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不透明支出で「組合私物化」のマンション理事長を解任させる方法

マンションに住み始めて気が付く管理組合理事長の人柄ですが、たとえ高圧的だったりワンマンであったりといった「問題」を抱えている人物であったとしても、仮にも総会で選ばれた理事長を解任させることはなかなか難しいようです。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』ではマンション管理士の廣田信子さんが、このような不適格理事長解任の手段を記すとともに、理事長解任を諦めたマンションが管理不全化する理由を解説しています。

区分所有者は一人でも問題ある理事長を解任できる?

こんにちは!廣田信子です。

「長年、理事長が管理組合を私物化していて、多額の報酬を取っているのにさらに不透明な支出をしている。何とか解任したいが、理事長は、マンション内で恐れられていて、理事も監事もイエスマンで固めている。他の住人は、高齢でもあり、事なかれ主義で関わってくれないので、総会でいくら言っても、理事長をやめさせられない何とかできないかというような相談が時々あります。

「理事は総会で選任して、理事長は選任された理事の中から理事会で選んでいるのだから、外からはどうしようもない。一般組合員に仲間を増やして、自分たちも理事会の中に入って、問題ある人を理事長に選ばないようにするしかない…」。

そういう正論を言うのは簡単ですが、実際には、ワンマンで高圧的な理事長をやめさせるのはたいへんなことなのです。そして、それと戦おうと思うより、巻き込まれたくないと無関心を決め込むのが、大多数の人の心理なのです。仕事が忙しかったり、高齢になれば、そう思う人が多いのも分かります。

しかし…このままでは管理不全マンションへの道をたどってしまって自分のマンションの資産価値を守れない…と気づいた人の苦悩が始まるのです。先日、相談があったのは、そういうマンションを中古で購入した方からでした。

じゃあ、総会で、理事長解任に過半数の賛成が得られないのなら、もうどうしようもないのか…というと、実は一人でも戦える方法が1つだけあります区分所有法第25条選任及び解任)では、

区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができる。

としています。管理者とは理事会方式では理事長のことです。理事会方式の場合は、理事を総会で選任して、理事会で理事長(≒管理者)を選任し、解任もできる。これが、一般的な理事長選任、解任のルールです。

それに続いて、区分所有法第25条には第2項があります。

管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

ですから、管理者に不正な行為等があれば、区分所有者は1人でも、裁判所に解任請求できるのです。総会決議できなくても、不正行為をしている理事長をやめさせる方法はないのか…と聞かれると、この第2項の話をしますが、私は、この第2項を使って裁判所に解任請求をし、認められたという具体的な事例を知らないので、どのくらいの証拠がそろえば認められるのかというようなことはわかりません。あとは、マンション問題にくわしい弁護士に相談して…と言うしかないのですが…。

相談者は、弁護士さんは、「こういう訴訟をやってくれるか…」と、聞きますので、「不正な行為を立証できるようなら、受けてくれる弁護士さんはいると思いますが、もちろん、弁護士費用はかかります」と言うと、「弁護士費用は私が勝ったら、管理組合に請求できますよね?管理組合のために戦ったのですから…」と聞かれます。

でもそれは難しいのです。ここが悩ましいのです。

そもそも、理事、一般の組合員の多くが、積極的かどうかは別にして、形の上では、今の理事長を承認しているのです。ですから、総会で繰り返し選任され、その都度、理事会で理事長に選任されてきたのです。ということは、理事長本人はもちろん、多くの組合員は解任請求に賛成しないということです。

解任請求を承認していない人に、費用請求はできません。第2項は、あくまで各区分所有者に認められた権利なのです。

もちろん、「よくやってくれました。私も、実は、総会では言えなかったけど、理事長の解任に賛成だったのです」と言って、裁判費用の分担を承認してくれる人がいれば、その人たちに分担してもらうことは可能ですが、最悪、誰もそうは言ってくれない可能性もあります。不正行為を行っている理事長を解任して、管理組合を正常化したのに、あくまで、掛った費用は個人の負担というのは、納得がいかないようです。

これに関しては、東京地方裁判所の平成28年10月13日判決を原審とする東京高裁の平成29年4月19日判決があります。マンションNPOの解説が分かりやすいですので、詳しく知りたい方は、下記を。

理事長解任訴訟(区分所有法25条2項による)

こういう話をすると、結局、ほとんど(私が知る限りではすべて)の人が納得いかないものの、解任請求をあきらめるのです。

不正行為を行っている者、それを黙認して者、無関心に逃げ込んでいる者…そういう人たちの中で(もちろん、自分のためでもありますが…)、エネルギーもお金も費やして、それでも、勝てるという保証がないことに、踏み切れないのは当たり前だと思います。しかも、同じマンション内に暮らしながらの訴訟は、精神的にもかなりきついものになります。家族もたいへんな思いをします。

ですから、このまま行ったら、管理不全マンションの道をたどると気づいてしまった人は、立て直すのはあきらめて、そこを見捨てて、売却して出ていく確率が高いのです。この相談者も、こんなマンションだとは知らずに購入したのです。重要事項説明書では分からないのです。むしろ、理事のなり手不足とは無縁のマンションだと評価されるかもしれません。で、今なら、何の問題もなく市場で売却できるのです。

こうして、疑問を感じて行動しようと思った人が、マンションを出ていくことで、理事長による管理組合の私物化が続きます。理事長もその取り巻きも、高齢のようですから、管理組合の私物化にも、いつかは終わりが来るのでしょうが、そのときの管理組合に回復する力が残っているかどうかはわかりません。

こういうマンションが、実は一番やっかいだと、自分の無力さと共に感じています。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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