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放たれないアベノミクス第三の矢。永遠に日本が改革されない訳

昨年末は、日本の縮図を示すようなニュースが2つ舞い込みました。「大学入試改革」と言いつつ事実上のマークシート方式続行、「日本郵政代表交代」と言いつつ元官僚を選出…改革を掲げながら玉虫色に見える点は、中庸を好む日本ならではかもしれません。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、改革を本気で断行するのに必要な条件と、国家として絶対に避けるべき点を明言しています。

2019年を振り返る中で、改革の先送りはもう最後にしたい

12月の年の瀬に、様々なニュースが入ってきました。1つは大学入試改革の先送りであり、もう1つは日本郵政の経営陣交代です。どちらも日本社会の改革という観点からすれば重要な問題です。

まず、大学入試についてですが、結論から言えば「マークシート方式」によるセンター試験が当分の間続くということです。これによって以下のような問題が解決されることなく当面継続します。

まず日本の教育の改革は「必ず低学年から」スタートして「高校で腰砕け」というパターンが続きます。現在、文科省は「アクティブ・ラーニング」というスローガンで「主体的で深い学び」へと教育を変えようとしています。そのスローガン、そして方法論、そして教員の資質などを考えると決して見通しは楽観できません。

ですが、AIが作業レベルのタスクを請け負う社会がどんどん来る中では、日本が準先進国の経済を維持するためには「考える」タスクをこなせる人を育てなくてはダメで、待ったなしの改革であるわけです。

にもかかわらず「マークシート方式」が延長されるというのは、結局はその変化も先送りになるということですし、改革の掛け声は「小学校を実験台にする」だけで中高は「昔ながらのオフィス事務や工場労働者向け教育」が続くということになります。

そう申し上げている一方で、実は、そうした懸念はあんまり当たらないという見方もあります。というのは、現実の日本の大学は「どんどんセンター試験を使わなくなっている」からです。私立だけでなく、国公立も年々「推薦枠」や「帰国子女枠」「留学枠」を拡大しています。ということは、今回の「センター試験改革先送り」を嫌った大学を中心に、事実上は「マークシート試験で入る学生は少数派」になるかもしれません。

また、入試改革が進まないということは、大学の内容も大きく変化はしないということになります。そうすると、即戦力スキルという意味では競争力に遅れを取っている日本の大学は益々嫌われ留学先としては魅力が下がる一方で、日本から学部レベルでの優秀な学生の国外流出が加速するかもしれません。

いずれにしても何度も申し上げているのですが、政治的な力比べが避けられないのであれば「萩生田大臣のクビを差し出す代わりに」、「そして業者選定を非営利法人等に限ってやり直し」た上で、入試改革を断行すべきでした。

増田氏に日本郵政グループの改革はできるのか?

次の日本郵政の問題ですが、増田寛也氏の社長就任というのは恐れ入りました。増田氏といえば、穏健保守で微妙に小沢系だった時期もあり、その一方でそもそもは建設官僚だった人です。近年は消滅自治体の問題で、人口減ディストピア評論の先駆けのようなこともしていました。ということは、抜擢人事というよりも、世論にそれなりに人気のある人物を投入して、「難局の交通整理」をさせようという官邸の意図があるのではと考えられます。

日本郵政については、2つ大きな疑惑があります。まず、グループ全体として、経営が大丈夫なのかという問題です。「かんぽ生命」の不適切営業というのは、郵便局の経営が危ない中で保険販売の収益に期待したあまりの暴走という疑惑と、民営化以前の「簡易保険」契約が収益を足を引っ張っているという疑惑です。

もしもその両者が絡み合って、今回のような大量の不適切契約に発展しているのであれば、その上でこの不適切契約を元に戻すコストをかけるのであれば、経営への負荷は相当になる危険があります。

そんな中で、個々の郵便局の収益を保証し、郵便事業の慢性赤字体質を改善し、生保の収益性を向上してグループ全体が存続できるようにするには大変な改革が必要になります。場合によったら、グループ全体で大規模な人員整理を行うとか、郵便局の統廃合を行うとか、契約者に対する不利益変更を宣言するとか、勿論できるできないという問題はありますが、とにかく痛みを伴う改革が必要になると思われます。

勿論、その痛みというのは日本郵政グループの中の問題ですが、仮に全体が大きく動揺するようですと日本経済にも影響が避けられません。その中で私が恐れているのが、ゆうちょ銀行も含めて精査した場合に経営が相当に悪いという可能性です。

その場合に、絶対にやってはいけないことは外資との提携、売却です。民営化が進行中とはいえ、日本郵政グループというのは日本の金融サービスにおける中核を占めている存在です。その改革が自分たちではできずに外資や外圧に依存しないとできないということでは、本当に日本経済は消滅してしまいます。

そうではなくて、キチンと自力で改革ができるということが極めて重要です。どういうことかというと、民営化による競争原理を入れて行くということ、そして個人金融資産を「政府におんぶにだっこ」のローリスク、ローリターンのマネーから、自己責任でミドルリスクでミドルリターンのマネーに変えていくということです。

そうすることによって、日本郵政グループの再生も初めて成立するし、またそのようにカネが生きた形で投資されるようになれば、日本経済の立ち直りにも貢献ができるでしょう。実は、郵政民営化というのは、そのような主旨の改革であったはずなのですが徹底的に骨抜きにされ、その結果として危機を迎えているわけです。

これからの日本が進むべき道

そこをひっくり返すだけの力を増田氏が発揮できるのか、この人にとっては一世一代の大勝負になります。地方消滅も大変ですがこちらはもっと大変であり、日本が消滅するかどうかの真剣勝負です。その意味で危機を直視できるのであれば、この日本郵政の問題には希望があります。

反対に、増田氏が官僚機構の表と裏を駆使して危機を先送りするようであれば、それこそ日本経済は毒が全身に回ってしまうのではないでしょうか。

この2つのニュースが示しているのは、結局のところ安倍政権の7年間で「アベノミクス第三の矢」はほとんど放たれなかったということです。円安誘導による株高を演出することは確かにできていますし、北米市場に依存する体質の染み付いた日本の多国籍企業にはメリットはあったかもしれません。

ですが、国内の改革は遅れています。入試改革は説明不足で潰れてしまい、郵政民営化は骨抜きの中で危機が進行していました。気がつくと、優良な多国籍企業は研究開発、デザイン、マーケティングといった高付加価値労働はどんどん国外に流出させています。

そして、日本国内は世界の歴史の中でまれに見るような「巨大な高学歴集団」を擁しながら世界と言葉が通じず、また前世紀の古い仕事の仕方をしていることで、全くその能力が活用されずに低生産性にあえいでいます。更に言えば、かつては先進国、経済大国と言われた経済が観光業に依存するというスカスカ、ボロボロの状態になっているのです。

今強く感じるのは、それでも安倍政権が「一番マシ」という絶望的な状況です。教育改革も、郵政民営化も妨害したのは旧民主党勢力でした。また、現在取り沙汰されている自民党内の「反安倍」とか「ポスト安倍」と言われている人々は、安倍政権よりも「もっと守旧派」だったりするのです。

今年は東京五輪があり、イベント絡みの公共投資が一巡します。世界経済についても、もしかしたら踊り場か、あるいはマイナスのトレンドに陥るかもしれません。そんな中、とにかく改革を進めて、日本の持っている分厚い人材集団が21世紀の国際社会に何とか少しでも適応してその能力を発揮できるように、そして日本の個人金融資産がしっかりと未来へ向けて投資されて日本が再び先端分野での貢献ができるように、前へ進んでいって欲しい、心からそう思うのです。

image by:首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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