インターネット通販大手のアマゾが、一部地域で展開していた「置き配」を2020年から全国展開すると発表。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人で、アマゾンジャパン立ち上げ時のブランドマネジメントにも関わった理央周さんが、この決断に至った背景を解説します。そして、アマゾンがこういった施策を他社に先駆けて導入できる理由として、脈々と続く企業としてのある姿勢を上げています。
なぜアマゾンは置き配を全国展開するのか?
アマゾンが2020年から、通販で買った荷物を玄関前などに置く、「置き配」と呼ばれるサービスを希望者に向け展開する、と発表しました。これまで自社で配送できる約30箇所の地域で、このサービスを展開していましたが、全国に展開すると発表したのです。この置き配を、宅配3位の日本郵便と連携して、実施するとのことです。
アマゾンは自社サイトで、“「置き配指定」とは、お客様のご在宅・ご不在にかかわらず、ご指定いただいた場所に商品をお届けするサービスです。応対もサインも不要で、配達完了は写真でお知らせします”」と説明しています。
ユーザーの方で自分が置き配したい場所を選べて、指定することができます。宅配ボックスはもちろん、玄関や車庫、はては、自転車カゴやガスのメーターボックスなどと、図解で説明しています。この図解はとてもわかりやすいので、サイト作成の時の参考にもなります。→ https://amzn.to/2qvfVxA
この置き配サービスは、ユーザーが商品を注文するときに、最後の注文確定のところで、簡単に依頼できるようになっています。
日経新聞の記事(12月6日)によると、アメリカや中国ではすでに、この置き配のようなサービスは比較的に浸透していますが、日本ではまだまだで、「軒先きにおいて置かれるとなくなるかも」とか、「壊れていたら困る」など、ユーザーの方が不安に感じることも多いため、浸透していなかったという背景があります。
さらに、運送・配送業界では、宅配物の「再配達」が大きな問題になっています。お客様が不在で、もう一度配達しなければならないと、その分の仕事上のロスが出てしまいます。
再配達は、全体の配達のうちの2割を占め、その分9万人の労働力が必要になると試算されています。インターネットでの通販が一般的になって、ますます宅配そのものが増えこの傾向は加速しています。
2009年に約30億個だった宅配荷物が、2017年には42億個を超え、(国土交通省「平成29年度 宅配便取扱実績について」より)、今後もさらに増えると予測される中、ただでさえも労働力が不足している運送会社や、依頼する側のネット通販企業にとっても深刻な問題です。
注文をするユーザー側も、ネット通販で買ったものが届く時のために時間指定をするわけですが、
- 「時間指定の幅が広すぎていないことも多い」
- 「在宅していたのに不在と思われてしまった」
- 「指定時間の締め切りが早い」
などと、受け取れないことに不満がある人たちが多くいます。
これらの「時間に関すること」が、宅配業者に求めるニーズの「6割」を占めるという消費者調査もあり、この辺を解消したいということが今回のアマゾンの狙いでしょう。
社会課題になっている再配達の改善による配送会社の問題と、欲しい時に受け取ることができるようにしたい、というユーザーニーズを同時に解決することができるわけです。
置き配の全国展開に見えるアマゾンの姿勢
特に注目したいのは、日本では浸透していない置き配をやろうと考えたことです。全国展開をする上では、盗難や破損といった問題も出てくることが予想されます。
これらの見えない声が大きかったため、宅配業界では置き配に消極的だったと言えます。なので、お客さんのニーズに答えようとする姿勢がないと、なかなか最初の一歩が踏み出せません。それをアマゾンは業界で初めてやろうと決めたのです。
私がいた時からそうでしたが、アマゾンは、顧客中心主義を掲げています。この本質は、「新しい取り組みをやるかどうか迷った時は、お客さんが喜ぶかどうかで決める」という考え方に基づきます。
今回も、顧客ニーズの解決と、想定される困難なことのジレンマに悩んだでしょうが、自社の売上拡大になり、さらに、お客さんのためになるのであれば、乗り越えよう、と決断したのでしょう。規模が大きくなっても、アマゾンはこの辺のことを忘れていなさそうで、ホッとしました(笑)。
アマゾンでは、顧客中心主義が染み込んでいたので、社員はいつも、「お客さんがちょっとでも便利に買えるようにするには、どうすればいいのか?」を考えるクセがついていました。なので、お客さんの「潜在的なニーズを発見する」能力には長けていました。
すでにわかっている顕在的なニーズは、ライバルもわかっているので、すぐに解決できます。しかし、潜在的なニーズはリサーチなどでは出てきません。顧客を観察することで、自ら発見するものです。このお客様を見つめるという姿勢がいつもあるので、「お客さんが困っているのは何か?」にすぐに気づき、次の一手が打てるのです。
この考え方は、どのような仕事にでも当てはまりますよね。営業であれば、取引先が悩んでいるお困りごとをどう見つけるのか、観察し続けること、または、聞き出すことで引き出すことになりますし、飲食店であれば、お客さんのちょっとした一言で、発見できることがあります。
顧客中心主義、ぜひやってみてください。
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