MAG2 NEWS MENU

ZOZOの栄光と失敗。カリスマ・前澤友作氏は何を見誤ったのか?

時代の追い風と持ち前のアイディアを武器に、ZOZOを時価総額1兆円の大企業に育て上げた前澤友作氏が、同社のヤフー(現・Zホールディングス)傘下入り、さらに自身の代表取締役社長の退任を発表してから一月あまり。時代の寵児とまで呼ばれた前澤氏は、なぜZOZOを「身売り」するまでに追い詰められてしまったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが検証します。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

前澤友作氏が率いたZOZOの栄光と失敗

スター経営者として、月旅行計画や女優・剛力彩芽さんとの交際など、派手な話題に事欠かなかった前澤友作氏が、ZOZOのヤフー(現・Zホールディングス)傘下入り発表と共に、社長を辞任し、ZOZOの経営から退いた。創業者・前澤氏は、成功しないと言われてきた日本のアパレルのECビジネスを、その常識を打ち破って見事にブレイクさせた敏腕の起業家である。

しかし、ZOZOは、アパレル各社をECモール「ZOZOTOWN」に募って集客をはかるビジネスモデルであるにもかかわらず、顧客のサイズにぴったりと合った洋服を自ら製造販売するビジネスに進出。希望者に無料で、サイズを計測する「ZOZOSUIT」を配布し始めた。

ZOZO自身が製販一体化したユニクロ化するとなると、アパレル各社からは新参の競争者とみなされ不信感からZOZO離れを起こしてしまった。それが、ZOZOが買収され、前澤氏が退任にいたった主因である。なぜ、前澤氏ほどのカリスマ性の高い俊才が、ビジネスモデルと整合性が取れない悪手を打ってしまったのか。前澤氏が率いたZOZOの栄光と失敗を振り返り、検証してみたい。

7,367ものブランドを取り扱う(2019年10月22日現在)、日本最大のアパレル通販サイトZOZOTOWNの運営を主力とする、ZOZOの19年3月期の決算は、売上は大幅に伸びているものの、創業以来の減益となった。売上高は1,804億500万円(前年同期比20.3%増)に対し、営業利益256億5,400万円同21.5%減)、経常利益257億1,700万円21.4%減)だった。

ちなみに、18年3月期は、売上高984億3,200万円(同28.8%増)に対して、営業利益326億6,900万円(24.3%増)、経常利益327億4,000万円(同23.8%増)となっていた。前年はハイレベルの増収増益を達成し、日の出の勢いにある新進気鋭の企業と考えられていた。それがわずか1年後には、売上が2割も伸びているのに、利益が逆に2割も減少。収益の構造が明らかにバランスを崩し成長性に疑問を持たれている。

利益の減少で足を引っ張ったのは、新規の自社で展開し始めたPBプライベートブランド事業だ。19年3月期の決算説明会資料によれば、PB事業の商品取扱高が27億6,000万円に対して、ユーザーがサイズを測るために配布されたZOZOSUITの配布や、PB商品関連の広告に42億1,000万円が費やされている。また、売れなくて在庫が積み上がったPB評価損計上や、PB商品を拡販するために新たに人員を採用した人件費も膨らんだ。

PBブランド「ZOZO」のオーダーメイドによるスーツ、ドレスシャツ

もともとは、PBで最低でも135億円の売上を計画し2年後2,000億円を目指していたので、大きな誤算だった。ZOZOSUITの配布は当初600~1,000万枚を予定していたが、後日300万枚に下方修正されている。

その他にも、年間3,000円または月に500円(それぞれ税別)を払えば10%引になる「ARIGATO割引」がPB評価損計上と共に粗利益を押し下げ、配送運賃増や全般的な規模拡大による人件費増なども、減益の原因となったが、主因はPBがコストをかけたわりには思ったほど売れなかったことに尽きる。

なお、ARIGATO割引を行う「ZOZOARIGATOメンバーシップ」は、5月30日に終了している。昨年12月25日にスタートしたばかりだった。これは、割引額の一部または全額をZOZOが負担して、日本赤十字などへの寄付や購入先ショップへの還元を行うという、ZOZOにしてみればファッションを楽しみながら社会貢献できるユニークな取り組みだった。

コーディネートを投稿、検索できるゾゾの着こなしアプリ「WEAR」

ロックミュージシャンでもあり、世界平和の実現を究極の目標とする前澤氏らしい取り組みとも言えるかもしれない。しかし、出店するアパレルからは安売りの恒常化と受け取られブランドの価値を棄損すると反発が強かった。PBの伸び悩みだけではなく、ARIGATO割引も会員数が想定するほど増えなかったとして終了しており、失敗に終わっている。 

ZOZOの停滞感を生んだ2つの大きな理由

このようなZOZOの迷走を反映して、株価も18年7月18日には4,875円と5,000円に迫る高値を付けていたにもかかわらず、12月28日には1,960円まで落ち込んだ。たった5ヶ月で、みるみる下がり4割になってしまった。PB不振で、慌ててARIGATO割引を始めたが、より事態を悪化させたのだ。なお、現状の株価は去る9月12日のヤフーのZOZO買収と、前澤氏から澤田宏太郎氏への社長交代に市場が好感を持ったのか、2,500円前後に戻している。一時期1兆円を超えた時価総額は、10月21日時点で7,860億円ほどである。

ZOZOが17年11月にPBブランドを立ち上げ、自らアパレルを製造して売ると発表した時、前澤氏の決断に拍手喝采を送った人は多かった。特に若いIT系の起業家、技術者、会社員などの前澤氏を崇めるシンパたちは、ユニクロを打ち破る新世代の代弁者が出現したと熱狂した。投資家たちもこの発表によって株買いに走り、8ヶ月後には上場来最高値に到達している。

ゾゾに特徴的なツケ払い。税別5万円までなら、2ヶ月後の支払いが可能

しかし、まぐまぐで人気メールマガシン『【最も早くオシャレになる方法】現役メンズバイヤーが伝える洋服の着こなし&コーディネート診断』を配信する、ファッションバイヤー・アドバイザー・ブロガーで当該分野のベストセラー作家でもあるMB氏は、ZOZOがPB事業を始めた頃から「ZOZOのようなプラットフォーマーがPBをやるべきではない」と警鐘を鳴らしていた。

19年3月に公開された、元ライブドア社長で実業家の堀江貴文氏が主催するYouTube番組「ホリエモンチャンネル」にゲストとして登場したMB氏は、「ZOZOTOWNは集客力のあるブランドが集まっていることが魅力。本来は、ブランドの集客力で戦っているのです。ところが、ブランドを目当てにモールに来た人に、より安いスタンダードなアイテムをPBで売るのはブランドの側から見れば面白くない話だ」と、ZOZO離れはPB展開の必然であると示唆。

また、「ZOZOTOWNの1品あたりの購入単価が、2年くらい前に比べると4割くらいも落ちている」と指摘。かつてのZOZOTOWNの1品あたりの顧客単価は7,000円くらいあったのに対して、今は3、400円くらいにまで急速に落ちている。楽天市場に出品している安売りブランドを、ZOZOがどんどん開拓しているのが、単価が落ちている要因である。

つまり、モールに出品しているブランドを目当てに来た顧客をPBに誘導する流れが見えたことにブランドが反発。しかも、楽天系の格安ブランドがランキングの上位を席捲するようになり、モールのファッション好きが集うイメージ価値が棄損され中価格帯から高級なブランドが出店する意義が薄れている。こうした2つの大きな理由が、ZOZOの停滞感を生んで、株価の低迷と減益につながっているとMB氏は分析するのだ。

しかし、コンビニでもPBを出している、プラットフォーマーがPBを出してなぜいけない、という反論もあるだろう。それに対してMB氏は、顧客はコンビニにとあるブランドの商品を買いに行っているというよりも、コンビニ自体を目的に足を運んでいる。一方で、ZOZOTOWNの場合はブランドの魅力のほうが集客源で、そういった状況でPBを始めるのは自己破壊行為だと考える。

もっとピンポイントで、TシャツならTシャツの1型に絞るのならありなのだが、スーツ、ドレスシャツ、チノパン、デニムパンツ等々ラインナップをいきなり広げたのも戦略的にまずかった。コンビニも最初から、今のようなPBをメインに売るような体制ではなかった。チェーン限定のビールやカップラーメンの1商品のヒットを何年か積み重ねて、実績をつくった後に、セブンプレミアムのようなPBブランドが確立した。前澤氏はPB商品の展開を急ぎ過ぎた感を拭えない。

夢のまた夢の話でしかなかった前澤氏の「アパレル革命」

MB氏がZOZOTOWNの功績として評価するのは、世界的には衰退してしまった中価格帯のアパレルが日本ではしっかりと残っていることだと指摘する。つまり、欧米をはじめ世界のアパレル業界は近年の傾向として、高額なハイファッションか、低価格のユニクロのようなファストファッションかに、二極化されてしまっている。ところが、日本では中価格帯のアパレルをZOZOTOWNがしっかりとフォローしたため、例外的に淘汰されずに残った。その結果、日本は消費者が洋服を選ぶ選択肢が広い特異な市場となっている。こうした強みは、日本のアパレルが世界で戦っていく際に強みになるはずだ。

ZOZOTOWNと出店するアパレル企業は、ウィンウィンの蜜月にあった。しかし、ZOZOTOWNは中価格帯をほぼ網羅し尽してしまった。成長の限界を突破するべく次に向かったのは、ファッションに関心が高い人が購入する高価格帯ではなくて、ファッションに興味のない人が多い低価格帯であった。楽天市場で安売りするブランドの積極的開拓として、具体的に表れた。例えて言えば、百貨店の売場でスーパーの商品、もっと言うとディスカウントストアの商品を売るようなもので、昔からのZOZOTOWNファンには違和感しかなかったし古くから出店する側としてもいたたまれない気分だっただろう。

前澤氏としては、Twitterでアパレルの原価を暴露するなど、中価格帯はもっと安く売るべきだという思いがあったのかもしれない。若者が服を買わないのはおしゃれに興味がないのではなく値段が高いからだと、考えていたフシがある。しかし、低価格ブランドを売るのであれば、従来のブランドとは区別して、ひたすら安いこと、別の通販より1円でも安いことを訴求する別の姉妹モールを立ち上げるべきではなかったか。ZOZOTOWN自体が価格勝負で世界観が曖昧なブランドが主流の安売りモール化してしまった。ここに大きな失敗の素があったのではないか。

「前澤さんは、たぶんサイズが合わないから服を買わない人が多いと考えたのでしょう。しかし、そもそもファッションに興味のない人が、ZOZOSUITを使って何回も向きを変えて撮影してサイズを測るような、面倒臭いことを積極的にやるとは思えないですね」。

MB氏はファッションに興味がない人に、サイズを計測させるという発想が、顧客と乖離していると手厳しい。それなら、ユニクロの店に行って試着して買った方が手っ取り早いのである。

ZOZOSUITには初代と2代目があるが、初代のニュージーランド・ストレッチセンス社製のものは黒くてシャープなシルエットで、スーツ自体にセンサーを埋め込んであった。着用するだけで、Bluetoothによって計測データがスマートホンの専用アプリに転送されて、サイズ情報が記録されるという、本当にうまく行けば画期的なシステムであった。

旧型ゾゾスーツ

しかし、うまく大量生産ができずに、大幅な納期遅れを引き起こしてしまった。そこで、自社開発した新型ZOZOSUITは、全身白い水玉のようなマーカーを散りばめられ、スマートホンでマーカーを撮影して3Dデータを作成する仕様に変更された。しかし、時計の針のように向きを変えて12回も撮影しなければならず、撮影の途中でしばしばアプリが落ちる不具合が発生するなど、大量生産はできても実際に使いにくい代物でしかなかった。

新型ゾゾスーツ

ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、日経新聞の記者にZOZOSUITに関して、17年12月と18年7月に聞かれて、「おもちゃですよ。あんなのを買っていちいち図るのは面倒くさい。店舗で店員に測ってもらった方が早い」、「顧客のデータを取るのはいいが、実際に作った商品が身体に合うかどうかは人によって違う」と答えたという(18年8月6日付け、日経電子版)。

これに対して前澤氏のシンパたちは、世界的なアパレル企業を構築した柳井氏をたたえつつも、「ZOZOの革命的な発明に耳を貸さない守旧派になり下がった」、「新しい才能に嫉妬して革新の芽を摘もうとしている」などといった論調で、TwitterなどSNSで柳井氏を攻撃した。しかし、ITやらAIやらを活用した目新しいものが、常に業界の伝統を乗り越えていくとは限らない。保守的な化石のほうが正しいことだってあるのだ。

サイズが重要なスーツから商品づくりを行ったのも間違いでした。届いた商品のサイズが合わなかったり、両腕の長さが違ったりで、散々でしたから」(MB氏)。

オーダーメイドのアパレルを、ITを使って低価格で提供するといったPBの発想は良かったが、そもそもファッションに興味がない人が買うものでなく、顧客を読み間違えたうえに技術力も伴わず空振りに終わった。注文して2週間で届くはずのスーツが、3ヶ月かかったといった納期の遅れも常習化した。前澤氏がぶち上げた、PBでアパレル革命を起こして10年以内に世界のアパレルで時価総額トップ10に入る、5兆円を目指す構想など、夢のまた夢の話でしかなかった。

ZOZO離れを食い止めなければ見えぬ未来

さて、Zホールディングスに買収されたZOZOは、事業の再構築を行っていくことになるが、ヤフーは中高年、男性のユーザーが多く、ZOZOの若者、女性に強い顧客層と被らず、シナジー効果が見込めると思われる。中価格帯からハイファッションを中高年に売ることができれば売上は伸びるだろう。

また、今のようなドメスティックなモールから、海外展開へと広げれば、中価格帯を求めている世界のファッション好きの人から支持されるのではないだろうか。そうしたモールの魅力アップで、手数料を取られるくらいなら2割くらい売上が落ちても自社でネット通販をしたほうが利益は増えると、出店するアパレルに思わせないように改善したいところだ。オンワード、ミキハウス、ライトオンなど相次いだ、ZOZO離れを食い止めなければ未来はない

前澤氏は保有するZOZO株の大半を売って約2,400億円を手にしたとされる。株を担保に月旅行や趣味の美術品の購入などのため、前澤氏は多額の借金を重ねており、前澤氏が自ら明かしたところ約600億円になっていたが、ひとまずこれで安心だろう。

米国ではシェアオフィスのWeWorkの上場延期を期に第2次ITバブル崩壊が懸念されている。日本ではZOZOがその引き金を引いた可能性も否定できず、第1次の時の光通信の株価が100分の1ほどにまで暴落したことからも、株価が劇的に上がる見込みがない以上、前澤氏は株を売るしかなかったのだろう。

前澤氏はZOZOの社長を辞任したその日、9月12日に新会社を設立し、社名をスタートトゥデイと名付けた。昨年のZOZOへの社名変更まで名乗っていた旧社名と同じ名だ。まだ、事業内容は未定で、社員も前澤氏1人だそうだが、どんなビジネスを立ち上げるのか、どこまで成長させるのか、楽しみである。

Photo by: Sharaf Maksumov / Shutterstock.com , ZOZOホームページ

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

この著者の記事一覧はこちら

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け