対イラン問題という視点で見た場合、今回の件についてはイランに対する非難を強め、場合によってはイランとの直接対決も辞さないという姿勢を示していますが、本音としては、準備はするが、絶対にイランとの戦争は避けたいと考えているようです。
アメリカをはじめとする“同盟国”がサウジアラビアの側についてイランと戦うのであれば別でしょうが、単独でイランと戦えるほどの戦力も能力もサウジアラビアにはありません。モハメッド・ビンサルマン皇太子のルートを通じて、何とかアメリカを戦いに引きずり込もうと工作しているようですが、ボルトン補佐官が政権を去った今、もっともハードライナーと目されるポンペオ国務長官でさえ、地域に起こりうる地政学的なリスクに鑑みて、軍事的な介入には積極的ではないようです。
仮に今回の事件の首謀者がイランであることを証明できず、かつアメリカをはじめとする友好国からの軍事的な支援を得ることができなくなったら、表面上は“イランからの脅威に対抗するため”と称して、サウジアラビアは核開発に着手するかもしれませんし、すでに保有して実戦配備している無人攻撃機やドローンを用いた攻撃をイランに対して“報復”として仕掛け、それがより大規模な中東戦争から世界戦争へとエスカレートするトリガーとなってしまうかもしれません。
サウジアラビア独自の武器開発と核開発は、実はビンサルマン皇太子にとっては悲願であり、同時に彼が目玉政策として進めるサウジアラビア経済の脱石油化の目玉セクターとしてアピールすることも可能になる“強力な後押し”と捉えたとしたら、中東地域はもう制御不能な軍拡競争に陥り、そして世界大戦に発展しかねない火種を多く抱えることになるだろうと予測されます。
ここに地域に野心を抱くプーチン大統領のロシアや、地域の盟主でバランサーという立場を取り戻したりエルドアン大統領のトルコが絡み、かつロシア同様、勢力拡大を狙う中国が絡んできたりしたら、現行のシリアでの内戦同様、様々な行動主体が抱く利害が複雑に絡み合い、なかなか解くことが難しい状況を生み出すことになるでしょう。
国連外交weekの機会を用いた米・イラン間の首脳会談の実施は困難となり、確実にmissed opportunitiesとなってしまいそうですが、サウジアラビアをはじめとするイランの周辺国が、アメリカの調整力のなさを嘆いて独自の対策に乗り出す時、先の中東戦争以降、地域に非常にデリケートな安定をもたらしてきた“なにか”が、一気にはじけ飛び、ついに世界大戦に向けたパンドラの箱が開かれるかもしれません。
それを防ぐ術を持つ数少ない国として、安倍総理が率いる日本政府にはぜひクリエイティブな解決策を、我慢強く追及してもらえればと願っています。
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