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どうなる今年のアカデミー賞。NYの映画通日本人が評価する作品は

映画ファン大注目の第92回アカデミー賞が、日本時間の2020年2月10日にいよいよ発表されます。2019年は数多くの傑作映画が公開され、熾烈な争い繰り広げられる中、つい先日、ノミネート作品が発表。「1917 命をかけた伝令」「ジョーカー」「アイリッシュマン」「フォードvsフェラーリ」「パラサイト 半地下の家族など、人気作品がその栄冠を目指します。様々なメディアが独自の予想を立てていますが、ニューヨーク在住で年間50回近く映画館に通っているという高橋克明さんもその一人。自身のメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の中で、独自でつけた映画ランキングベスト10を紹介しています。

個人的「オレ的アカデミー賞!2020」

ただの趣味なのですが。特に人に自慢できる趣味もない、そんな僕の唯一の趣味が、毎週末の「さみしい中年ひとり映画館通い」でして。映画評論家になれるほど、詳細に詳しいわけでもなく、ただ単に「好き」だということなのですが。割と多忙な生活の中、年間で50回近くは映画館に通っている、ということ、と、空き時間にはいつもDVDを観ているということ、から、1986年あたりから、その年に「日本で公開された劇場映画」のベスト10のランキングを自分なりに選んでいました。

妻に「、、、で、、、、どこでそれを発表するの? 」とバカにされながら。

「えー、、と、メルマガ」と苦し紛れで答えたので、ここで発表させてください。(それが結構、毎年、評判よく・笑 )映画評論家の方より見ている本数は少ないけれど、でも、ぶっちゃけ本音で語れます。本業の方は絶対に忖度の気持ちが出てくる。

リアルなベスト10より、「こっち選んだ方がセンスあるって思われるよなぁ」とか、「ピンとこなくても高評価で、オスカーに絡んでる作品だし、入れとこっかな」とか。本業でもない僕はそんな微調整を一切しなくていい。なので、独りよがりの勝手で本音なベスト10を選べます。

だからって、評論家でもない僕が選んだベスト10なので、そっくりそのまま「おすすめ」にはならないとも思っています。なぜなら完全に個人的に「好き」か「きらい」かで選んだベスト10だから、です。

作品のクオリティーで選んでいない。どんなに質の高い映画でも「好き」じゃないと選んでない。当たり前ですが。なんなら「面白かった」、「つまらなかった」でも選んでいません。

面白くても、どうも好きになれない作品もあるし、つまらなくても、みょ~に、また見たくなる作品も少なくない。映画好きならこの感覚、わかってもらえると思います。

。。。。。。じゃあ、この10作品。おすすめもできないなら、マジで、誰のために書いているんだろう(笑)

でも、その映画の伝えたいことを前提に、自分の考えを述べることができるので、そのあたりを「読みもの」として楽しんでいただけたら、嬉しいです。

偏見かもしれないけれど「好きな映画なに? 」と聞いて、その答えによって、なんとなく、その人の価値観がわかるような気もしなくはないのです。あくまで、偏った僕の見方ですが、もし好きな映画を訪ねて、メジャーでもない、誰も知らない、ヨーロッパの文芸映画をサラッと、でも、得意げに話すヤツと、あんまり友達になりたくないしね(笑)なんとなく。

女性に、好きな映画は? と尋ねた場合。

マーベルのコミックシリーズを大きな声で答える女性とは飲みに行っても楽しそうだし、だからと言って「スター・ウォーズ」シリーズのマニアックな内容まで話されたら、面倒くさそうだし、ファン・トリアーとかの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」あたりを答えられたら「闇あるのかな」と勘ぐっちゃいそうだし、直近のアカデミー受賞作品を答えられたら、流されやすく自分を持ってなさそうだなって思っちゃうし、タイトルも覚えてないのに「レオ様の出てたヤツ!」って答えられたらバカと思うし。でも、アニメオタクは意外と好きだったりします。わからない世界を教えてくれそうで(←めんどくせえなオレ)

男性に、好きな映画は? と尋ねた場合。

即決で「ターミネーター」!と答えるヤツとは、その場で友達になれそうだし(笑)でも、仕事は一緒にしたくないし。「ショーシャンクの空に」と答える人は日本だけで8億人いそうだし、「バットマン:ダークナイト」と答える人はネットの住人っぽいし(とんでもない偏見だなオレ)。たとえ偏見だとしても、男性で「プリティ・ウーマン」と答える人がいたら、、、ちょっとだけ、フリーズしちゃいそうな気もします。(いや、全然、悪くないんですよ、ぷりてぃうーまん)

どちらにしろ世の中に数えきれないほどある映画の中で、生涯の1本に「踊る大捜査線 THE MOVIE」と即答する人とは友達になれないです(言い切っちゃうけど)。

でも、映画ってあくまで私的な娯楽で、その人のその作品を見たときの状況にもよるから、たとえテレビドラマの劇場版だとしても、周囲がとやかく言っちゃダメなんだよね。それはわかってます。

なにより、今回の僕の「2019年劇場公開したベスト10」もくどいようですが、完全に私的なランキング。誰が見てもクオリティーが高い作品だとしても、好きになれないとランキングしていません。

おもしろくてもランク外の理由

例えば、日本でも話題になり、まちがいなく賞レースに絡むような「ジョーカー」も、「パラサイト半地下の住人」も、「アス」も、「ロケットマン」も、「女王陛下のお気に入り」も、実際に見て、文句なしに面白かったけど、「好き」にはなれなかったので、10位以内に入れませんでした。

ディズニー勢は、毎年、何本かランキングされるけど、今年は不作でした。実写版「アラジン」も、「トイ・ストーリー4」も、「アナと雪の女王2」も、面白かったけど、メッセージ性という点では物足りませんでした。

ただ、実写版「ライオン・キング」だけはいただけなかった。

あまりにもすごいデジタル映像だけに、あまりにもすごいデジタル映像だからこそ、リアルなライオンが英語をしゃべるのに、逆に安っぽさを感じました。策士、策に溺れる。

しかも、テーマ自体が「サークル・オブ・ライフ」だから、命を繋げるために、ほかの命をいただくシーンは一周回って「ソドムの市」。あれ、アニメだからいいんだよね。実写だと見てらんないよ(笑)エグすぎる。ある意味、18禁のディズニーです。

「ジョーカー」は文句なしに面白く、2回見に行きました。でもね。ちょっと手放しに「素晴らしい」とは思えなかった。

ホアキン・フェニッックスがジョーカーを演じるというニュースを聞いた時点で、すごい作品になるだろうとは思ったし、実際に見ると、その演技は、まちがいなくオスカーも獲るとは思います。ストーリー自体も感情移入できたし、見入ってしまったけれど、、、でも、史上最高、稀代の悪役、ジョーカーって、言ってみれば「底なしの怖さ」があるはずなんです。

ジョーカーの最大の特徴は、「理由なき悪」であるということ。得体の知れない怖さこそが、ジョーカーの真骨頂なはずでした。ホアキンの演技も素晴らしく、見ている間は引き込まれる瞬間があっても、でも、ふと、冷静にもなってしまう。結局、「中2病、じゃん、こいつ」と思わなくもない。ジョーカーになる過程に説得力がありすぎて、逆に、得体の知れなさ、がなくなった。

アホな理屈ですが、もし、ホアキン・ジョーカーと1対1のケンカになっても、なんなら、勝てそうに感じてしまう(笑)同情はできても、気味悪さはあっても、実物大の恐怖がない。

その点、「ダークナイト」のヒース・レジャー演じるジョーカーは強烈でした。

自身で命を断つほどのめり込んだ演技は見ているこちらに、「あ、本物のジョーカーがそこにいる」とアニメキャラを忘れるほど、そう思わせてくれました。ヒース・レジャーのジョーカーこそが、僕にとって(そして多くの映画ファンにとって)本物のジョーカーでした。

あれ以上はこの先も絶対にない。ジャック・ニコルソンのジョーカーも、ホアキン・フェニックスのジョーカーも、僕にはジョーカーではありませんでした。

韓国映画「パラサイト 半地下の家族」は、間違いなく今年のアカデミー賞外国語映画賞を獲るはずです。

こちら(北米)の劇場でも上映されていましたが、僕はたまたま東京出張中に東京の劇場に足を運び見ました。たぶん100点満点中、100点なのだと思います。まったく非の打ち所がなく、ポン・ジュノ監督の作品はいつだって、「どこかで見たことありそうな作品で、どこでも見たことない作品」。どんな映画通にでも先を読ませません。

ウエットだけれども、同情は買わない。おおげさに笑わせてくれるけど、雑ではない。ブラックコメディではあるけれど、安っぽいホラーにはならない。ちょっと、ゾッとするくらい完璧です。ここまで明確なメッセージ性を持った監督は、今の日本にはいない気がします。奥行きもあって、見ているこちらを飽きさせません。監督のほかの作品もそう。「母なる証明」しかり。「スノーピアサー」しかり。

でもね。なあんか、優等生すぎて好きにはなれない。社会派監督のこの作品に隠されたメッセージは、貧困であり、体制批判であり、格差社会批判であることも伝わります。カメラアングルまでが、それを伝えます。半地下で暮らす主人公たちと、寄生する裕福な家族をカメラは上下の動きで撮っていきます。うますぎる。

なぁんかね、その完璧なまでに計算されたカメラアングルまで、ちょい鼻につく。でも、誰が見ても絶対面白い作品ではあると思います。僕は好きではありませんでした。

ここまでランク外の作品をダラダラしゃべり続けましたが、個人的ランキング、トップ10をご紹介していきます。

個人的ランキングトップ10を発表

第10位 『ジョン・ウィック:パラベラム』

https://eiga.com/movie/90348/

シリーズ、すべて「もうめちゃくちゃやがな(笑)」と上映中、ツッコミながら楽しめます。シリーズ3作目。ガン・アクション・ミュージカルっていうジャンルを確立させました。(←勝手に言ってるけど)でも、アクションをここまでアートにまで持っていった作品はなかった気もします。

脚本は支離滅裂だけど、でも、映画って、要は、こーゆーのでいいんじゃねえのかな、と思わせてくれます。それにしても、キアヌ・リーブスは不思議な役者です。アジア圏での人気と、ここ北米での人気の質は違う。100%コケージョンじゃない彼は、本国では「王道の男前」というより、少しだけミステリアスに見えるのかもしれません。

第9位 『アド・アストラ』

http://www.foxmovies-jp.com/adastra/

映画評論家の方々のなかで、この作品をベスト10に入れる人は皆無じゃないでしょうか。実際、僕も上映中、何度も寝かけました。ジェニファー・グレイ監督は、これまでの作品も、なんというか、オリジナリティがないというか、特徴のない作品が多い。既視感のある映像。聞いたことあるようなメッセージ。ちょっと退屈に感じます。

多くの評論家が「地獄の黙示録」や「2001年宇宙の旅」や「インターステラー」と比較していますが、それら映画史に残る傑作と比較されても確かに分が悪い。舞台は近未来。宇宙の映像も綺麗で、リアルではあります。でも、それだけで2時間、観客の注意を引き付けられない。では、何が良くてランキングさせたのか。

ブラッド・ピットの演技、特に後半の演技に持ってかれました。おそらく今年のオスカー主演は「ジョーカー」のホアキン・フェニックスで決まりだと思います。でも、いかにもうまい演技をしているホアキンより、演技をしているようで、してないような、この作品のブラッドの方が僕的には好みです。ラストの主人公のセリフ。ベタではあるけれど、「だから、僕は映画を見続けてるんだなぁ」と思わされました。

第8位 『パピヨン』

http://www.transformer.co.jp/m/Papillon/

言わずとし知れた、あのスティーブ・マックイーンと、ダスティン・ホフマン主演、1973年の伝説映画「パピヨン」のリブートです。なので、ストーリーが面白くないわけがない。あと、今回の主役のチャーリー・ハナムのファンっていう個人的な理由もありますが8位にランクイン。

そりゃ、1973年のオリジナルを超えるのは無理だとしてもさ、それでも良くできていると思います。オリジナルに思い入れがありすぎて、ランクインさせた作品。古い映画は見る気がしない、という方は、このリブート作を見ても損はないと思います。

第7位 『天気の子』

https://tenkinoko.com/

まあああたく期待してなかっただけに、ヤラレました。僕個人は新海誠監督にまったく思い入れもなかっただけに余計ヤラレタ。恋愛モノだったらゲンナリだと思いつつ、結果、ニューヨークの劇場で見てよかったと思えました。

北米では「Weathering with you」というタイトルで公開されました。北米にも根強い新海誠フリークは多くいます。日本のアニメは完全に世界マーケット規模。で、「天気の子」は「君の名は」より数倍いいです。この作品に込められたメッセージは完全に世界に訴えるものだと思います。

でも、なにより、心に残ったのは映像。絵の力。細部にわたって描かれた「東京」は、確実に僕たちが行ったことのある「東京」。なんなら、実際の映像以上に、本物の「東京」。もっと言うなら、この作品で描かれた「東京」という街に一回、行ってみたくなりました。でも、全編、雨に打たれている、この「東京」は決してパッヒーエンドを期待させません。ベタな感想だけど、ここまで閉塞感を感じさせる日本を描いた作品はなかったのではないでしょうか。

第6位 『スパイダーマン:スパイダーバース』

https://bd-dvd.sonypictures.jp/spidermanintothespiderverse/

数多くある近年の「スパイダーマン」映画の中で最高傑作です。

サム・ライミ版が3本? アメージング版が2本だっけ? で、マーベルヒーロー版が2本。アベンジャーズシリーズを外しても、今作を入れて、8作あるスパイダーマン映画の中で、個人的ベストテン入りしたのは、今作だけ。従来のアニメ映画といより、紙のコミックをそのまま動かしたような新しい映像でした。(そのあたりの専門的なことはよくわかりません・笑)

で、メッセージ性という観念から見れば、実は「天気の子」以上です。「楽しませて、伝えたいことを伝える」というのは、ディズニーのお家芸ですが、そのディズニーを2019年のアカデミー賞では踏んづけちゃって叩き潰しちゃいました。アニメ映画史上の最高傑作だと思います。

第5位 『アイリッシュマン』

https://www.netflix.com/title/80175798

2020年、アカデミー作品賞、最有力候補、です。スコセッシ監督、デ・ニーロ、パチーノ、ペシ、主演。もう、映画業界のお祭りです。THE 映画。映画ファンのための映画。マフィア映画総決算。スコセッシ映画最高傑作です。ネットフリックス作品ですが、期間限定で劇場にかかり、贅沢空間を楽しみました。(ただ、俳優陣の若かりしころのシーンで、若い俳優を起用せず、そのまんまジジイたちをデジタル処理で若作りさせて出演させる意味はまったくわからなかったけど。あれ、おかしくない? )

後半は目が離せません。ぐっと来ます。監督も俳優も含め、この作品で長年のマフィア映画の「落とし前」をつけてくれた感じです。映画好きにはオススメします。そうでもない人には3時間半の上映時間は長いかも。

第4位 『クリード2 炎の宿敵』

http://wwws.warnerbros.co.jp/creed/index.html

ごめんね、「ロッキー」シリーズだから、無条件にベスト10入り(笑)このシリーズを語れ、と言われれば48時間あっても足りないので、全体的にハショります。

今作はシリーズのなかでも特に「ロッキー4」の続編と言えば、続編。「ロッキー4」なんて僕の人生のバイブルだから、この作品は語ることが多すぎて、語りつくせません。あのシーンも、あのシーンも、当時、瀬戸内海のど田舎でVHSを食い入るように見ていた中学生だったころの僕にリンクします。当時の自分の思いをすべて回収してくれました。

最後にひとことだけ。この映画のラストシーンは見事でした。考えうるなかで、最高のラスト。これ以上のラストはこの世に存在しません。キーワードは「タオル」。ドラゴは、35年経って、また負けて、で、35年経って、ある意味、勝ちました。ロッキー以上に勇気のある行為に、僕は号泣しました。(これ、シリーズ見てない人にはなんの話かさっぱりだな・笑)ちなみに、将来、娘が結婚相手を連れてきたら、その彼氏とふたりでシリーズ8作を(監禁して)見せるつもりです。男はそこからだ。

第3位 『ブラック・クランズマン』

https://bkm-movie.jp/

映画に決まりなんてないんだよ、スパイク・リー監督にそう言われているような映画でした。“ルールなし”の映画は衝撃でした。白人至上主義KKKの歴史は日本人には理解しがたいけれど、詳しくなくても映画は楽しめます。で、詳しくなったら、もっと楽しめます。この映画のおかげで、KKKの歴史を自分なりにめちゃくちゃ勉強しました(笑)忙しいくせに。

映画は1回見て、自分なりに考察して、過去の作品を参照にして、自分なりに勉強して、もう1回見ても鑑賞に耐えられる、というか2回目の方がずっと面白い。テレビドラマにはない楽しみ方を教えてくれた作品でした。東京で1回、ニューヨークで2回鑑賞。

事実を基にした人種差別映画としてはオスカーを獲得した「グリーン・ブック」と比較されがちですが、こっちの方がずっとスタイリッシュでワクワクします。説教臭さなし。多分、後年、もっと評価されるであろう作品です。

第2位 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

http://www.onceinhollywood.jp/

おそらく、この作品の存在自体を、日本人でいちばん最初に知ったのは僕かと思います(そんなわきゃねえか・笑)。

数年前、ニューヨークの某映画会社の役員と食事した際、「ここだけの話、まだRumor(噂話)の段階だけれど、タランティーノ監督で、レオナルド・ディカプリオと、ブラッド・ピットと、〇〇の3人が共演するかもしれないんだ」と耳打ちしてくれました。「うっそー、その3人の共演なんてありえないだろう」と話半分で聞いていました(当時は、もうひとり、レオとブラピに負けないビッグスターの名前も出ていました)。

で、そこから数ヶ月後、IMDB Proという業界向けの映画サイトで、写真もないテキストだけで、「タランティーノ作品で、レオとブラッドが共演か!」というニュースを見ました。で、そこから数週間後、IMDBの一般でニュースになり、そこからまた数週間後、日本の映画サイトで、このニュースが流れました。

その点からいっても思い入れのあった作品。劇場公開初日に観に行きました。翌週にも劇場に足を運び、東京は有楽町でも1回。出張時の機内上映を数に入れていいなら、合計4回鑑賞。

期待しまくって観に行ったけど、その期待を大きく上回るほどの作品でした。すべてのタランティーノ作品を見てきた僕の、「パルプ・フィクション」を超える、タランティーノ作品歴代ナンバー1です。

たぶん、この作品の評論は腐るほど、日本語のYouTubeでも出ていると思います。なので、世間で言われている概要・解説・考察はハショリます。

ただ、映画のラスト、「あぁ、タランティーノは物語の力を本当に信じているんだなぁ」と思うと、不覚にも泣きそうになりました。「史実? 知るか。オレのストーリーじゃあ、あくまで、こうなんだよ!」という「映画オタク」の矜持みたいなものも伝わってきました。

あと、やたら、ここ数年、みんなが口にする「伏線と回収」(笑)ってやつ? そんなものを期待して観たら、裏切られます。「自身の作品の中で、勝手にフラグを立てておいて、あとでその理由を説明する」ことに、いまさらカタルシスを感じられない。日本中が、この「伏線と回収」って言い始めたのは、「カメラを止めるな!」以降かな? 一次方程式のパズルを作中に散りばめられて、あとでそのピースをハメていくのが、そんなにすごいか? (笑)「世にも奇妙な物語」でもやってたぞ、そんなの。

実は、近年、この「伏線と回収」を最初に見事にやってのけたのは(僕の記憶が正しければ)それこそ94年の「パルプ・フィクション」。タランティーノ本人でした。で、この作品で、その張本人タランティーノは、そんなわっかりやすい「伏線と回収」は見せてくれません。そんなインスタントなカタルシスを期待してる観客を嘲笑うよう。足の裏フェチと公言する監督は、これまた観客を嘲笑うように、やたら女性の足の裏ばかりのシーンを差し込みます。

なんなら、実は、女性の脇毛フェチなんじゃねえか、と思わされるショットまで。どちらにしろ、監督自身が楽しみまくって撮ってるから、観ているこちらは楽しくないわけがない。人を選ぶ作品だとは思いますが、個人的には何度見ても飽きがこない、鑑賞に耐えられる作品です。

第1位 『フォード VS フェラーリ』

http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/

これぞ映画!だなと思います。成功、挫折、努力、友情、プライド、家族、勝負、愛、すべてがここにあると言っていい。これだから映画館通いはやめられない。人生のベストにも入る作品です。多分、アメリカ人も、そして、日本人もこの手のストーリーは好きだと思います。絶対に見て損はないと思います。2位の「ワンス~」を見た際、「あぁ、今年の1位は決まりだなぁ」と確信めいたモノがあった夏でした。それを秋に覆されるとは!

実は、この作品もアメリカの業界サイトで、数年前に「トム・クルーズとブラッド・ピットで映画化!」とニュースが流れた瞬間がありました。日本でも「Go Like Hell」というタイトルで書籍化され、僕も数年前にこの原作を日本語で読んでいました。

で、原作を読んだ段階で、元レーサーのカーデザイナー、キャロル・シェルビーを、トム・クルーズが、破天荒のイギリス人レーサーをブラッド・ピットが、演じることは想像できましたが、結果、それぞれを、マット・デイモンと、クリスチャン・ベイルで演じてよかったと思います。さすがにトムとブラッドだと年齢が行きすぎている。そして、本来、原作を読んだあとに映画を見ると、どうしても原作の方がよかったりするのですが、今回ばかりは、原作以上に映画の方が良かったです。

ただ、ラストは、、、、、、少し、ウエットになりすぎかなっ、て思いました。昔、角川映画の「汚れた英雄」という大ヒットした古い映画がありましたが、ラストのラスト、一行の字幕だけで、その後を説明するシーンがありました。映画自体を覚えていなくても、その手法だけは今でも覚えています。

これと同じように、さらっと、字幕だけで、その後のふたりを説明しても良かったのかなと思います。これ以上言っちゃうとネタバレになっちゃうからやめとくけど。どちらにしても万人にオススメの映画。

結局、僕は、「ここからどこかへ行く」話が好きなんだと思います。現状ではない、どこか。ジャンルは問いません。たとえば、ボクサーなら世界チャンピオンを目指す話。たとえば、弁護士なら、無罪を勝ち取る話。たとえば、シェフがミシュラン3つ星を獲得するまでの話。たとえば、囚人が自由を求めて脱獄する話。たとえば、猿と豚と河童が天竺にありがたいお経を取りに行く話。

映画が始まった状態と、終わったときの状態が、幸せか不幸せかより、行動して何かが変化している作品。ホラー映画や、恋愛ドラマや、ペット映画が苦手なわけではないのだれど、人生のベスト映画に、これらのジャンルが入らないのは、そういった理由からなんだなと思います。

あの、アメリカ大衆自動車会社、フォードが。あの、世界最高のブランド、フェラーリに。あのル・マンでの勝利を目指す。そっりゃあ、熱くならないわけがない。老若男女問わず、強く勧めます。

以上、映画評論家でもない僕の「2020年 個人的アカデミー賞」お付き合いいただきありがとうございました。

image by: Valeriya Zankovych / Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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