企業が、特に中小の規模であるならば避けて通れない「事業の引き継ぎ」。しかし、事業承継がその企業にとって初めての場合は、どこからとりかかればよいのでしょうか。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では経営コンサルタントの梅本泰則さんが、跡を継ぐ立場の人間が留意すべき3つのポイントを記しています。
優れた後継者になる方法
あなたは先代であるお父さんから経営を引き継いで、何年も経ってはいません。ようやく経営のむつかしさが分かって来たころではないでしょうか。きっと「親父はこんな大変な思いをしてきたのか」と、実感しているかもしれませんね。
ところで、先代は経営を引き継ぐまでの間に、何か経営や経営者についてそれらしいことを教えてくれましたか。おそらく無かったのではないでしょうか。親子はそうしたものです。ここに事業承継のむつかしさがあります。これはあなたのお店ばかりでなく、中小企業にはそうした引継ぎをした会社が多いようです。
何代も続いているお店や企業ならば、十分に引継ぎの苦労をしていますからそれなりにうまく引継ぎが行われるでしょう。しかし、先代が創業者の場合は事業を引き継いだ経験がありませんから、どのように引き継いだらいいかよく分からないというのが正直なところです。
それどころか、親子の考え方の違いでトラブルになってしまうこともあります。お互いに生きてきた時代が違うので、考え方が違うのは仕方ありません。
「先代のやり方は古い。今の時代に合った経営がある」と考える後継ぎもいます。後継ぎが自分の考えに沿って経営をしていくと、先代はついつい口を出したくなるようです。これが親子ゲンカのもとになってしまいます。
そもそも、経営を引き継ぐときに経営の心得や経営者のあり方について話をしていないのですからいまさら口を出してはいけません。これが経営を引き継がせる側の態度です。では一方、後継ぎの方はどうしたらいいでしょう。
3つの方法
先代からは、経営や経営者については教えられていません。そうした状態で、どうしたら一日も早く経営の力が身につくでしょうか。方法は3つあります。それは
- 外部の機関で経営の勉強をする
- 経営について第三者から学ぶ
- 銀行にたたかれる
というものです。順番に説明します。
「外部の機関で経営の勉強をする」というのは、経営についての基礎知識を体系的に学ぶ機会を作るということです。いわゆる座学をするということですね。
例えば、商工会や行政機関は経営理論や実例についての講座を定期的に開いています。単発の講座ではなく連続したカリキュラムがあるものです。それらを受講して経営の基本知識を学びます。民間団体やコンサルティング会社でも、そうした講座を設けているところがありますので自分に合いそうなものを選びましょう。多少の費用は掛かりますが、体系的な基礎知識があると実際の経営に役立ちます。また、講座に参加することで積極的な人たちとの交流が出来、いい刺激にもなりますし、人脈作りにもなるでしょう。
次の「経営について第三者から学ぶ」というのは、経営コンサルタントや師とあおぐ人など、適切なアドバイスをくれる人から学ぶということです。
最初の「外部講座」とは違って、彼らからのアドバイスは一般論ではありません。その経営者や企業が抱えている問題や課題についてそれぞれの状況に応じた解決方法を教えてくれます。第三者はその解決方法とともに、将来のあり方についても示唆をしてくれるはずです。そうした人を見つけて、経営を学んでいきましょう。
さて3つ目の「銀行にたたかれる」というのは、どういうことでしょう。
銀行にたたかれる
これは、銀行の担当者に自社の事業計画書を見てもらうということです。
経営を引き継ぐまで、銀行と交渉をするのは先代の役目でした。いわゆるお金の工面ですね。銀行とは長年付き合っていますから、担当者との信頼関係も出来ています。ですから、多少経営に問題があっても大目に見てくれることもあるほどです。ところが、後継者との関係になるとそうはいきません。銀行は厳しい対応をしてきます。実はこれが後継者を育てることになるのです。
つまり、融資や返済の交渉は先代ではなく後継者の役目にします。すると銀行は、しっかりとした事業計画書による説明を求めてくるでしょう。多くの場合、銀行の担当者はその事業計画の甘さをきつく指摘してきます。それも生半可な言い方ではありません。徹底的にたたかれることになります。「こんな計画書ではお金を貸すことはできません」と言われるのがオチです。
先代のときとはまるで対応が違います。これは銀行にとって、ごく当たり前のことです。融資をしたお金が焦げ付いては困ります。後継ぎが経営者としてどれくらいの力があるか、まだ分かりません。当然対応が厳しくなります。
実はこのことが後継ぎにとっては良いことなのです。銀行に言われたように、事業計画書の見直しをしなければなりません。そして銀行に信頼されるにはどうしたらいいかを考えることになります。つまり、銀行にたたかれることで、より経営に真剣に向き合うようになるでしょう。さらには資金繰りの大変さが分かることにもなります。経営者として成長するには、何度も何度も銀行に顔を出す習慣をつけることです。
お分かりでしょうか。これが「銀行にたたかれて」経営力をつける、ということです。
以上、3つのことを実行して、さらに優れた経営者になるよう進んでいきましょう。
■今日のツボ■
- 親子で事業を引き継ぐときは、しっかりと経営が伝えられない
- 後継者は、自ら経営力を身につける努力をしなくてはならない
- 外部での勉強、第三者からの学び、銀行との付き合いが重要である
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