そして現在、当時密偵だった人を暴く作業と、チンイルパだった人を暴くことが、韓国の一大事業となっている。おもにこの作業は、ノムヒョンのときから表立って進められてきていて、現在もなお、進行形である。当時密偵で、今も生きている人も例外的にはいるかもしれないが、だいたいは、その子孫たちがターゲットになるわけである。ときどき、国立墓地(クンニプミョージ)に、堂々と墓碑が立てられていたのだけれど、実はチンイルパだったということが判明してしまい、急遽、墓地から撤去されるという出来事、事件などもニュースに流れる。
国立墓地は日本で言えばさしずめ靖国神社に相当しようか。戦争で犠牲になった人たちがここに行けることになっている。今でも軍隊にいって、何らかの事故でなくなっても、国立墓地にいくことになっている。国立墓地は、韓国の聖地であるゆえ、ここにチンイルパやその子孫が眠ることは絶対の禁なのである。当時の記録を一つ一つあたって、この人は確かに密偵だったとか、チンイルパだったと証拠とともに明らかにすることって、想像したらすぐわかるけれど容易くできることではない。というより、ほとんど不可能に近い作業じゃないのかと筆者には思われるくらいだ。なのに一生懸命にやっている。こちらの人たちは。
それくらいにして、あとは水に流そうよ、という発想は日本の発想かもしれない。こちらでは、それくらいにして、という考え自体、ないといっていい。特にこの密偵およびチンイルパに関することとなると。あくまでも、何年、何十年、何百年かかっても、暴くべきはあばく、というのがカンナムスタイルならぬ韓国スタイルだ。
この伝統というか習慣が色濃く残っているために、聴聞会などでの調査は、他の国では考えられないくらい徹底したものとなっているのではないのか。それが筆者の見立てである。
この間も、韓国の人なら全員が愛する韓国の国歌「愛国歌(エーグッカ)」があるのだけれど、その作曲家がチンイルパだったというニュースがいっとき流れていた。たしか今年の初め頃だったと記憶する。そのときは、すぐにでも国歌を変えなければならないという気流であった。しかしいつのまにかその話はなくなり、今もあの「愛国歌」を皆が歌っている。フェイクニュースだったのか、あるいはあまりにも「愛国歌」の浸透度が大きいためいまさら変えられないと多くの国民が考えているのか。ことの真相はわからない。
が、一つだけ言えることは、密偵およびチンイルパ暴きという作業は、想像を絶するほどのエナジーおよび金が消耗されているということ。これをやっている間は、おもしろくて生産的で、みんながわくわくするような光り輝くものって、生まれてこないのではないかと筆者は思っている。
もちろん筆者のこの見立てがまちがっているかもしれない。でも、このことのゆえ、意識がいつも負の方向にいってしまっているということだけは、動かしがたい事実だと思うのだ。
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