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ニューヨークで財布を拾ってもらうとどうなる?日本人社長の実話

日本は落とし物が見つかる国。私たち日本人にとっては当たり前のような感じがしますが、海外ではとても驚くことなんだそうです。ということは、日本人が海外で落とし物をしてしまうと、ほとんど戻ってこないという結果になりそうです。そんな落とし物にまつわる話をしてくれるが、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者でNY在住20年、『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さん。落とし物の常習犯でもある高橋さん、つい先日もニューヨークで財布を落としてしまったそうで、その驚きの顛末について語ってくれます。

善意に見るニューヨーカーの権利と義務

新年早々、またまたまたまた財布を落としました。もう病気です。どれだけ「なくしもの」常習犯かは、以前このメルマガでも書きました。家族、親戚、友人、社員、みんなが知っている僕の習慣、です(習慣?)。周知の事実。

厳密に診断してもらうと、多分、ナントカ注意欠落ナントカ症候群、とか、なんだと思います。つまりは病気だ。46年間の「落し物」総合計は、おそらく千葉の郊外あたりだとワンルームマンションを買えるほどの資産価値には匹敵するはずです。嫌になる。僕は僕以上に「落し物」をする人間を見たことがない。

ここまでくると、「なくしたことに気付かない」ことも珍しくありません。財布を届けてもらい、そこで「あ、なくしてたんだ!」って気付いたりする。

「物事に尋常じゃないくらい集中するから、ここまで来られたんだ。周囲が目に入らなくなるほど没頭しないと、何事も成し遂げられない!」…そう弁解すると。妻に「で?」。言いたいことはそれだけか。と被せるように潰されます。その言葉自体を。結婚指輪を結婚式の3日後になくされた彼女にしてみれば、生涯かけて許せない僕の癖(へき)です(癖?)。

機械式高級腕時計、指輪、アイフォーン、財布、名刺ケース、おそらく、すべて、各10個ずつくらいなくなっているはずです。だったら、もう「持ち歩くな」と言われそうですが、上記のすべてが、そもそも「持ち歩く用」に購入したものです。だったら、もう「所有するな(買うな)」と言われそうですが、毎回、毎回、「今回こそはなくさない!」と誓って購入したものばかりです。

40歳の誕生日に妻に買ってもらった100万円以上する高級腕時計を2カ月後になくした時は、そのままビルから飛び降りようかと思いました。ストラップで、もう首から下げたら?とよく言われるケータイは、ふとしたことで首から外し、首から下げること自体を忘れ、結局、なくす。ケータイショップのお姉さんに書類を確認されながら「あ、高橋さん、今回は半年、もちましたよ、がんばりましたねー」とか褒められるほど。

NYでの忘れ物はもはや日常?

最近では「アイフォーンなくした」と妻に報告すると、「撮った子供達の写真」がiCloudにちゃんと保存されているかだけを確認され、なくした事実には言及されなくなりました。怒られなくなりました。いろいろと諦められました。

旅先で購入して旅先で撮って旅先で落としたデジカメは、一体、何だったのか自分でも気持ちの中で消化できません。マイアミ、確かに行ったよな?おかげで写真1枚も手元に残ってないけど。

ちなみに傘は「なくしもの」にカウントされません。あんなもの「なくしもの」や「落とし物」の対象に入れられたら、100を超える。いくらあっても足りない。最初から「どこかに忘れていくもの」として、僕の中では存在します。なので、安物のビニール傘しか持たせてもらえません。

ある日、ビニール傘を持って仕事に出かけ、当然のごとくなくし、訪問先で「これ持って行ってください」と言われ、それもなくし、次の訪問先で「これ持っていきなよ」と言われ、それを繰り返し、結果、割と高級傘を自宅に持って帰ったことがありました。朝、100円のビニール傘を持って出かけた旦那が、高級傘を片手に帰宅したのを見た妻に、「しょっっぼい、わらしべ長者!」と言われました。

たとえば、新入社員。入社したての頃は、既存の社員がいろいろと研修します。電話の取り方からメモの取り方など、会社のさまざまな決まりごとを。その中には、もう何年も前から、当たり前のように「社長と食事に出かけたら」というマニュアルもあるみたいです。「いい?まず、テーブルの上。次に椅子。で、最後にテーブルの下を確認して。これは財布本体。冬なら手袋も常習。あとはクレジットカードを伝票に挟んだままじゃないか。上着を着てきているか。油断したらバッグごと店内に忘れるから」と僕の真横で、丁寧に説明をしているのを聞いたことがあります。

社員と一緒に隣町のニュージャージーに出かけた際、財布をなくしました。あ!落とした!とガックリと首を落とし、次の瞬間、普通に会話した僕を見て、社員の彼は、「財布を落として、おちこむ期間がここまで短期間な人、初めて見ました」と驚きを隠せない様子でした。「どれだけ日常なんですか!?」と。「もうちょっと、焦りましょう」とも言われました。

その夜、うちにごはんを食べにきた彼は、うちの奥さんに「すみません、僕がついていながら」と僕が財布を落としたことに対して、謝罪して、妻も妻で「しかたないけど、次からは気をつけてね」と、僕を挟んで二人で会話をしていました。目の前の僕はスルーされました。もう話してもしょうがない、というのが、周囲の見解みたいです。

いちばん大きな「忘れもの」は車。ウエストチェスターまで車で行って、当たり前のように電車で帰ってきました。駅の駐車場に駐車していた車をわざわざ横切って改札をくぐった。他のことを考えていたら愛車も目に入らない。いまのところ4歳の双子を忘れたことがないのは救いです。

NYで財布を落としても戻ってくる?

ダラダラと関係ないことを書きましたが、「落とし物」に関して、最近感じたニューヨーカーの特徴を書きたいと思います。

先日(も当たり前のように)財布を落としました。絶対2度と落し物はしない!と誓った日に、名刺ケースを落とした経験がある僕は、落し物をする、という前提で物事を進めることにしています。財布の中には、いつも英語で大きくメッセージを書いた紙をラミネートしてカード状にしたものを、いちばん目立つところに差し込んでいます。「この財布を拾った方は、1-917-XXX-XXXXまで、もしくはtakahashi@weeklybiz.usまで送ってください!」

落としてすぐに電話がかかってきました。「拾ったけれど、どうすればいい?」と男性の声でした。

実は、ニューヨークはたまたまかもしれませんが、ほぼ90%以上の割合で、財布が戻ってきます。ひょっとすると、東京以上に、落し物は僕の元に返ってきました。今までの経験上、落として、そのまま返ってこなかったケースの方が圧倒的に少なかった。

理由はわかりません。キリスト教圏の国だから、とか、欧米の人の方が善意がある、とかそれっぽい理屈を言うこともできますが、もちろん、たまたま、だとも思います。どうあれ、戻ってくる可能性が高く、そのことが更に、僕の落し物グセに拍車をかけているのかもしれません。(落し物がその後、どうなったかのデータだけは個人のくせに腐るほどある)。

そして、今回も電話がかかってきました。「いま、どこどこのカフェにいるから、取りにおいで」と。「ありがとおおお!!!!」と僕は電話を切り、場所を聞いたカフェにタクシーですぐに向かいました。窓際に座っている50歳くらいの黒人男性は、僕が入店したと同時に手を振ってきました。息急き切って入店してきたことと、財布の中には写真付きのIDも入っていたことから、すぐに僕だと気付いたようです。

とてもいい人そうな少し恰幅のいい彼は、どこに落ちていたかを笑顔で説明し、財布を渡してくれました。僕は何度もお礼を言って、財布の中から、20ドル札を1枚抜いて彼に渡しました。日本だと、いきなりハダカの現金を渡すことが失礼と思われる風潮があるかもしれませんが、こちらでは至って普通のこと。彼の当然の権利で、僕の当然の義務です。彼は、すっと当たり前のように受け取り、笑顔で僕たちは別れました。最後にもう一度お礼を言って。

それだけで終わらないのがNY

その日の夕方、編集部に電話がかかってきます。「社長あてですよ」と言われ代わると、その彼からでした。え?どうして、会社の電話番号を知ってるの?と一瞬、不思議に思いましたが、財布の中には予備の名刺も数枚入っているので、特に不思議のないこと。僕に電話する前に、会社に電話しようとしてくれたのかもしれません。僕は恩人に、さっきはありがとう、とまたお礼を言いました。

彼はにこやかな空気で「さっきのお礼なんだけど、財布の中には400ドル以上入ってたよね。20ドルだと安すぎないかな」と言ってきます。ほんの一瞬だけ、驚いたけれど、確かに5%は少ないかもしれない。僕もじっくり考えたわけでなく、自分の財布の中の所有金額もあやふやだったのと、ドタバタの流れの中の一瞬の出来事だったので、深くは考えず、20ドル札1枚だけを渡してしまった。確かにその際財布に入っていた金額が400ドルというのが確かなら、最低でももう20ドルは渡すべきでした。でも…わざわざ会社に電話してくるか…。

「ごめん!ごめん!いくら入っていたか覚えてなかったから、とっさに20ドルだけ渡しちゃった。もしよかったら、もっと渡すから、どこかに振り込もうか?」そう言う僕に、「いや、実はもう、おまえのオフィスの下まで来ている」と彼は当たり前のように言います。会社の電話番号がわかるなら、そりゃあ会社の所在地も把握している。

慌てて、ロビーまで降りた僕は、ロビーで一人待ってた彼に、プラスもう40ドルを渡しました。ごめんね、わざわざ来させて。じゃあ、これ、お礼…そう渡すと彼は20ドル札2枚を見て、ニヤリと笑い…「これだけ?」と聞いてきました。

これだけ? あ、いや、もちろん、拾ってもらって連絡くれて、すごく助かったけど、落とした額の15%は相場以上だと思うけれど。オッケー。助かったしね、じゃあもうプラス20ドル、と合計80ドルを渡しました。総額の20%。彼は、納得したのか、していないのか、微妙な顔をして帰っていきました。ただ、帰る前に、「このビルで働いてるんだぁ。また来るよ」と一言残して。また来るよ??

翌日、今度は僕のケータイに電話がかかってきます。「いろいろ考えたんだけど、お前の財布はBALLYだよな。本革だ。少なく見積もっても●●ドルくらいはするはずだ。それにクレジットカードも2枚入ってた。他にもカフェだのマッサージ店だのスタンプカードも。大切な子供たち…ツインズか?かわいいなぁ、彼らの写真も入っていた。その写真だって、おまえの元に戻ってきた。つまり、そのすべての総額で考えてもらわないと…80ドルだと少なすぎないか?」と。

さすがに、少しだけ怖くなってきました。いや、もちろん、彼は恩人。大切な財布を拾って届けてくれた人。でも、会社と自宅と個人の電話番号もメモって、会社にまで来て、謝礼の額が少ないと催促して、今度は、ケータイにまで電話してきて、子供の写真も確認したと言って、さら催促してくる…。なにか得体の知れない恐怖まで覚え、「財布を拾ってもらって感謝しているけど、80ドルは少なすぎるとは思わない。これ以上は払う気はない」ときっぱりと言いました。ちょっとした気味悪さも手伝い、自分でも驚くほど、はっきりと言い放ってました。

謝礼が幾らなら納得するのか?

彼は、少し声を荒げ「こっちには、もっともらう権利がある!!!!」と引きません。「だからこそ、80ドル渡したろ!そっちにもらう権利はあっても、これ以上払うこっちの義務はない!」と僕も譲りません。押し問答しながら、ふと振り返り思い出します。「あれ…彼、恩人だったよな…」そう、彼は恩人。財布を拾ってくれた本人。

少し、後半、流れがハリウッド映画にありがちなサスペンススリラーっぽくなったけど、もとはといえば、彼が落し物を拾ったとくれた善意の電話から始まりました。もし、彼が悪人であれば、拾った財布をそのままネコババできたはず。律儀で電話をくれ、わざわざカフェで10分以上待っていてくれた。絶対に、悪い人ではない。でも、権利は譲らない。お人好しでもない。

言い合いをしてるうちに、少しおかしくなって顔がニヤついてしまいます。あぁ、これがニューヨーカーなんだな、と。日本だとどうでしょうか。もちろん例外はあるにしても、どちらか、ではないでしょうか。

ネコババする人。もしくは、届けて、お礼を渡された時に、「いえいえいえ、とんでもないです。(人として)当たり前のことをしたまでですから。え?いいんですか?そんな、申し訳ない、当たり前のことをしたまでなのに、こんなお礼を頂くなんて。そうですか、では、はい、ありがとうございます(もしくは、最後まで受け取らないか)」と恐縮されるか。お礼が少なすぎる!と面と向かってはなかなか言いづらい風潮ではないでしょうか。

人として、ネコババなんてしない。ジーザスも見てるし、したら、地獄に行ってしまう。でも、もちろん当然のRight(権利)は主張させてもらう。勝手に彼をストーカーちっくに仕立てて、恐怖を感じていたのは僕のひとりよがりな想像で、よくよく、考えると、彼は何もおかしいことを言っていない。むしろ、人として、いちばん自然な考えかもしれない。

この自然な考えがなかなか日本人には難しい。ネコババするか、謝礼すら遠慮するか。そうじゃなくて、正しいのは、ネコババをせず、届け、謝礼をもらう。間違いなく、それが正解なはず。拾った財布から400ドルを抜いて、財布を捨てても誰にもバレなかっただろうし、今、ここで僕と電話で言い争いをする必要もなかった(笑)。

そう考えると、ちょっと憎めなくなり、「わかったよ(笑)…で、あといくら欲しいの?」そう聞く僕に、彼は、思い切ったように「……20ドル。合計100ドルはもらってもいいはずだ!!!!」と言います。

可愛いと思って笑いをこらえる。400ドルをポケットに入れなかった正直者に、「おっけー、20ドル、渡すから、またロビーに来てもらっていい?」と伝えました。「実は…いま、もう、いる」。

慌てて20ドル持って、ロビーに降りました。彼は納得したように上機嫌で帰っていきました。この一連の流れで、彼こそがニューヨーカーだと理解します。常識的におかしいのは、こっちの方だった、と。ただ、80ドルが安いとは思わないけどな!!!!

image by: 1000 Words / Shutterstock

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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