【書評】このままでは投手が壊れる。球数制限を甲子園に導入せよ

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2018年夏の甲子園で準優勝した金足農業高校の吉田輝星選手の例を出すまでもなく、地方予選から肩の酷使を余儀なくされる投手たち。そんな彼らを守るため、「球数制限」導入の必要性が叫ばれています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんがレビューしているのは、そんな球数制限を巡る議論等をまとめた一冊。理論派として知られる桑田真澄氏の「納得の提言」も紹介されています。

偏屈BOOK案内:広尾晃『球数制限』

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広尾晃 著/ビジネス社

高校野球は世界で最も成功したアマチュア野球であるが、さまざまな問題も抱えている。2018年、酷暑の中での甲子園は準優勝の金足農・吉田輝星の力投に日本中が注目したが、同時に地方大会で1,517球甲子園でも881球を投げたことが賛否両論を呼んだ。これがきっかけになって「球数制限」の議論が巻き起こった。高野連は有識者会議で、高校球児の健康問題を議論することとなった。

野球界には信仰に近い非常識も罷り通る。プロ野球の成功者たちの多くは「球数制限の必要なし」と一蹴したが、この問題はプロ野球の成功者、成功予備軍だけの話ではない。高校球児は全国で15万人弱、そのうち2割ほどいる投手の問題だ。さらに、中学生以下の少年野球にも影響を与える。「球数制限」とは「球児をどう守るかがテーマで成功論や技術論で語っても意味がない

スポーツという大きな枠組みで「球数制限」に関する何人かの識者の意見がある。わたしが一番同意したのは、桑田真澄の提言だった。以下要約。アメリカでは「球数制限」は、プロからアマチュア野球、少年野球までもが導入している。医師や専門家が何十年もの間データをとって選手の肩肘を守るためにはそうするしかないと結論に達している。野球選手のケガと故障は違う。

ケガは事前に防ぎようがないが、投手の故障の多くは投げ過ぎで起こる。これは「球数制限」をすることで防げる。既にこういう結論が出ているのに、高野連が「球数制限」を導入しない理由が分からない。従来のような苛酷な登板が続けば、投手は必ず壊れる。「球数制限」は選手だけでなく、指導者も守る

監督はエースが疲れているから降ろしたいと思っても、「なぜ降ろしたんだ」という周囲の声を気にして、なかなか決断できない。だが「球数制限」のルールがあれば、「規則だから」と降ろすことができる。指導者も悩まなくてすむ。複数の投手を擁する有力校に比べて、投手が一人しかいない学校が不利になるという説があるが、有力校のエースでも球数が来たら降板しなければならない。

一般的に二番手はエースより力が落ちるから、普通の学校の打者にも攻略のチャンスが増える。戦力格差が縮まる可能性がある。エース以外の投手にも登板のチャンスが生まれる。埋もれていた素材の中から好投手が誕生する可能性もある。10年も前からずっと言っているが、子どもたちを守るためには「球数制限」しかない。いいぞ、桑田、だけどプロ野球中継で選手に「君」づけはやめろよ。

著者は多くの野球関係者の取材を通じて思ったことは、「せんじつめれば、この議論は『今後も吉田輝星のような投手を出すのか否か』という問題に行き着く。これを肯定するのか、否定するのかによって、今後の議論は大きく変わる」であった。これまで投手の故障を自分の責任だと思ってこなかった指導者の意識を改めるのが難しいから投球制限は必要なのだ。それと、日本の高校野球でしか通用しない「金属バットの使用」もやめるべきだろう。いいぞ、桑田、だけどプロ野球中継で選手に「君」づけはやめろよ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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