人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さんによる「話し方の表現力を上げる5つのアプローチ」シリーズ。大企業のCEOが新製品、新サービスなどをステージ上でプレゼンする映像を目にする機会が増えましたが、大抵の場合、手を無意味に動かすだけのつまらない話し方になっていると指摘しその理由を解説。話すときの効果的な動きとはどんなものかをわかりやすく教えてくれます。
動作を見せる話し方
話す内容の良し悪し、完成度に関係なく、表面的な「しゃべりの技術」によって、話し方の表現力を上げる5つのアプローチ、
- 声を磨く
- 声色を使う
- 口調を操る
- 語彙を豊かにする
5番目は、話す時の見た目の印象を演出すること。前回から、話す時の体の動きの見せ方で、表現力を上げる方法について、考えています。
最近はインターネットを利用して、さまざまな記者会見が動画で生配信されるようになりましたので、大企業のCEOなどトップに立つ人々の話し方を見られるチャンスも、増えました。ただ残念ながら、ほとんどの日本の大企業の社長たちの話し方は、「体の動きの見せ方」という点においては、凡人です。
もちろん話す内容は、練り込んだものでしょうから、それまで凡庸だとは言いません。あくまで動作の見せ方という点において、です。いったい、どこがダメなのか?それが、前回指摘した、
- 聞き手の人数と距離を意識し、それを利用すること
- その動きが、話の意味、話し手の感情とリンクしていること
この2点なのですね。
プロンプターの存在は、ご存知かと思います。古くからテレビの定時ニュースや、首相や大統領の会見・発表などにも使われてきましたが、最近は、上述のような企業の記者会見などの場でも、利用されるようになりました。
プロンプターとは、いわばカンニングペーパーのようなもので、手元の原稿が、読み手の目の前のモニターに映し出されるシステムです。手元の原稿を、据え付けられたカメラが撮影する仕組みですから、話し手が定位置にいて、原稿が同じ場所に置かれていることが必要で、テレビでも、定時ニュースではなく、バラエティー番組など出演者が動くケースでは、カンニングペーパーは、スタッフがあらかじめ手書きで用意します。
発言者が、ずーっと前を見続けながら話せるのは、これのおかげです。また、これがあることで、前にいる聴衆に向かって話そうという意識は、高まるはずだと思います。
また、プロンプター、カンニングペーパーを使おうが使うまいが、話している様子を見せることを意識するケースが増えてきたため、そういう時にはこう振る舞う、こうカメラに写る、という話し手としての見え方、見せ方も普及、一般化してきました。
ですから、テレビ出演者のようなカメラの前で話すプロではなく、たまに、観衆の前に立って話すような社長さんや、セミナーや講演で話す立場の人、ユーチューバーさんなどの、話す時の動作、振る舞いも、かつての、手元の原稿を見て、うつむきながら話す発表や会見とは、ずいぶん変わったとは思いますが、まだまだそういった発表者・発言者の話の見せ方が、凡人だと思えてしまうのは、前記の2点が考慮に入っていないからです。
まずは、
- その動きが、話の意味、話し手の感情とリンクしていること
というポイントについて。
ごく簡単に言うと、感情にまかせて手を動かすだけ、という人がほとんどなのですね。まったく無意識のまま、しきりに手を動かす人はもちろん、手の動かし方を見せようとしているものの、その動きに全く意味のない話し手がほとんどです。
頻繁に手を動かす話し手は、その情熱を伝えることはできるかもしれませんが、かえって神経質に見られたりする恐れもありますし、妙に手の動きを見せようとする話し手は、聞き手の意識をそらしたり、ごまかしたり、なんだかちょっと裏がありそうな印象を与えかねません。妙な手の動きを、あえて見せようとする…これって、手品師と同じですよね。タネを隠している人の話し方なんです。
ですから、動きに意味がないのに、見せようとし過ぎるのは、NG、無頓着すぎて、せわしなく動かし過ぎるのも、NGです。もし、情熱的に語っている姿を印象付けるために、手を激しく動かすのであれば、むしろ、通常は動かすのを我慢しているぐらいでないと、メリハリがないため、効果が薄くなってしまいます。なにごとも、四六時中同じなのは、無意味、悪ければ逆効果になるものです。
また、人間の手は、ロケットパンチのように切り離して飛ばすことはできず、いつも体にくっついている状態ですよね。その「手が語りすぎる」のは、話が自分の域を脱しない、自分が自分が、の話になってしまいがちです。せっかく動作をつけて話すのであれば、聞き手を巻き込む動作を心がけたいところです。
では、体の動きと話の意味をリンクさせるとは、どういうことでしょうか。それは、手話にも近いボディーランゲージなのですが、手話のように四六時中、通訳をするためのものではなく、言葉で言うと、頭(頭脳)や心、手足、目鼻口…などの体の部分、形容詞や形容動詞などの修飾語や、比喩、ものごとの状態を表すような擬音擬態語を動作で表現してみる、ということです。
「目はギラギラと眼光鋭く、頭脳明晰で、まるで日本刀のように、ズバッと、切れ味が素晴らしい…」例えば、こんな感じですね。目のギラギラ感や、日本刀をズバッと抜くような動作が、イメージ出来たのではないでしょうか。
これが、動作ありきの話し方なのか、こういう話し方だから、動作が伴ってくるのかは、話し手の気性にもよると思いますが、私たちの話の中には、このような、動作で表現しうるケースが、そこかしこに存在しています。それを実際に、見せる話にできるか、ということですね。
また冒頭のCEOの会見の話に戻って恐縮なのですが、台本がきっちり用意されて、プロンプターも準備され、聴衆に向かって話す体勢は整っているのに、実際の話し手の動作が、手をプルプル動かすだけになってしまうのは、多分に、台本に問題があるのだと思います。
つまり、台本の文章の語順や言葉の選び方などの表現が、動作を見せることに対応できていないんですね。これは実にもったいないことです。
見せながら話すことが大前提の、例えば新作発表のプレゼンなどで、CEOがステージで、ぽつねん…としてしまう、よくありがちな現象の原因は、こんなところにあったりするわけです。
こういうところがうまい会社、こういう動作が上手なビジネスマンは、とても魅力的だと思うんですがね…
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