。すると彼女はまるで初めてそこに人がいるのに気づいたかのように、例の貼り付けた人のいい笑顔で「ハーイ!注文なににする?」と聞いてきました。スコットランド観光といえば、スコッチウイスキーの体験エキシビジョンが有名ですが、もともとお酒を飲めない僕。スコットランド産のビールだけ注文し、すぐに飲み干して外に出ました。丘の上のエディンバラ城がライトアップされていました。

※もちろん、今回書いたスコットランドの方々の対応は、僕の気のせいでもあると思います。あるいは、たまたまそういった人たちに、運悪く、立て続けに遭遇しただけです。実際に、多くの日本人がスコットランドに暮らし、豊かな日々を送っています。あるいは、ニューヨーカーが、あまりに気さくすぎるだけのことなのかもしれません。あくまで個人が遭遇した経験談なので、スコットランド人全体がそうではないことだけは、念を押しておきます。

そしてもうひとつ。実はスコットランド人、スコッツは「イギリス人」ではありません。スコットランドがイギリスの一部のような書き方を便宜上していますが、厳密にいうとスコットランドはユナイテッドキングダムであって、イギリスでは、もちろんない。英国であるけれども、当然、イングランドでも、アイルランドでもない、スコットランド、です。当然ですが。

結局、エディンバラに滞在した2日間は、ずっと雨でした。でも、決して嫌な雨ではなく、天気雨というか、すぐに降ってはまた止んで、で、またすぐ降って、すぐに止んで、の繰り返しでした。炎天下のニューヨークから行ったので、それはそれでありがたい天候でした。でも、僕の中では、街全体が暗いイメージになってしまった。それはただの天候のせいだけど。

2日目の朝、天然の要塞、エディンバラ城に上がるまでの間、歩道に一匹のカタツムリがいるのを発見します。雨上がりの舗装された道路に、そう大きくはないカタツムリ。生きたカタツムリなんて見るのは何年振りだろう。いや、何十年ぶりだろう。ついつい動画を撮って、ニューヨークの4歳の息子に送ってしまう。「カタツムリー!!!!」とそれを見て興奮する息子の姿をまた動画で送ってもらい。

昔はひとり旅に出ることが大好きでした。そのために生きていたと言っていいほど。世界のまだ見ぬ場所に飛び込むことそれ自体が生きがいでした。瀬戸内海の片田舎に生まれ、自営業をやっている父の家で育ち、自分の生まれた場所より1歩でも遠くへ足を運ぶことが、生きている意味でした。今は、カタツムリの動画を送れるホームがあることが、生きがいに変わりました。

今から行くエディンバラ城が歴史的にどんな重要遺産でも、どんな荘厳な光景でも、本当は、生きたカタツムリに興奮する息子の笑顔に比べれば、僕にとっては、そんなに意味がない。そう思えるようになりました。

その後、そのエディンバラ城にも、そしてスコットランド美術館にも、あのスコットランドの女王メアリー・クイーン・オブ・スコッツにまつわるエピソードが数多く残るホリルードハウス宮殿にも足を運びましたが、結局、エディンバラという街の最大の思い出は、朝に出会った、夜露に濡れた一匹のカタツムリ、でした。

ガイドブック的は紀行文は、オレ、ぜったいに書けねえな・笑。翌朝、かなり早起きしてウェイヴァリー・ブリッジ駅に向かいます。そこから、今回の旅のメインイベントであるネス湖に行くために。

エディンバラ中心地にある、街最大のターミナル駅ウェイヴァリー・ブリッジ駅はかなり大きくて立派な駅でした(と言っても東京駅の10分の1くらいの規模だけど)この駅を中心に北側がニュータウン、南側がオールドタウン。つまりこの駅を境に街が二つに分かれます。

かなり早朝に到着したので、まだ飲食店はそんなに開いてない。朝ごはんに普通のスーパーマーケットに入りました。お目当は「スコッチエッグ」。やっぱりこの国に来たからには本場のスコッチエッグも食べとかないとな、と思ってはいたものの、あまりに定番の家庭料理らしく、レストランではそう見かけませんでした。でもスーパーマーケットには、やはり必ず置いてありました。駅構内のベンチで食べてみます。当然、レンジで温めないと美味しくはない。でも、冷たいことを差し引いても、そう美味しくは感じられない。

結局、カレー然り、ラーメン然り、どこの国の代表料理であれ、日本人がいちばん美味しくアレンジしちゃいます。でも、あとで聞いた話、イギリス人は、スコッチエッグを温めず、そのまま食べるんだって。ちょっと驚く。

ネス湖に行くには、まず鉄道でインヴァネス駅というところまで3時間、乗り換え入れて4時間を要します。思ったより遠いな。しかもウェイヴァリー・ブリッジ駅は最大のターミナル駅なので、当然イギリス全土に行けます。電車の数も多く、電光掲示板もわかりづらく、どのラインに乗ればいいのかよくわかりません。インフォメーションセンターも早朝すぎて、まだ開いてない。

なので勝手にホームに入り、鉄道員っぽい制服を着た人を捕まえて聞いみます。丁寧に説明してくれた年配の女性鉄道員の言葉が、でも、まったく聞き取れず。ついつい失礼と思いつつ、何度も聞いて、口元を凝視してしまう。

ゲール語も混じるスコティッシュは、アメリカ人でも通訳をつけるほどらしく、まぁあああああったく聞き取れません。アイリッシュでもここまでじゃなかった記憶です。

思い出すのは「Snatch」という映画のブラッドピット。映画史上最も好きなキャラクターの、イングリッシュでもアイリッシュでもない言葉を話す北アイルランドのジプシー役、ワンパンチミッキー。声の出し方からイントネーションからすべてが現地の人と同じで、スコットランドに来て、ブラッドピットが凄い役者だと今さら気付かされました。

ぜひ、お時間ある際に見てください。YouTube貼っときます。同じ話し方です。 ● 「Snatch “Caravan Talk” of Brad Pitt with subtitles」

17番のりばということだけをキャッチできたた僕は、とりあえず乗り場に行くことに。中に乗っている乗客に聞いてみます。「インヴァネスって駅に行きたいんだけど」。30前後のメガネをした人の良さそうな白人のお兄ちゃんが「えっと、実は、僕も同じ旅行者で…わかんないんだけど…スマフォで調べてみたら」「それが、ルーター持ってなくて、通じないんだよ」。そういうと彼は自分のスマフォで調べてくれました。

「多分、Perthって駅で乗り換えだから、そこまで一緒に行こうよ」そう親切に提案してくれた彼と、そこまでの1時間ほど、横に座って色々と話しました。白人だけれど、メキシコ生まれのメキシコ人だということ。初めてスコットランドを訪れたということ。なかなかスコティッシュは聞き取りづらくて同じように苦労している、ということ。そして、旅の目的が、SNSで知り合って、お付き合いするようになったスコットランド人の彼女のもとに遊びにきた、ということまで教えてくれました。照れるように話す彼に「メキシコとスコットランドの遠距離恋愛?結構、遠くない?それでよく続くね」と驚くと「なので、今回、思い切って訪れたんだよ」と彼。「え…?ちょっと待って、今まで会ったことは?」「ない。今日が初めて。だから、緊張してんだよ」

驚く僕に彼は立て続けに話します。「駅で待っていてくれるらしくて…こっちはソワソワしてたから、それまで一緒に話す相手が欲しいと思ってたんだ」と。「……さっき、“彼女”って言わなかったっけ?」「そうだよ、僕の彼女」。

一瞬、何を言っていいのかわからなくなっている僕に「言いたいことはわかる。まだ会ってもいない相手を彼女って言うのはおかしいよね。でも、僕たちは運命をお互い感じたんだよ。会う前から、お互いが運命の人だと感じたんだ、だから、僕はこの国まで来たんだよ」

まっすぐな目をして語る彼に、「…そう、それはよかった。グッドラック」と答えました。同じ乗り換え駅で同じ列車に乗り、彼が先に途中下車します。

すごいなぁ…会ったこともない人に運命を感じて、メキシコからスコットランドまで来れるもんだろうか。若さのなせるワザなのだろうか。彼に「彼女によろしくね」とお礼を言って別れます。路面上の小さな駅、迎えに来ているはずの彼女はまだ来ていないみたいで、大きなバックパックを背負った彼は、キョロキョロ周囲を目で探していました。

列車は動き出します。窓ガラスから、その彼を見送りながら「絶対すっぽかすなよ」と知りもしないスコットランド人の女性につぶやきました。

目的駅の「インヴァネス」には、まだ半分も到達していない。窓の外は延々、田園景色。日本人には驚くほどデカイ風車が数え切れないほど。ポカポカと暖かい陽気が窓から差し込み、傾けた頭が気持ちよくイヤホンで音楽を聴きながら、寝てしまいました。

ふと目覚めると、イヤホンがとれて、音がダダ漏れ。そう大音量ではないとはいえ、慌ててイヤホンを回収し、通路を挟んで目があったスコットランド人老夫婦のおじいさんに、「sorry」と呟きます。照れ笑いをしながら。

彼は僕を一瞥し、フン、と鼻を鳴らして、ソッポを向きました。ご迷惑おかけしたかなと、続けて目があった隣の奥さまであろうおばあさんにも、同じように「sorry」と言うと、デジャブかのごとく、同じように僕を一瞥、見下すように鼻を鳴らして、嫌な顔をして窓に顔を向けました。大変、失礼致しました(汗)

日本やニューヨークのような反応を期待した僕の方がよくない。迷惑をかけたのはこっちだから。(それにしても、夫婦揃って、フンっ、って・笑)

早朝に出発したにも関わらず、途中、遅れもあり、インヴァネスに到着した頃には、正午を回っていました。そのまま駅の案内に従い、バステーミナルへ。目的地のネス湖があるドロナムナドロケットという村までバスで30分はかかるのだとか。

パラパラと雨が降るどんよりした空模様。背の低い平家が建ち並ぶインヴァネスは寂しい町に見えました。ガイドブックには観光名所と書いてあるけれど、外国人観光客がもしここまで来るとしたなら、やっぱりそのほとんどはネス湖まで行くのじゃないだろうか。バスターミナルには、ネス湖までの観光ツアーの張り紙が多く貼られていました。

バスターミナルでトイレに行くと、イギリスではよく見る有料のトイレ。駅の手動式の改札のようになっているトイレの入り口に30セントを入れて、潜るように進みます。前のおじいさんが、30セント入れた時点で、一緒にはいろうと、手招きしてくれました。たかが30円ほどでも、そのやさしさに触れると、特に旅先では嬉しくなります。

バスのチケットを購入するために、大して長くもない列でかなりの時間を待たされます。イギリス北部特有のゆったりした時間。やっと自分の順番が回ってきたところ、カウンターのぽっちゃりしたおばさんは、ちょっと待っててとトイレに行きました。5分ほどで戻ったおばさんは、自分の席にたどり着くまでの途中、同僚と世間話をひととおり終え、めんどくさそうに、僕に「どこまで?」と聞きました。ドロムナドロケットと告げると、おそろしくゆっくりした動作で、発券してくれます。「(発車は)1時間15分後ね」と。

平家の掘っ建て小屋のようなボロいターミナル。すぐ外を見ると、ドロムナドロット行きと書かれているバスがたった今、発車しました。「………あれに、乗れたよね」怒りを抑えて、聞くと「たぶん…そう。たぶん…いいえ。さぁどっちかしら」と悪びれもせず、あくびしました。トイレは仕方がないとはいえ。同僚とのどうでもいい世間話も我慢するとはいえ。どうみても、慣れない様子のアジア人の僕。普通にネス湖に行く観光客に見えるはず。こんなベンチ以外のなにもない古屋で雨の中1時間以上なにをして時間を潰すのか。(次回に続く)

image by: NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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