MAG2 NEWS MENU

令和元年最後の闇。かんぽ不正事件はどこまで腐っているのか?

連日報道され、令和元年最後の大スキャンダルといっても過言ではない「かんぽ生命不正事件」。背景を探れば探るほど、土下座の強要や勝手に会見を切り上げる社長の無礼な対応など、組織内部者の闇が芋づる式に出てくるばかり。18日に行われた記者会見では、ノルマ未達者には「お前は寄生虫だ!」などというどう喝指導が繰り返されていたことが明らかになりました。この出口が見えないかんぽ生命保険不適切販売問題について、ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の中で、今回の事件をめぐる社内調査と各紙の動向を独自の視点から詳しく分析しています。

かんぽ生命不正事件「社内調査」を各紙はどう報じたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「意に沿わない契約 20万人」
《読売》…「かんぽ不適切契約1.3万件」
《毎日》…「かんぽ不正疑い1万2836件」
《東京》…「かんぽ不正黙認体質」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「かんぽ 矮小化の風土」
《読売》…「郵政G 苦情を軽視」
《毎日》…「かんぽ統治不全 幕引きほど遠く」
《東京》…「営業現場 パワハラ横行」

「矮小化」

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、14面社説。見出しから。

(1面)

(2面)

(14面・社説)

uttiiの眼

2面。【朝日】は特別調査委員会の調査報告の中にある「矮小化」というキーワードに注目しつつ、調査が不十分だと批判している。

かんぽの社内調査は勿論、弁護士で構成する特別調査委員会による今回の調査も不十分であり、その報告書も「経営責任には切り込まず、全容解明にはほど遠い」というのが《朝日》の基本的な認識。

不正販売に走った局員たちは、あるいは手当欲しさから、あるいは上司の叱責、パワハラに脅えつつ不法な契約取りに手を染めたことが分かっているが、問題が一部で把握されながら是正に至らなかった理由について、報告書はかんぽに対し「問題が矮小化され、原因分析や再発防止策を検討しなかった」と指摘しているという。しかし、肝心の経営陣の問題認識や責任にはほとんど踏み込まなかったと批判している。

「矮小化」というのは分かりにくい

報告書は、かんぽの幹部も一部は認識していた不正契約の問題が上層部に伝わらなかったのは問題の「矮小化」があったからだというのだが、それだけでは、要するに「大した問題ではないとして、伝えられなかった」ということに過ぎない。上層部には問題を把握する責任がある。その問題把握の形式が定まっていなかったり、ゴマカシが利くようになっていたりしたはずで、もっと言えば、そもそも不正契約を防止する仕組みが、契約の様式の中に組み込まれていたのかどうかということも問題になるだろうし、その状態を放置した経営陣の責任は非常に重いということになるだろう。ビルトインされた段取りを正確に追う作業を、通常の注意力で行えば自然に問題が把握されるようになっているというのが「ガバナンスが利いている状態」だと私は思うが、そのような観点からの調査が必要なのではないだろうか。

情報の目詰まり

【読売】は1面トップと3面の解説記事「スキャナー」と社説、9 面に関連の連載記事。見出しから。

(1面)

(3面)

(9面)

uttiiの眼

3面解説記事。リードに「過度な目標(ノルマ)を強いた営業現場にはコンプライアンス(法令順守)意識が欠け、経営陣は顧客の苦情を軽視する企業体質を放置した。2万4000局の郵便局で築かれてきた信頼が地に落ちている」とある。

顧客の苦情を軽視する体質」が報告書の「矮小化」に繋がる言葉だが、実はもう一つある。【読売】の見出しに見えている「情報の目詰まり」がそれだ。だが、記事中に出てくるのは「上意下達の組織風土の中で現場の声が本社の経営層に届かない組織体制となっていた」という報告書の文章のみ。ということは、「情報の目詰まり」は【読売】の“創作”ということになろうか。キーワードは自作しても構わないとは思うが。

【読売】の解説記事最大の特徴は、この問題を通じて見えてくる政府内の対立についての記述だ。

記事の最後段。日本郵政グループの経営体制刷新を狙っているとされる金融庁と、早期に営業再開させたい総務省の対立があり、月内に金融庁が下す行政処分の軽重を巡っても、両者のさや当てが激しくなっていると【読売】は書いている。

不正のシンクロニシティー

【毎日】は1面トップに定番コラム「余録」、3面の解説記事「クローズアップ」、5面に社説、7面に関連記事。見出しから。

(1面)

(3面)

(5面・社説)

(7面)

uttiiの眼

【毎日】からは定番コラム「余録」を取り上げる。

シンクロニシティーという言葉が手掛かりになっている。乃木坂46のヒット曲に「シンクロニシティー」があり、この言葉が知られるようになるきっかけになったという。しかしこれはユングが用いた心理学の専門用語であり、翻訳すれば「共時性」となる。「因果関係がないのに、意味の繋がった出来事が同時に起きる」ことを意味し、ここから、ユングは「集合的無意識」の存在を想定することになったのだそうだ。

余録子はこれを「おびただしい不正の同時発生」と読み替え、そして直ちに否定する。いわく、「不正の同時発生は、超常現象でなければ過大ノルマと底の抜けた企業統治の招いたものだろう」と。そして、未だに経営責任を自覚せず、自らの進退についても明言しない経営トップ…。

そして最後の最後、余録子はもう一度、シンクロニシティーを復活させている。「顧客を食い物にする“集合的無意識”をつちかったのは、官民それぞれの悪い半分を組み合わせたような半官半民の企業風土だろう。抜本的な企業改革なしには脱却できない不正のシンクロニシティーである」と。お見事!

事件は現場で起こった

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、5面社説。見出しから。

(1面)

(2面)

(5面・社説)

uttiiの眼

2面解説記事。とりわけ重要視されているのが「パワハラ」だ。記事中に書き込まれている実例は2つ。1つは、成績が低い社員に対して、部長が「何をやっていたのか。土日休んで平気だったのか」

と部下を詰問したケース。これについては取材の結果なのかどうか、不明だ。少なくとも今回の報告書に該当する記載はない。2つ目は会見で長門日本郵政社長が語ったもので、「社内で土下座させるなどパワハラ的なものがたくさんあった」と認めているという。

記事は郵政3社長の会見の様子を伝えている。長門氏は「事件は現場で、郵便局で起こった」と、どこかで聞いたようなコメントに続け、「(かんぽ生命の)社長も知らなかった」と、重ねて責任回避に繋がる発言をしたため、記者からは責任に関する質問が相次いだという。そして質問が続く中、長門氏は「2時間会見をやった」と述べて会見を一方的に打ち切り、記者の怒号が飛び交う中、会見場を後にしたという。

image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 uttiiの電子版ウォッチ DELUXE 』

【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け