人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さんによる「話し方の表現力を上げる5つのアプローチ」シリーズ。今回からは、最後となる5番目のアプローチ「話す時の見た目の印象を演出する」です。まずは、聞き手の人数と距離を意識した体の動きや言葉の選び方について伝えます。
外見から、話す時の表現力をアップさせる方法
語彙を豊かにする方法の話は、前回の記事でひとまず終了しましたが、最後にお伝えした、和語と漢語の使い分けについて、ちょっと補足をしておきますね。
それは、和語と漢語を使い分けるとして、具体的に、どういう言い方が効果的なのか、というポイントです。和語の特徴は、柔らかい音の響きにありますが、意味を伝えるという点では、少しおおまかで曖昧になります。
その点、漢語の熟語は、漢字の組み合わせによって、ものごとのニュアンスを言い分けられるようにできていて、バリエーションも多彩です。
ですから、和語を多用しつつ、微妙な意味の違いもしっかり伝えたいときには、和語での表現を先に、そして後から漢語の熟語による説明を追加するような形にすると、いかにも語彙が豊富な言い回しにすることができます。
例えば、何かの感想を言うときに、「軽やかで心地よいですね。まさに、軽妙、という感じ…」のように、和語のほうを先に言って、和語の柔らかい印象を残したうえで、漢語の精密な表現を追加したり。
これが逆に、緻密な表現があった後に、和語の柔らかい響きを聞くと、ちょっと間抜けな印象を与えかねません。もちろん、場合にもよりますし、言い方次第で変わってきますが、和語と漢語の特性を生かすことを考えると、基本は、漢語の説明は後からのほうが、カッコいいと思います。
もっと和語を使うのが自分らしいという人は、漢語の説明に、もう一度、和語を付けるという手もあります。
「軽やかで心地よいですね。まさに、軽妙な、軽やかさ…」
文字で表すと、「軽」の文字が重なりますので、NGっぽいのですが、話し言葉の世界では、音が違えば、それほど違和感はありませんし、なにより、強調するためにあえてそれを追加しているわけですから、それはあえて文法を破ってみた、ということでもあります。
話し言葉は、音が流れ去ってしまったら、それっきりの世界です。音で聞かせて、相手にどう効果的に伝わるかが、ほぼ絶対的な命題ですから、意味の重複などには寛容であるべきだと思います。
思い込みやルールに縛られ過ぎず、表現の可能性を、各々のやり方で、追求していってください。では、今回からの本題に移りますね。
話す内容の良し悪し、完成度に関係なく、表面的な「しゃべりの技術」によって、話し方の表現力を上げる5つのアプローチ、
- 声を磨く
- 声色を使う
- 口調を操る
- 語彙を豊かにする
今回から、最後の5番目のアプローチに入ります。5番目は、話す時の見た目の印象を演出する、です。
私はこのメルマガで、頻繁に「演出」という言葉を使います。私が言うところの「演出」の定義は、ある効果を期待して、意図的に、〇〇のような話し方をする、ということです。
例えば、言葉を繰り出す順番や、抑揚の付け方、間の取り方…などなど。これらはすべて「演出」ということになります。
上記の演出の定義に当てはめれば、次に言う言葉のインパクトや、時間の経過を聞き手に感じさせる、効果を期待して、意図的に、無音の状態を作るような話し方、これが、間を取るという話し方の演出、ということになります。
間の取り方などについて詳細は、既に記事にしていますので、過去記事をご参照ください。ただこの「演出」は、使う人の個性・キャラクターや状況に応じた、匙加減が必要です。
抑揚や間を普段はあまり使わない人が、ある日突然、急に使いだしたとして、聞く人はどう反応するかというと、「あれ、今日はなんか、話し方が大げさだね!?」なんて言われるかもしれません。
ただ、悪い印象を与えるほどではなく、むしろ、なんかいいね、ぐらいの好感を持ってもらえる可能性があります。そしてそれが良い方向であれば、そういう意図的な演出を、習慣化していけば、それが徐々に、個性になっていくものです。
いっぽう、今回のテーマ「話す時の見た目の印象の演出」では、自分のキャラに合わなかったり、状況に即していなかったりした場合、ちょっと気持ち悪い感じになったりします。
具体的には、普段はほとんど笑わないキャラクターの人が、笑顔を取り入れようと思って、頬をポンと膨らませて、口角を上げるような表情を意識したとしましょう。
これはまさしく、見た目の印象の演出にあたりますが、陰では、なんか不気味だね、と言われてしまう可能性もあります。では、そんな努力はやめたほうがいいのかというと、ここで言いたいのは、そうではありません。
話す時の見た目というのは、言行一致が大事なんですよね。見た目だけ変えたとしても、中身と一致しなければ、怪しさが増すだけですが、本当に心から、そういう見た目の人になろうとするなら、徹底的に、そういうキャラの人になりきること。言葉の通りに、自分の方が変わっていく覚悟が必要になる、ということです。
では、各論に入っていきますね。話す時の見た目の印象の演出、具体的にできること、まずは、動作についてです。人前で話す時の、自分の体の動かし方ですね。
話す時に、普段は全然体が動かない人もいれば、普段から過剰に動かしてしまう人も、いると思います。ですから、ただ単に、もっと動かすことを推奨することはできませんし、逆に、動かすな、とも言えません。
人前で話す時の体の動かし方において、留意すべきポイントは、以下の2点に集約できると思います。それは、
- 聞き手の人数と距離を意識し、それを利用すること
- その動きが、話の意味、話し手の感情とリンクしていること
この2点です。
ひとつずつ見ていきましょう。まず、聞き手の人数と距離について。話をする時の相手、つまり聞き手は、人数と距離が、ほぼ比例するものです。
大人数になれば、距離は遠くなりますし、少人数、さらには1対1になれば、距離は限りなく近くなります。すべてはケースバイケースになりますが、その時々の、相手から見える視野・視界を意識する必要があります。1対1なら、当然、視界は狭くなり、相手から見える範囲は上半身だけ、ということがほとんどでしょう。
いっぽう、舞台上から話しかける場合は、距離が遠く、相手の視野も、舞台や会場全体が見渡せる状況ですから、聞き手にとっては、話し手は全身で話しかけてくる感じになるでしょう。体の動かし方が、同じであるべきはずはありませんよね。
では、自分一人で話す動画ではどうでしょうか?これは、1対1で対面するのと同じで、自分とカメラの距離が、聞き手との距離ということになります。
本来はこの聞き手との距離感によって、動作はもちろん、使う言葉も違ってくるべきであり、例えば、YouTubeの個人配信などは、形としては、全世界の不特定多数に向けているわけですが、話し手と聞き手の距離感は、まさに1対1で対面している状況なんですね。
しかも実際に視聴されるときは、ひとりにひとつの小さいモニターで見られることがほとんどです。ですから、配信する動画での呼びかけでは、「みなさーん!」というより、「いま、ご覧のあなた。」こちらのほうが状況に合っていて、より親密な雰囲気を演出することができます。
ただ、動画の性質上、客観視させたい、されたいケースもあるでしょうから、なんでもかんでも、1対1で親密な関係を演出することが、正解ではありませんが…いずれにせよ、話す時の見た目の印象の演出をする際に、聞き手の人数と距離を意識すべし、という、その距離感というのは、こういうことです。
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