香港を笑えない。選挙の投票率が5割を切る日本人が捨てた民主主義

 

こうした豆知識も織り込みつつ、香港では、この行政長官が実質的なトップなのですが、とても民主主義とは呼べない「出来レース的な選挙もどき」で、この行政長官が選出されて来ました。香港の行政長官選挙は、市民には投票権がありません。1,200人の委員で構成される選挙委員会の投票によって決められます。そのため、まずは、この選挙委員会の委員1,200人を選ぶための選挙が行われるのですが、この選挙も市民には投票権がありません。産業界の代表者や立法会議員、区議会議員、全国人民代表大会(全人代、中国の国会に相当)の香港代表、中国人民政治協商会議(政協)香港地区委員など、限られた人たちにしか投票権がありません

その総数は、約6万5,000人です。香港の人口は約750万人、有権者は約420万人もいるのに、その中の特権階級の人たち約6万5,000人だけで、この1,200人の委員を決めているのです。420万人のうちの6万5,000人、つまり、1.5%の権力者が98.5%の民意を無視して委員を選んでいるのです。そして、この6万5,000人は、その多くが中国共産党の恩恵を受けている人たちなのですから、親中派の委員を選ぶことが初めから決まっているのです。事実、現在の林鄭月娥長官が選出された時の委員も、1,200人のうち1,000人が親中派でした。

さらに言えば、そもそもが、行政長官選挙の候補者はすべて親中派なのです。ようするに、この選挙は「誰よりも中国の言いなりになる忠犬の中の忠犬」を選ぶための選挙であり、誰に決まるのかは選挙の前から中国共産党によって決められていて、それに合わせて出来レースをしているだけなのです。こうした香港の「選挙もどき」の実体を知れば、民主派が「行政長官選での真の普通選挙導入」を要求していることも理解できると思いますし、国際社会が香港の「自称・民主主義」のことを「欠陥民主主義」に分類していることも理解できると思います。

あたしは、インターネットの中継で今回の区議会選挙の開票速報を見ていましたが、開票が進むにつれて親中派の大物議員の落選が次々と報じられ、そのたびに歓喜する市民らの映像が見られました。特に歓喜の声が大きかったのが、7月に暴力団を使ってデモ参加者の市民を襲撃させた事件の黒幕、現職の何君堯(ユニウス・ホウ)氏(57)の落選が伝えられた時でした。何君堯氏は自身のフェイスブックに「異常な年の異常な選挙で異例の結果になってしまった」と敗戦の弁を述べました。

今回の民主派の歴史的大勝利は、これまで投票に行かなかった有権者の多くが「このままじゃいけない」と気づき、投票所に足を運んだ結果です。現在の日本の国政選挙の投票率は、何とか50%を超えていますが、地方選挙ではほとんどが50%以下、中には30%台で有権者の3人に1人しか投票していない選挙も散見されます。以前、ツイートしたことがありますが、あたしの知り合いの数学者が、2012年以降の安倍政権での国政選挙の投票率と自民党の得票数をすべて計算したところ、自民党の得票率はわずか14%」だったことが分かりました。有権者の14%の投票が、この国の在り方を決めてしまっているのです。

たとえ民主的な選挙が行われていたとしても、過半数に達しない投票率では本当の民意は反映されません。「投票に行かないことも『現状のままでいいという1つの民意だ」と言う人がいますが、あたしはそうは思いません。現在の日本で投票に行かない人たちの多くは、決して現状を肯定的に受け入れているのではなく、現状に不満を持ちつつも「自分の1票じゃ何も変わらないと思って、諦めているだけなのではないでしょうか。「いくら不満を口にしたって、どうせ安倍晋三が好き勝手なことをするだけだし、野党もだらしないし、もう、どうでもいいや」と、政治に期待することをやめてしまったのではないでしょうか。

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