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読売だけが「忖度」報道。年金20%減の公表を各紙はどう報じたか

先日掲載の「参院選を懸念し『年金財政検証』の公表3ヶ月も先送りに批判殺到」でもお伝えした通り、8月27日になりようやく発表された年金財政検証。6月に公表された金融庁による報告書に端を発した「老後2,000万問題」など何かと騒がしい年金行政周辺ですが、今回の検証結果を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析・検証しています。

「年金財政検証」、どう読めばいいか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「年金水準 見通し改善せず」
《読売》…「年金 現役収入の5割維持」
《毎日》…「年金水準2割減」
《東京》…「年金水準 28年後2割弱減」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「老後不安 年金も『自助を』」
《読売》…「年金『担い手改革』へ」
《毎日》…「『現役の5割』年金綱渡り」
《東京》…「楽観試算で『100年安心』」

プロフィール

年金財政検証がやっと報告されました。さて、この内容をどう読めばいいでしょうか…。

■不安に応える改革とは?■《朝日》
■マクロ経済スライドの機能強化?■《読売》
■想定は甘すぎる■《毎日》
■現受給者の生活を支える必要■《東京》
■大手の「例外」を簡単に認める経産省

基本的な報道内容

公的年金の将来の見通しを示す年金財政検証の結果を厚労省が発表。高い経済成長を見込んだ場合でも、年金水準は約30年後に現在より約2割低くなる見通し。前回検証から改善は見られず、制度改正や高齢者の就労促進などで「支え手を増やす必要性を強調。

検証では、将来の物価や賃金上昇率などが異なる6つのケースを想定。どこまで年金水準(現役世代の平均手取り収入に対するモデル世帯の年金受け取り開始時点の年金額の割合のことで、所得代替率ともいう)を下げる必要があるかを弾き出した。比較的楽観的な経済想定(物価上昇率1.2%、賃金上昇率1.0%)でも、マクロ経済スライド終了時の所得代替率は50.8%と、なんとか政府が約束した目標をクリアできるレベル、ただしその後、それ以下には下がらないことになる(マクロスライドが続いている間は、年金を受け取り始めた後も水準低下は続く)。

こうした財政検証を前回よりも3か月遅れで公表したことについて野党は「参院選での争点化を意図的に避けたもの」として批判し、早期の国会審議を求めている。秋の臨時国会で大きなテーマになるとみられる。

不安に応える改革とは?

朝日】は1面トップと2面の解説記事、4面関連、6面特集、14面社説と全面展開。見出しを拾っておくと…「年金水準 見通し改善せず」「財政検証 30年後に2割減」(以上、1面)、「老後不安 年金も『自助を』」「50%確保 甘い経済想定」「『支え手』増と就労 促す」(以上、2面)、「遅れた年金検証 早期の審議要求」「野党『選挙対策』と批判」(以上、4面)、「不安に応える改革を」(14面、社説)。

財政検証は、マクロスライドを前提として所得代替率を何%まで下げれば、その後は年金水準を一定に保つことが出来るか見通しを明らかにするもの。

14面社説は「不安に応える改革」を求めている。高齢化と人口減少で、受け取れる年金の水準低下は避けられないとの認識を示しつつ、「痛みを和らげる」ために、何より急ぐべきは「非正規雇用で働く人などが厚生年金に加入しやすくすること」で、「保険料負担が増える中小企業への目配りは必要だが、最優先で取り組むべき」とする。その他、基礎年金の保険料支払期間の延長なども「底上げの効果が大きい」とお気に入りのようだが、ここにも「基礎年金の国庫負担分の財源を考える必要がある」と制限条件が付く。「痛みを和らげる」ためにカネが必要であり、結局は不可能だと言っているようにも見える

《朝日》の社説子は、少なくとも「税と保険料の使い道」という、これ以上無い巨大な問題を根本的に改革するという意識は持っていないように見受けられる。

マクロ経済スライドの機能強化?

読売】は1面トップに2面関連記事、3面解説記事「スキャナー」と社説、4面政治面、15面特集と《朝日》同様全面展開。見出しは「年金 現役収入の8割維持」「順調成長なら 47年度以降も」(以上、1面)、「年金『担い手改革へ』」「75歳開始 選択可能に」「パートに適用拡大 高齢者就労」「将来世代の給付 目減り」(以上、3面記事)、「安定運営のため不断の改革を」(3面社説)、「年金財政検証 野党反発」「成長率など 前提『バラ色』問題視」(以上、4面)。

社説子は「年金制度を安定的に将来世代に引き継ぐには、さらなる改革が欠かせない」と言い切る《読売》は、このままではいけないと言っていることになる。

必要な「改革」として語られているのは、非正規雇用の厚生年金編入であるとか、支給開始年齢を75歳にできるようにすることなど、《朝日》同様で、既に語られていることがほとんどだが、1つだけ、際立った主張は「マクロ経済スライドの機能強化」だ。内容は不分明だが、賃金上昇にもかかわらず、年金水準を落としていく現在のマクロスライドをさらに給付抑制方向に強化するというのは穏やかではない

想定は甘すぎる

毎日】は1面トップに3面の解説記事「クローズアップ」、5面に関連記事と社説、7面に特集。見出しは「年金水準2割減」「28年後 現役収入の5割に」(以上、1面)、「『現役の5割』年金綱渡り」「経済次第 甘い想定」「支え手増に負担の壁」「単身女性の貧困 懸念」(以上、3面)、「政府『年金』幕引き図る」「2,000万円問題 野党は追及継続」(以上、5面記事)、「年金財政の検証 見通しに甘ささはないのか」(5面社説)。

5面社説は、「見通しに甘さはないのか」と問いかけている。6つのケースのうち、「中間的なケース」(上から3番目)では給付水準は50%を確保できるということになるが、この想定の前提は妥当なものか、検討している。このケースは「実質賃金上昇率を1.1%としているが、17年度までの4カ年の平均はマイナス0.6パーセント」。さらに、これは安倍政権が経済再生に注力した結果出てきた数字。これを大幅に上回る数字を前提に置くのは妥当なのだろうかと疑問を呈している。「中間的」というが、実際はあり得ないほどのバラ色の想定ではないのか、ということだ。さらに、検証に加わった有識者の1人は「代替率は50%を下回る可能性が高い」と語っているという。

年金財政を底上げするために提案されているのが「非正規の厚生年金加入」という点で、《朝日》、《読売》とも共通する。

現受給者の生活を支える必要

東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、7面関連記事、5面に社説。見出しは「年金水準 28年後2割弱減」「財政検証 現役収入に比べ」(以上、1面)、「楽観試算で『100年安心』」「給付抑制 20年以上が前提」「『公表遅れは選挙対策』野党が批判」(以上、2面)、「安心の底上げを図れ」(5面社説)、「年金 若年層ほど低水準」「受給後年々目減り40%台も」「66歳まで働き続ける必要」「在職老齢年金縮小なら 支給額2040年度2,200億円増」(以上、7面)。

社説は、この検証結果について、政府からすれば「とりあえず大丈夫」だろうが、その意味は「年金額の目減りと引き換えに制度を持続できるという見通し」と言っている。さらに、実際の経済状況は想定とは食い違うから、これは飽くまで「将来を考える目安にすぎないのだ、とも。

問題は、制度を維持する仕組みにあるという社説子。マクロ経済スライドのことを言っているのだが、この方向にかじを切った政府は、今後30年間抑制を続けないと制度を維持できないことになるとする。《東京》は「抑制の仕組みは将来世代の年金財源を確保するためには致し方ない」としつつ、「受給者の生活はとても『100年安心とは言い難い」とも。

また、年金水準引き上げのための制度改革については他紙と同様だが、大きく違っているのは「受給している高齢者の生活をどう支えるかも忘れてはならない」としている点だ。マクロ経済スライドの残酷さを思えば、この指摘は重要。社説全体を、このトーンが覆っているのが、《東京》の特徴。

image by: MAHATHIR MOHD YASIN / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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