【書評】サバイバルのプロが忠告「災害時に他人を避けろ」の理由

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災害時に都市生活者を襲う大きなリスクは、「人」…。もしそれが事実ならば、私たちはそのリスクをどう避ければいいのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、自衛隊サバイバル教官でもある著者が「都市型災害時のサバイバルプラン」を綴った一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:川口拓『都市型災害を生き延びるサバイバルプラン』

71Iy+EohulL都市型災害を生き延びるサバイバルプラン
川口拓 著/イースト・プレス

禍々しい真っ黒なカバー、白抜きのタイトル「サバイバルプラン」が頼もしい、ような気がする。著者は「一般社団法人危機管理リーダー教育協会」代表理事である。同協会の理念は「〈狩りの仕方〉ではなく、〈狩りの教え方〉を伝える」だという。日常のいざに備える知識技術を伝える危機管理リーダーを養成する組織らしい。でも、現代社会において「狩り」とは何だろう。

著者はカナダやアメリカで雪山登山、ロッククライミング、野外教育法、ネイティブ・アメリカン古来の伝承、大地と共に生きるサバイバル技術などを学んだ。ネイティブ・アメリカンの教えに、「誰かに狩の仕方を教えれば、その人ともう何人かは生きてゆけるだろう。その代わりに狩の仕方の〈教え方〉を教えれば、きっと彼の部族全体が長い間生きてゆけるだろう」とある。

さらに自衛隊危機管理教官自衛隊サバイバル教官でもある。この本では、自然界におけるサバイバルではなく、都市生活者が遭遇する災害時のサバイバルについて、基本的な考え方を示す。よくある一般的な災害対応マニュアルではない。災害時の都市が砂漠なみに厳しい環境であること、さらに自然にない固有のリスクがあることを教えられた。なんと、リスクの正体は」である。

「災害時に厳しい状態が長く続くと暴徒化する人々が現れることは専門家の間では半ば常識になっている」という。震災時にデマが流れるのを、我々はすでに体験済みだが、まだピンとこないのが「暴徒化」である。食料を強奪されたり暴行を加えられたりすることを防ぐため、他人を避けることをすすめる。インフラが失われた都市では、見知らぬ他人の存在は大きなリスクになる。

レスキューの世界では「セルフレスキューファースト」が常識である。他人を助けるよりも、自分を助けることが優先されるということである。えっ、レスキューなのになぜ?と思ったが、これは共倒れを防ぐための方策である。相手を助ける最低条件は、救助者が生きているということである。相手を助けようと無理をして、自分の命を落としてしまうという事態を否とする考え方だ。

サバイバルでも常に「セルフレスキューファースト」を意識すべきである。自分を優先的に救ったことで余裕が生じれば、それは他人を助けるために使える。大災害のもとで性犯罪を防ぐのは簡単ではない。管理や監視といった「互助」の整備がされていない場合はなおさらで、自分自身を守るスキルが必要になる。

災害後に発生する犯罪(的行為)は、大別して二種類になる。水や食料の強奪などの生きるための行為。もう一つは、生存の欲求には基づかない刹那的な自暴自棄による行為だ。避難所でのレイプなどが相当する。世界的には、災害後にはまず第一に、治安の悪化に備えることが常識になっている。

自然災害や交通事故、犯罪、危険な野生動物との遭遇、暴漢の襲撃など、襲ってくる危機は多様である。そんな時のためにこそ、覚えておくべき行動指標がある。サバイバルの基本として世界的に知られる「S・T・O・P」である。Stop止まるThink考えるObserve観察Plan計画の頭文字をとったものだ。その場でじっとして安全を確保し冷静に状況を判断してから行動せよ

PlanはActの意味で使われることが多い。おそらく語呂合わせ的な収め方で、「生き延びるために計画し行動を開始する」と捉えてもいい。プロはSからPまで7秒だという。しかし、一般人は何もできないことをプロの著者は承知している。だったら、大見出しで「生死を分ける『7秒』」とするのはおかしいのだが、これは編集上の見出しつけの都合だろう。一応、記憶しておくといい。

空気がある所で、体温を奪われないようにし、飲める水があれば、まったく食べなかったとしても、人間は3週間近く生きられる。体調が普通で無傷の場合。サバイバルでは安全のため注意深くゆっくり動きゆっくり考えるよう心がける。それまでに救助が来るだろう。著者が代表を務める組織のPRみたいな感じもする「災害時の考え方」の本、〈教え方〉を教える本、であろう。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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【著者】 日刊デジタルクリエイターズ 【発行周期】 ほぼ日刊

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