MAG2 NEWS MENU

訪日客に文句ばかりの日本人に足りぬ「迷惑」をカネにする発想

外国人観光客による「ルール違反」や一部鉄道愛好家による「迷惑撮影行為」、さらには街を「占拠」するハロウィン参加者等が批判的なトーンで報じられ、賛同する声も多数に上っています。そんな流れに異を唱えるのは、米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、ルール違反や迷惑とされる行為に対して「お金」を介在させることで関わる人すべてが笑顔になれるとして、その具体的な方法を記しています。

経済で社会を動かせないという不幸

インバウンド旅行者だけでなく、国内の観光客も含めてスマホで写真を撮ってインスタなどSNSで拡散するというのは、大流行となっていますが、これに対するアンチと言いますか批判記事が目に余る感じです。

例えば、京都の祇園では、舞妓さんや芸者さんに対して観光客の「迷惑行為がエスカレート」しているというのです。まるで犯罪行為が日常的となっているような記事が多いのですが、具体的には「許可なき撮影」が横行しているというのです。

その結果として、撮影禁止の高札を立てたり「無断撮影は1万円」という罰金を科す(法的拘束力はないわけですが「罰金」的な意味合いということのようです)としている、ということになっています。

報道によれば「まちづくりに協力する京都女子大、龍谷大の学生ら約60人がマナー向上を訴える活動も行い、観光客に注意を呼び掛けるステッカーなどを手渡す」といった「活動」もされているようです。

どうにもおかしな話です。まず罰金の1万円という金銭感覚がわかりません。20万の航空券を買ってきて、一生に数度の日本旅行を楽しむ中で、他でもない京都で、本物の舞妓さんが京都の家並みの中で自然に歩いている写真が撮れるのであれば、1万円というのは多少高いかもしれませんが、リーズナブルな範囲です。本当に怒っていて禁止したいのなら、一桁違うのではないでしょうか?5万とか10万とか請求するぐらいやっても良いと思います。

それはともかく、ここには猛烈なニーズがあるわけです。であるのなら、観光協会などが率先してやるべきなのは、舞妓さんの写真が撮れるスポットを「公式認定」して、そこで1万円はともかく5から10ショット一緒に写って3,500円とか、京らしい町並みの中での撮影なら4,500円とか、商業化したらいいのです。別に儲ける必要がないにしても、金で秩序を整理するというのでどうでしょうか?本当に収益とか要らないのであれば、観光地としての交通整理の資金にするとかしたらいいと思います。

似たような話はゴロゴロあります。

例えば、今は豊洲に移転してしまいましたが築地市場がブームだった時は、撮影したい観光客が殺到して問題になったり、ついでに魚に触ったりして怒られたり大騒ぎになっていましたが、これもちゃんと「ツキジ・スーパー・ツナ・センター」とか作って、解体ショーとかセリの実際をショー化して金を取りしっかり撮影チャンスを用意すればよかっただけのことです。

インバウンドついでに言うと、東京では今でも「なんちゃってマリオカート」と言う乗り物で観光客から金を取る商売が横行しています。任天堂さんは、カンカンですし、住民からは観光公害とか言われて散々な状態です。ですが、これも猛烈なニーズがあるのですから、都内でキチンとクローズドなサーキットを作って「公式マリオカートトウキョウの豪快な景色をバックに走れるようにしたら1時間1万5,000円とか取ってもジャンジャンお客は来るのではないでしょうか。

こうなったら、首都高の環状線などは、中央環状とか外環道とかある現在は、通り抜け需要もないことですし、この際「マリオカート+頭文字D+東京ドリフト専用」のテーマパークにした方が、経済効果は大きくなるかもしれません。これはまあ半分冗談ですが、ニーズがこれだけあるのにグレーな営業だけが横行してしかも社会的には白眼視していると言うのはバカみたいです。

問題は、インバウンドの観光市場だけではありません。例えば「撮り鉄」のおかしなマナーが問題になっていますが、例えば「撮り鉄の殺到しそうな特殊な運転」、具体的には民鉄の新車をJR線を使って回送する(甲種輸送)とか、珍しい列車の運行、廃車される車両の最後の運行などは、しっかり告知ししっかり撮影場所を用意してその代わりにしっかり金をとればいいのです。

撮影といえば、農地に良い撮影スポットがあると、農地が踏み荒らされるとか言うことで、観光客も外国人旅行者も極悪人のように叩かれるし、せっかくの美しい樹木を「心無い観光客が撮影に殺到するので苦渋の判断だ」などといって切ってしまうと言う話もありました。

これも同じことで、どうして撮影地をしっかり管理して、その代わりに金を取るという方向で「金を介在させてウィン・ウィンの関係を作る」ことができないのでしょうか?勿論、自分たちは農業のプロでサービス業のプロでないとか、人手がないというのなら、簡便な代行業者とか、無人の「撮影許可証発行機」とか置いて、そこでID取得しないで撮影すると、画像認識ロボットでSNSに上げられなくするとか、色々工夫したらいいと思うのです。

同じように疑問なのが、人気の飲食店が廃業するというケースです。例えば、品川区の大崎にRという「つけ麺」の名店がありました。今でいう、東京風の「つけ麺」つまり、魚介濃厚トンコツに太麺を絡ませてネギとか魚粉とかアクセントつけるスタイルの事実上の考案店で、常に大行列となっていました。

ですが、周辺住民のイチャモンで廃業に追い込まれてしまったのです。これもおかしな話で、そんなに行列ができるのなら、品川区もたこ焼きの屋台や、「つけ麺」の後のスイートの屋台とか出して、ジャンジャン活性化したらいいのに、「閑静な住宅街が…」というクレーマーに屈してしまったのです。

ラーメン屋ということでは、これは北海道だったと思いますが、「地元の人の憩いの場」だったのが、ミシュランの星がついた途端に「一見さんでうるさくなって雰囲気が壊れたので廃業したというニュースもありました。

百歩譲って、その店主が「静かに商売したい」というのであれば、そのレシピと屋号を第三者に譲渡して、せっかくついた「星」を生かして、地域経済が活性化し観光客も喜んでいた状況を継続することでいいと思います。その上で、自分は移転して別の屋号で「地元向け」にやればいいのです。これも理解に苦しむ話です。

理解に苦しむといえば、子供の行事であるハロウィンに大の大人があそこまで大騒ぎするとか、車ひっくり返すほどのストレスがあるのに、そのストレスの原因と戦わないとかいうのも全くわかりません。

そうなのですが、渋谷という街で、あれだけ毎年大騒ぎがあったのなら、それを禁止するとか、アルコールはダメとかいうのではなく、「街全体をホコ天にして全部バー」にして、「オール渋谷ハロウィン祭り」とでも銘打って、相当な金を取ったらどうなのかと思います。大晦日にしても、サッカーW杯でA代表が勝った時とか、とにかく盛り上がりそうになったら、無粋なDJポリスとかが「ダメですよ」とか珍奇なトークで治安維持するのではなく、全体を商業化してしまえばいいと思うのですが、どうでしょうか。

いずれにしても、金を介在させることで参加者全員が笑顔になれるような方策を取らずに、興味を持って世界中から積極的に集まってくる人を批判したり、盛り上がっている人を犯罪者扱いするというのは、なんとも不思議な感じがします。

image by: noina / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け