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失われた30年から脱却。日本が再び「国営化」に舵を切るべき理由

政府や日銀の施策も虚しく、「失われた30年」から抜け出せずにいる日本。技術分野においても中国に大きく水を開けられ、今後もその差は開く一方とも言われています。我が国がかつての輝きを取り戻すには、どの方向に舵を切るべきなのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、そのために必要なのは「国主導の研究開発機構を復活させること」とし、国家投資の具体的な方法を記しています。

追われる国の経済学

リチャード・クー氏の講演会「追われる国の経済学」を参考に、日本が置かれた状況で、どの様にしたら復活できるかを検討したい。

米中貿易交渉と米国株価

NYダウは、11月27日に史上最高値28,174ドルとなったが、12月5日27,677ドルとなったが、11月アメリカ雇用統計で非農業部門雇用者数が26.6万人増となり、12月6日28,015ドルと337ドル高と大幅な上昇になった、PERは19倍から20倍台になり、益々割高な水準でなっている。

米国の景気は強いし、12月15日の対中追加関税の発動が近く、米中通商交渉の合意の文案を練っているので、合意は近いとムニューシン財務長官は言う。

しかし、トランプ大統領は、「合意に期限はない。来年11月の大統領選後まで待ったほうが良いかもしれない」と述べ、2020年11月以降に合意すると中国をけん制している。

中国は500億ドルの農産物を買う代わりに、今までの関税UP分を無しにすることを条件と強気に出ている。トランプ大統領が再選するためには、中国の農産物の大量購入がないと無理と読んでいる。ディールとして、中国も相当強気でトランプ大統領に臨んでいる。このため、主導権を中国が取ったような雰囲気になってきている。

一方、米国議会と軍産複合体は、対中国への警戒感から香港人権法を全会一致で可決して、トランプ大統領も署名するしかなかった。トランプ大統領が対中国で譲歩すると、弾劾裁判で共和党議員も賛成に回られてしまうためで、共和党の議員を味方にする必要があるので、中国への譲歩もできない。このため、署名したのである。

そして、いくら農産物の輸入を増やすからと言って、中国からの輸入関税UPを無しにする条件も飲めない。これにも強硬な姿勢を取るしかないようである。中国に人権や民主化を要求する有効な交換条件を無くしてしまい、中国は益々独裁的な強国となるためである。米国の議会と軍産複合体は、今中国を叩かないと、米国は敗北すると真剣に心配しているからだ。

しかし、トランプ大統領の本音は、そろそろ、中国との妥協点を見つけて、農家の倒産を防ぐために、1次合意をする必要がある。農業州は、共和党の伝統的な支持州であるが、そこでの支持率が減少しているからだ。

中国も合意したいようである。トランプ大統領が署名した香港人権法への中国の報復は、米軍艦船の香港寄港を拒否するという軽いものなっている。中国としても、12月15日1,600億ドル分の電子製品・オモチャなどの関税UPやその他製品への25%から30%への関税引上げを阻止したいが、300億ドル農産物輸入でも、12月15日分の関税UPを止めるだけという米国の取引では、中国は不満であるようだ。

このため、300億ドルから購入金額を切り下げて、12月15日の関税引上げを回避する方向で交渉をしているとクドローNEC議長はいうし、中国は、すでに大豆や豚肉の輸入関税を無くしたという。

しかし、アップル製品への課税が行われると米中経済への影響は大きい。このため、今後の交渉が決裂でもアップルは将来的に米国で生産することを条件にアップル製品への関税UPを回避する方向であるようだ。アップル株価は現在265ドルであるが、目標株価を300ドルとしたことでわかる。

というように、トランプ大統領と議会や軍産複合体との意見が大きく違うことに寄り、米中貿易交渉は行き詰まっている。これに輪を掛けて、米議会下院は、中国が嫌がるウイグル人権法案も全会一致で可決して、上院に送っている。上院も圧倒的多数で賛成して、可決するはずである。

というように、トランプ大統領が対中で譲歩しないように、次から次へと交渉決裂に向かわせる方向で、議会や軍産複合体は行動している。中国の人権や国家体制など根幹を米議会・軍産複合体は問題視しているのである。このため、トランプ大統領の考えるディールがやりにくくなっている。

このため、目先を変えるために、トランプ大統領は、中国に大豆を輸出するアルゼンチンとブラジルの鉄鋼輸入に追加関税掛け、フランスのデジタル課税に対応してフランス産ワインなどの関税UPを行うとしたり、NATO加盟国の軍事費がGDPの2%以下である国への関税UP、トルコへの制裁、北朝鮮への軍事介入を仄めかしたり、中東へ米軍1,400人増派を述べたりしている。

フランスへの関税UPに対しては、EU全体で対抗関税UPを行うとしたことにトランプ大統領は反発して、エアバスへの補助金に対する対抗関税として、EUからの輸入には100%の関税を掛けると宣言しているので、米中貿易摩擦は、米欧貿易摩擦に拡大することにもなる。NATO会議で孤立して、それでも頭に来たようである。

この結果は、世界貿易の縮小になり、欧州、中国経済を直撃して、その結果は日本企業の売り上げも落とすことになる。しかし、12月7日時点では、米中交渉がどうなるのか見通せない。

日本の株価

日経平均株価は、11月26日に年初来高値23,608円になったが、以後米中合意疑念、景気後退などから横ばいで、12月13日に23,354円と、依然強い相場が続いている

海外投資家の買いが優勢で、市場は楽観的な見方であるのは変わらない。PER14倍とNYダウに比べても低いし、追加予算26兆円という景気刺激策が出てくるという期待感もあり、12月9日は、大幅高になると見る。そして、12月15日が世界経済の分岐点になる。

日本の景気は確実に後退してきた。11月家庭消費も5.1%のマイナスであり、日銀の量的緩和から政府の財政出動にシフトして、景気の下支えを行うことで、アベノミクス第2弾が始まる。

しかし、米国の景気好調で、株価が上昇して、日本株の割安感が出て、株価と景気の関係は、あまりない状態になっている。景気が悪いのに株価が高いということになる。

しかし、12月15日に関税引き上げとなると、日経平均株価も大きく下落することになるので、注意が必要である。

先進国経済の分析

リチャード・クー氏の講演会では、現代の経済理論は、お金を借りる多くの存在が必ずいるという前提で構築されているので、金利を下げるとお金を借りる人が増え、金利を上げるとお金を借りる人が少なくなり、このお金を借りる人の数と量を調節することで、景気をコントロールすることができるとしたのである。

しかし、現在、日本や米国、欧州で起こっていることは、お金を借りる人や企業が少なくなり、金利を下げてもお金を借りる人がいなくて、景気刺激ができないことになった。お金を銀行に預ける人は、多数いるので、その集まったお金の使い道がなく、債券や株に投入されて、株価や債券価格の上昇を引き起こしている。

この上に、金利を下げても景気刺激にならないので、中央銀行は、国債を買って、お金を大量に市中に供給したが、お金を借りる人がいないことで、益々、市中銀行は、株や債券を買うことになり、株価や債券価格が上昇する結果になっている。債券価格上昇とは金利が安いことである。

なぜ、先進国企業は、お金を借りないかと言うと、新興国の労働者の賃金が安く、製造単価が低いので、コストが低い新興国に工場を建てることで、投資を海外で行うことになる。新興国への投資は、地元銀行でお金を借りることで、為替リスクを回避できるので、新興国の銀行で借りることになり、日本の銀行からは借りない

日本にいる中小企業は、新興国に付いていけないので、大企業は、新興国の中小企業を育成するので、新興国企業は発展して、地元銀行から資金を借りて投資するが、先進国の中小企業は仕事を失い倒産や廃業することになる。このため、資金を使うことはない。ということで、この余剰な資金を使えるのは、国しかない

ここまでが、リチャード・クー氏の講演内容である。

長期目線での研究投資を国が行う

ここからはそれを基に考えるが、この余剰な資金を使えるのは、国しかないということの意味は、利益を出すことを至上にする民間会社では、長期目線での投資ができない

その上、日本企業は、国内市場が小さいので、売上高も低く、技術投資してもGAFAに負けると見ているので、技術投資もしない。Lineとyahooが統合するが、売上高ではAmazonの1/10以下であり、AI技術でも投資額が違い過ぎである。

このため、民間企業ができない長期目線での技術研究投資を、国が行う必要になっている。昔は、国有企業の電電公社の通研や国鉄の技術研究所があり、そこで世界的な研究を行って、新幹線や光ファイバー、電子デバイスを生み出したのである。

この国有企業を民営化したことで、NTTの研究開発投資が大きく減速して、NECや富士通などの通信機企業の業績がダメになり、新製品もでなくなってしまい、中国と韓国の製品に負けることになったのである。

電子デバイスなどの成果は家電メーカーにも良い影響があり、世界的な日本企業が輩出したのであるが、その企業も製造業では衰退している。

逆に、国鉄は、赤字部分を切り捨てて、JR東海だけが大儲けすることで、リニアモーターカーを開発できた。JR東海と競合する企業はないことで、鉄道技術は日本がまだ先頭にいるのだ。こちらは、赤字を切り捨てたことで、巨額の研究開発投資ができているので、日立などが世界へ進出して、世界の先端企業になっている。

というように、国が、長期国債の金利以上の効果がありそうな研究技術投資を行うことと、日銀のETF買いで大中企業が国有化になることで、複数の同業企業を世界で戦えるように合併したり、もしくは企業連合にして、そこに研究開発の投資をおこなうことだ。

その見返りは、業績向上による配当金と税金があることで、国は、投資を回収できることになる。民間企業のような短期志向ではないので、基礎研究分野など長期目線の研究開発もできることになる。

日本が日銀ETF買いによる企業の国有化で社会主義的になるのは、中国みたいな独裁型国家資本主義に対抗するにも必要であり、資本主義が行き詰まっている現状や投資の観点からも合理的であることになる。

というように、マルクスの資本主義が行き詰まると社会主義なるという言葉が、真実の可能性があると思い始めている。議会制民主主義の下での個人の自由を保証した国家資本主義、または社会主義は、ありかもしれないとリチャード・クー氏の講演を聞いて思った。

欧州の民主社会主義は中途半端で、まだ、資本主義が行き詰まっていないことで、社会主義の利点が出ないのかなと思う。その点、日本は資本主義が行き詰まっているので、変革のチャンスが来ているように感じる。

しかし、野党は社会変革より、不祥事を大事にしているので、知らぬ間に社会が変わることになる。野党は、気が付いていなく、かつアイデアがないので、それでよいのかという議論があるが、そうなりそうである。このため、国民は知らぬ間に、社会が大きく変革していることになる。

中国・韓国は日本の真似

中国が米国の先端技術に追いつき、追い越す勢いなのは、国が国有企業に、技術開発費を援助して、研究者を米国から引き抜き、その研究者に、米国に居る時より2倍から3倍の賃金を払うからである。

韓国も同じようにして、日本の技術を奪い取っている。この根本にあるのは、戦後、日本が国有企業を優遇して、研究開発費を大量に投入したことでできたことを真似したためである。

逆に、日本は、それを米国との貿易摩擦で、国有企業を民営化して潰したことで、研究開発費を投資できなくなったことで、日本は「失われた30年」になったのである。

この「失われた30年」を抜け出すためには、長期目線で研究開発費を投入するしかなく、国しかできないことである。民間企業は、利益を出すことが必要であり、長期目線の視野を持てない。

国家投資の方法

iPS細胞研究も進展しているが、その根源は国が3,000億円の研究開発費を出しているからである。モノにしたら、その投資に見合った企業の売り上げになり、配当金や税金で回収ができることになる。しかし、中途半端な状態で、投資を止めたら投資の回収もできなくるなる。

それと、農業ファンドやクール・ジャパン、地方活性化など国家投資は、投資資金の回収ができず失敗している。研究開発的なことでないと、補助金目当ての企業が適当に資金を使い、資金回収ができないことも、この30年で学んだ。

勿論、地方活性化のように、失敗する可能性が高くとも、行う意義はある物もある。しかし、それだけでは、国は衰退してしまう。どうしても、イノベーションを起こして、日本経済を再度、1980年代のように強靭なものにすることが必要になっている。

そのためには、国が率先して、iPS細胞、セルロース・ナノ・ファイバー、量子コンピューター、6GやAIなどに企業連合を作り、挑むことである。日米貿易で潰した国主導の研究開発機構を復活させることである。

しかも、中国に技術的に追い抜かれた米国は、日本と協力して長期目線の研究開発が必要になり、日本の研究開発機能を叩けないし、中国がいることで、日本の研究開発機構は、米国にとっても必要なことになる。開発した技術を日米両国企業が使えるように、すればよいのである。

さあ、どうなりますか?

image by: SubstanceTproductions / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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