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空前の「猫ブーム」で起きている、人間のリンパ節炎とは?

ペットフード協会の調査によれば、2017年、初めて猫の飼育頭数が犬の飼育頭数を上回りました。飼育世帯数では犬のほうが多いものの、減少傾向の犬に対し、猫を飼う世帯はわずかに増加しています。そんな中、猫が原因の病気について注意を呼びかけるのは、メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で沖縄在住現役医師の徳田先生です。最近のある1週間で2人の患者を診察したという徳田先生が、その症状を解説し、愛猫に施すべき対策を示しています。

猫ブームで増えている。リンパ節が腫れて痛くなる病気

私は急性期病院と地域の診療所で外来診療を行っています。そこでは様々な症状で受診する患者さんや、別の医療機関から紹介される患者さんを診療します。このような私の日常診療で、社会のさまざまな変化を感じ取ることができます。今回は、この点で最近気づいた重要な社会的変化と、それに対する医学的対応についてご紹介します。

それは猫ブームです。最近のある1週間に、全く関係の無い2人の患者さんを別々に診察することでわかりました。1人目は20才代の男子大学生です。約10日前から右の鼠径部(太ももの付け根の部分)のリンパ節が腫れて痛くなったとのこと。最初に近くの病院に受診したが、原因が分からないので様子をみましょうと言われたようです。診察するとリンパ節炎で、直径が約5センチで大きく腫れていました。

2人目の患者さんは60才代の主婦です。約2週間前から右手の甲の一部が赤く腫れており、そのあと右の腋のリンパ節が腫れ、38度台の発熱も毎日みられるとのこと。かかりつけの医師に受診し、原因がわからないので私の外来に紹介となりました。診察すると、腋窩リンパ節炎で、直径が約2センチに腫れていました。実は、このお二人にはある共通の原因があったのです。

猫ひっかき病とは?

この二人の患者さんは共通の病名でした。局所のリンパ節炎です。局所のリンパ節炎のよくある原因は、皮膚の傷や炎症から侵入した細菌による感染症です。その原因究明に大切なことは、皮膚の傷や炎症をきたした機序を聞き出すことです。例えば料理の最中に誤って皮膚を傷つけた、スポーツの時に傷を負った、などです。しかし、時々盲点となる機転が1つあります。

私はその盲点となる病歴を聞き出しました。それは猫との接触です。猫と接触するだけで、猫が持つバルトネラという細菌が人間の体内に侵入し局所のリンパ節炎を起こすことがあります。もともとは猫にひっかかれたときにかかる病気として発見されたために、猫ひっかき病と呼ばれています。しかし、必ずしもひっかかれなくても、この感染が成立することがわかっています。お二人とも猫ひっかき病だったのです。

人間の目に見えないくらいの小さな傷から入り込んだ場合には、皮膚が赤くなったりすることもないので、細菌が侵入した跡が全くわからないことがあるのです。また、猫の唾液の中にもこの細菌がいることがあり、猫に舐められることでも感染します。人間の眼の付近が猫に舐められると、眼の粘膜から細菌が侵入し、結膜炎や耳の前のリンパ節炎を起こすことがあります。

猫ブームでの医学的対策

猫ひっかき病の多くは局所のリンパ節炎をきたすだけで、特定の抗生物質を処方するだけで症状はよくなります。しかし、中には特別な病態をきたして重症となることがあります。肝臓や脾臓の炎症、網膜や視神経の炎症、脳炎、心内膜炎などです。これらは重症となり、後遺症を残すことがあります。

猫ひっかき病の患者さんを立て続けに診察したことから私は猫について調べてみました。なんと、日本は今、空前の猫ブームなのです。数年前に、飼育数で犬を抜いていたことがわかりました。猫ひっかき病が増えるはずです。

原因となる猫のバルトネラ菌は猫に寄生しているノミによって猫から猫へと感染します。ノミの駆除が効果的で、セラメクチンなどの薬がその駆除に効きます。バルトネラ菌に感染しても猫は無症状ですので、猫が元気でも感染していないとはいえません。ノミの駆除が必要かどうか動物病院に自分が飼っている猫を受診させましょう。かわいいペットが原因で家族が病気になることを防ぐためにお勧めします。

文献: ● Bouhsira E, et al. The efficacy of a selamectin (Stronghold ?) spot on treatment in the prevention of Bartonella henselae transmission by Ctenocephalides felis in cats, using a new high-challenge model. Parasitol Res.2015 Mar;114(3):1045-50.

image by: Shutterstock.com

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