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新型肺炎の流行で世界が気づき始めた「チャイナリスク」の巨大さ

毎日数千人規模の勢いで罹患者数が増加するなど、感染速度の衰えを見せない新型肺炎。中国の工場では操業停止が相次いでおり、世界の製造現場の混乱も予想される事態となっています。しかしこの状況が、中国から撤退できずにいる外資企業にとっては好機になるとするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは今回、自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』にその理由を記すとともに、中国の軍事的脅威緩和の可能性についても言及しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年2月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】新型肺炎が世界にとって思わぬプラスとなる可能性

感染拡大が止まらない新型肺炎ですが、世界経済にも大きな悪影響が出始めています。中国国営メディアや一部の専門家は、2020年1~3月期の国内生産成長率が2ポイント減少する可能性を指摘し、また、中国経済にとって620億ドル(約6兆7,000億円)規模の打撃となるという見方もでています。

新型肺炎、中国経済に6兆円超の打撃か 景気下支えに減税や財政支出拡大も

オーストラリア国立大学のウォーウィック・マッキビン教授は、2003年のSARS流行が世界経済に与えた影響は400億ドル(約4兆3,600億円)だったが、新型肺炎ではその3~4倍にものぼる恐れがあると警告しました。

新型肺炎、世界経済への影響はSARSの3~4倍か-経済学者が試算

その影響は周辺国にも及んでいます。隣国ベトナムでは国境での取引が制限されているため、中国に輸出できなくなった果物が通常の半額で販売されるなど、農作物の価格下落が深刻化しています(「NHK NEWS WEB」2020年2月4日付)。

2020年2月4日のWHOの発表によれば、これまでに22カ国から中国とのあいだの移動や貿易の制限を始めたという報告を受けたといいます。また、WHOは、2月から3カ月の間に、新型コロナウイルスへの対応にかかるコストは、社会・経済的損失を除いても各国で合わせて6億7,500ドル(約740億円)にのぼるという見通しを示しました(「NHK NEWS WEB」2020年2月5日付)。

中国は2020年1月27日から海外を含むすべての団体ツアーおよび航空券とホテルのセット販売を禁止しました。また、1月24~30日の春節を2月2日まで延長するとし、上海市や重慶市、広東省、浙江省、江蘇省などの企業に対しては少なくとも2月10日まで休業するように指示、武漢市のある湖北省は少なくとも2月14日まで連休を続けると発表しています(「ブルームバーグ」2020年1月31日付)。

中国政府は国内の大型イベントを次々と中止し、ディズニーランドなど各地の遊興施設も相次いで休業を発表しています。

中国の株式市場は春節の延期にあわせて休業しましたが、2月3日に市場が再開されると売りが相次ぎ、一時は約8.7%という大幅下落となり、終値でも7.72%の下げとなりました。中国政府は金融の流動性の枯渇懸念から、1兆2,000億元(約18兆6,000億円)を市場に供給し、さらには証券会社の自己取引とファンドによる株式売却や空売りを禁止しましたが、それでも大幅下落を避けられませんでした。

日本を含め、各国は中国からの航空便の停止や、中国人の入国拒否といった対策を打ち出しました。アメリカではアメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空が相次ぎ3月~4月までの中国便の全便運休を発表し、その他、エア・カナダ、ブリティッシュ・エアウェイズ、ルフトハンザ航空、カタール航空なども中国便全便を少なくとも2月末以降まで停止すると表明しています。

日本の外務省によると、2020年1月末時点で62カ国以上が中国からの入国を制限しています。アメリカやシンガポール、オーストラリア、フィリピンなどは、14日以内に中国に滞在歴のある者を入国拒否、湖北省武漢から帰国した自国民は14日間隔離する決定を行い、日本や香港、韓国などは14日以内に湖北省に滞在歴がある外国人や湖北省居住者の入国、入境を拒否する決定を行っています。このように、中国を完全に切り離そうという動きが各国で進んでいるのです。

1月30日、WHOが新型肺炎について「緊急事態宣言」を出したことを受け、アメリカ政府は翌日に「公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、前述したような中国滞在外国人の入国禁止に加えて、中国全土への渡航禁止も勧告しました。また、中国に滞在するアメリカ人の退避勧告も検討しているとしました。これに対して中国は「思いやりがない」などと、感情的な批判を加えましたが、自国の感染拡大すら防げない中国にそのように言う資格はないでしょう。

2018年夏から、アメリカは中国との貿易戦争に突入していますが、アメリカ側の制裁を警戒して、ファーウェイなどの中国企業との取引を制限したり、中国本土から工場を移転したりする動きが加速していました。そこへこの新型肺炎です。各国はチャイナリスクの大きさに改めて気づかされることになったはずです。

トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など、日系自動車のすべてが中国工場の一時停止を余儀なくされ、ファーストリテイリングは武漢を中心とするユニクロの4割弱にあたる270店舗が休業、スターバックスは中国の店舗数の半分にあたる2,000店以上を一時閉鎖しました(「日経新聞」2020年2月5日付、他)。

とくに武漢は製造業が数多く集まっており、武漢に進出する日本企業199社のうち92社が製造業で占められるといいます(「ダイヤモンド・オンライン」2020年1月31日付)。

このように、日本を含む各国企業が中国での操業停止を余儀なくされたことにより、世界的なサプライチェーンにも大きな影響が出てくるでしょう。現代自動車は中国からの部品が滞ったことで、2月4日以降、韓国国内の3カ所にある全工場を順次停止することを決めました。

新型肺炎、中国から車部品供給が停滞 日本勢も懸念

中国メディアによれば、2017年の自動車部品の輸出は686億ドル(約7兆4,800億円)で、アメリカ向けが25%、日本10%、韓国5%、ドイツ5%になっているそうです(同)。

ジャスト・イン・タイム方式が普及している日本の製造現場では、部品の供給は毎日の納入時間まで指定されており、在庫を持たないシステムにその長所があります。中国からの部品供給が遅れたり、生産停止となると、組立工場の休業も避けられなくなる可能性があります。そのために、国内を含めて中国以外の地域からの調達先変更を検討する企業も増えてくるでしょう。

すでに米中貿易戦争で進んでいた各国の脱中国が、さらに加速していくことは避けられません。じっさい、アメリカのウィルバー・ロス商務長官は、新型肺炎がアメリカやメキシコへ雇用を戻すことを助けるだろうとの見解を明らかにしています。また、中国に7店舗を持つ日本の外食チェーン・ワタミも、中国からの撤退を決定したと報じられました。

改革開放以後、中国は外資を呼び込み急成長を遂げてきました。GDPでは日本を抜いて世界2位となり、北京や上海には摩天楼がそびえ立ち、世界中で中国富裕層がブランド物を爆買いする姿が見られるようになりました。

こうした表面の華やかさとは裏腹に、日本や台湾などから中国へ進出した企業は泣かされてきました。「世界一」が好きな中国は、工場設置にしても最先端の設備を要求し、最新の技術で製品をつくることを強要します。

日本企業などの中国進出について、中国当局の態度は熱烈歓迎でも、狙いは日本の資本やノウハウだけであるから、それらを盗み取られて、中国企業に市場を奪われるということが続いてきました。日本が新幹線の技術提供した中国高速鉄道などは、現在では「中国独自技術」と謳って世界中で販売していることはよく知られています。

こうした中国のあまりの酷いやり方に、撤退しようとしても、ペナルティや補償金額の多さに、それさえできない企業も少なくありません。中国には民事訴訟法231、別名「夜逃げ防止法」という法律があり、これは、外国企業が債務不履行や労働問題で民事訴訟を起こされた場合、責任者の出国が制限されるというものです。つまり、中国から撤退しようとしても、かつての中国人従業員から賃金不払いやセクハラ、不当労働行為などで訴えられたら、企業の責任者は中国から出国できなくなるわけです。

日本の多くの企業は、中国で失敗してもそれほど壊滅的打撃を受けるわけでもなく「高い授業料だと思えばいい」といった鷹揚さが逆に裏目に出てきました。自社の恥を外部に晒すことを嫌う日本の企業や経営者が、いかにも中国進出が成功しているかのように語るので、中国のほうも進出企業の8割は儲かっていると錯覚するのです。

また、中国の厄介な点は、政治や思想に関してはまったく開かれておらず、加えて、習近平政権は腐敗追及運動を展開していますが、賄賂政治はほとんど撲滅されていないことです。

中国には城管と呼ばれる街の監視員が見回る制度があり、無許可営業の露天商や駐車違反、違法建築などを取りしまっています。だが、城管が取り締まりの対象者に対して殴る蹴るの暴行を重ねる事件や、露骨に賄賂を要求する事態が頻発しており、社会問題にもなっています。

しかし、やればやるほど赤字が増え、撤退するといえば従業員全員の将来の退職金から補償まで払えといわれて、やめるにやめられない外資企業にとっては、新型肺炎騒動はチャンスになる可能性もあります。日本大使館や外務省の撤退勧告であるから堂々と撤退できるわけです。中国側も現地の駐在員を拘束することもできないでしょう。がんじがらめにされていた日本企業にとっては、またとない撤退のチャンスでもあるのです。

また、中国のGDPが約2%鈍化すれば、もちろん世界経済全体に大きな影響を与えますが、少なくとも中国経済の後退によって軍事予算が減少するので、中国の軍事的脅威はやや緩和されることになるでしょうし、医療衛生の改善など、中国人にとってもプラスになる面があると思われます。

image by: He jinghua / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年2月5日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。

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