先日、中国の政府関係者がリークした内部文書により明らかになった、習近平政権によるウイグル人に対する人権弾圧の「非情」な真実。そこには弾圧に関して「情け容赦は無用」という非人道的な文言も見られますが、中国当局は香港デモの参加者にも同様の姿勢を持ち臨んでおり、そしてそれはいずれ台湾にも及ぶとするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんはメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で今回、そう判断する理由を歴史を振り返りつつ記すとともに、「来年1月に控えた台湾総統選の結果いかんによっては、世界情勢が大きく変わることになる」との見方を示しています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】いま中国で起きている「五独乱華」という大変動
● ウイグル人に「情け容赦は無用」、中国政府の内部リークで新事実明らかに 米報道
ウイグルでは100万人以上のウイグル人が強制収容され、思想改造が行われていることはすでにさまざまなメディアで報じられていますが、中国はその人権弾圧の実態を隠し、「単なる職業技能教育訓練所だ」などと主張してきました。
● ウイグル問題:「大半が職業訓練所を出て就職」中国当局が説明
しかし、中国政府関係者がニューヨーク・タイムズに大量の内部文書をリークしたことによって、その実態が暴露されました。
文書によれば、習近平は2014年のウイグル自治区の鉄道駅で起こった31人が死亡したウイグル人による「テロ」事件後の当局者への演説で、独裁システムを利用して、「テロ、侵入、分離独立」に対しては、「情け容赦は無用だ」と徹底的に弾圧することを指示したそうです。
そして、2016年にウイグル自治区の党書紀に就任した陳全国は、この演説内容を自治区当局者らに配布し、ウイグル人の摘発強化を促したことも明らかにされています。陳の党書記就任後、収容施設が急増したと書かれています。
現在、香港の動乱は、香港警察が香港中文大学、香港理工大学へ突入し、数千発の催涙弾、さらには実弾まで使用し、学生らを拘束・逮捕する事態にまで至っています。心配する親たちが学生らに食料を届けようとしても警察に阻まれ、兵糧攻め状態だといいます。
11月に入って香港警察の鎮圧が激化するようになった背景には、前回「中国の差し金か。香港デモに乗じて市民を分断する中共の『犬』」でも書きましたが、林鄭月娥行政長官が11月4日に上海で習近平と会談し、習近平から「暴力と混乱を阻止し、秩序を回復させることが香港の当面の最重要任務だ。法に従って暴力を止め、処罰することが香港民衆の幸福を守ることになる」と言われたことがあります。
習近平は林鄭長官に対し、「高度な信頼」を伝えたそうですが、要するに「はやく何とかしろ。失敗したら、わかっているよな」という脅しです。
中国政府は香港デモについて、一貫して「テロに近い行為だ」と批判してきました。つまり習近平にとって香港デモは、前述した「テロ、侵入、分離独立」の動きに他ならないのです。だから「情け容赦は無用」であり、実弾を使ってでも鎮圧すべきものなのです。
香港警察のなかには、すでに中国の人民解放軍や公安メンバーが入り込んでいるとも囁かれています。そうでなくては、同胞である香港人をあれほどひどく打ちのめすことはできないからです。
そしてこの弾圧は、もちろん台湾にも向けられます。台湾独立を志向する民進党と蔡英文は分離独立分子であり、習近平にとってはやはり「情け容赦無用」の存在です。
香港警察が大学に突入した事態を受けて、蔡英文総統はツイッターで、1947年に台湾で起こった国民党軍による台湾人虐殺・弾圧事件「228事件」を引き合いに、中国語、英語、日本語で以下のようなメッセージを香港政府と国際社会に対して発信しました。
Law enforcement exists to protect the people & government exists to serve the people. I call on the international community to take action & #StandWithHongKong against these acts of repression. Full statement: pic.twitter.com/Rdh8ggD9NV
— 蔡英文 Tsai Ing-wen (@iingwen) November 13, 2019
かつて台湾を襲った白色テロの時代には、学生が大学構内に踏み込んだ軍や警官に拘束され、 自由を奪われました。これはわれわれにとって悲痛な記憶であり、二度と繰り返してはなりません。
昨夜の香港では、警官隊が大学構内に突入し、デモの学生たちを鎮圧しました。闇夜に包まれたキャンパスに炎が上がり、催涙弾が飛び交いました。台湾がようやく抜け出した暗闇に、香港は足を踏み入れてしまいました。
警察は人々を守るため、政府は人々に奉仕するために存在します。警察が人々を守らなくなり、政府が人々のためにという考えをやめた時、必ずや人々からの信頼を失うでしょう。
私は沈痛な気持ちで、ここで踏みとどまるよう香港政府に呼びかけます。人々の心の声に、暴力で応えるべきではありません。北京当局の機嫌を取るために、香港の若者たちを犠牲にするべきではありません。
香港の自由と法治が、権威主義によってむしばまれています。権威主義の膨張に抵抗し、その最前線にいる台湾は、国際社会に呼び掛けます。自由と民主主義を信じる皆さん、共に立ち上がり、混乱する香港の情勢に関心を寄せましょう。 蔡英文
いまウイグルや香港で行われている「容赦ない弾圧」は、もし台湾が中国に併呑されたならば、いずれ台湾人にも起こることです。とくに台湾の独立派は容赦なく迫害されるでしょう。そのことは、習近平自身がすでに宣言しています。
台湾では2014年に中国との両岸サービス貿易協定の締結に反対した学生らによる反中デモ、いわゆる「ひまわり学生運動」が起こりましたが、そのような学生たちも弾圧の対象です。
また、台湾の公共放送、公共テレビ(公視)の青少年向け番組「青春発言人」が今年6~7月に台湾の高校・高専生を対象に実施した国民意識に関する調査によれば、回答者の78.7%が自分を「台湾人」だと考えていると回答し、「われわれの国家」という場合に指す対象を尋ねたところ、「台湾」という答えが91.3%、さらに台湾と中国の関係については、「現状維持、将来的には独立に向かう」が最多の40.3%を占めました。
● 台湾の高校・高専生、8割弱が「自分は台湾人」=公共テレビ調査
政治大選挙研究センターが7月に発表した意識調査結果では、台湾人全体では自身を「台湾人」だと思う人の割合は56.9%でした。「台湾人」であり「中国人」でもあると答えた人は36.5%であり、台湾人の過半数が「自分は中国人ではなく台湾人だ」という意識を持っていることがわかります。
上記のような、自分たちを「台湾人」だとする者も、中国にとっては分離独立派であり、弾圧の対象です。
中国に併呑されれば、かつての228事件のように、そして現在の香港のようになる。国際社会はそれを座視するのかというメッセージが、蔡英文のツイッターには込められているわけです。
来年1月の台湾総統選挙まで2カ月を切りました。香港とは違い、台湾は民主主義が機能しています。繰り返し述べていますが、その結果いかんによっては、世界情勢は大きく変わることになるでしょう。
目下、米中貿易戦争以外にも、香港デモの長期化、ウイグル人の強制収用など、中国では他民族への弾圧が続いており、その反発から各地で独立を目指す動きが強まっています。華字メディアではこの機運について、かつて五胡(匈奴・鮮卑・羯・氐・羌)の反乱を「五胡乱華」と呼んだのにならって「五独乱華」などとよく報じています。
この「五独」とは、無理やり「中華民族」にさせられたチベット人、ウイグル人、南モンゴル人の反中国独立運動の「三独」と、無理やり「漢族」にさせられた非漢族である上海の呉人、香港の越人を意味します。
もっとも当初はこの「五独」については、上海人ではなく、独立を目指す台湾人の「台独」が含まれていましたが、「台独」は中国とは関係ないという意見も少なくないため、これを外し、たまたま上海人の独立運動グループがニューヨークで旗揚げしていたので、これを「五独」に含めたのです。
「中華民族」という民族名がはじめて文字として世に出たのは、20世紀に入ってからで、革命派の機関誌である「民報」(編集長は章炳麟)や「新民叢報」(編集長は梁啓超)などで掲載されました。革命同盟会が「大漢民族」を主張していたのに対し、維新派の親玉である康有為が「清の五族共和」から「中華民族」を唱え始めたのです。
中華民国の成立後、孫文ら革命派も清の遺産相続を狙って、競うように中華民族主義者に転向しました。また、中華人民共和国は改革開放後に自力更生から外資頼りの他力本願へ180度、国策を急転換し、非漢人まで中華民族に含めるようになったのです。
戦後の台湾では、「漢族」「華人」といった新語が溢れました。中国哲学や中国文学の大家である荘万寿教授は、自分の父祖の代にはそのような「新辞」とされるボキャブラリはなかったと指摘していました。たしかに中国の正史である「二十四史」にも「漢族」という言葉は出てきません。
漢帝国の崩壊後、六朝時代に入ると、漢の遺民は五胡によってホームランドの中原を追われました。『資治通鑑』「梁紀」によれば、549年の候景の乱を発端とする漢の遺民の内ゲバによって「南京大虐殺」が発生し、漢人はほぼ絶滅し、生き残った婦女子はことごとく奴隷として売られたといいます。
つまり、すでに漢人という民族はおらず、また中華民族というものも、無理やりつくられたフィクションなのです。にもかかわらず、さまざまな民族を「漢族」「中華民族」といった「牢獄」に押し込めようとしているわけです。
これに反発する「五独乱華」の顕在化は、まさしく、中国という「国のかたち」をめぐる大変動期がやってきたことを示しているわけです。
image by: plavevski / Shutterstock.com
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