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「トラブルが不安」の声も。相乗りタクシーが日本の定番になる日

広告を利用して0円で乗車できるサービスや、一般人がドライバーとして運転する自動車配車アプリなど、さまざまな新しい試みが脅威となりつつある、日本のタクシー業界。そんな業界の中で新たな動きとして注目されているのが「相乗りタクシー」の存在です。目的地への方向が一緒の「見ず知らずの人」とのタクシー乗車は、日本人のスタンダードになり得るのでしょうか? フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、すでに一部地域で始まったアプリや新潟県長岡市での取り組みを現地取材し紹介しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

相乗りタクシーは、日本のスタンダードな「市民の足」となるか?

3月7日、首相官邸大会議室で開催された、官民連携の成長戦略と構造改革の司令塔となる「未来投資会議」(議長・安倍晋三首相)により、道路運送法で禁じられていたタクシー相乗りが解禁される方針が決まった。国土交通省では、来年3月までの今年度中に、規制緩和ができるように準備を進めており、タクシーが劇的に安くなり、ぐっと乗りやすくなる。

背景として、タクシー運転手の人手不足、過疎地で車の運転ができなくなった高齢者や児童の通学などといった移動にバスを使うのは非効率などといった、実情があった。

規制緩和に向けて、各地で相乗りタクシーの実証実験が行われている。また、現行法のままで相乗りができる仕組みも考案されており、解禁後にはより利用が加速されることが期待される。相乗りタクシー解禁を先取りした取り組みを追った。

現状、タクシーとは道路運送法で、1つの契約により乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する事業、と定義されている。

つまり、見知らぬ人がタクシーに同乗して割り勘で支払う、タクシーの相乗りは1台のタクシーに複数の契約が発生するから禁止なのである。しかし、見知らぬ他人同士でも、タクシー事業者が介在せずに乗車前に1つのグループをつくって、代表者1人が支払いをする場合には、契約は1つとみなされて現行法でも相乗りは可能だ。

この原則を使って、スマートホンのアプリによるマッチングで、タクシー相乗りを可能としたのが、「ニアミー(nearMe.)」というアプリだ。昨年6月にリリース。東京都内からスタートし、埼玉県と神奈川県の一部でも利用できる。

まだ、始まったばかりのサービスだが、1万以上のダウンロードがあり、ニアミーによれば使った人の約半数がリピートしているという。

ニアミーのアプリで現在地と目的地を入力すると、GPSにより最適ルートと割り勘の料金が表示される。近所に居る相乗り希望者は写真入りで表示され、チャット感覚で簡単なメッセージのやり取りをして、待ち合わせて落ち合うと、タクシーに同乗。最後に降りた人が、運転手にメーターの料金を通常通り全額支払う。

途中で降りた人からはクレジットカードで、アプリを介して、最後に降りた人へと割り勘に該当する金額がフィードバックされて振り込まれる。これで、フェアな支払が完結する。

ニアミーはマッチングの成立によって、手数料を得るビジネスモデル。利用者は1人でタクシーに乗るよりも最大で40%安価になるとのことだ。

ニアミーを考案した、NearMe(ニアミー)という会社は2017年7月に設立された。

代表の髙原幸一郎氏は、楽天グループのケンコーコム執行役員、フランスRakuten AquafadasのCEOなどIT企業でキャリアを積んで起業。切っ掛けには、自ら経験してきた非効率なタクシーの乗り方にあった。

「原体験として、以前は仕事が遅くなって、週に3回以上終バスを逃してタクシーを利用していた。1人ずつ乗っていくので長い行列ができ、とても非効率。雨が降ろうものなら最悪だ。同じ方向に行くのなら、乗りたい人がまとまって乗せたい人とマッチングすれば、もっと早く帰れるのにと、ずっと思っていた」と、髙原氏は何よりも自分が欲しかったアプリを開発したのだと強調した。

「ライドシェア」というサービスがアメリカから広がり、話題となっている。ウーバー(Uber)、リフト(Lyft)などといったアプリを使って、車で有償にて目的地まで送ってもらうサービスだ。しかながら、日本ではタクシー業者ではない普通の市民が、車で勝手に人を乗せて輸送して料金を取ったら、「白タク」という違法行為になる。ウーバーやリフトには、1人で利用するだけではなく、相乗りのサービスもあって、さらに安くライドシェアができる。

ニアミーの場合、ウーバーやリフトのように配車を行うわけではなく、タクシー会社と契約して相乗りするわけでもない。マッチングと相乗り分の清算のみをアプリを通して行うことで、日本にマッチした安価な割り勘型ライドシェアを提案していると言えるだろう。

現状の利用者は、最初に想定した通り、終電後、終バス後の深夜の帰宅が最も多い。

髙原氏の事業の構想では、相乗りタクシーは入口で、GPSを使った地域の瞬間的なマッチングには大きな可能性があるという。 

地域の交通では、たとえば高齢者の買物や通院、観光、花火大会などイベントからの帰宅などのニーズを探る。あるいは物流では、地域の集荷場から目的の家や事業所までの最後のお届けの部分を担ってドライバー不足の解消に貢献する、などといった今後の展開を考えている。

また、別途タクシー会社と提携した送迎サービスも始めた。8月27日より9人乗りのジャンボタクシーを使い、成田空港から都内9区(新宿、渋谷、世田谷、港、台東、墨田、千代田、中央、文京)の各ホテルを、AIを使った最適なルートで結ぶ、Wi-Fiを完備した「スマートシャトル」と名付けたエアポートシャトルを運行している。複数のホテルに立ち寄っての乗降が可能で、主にインバウンドの観光に役立てようという趣旨だ。

オンラインによる事前予約制で2日前までの予約が必要。飛行機の遅延によるキャンセル料は発生しない。アプリは日本語と英語の2ヶ国語対応だが、5ヶ国語まで増やす。決済はオンラインも可能。

定時・定路線のバスよりも小回りが利き、タクシーより安価な料金1人1回3,980円(税込)をアピールしている。

また、東急リゾートサービス と提携して、同様な9人乗りの スマートシャトルを使い、東急沿線のゴルファーをドア・トゥー・ドアでゴルフ場へ送迎するサービスの実証実験も間もなく行われる

このニアミーを使ったタクシー相乗りの実証実験を行っているのが、新潟県長岡市。長岡市は人口約27万人で、新潟県では政令市の人口約79万人を有する新潟市に次いで大きい。中越地域の中心都市であり、日本三大花火大会の1つ、「長岡まつり大花火大会」が全国的に著名だ。

実証実験は2クールある。最初の7月~8月のクールが終わり、10月~11月に2回目のクールを実施する。

趣旨としては、先進技術を持つ民間企業と共同で市民生活の向上を目指す、オープンイノベーションの一環であることがうたわれている。ニアミーが地方都市でサービスを行うのは初めてだが、市内には、長岡技術科学大学、長岡造形大学、長岡大学のキャンパスもあり、先端的な技術が受け入れやすい風土があるという。来年、長岡崇徳大学が開学して4大学が市内に集まる。長岡高等専門学校もある。

実証実験開始にあたり、6月21日に長岡市、ニアミー、長岡市ハイヤー協会の代表者が出席して記者会見を開催。県内の主要メディアに紹介された。また、長岡駅、各大学のキャンパスなど市内各所にポスターを掲示。「市政だより」の1面で特集し、11万世帯に配布。商工会議所の会員宛てに3,500部のチラシを配布した。その他にも、長岡駅前などでティッシュを配り、タクシーの中にもティッシュを置いて認知に努めている。

現状は、宣伝を行いながらも、夜の長岡駅周辺を除いてマッチングしにくい状況にある。「知らない人に自宅を特定されてしまうのではないかという不安感が拭えないようだ。自宅の近くで降りるように周知させていきたい。アプリの登録に顔写真が要るのかも検討したい」(長岡市地方創生推進部イノベーション推進課・加藤俊輔課長補佐)と、長岡市では次のクールに向けての課題を明確にした。

一方で、「タクシー利用者同士が現金をやり取りしないし、実際に会ってみて同乗を断るのも可能なので、トラブルは起きないと思っている」(加藤氏)と、アプリの安全性に関しては実証できたとしている。

出発地が同じで、目的地の方向が同じという条件で威力を発揮するアプリなので、市街から離れたスキー場にある「東山ファミリーランド」で10月12日~13日に開催される、音楽フェス「長岡米百俵フェス」の輸送にニアミーがどれだけ使われるのか、期待を寄せている。

長岡ハイヤー協会会長で相互タクシー社長の小川浩司氏は、「長岡でもタクシードライバーは高齢化していて、人手不足が深刻化している。住民の買物や通院、介護施設、空港からの送迎に、相乗りが活用できるのではないか。あと、夜の飲み屋街を開拓すれば相乗りしたい人は増えると思う」と、提案している。

高齢者にはクレジットの支払が疎まれている感もあるが、髙原氏は安全性の問題から、Suicaのような交通系電子マネーなどは検討の余地があるが現金での支払いは考えていないと断言した。

国土交通省は、昨年1月22日~3月11日に、大和自動車交通グループ及び日本交通グループと、配車アプリを使った相乗りタクシーの実証実験を行った。地域は、東京都23区と武三地区(武蔵野市、三鷹市)で、車両数は949台。

同省自動車局旅客課によれば、実証実験実施期間中の相乗りタクシーの申し込み人数は5,036人で、そのうち利用者は494人。マッチングの成立率は約1割にとどまった。

しかしながらアンケートでは、利用者の約7割が本格導入後に「また利用したい」と回答した。つまり、マッチング率は極めて低いが、利用した人のリピート率は高かった。

実証実験に合わせて実施したインターネットモニターアンケートでは、相乗りタクシーを利用したくない理由には「相乗りする人がどういう人になるかわからないから」が最も多く、男性で6割、女性で7割を占めた。やはり、同乗者とのトラブルに巻き込まれる不安を拭い去れないのだ。

これは、ニアミーの現状の営業状況や長岡市での実証実験の中間報告と、ほぼ同じ傾向の結果である。

つまり、国土交通省の報告にあるように、実際の利用者には、複数人で相乗りして割安にタクシーを利用するという、相乗りタクシーのコンセプトは受け入れられたと考えられる。一方で、相乗りタクシーの課題として、申し込み人数の増加やマッチング効率を上げる工夫が必要なこと、同乗者への不安感が強いことから、これを解消する必要があることが浮かび上がった。

ちなみに、大和自動車交通と日本交通のアプリは、方式が少し違っていた。大和自動車交通は指定された停留所と行き先と乗車時刻を設定して、停留所まで来てもらう「この指とまれ方式」で同乗者を募集するやり方。日本交通は同じ方向へ行く人を途中で拾い、また降車させていく「フリーマッチング方式」で、利用者は助手席と後部座席に分けて座り定員を2人とした。

マッチング率には差が付き、大和自動車交通は60%、日本交通は5%だった。

いずれも料金の支払いはクレジットカードで、キャッシュレス推進の面もある。

シンガポールを本拠とする、「グラブ(Grab)」という配車アプリは、相乗り可能で現金払いもできる。グラブはマレーシアで起業。同国ではタクシーのぼったくりも珍しくなく、日本と違ってタクシー運転手があまり信用されていない。なので、採用面接と利用者のドライバー評価アンケートに力を割く、グラブの白タクのほうが、安全安心と思われている事情もある。現在、グラブはタクシーの配車も行う。

タクシー相乗りの導入を機に無理にキャッシュレスを推進しなくても、現金で払うのもありだろう。

前出、相互タクシー・小川社長は「東京のような大都市、長岡のような中都市、本当の田舎ではそれぞれタクシーのニーズが異なる。細かく対応していくことが重要」と指摘する。

たとえば東京都心部では人口が多いから相乗りのマッチングがしやすいので、自由マッチング方式。中都市や大都市でも郊外では、停留所を決めたオンデマンドの超小型バスのような方式が、自宅も特定されにくいので最適なのかもしれない。

本当の田舎は、タクシー会社も撤退している状況で、マッチング可能な人口もないので、相乗り以前に人口30万人以上の都市にしか認められていない個人タクシーの営業を解禁する、などといった議論が盛り上がってほしい。それも難しいなら、ウーバーのようなマイカーを活用するやり方しかないだろう。

Photo by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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