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おもてなしと敬意は別物。日本とNZ、同じ島国でも大きく異るもの

その形状や国土面積から、日本との類似性が指摘されることもあるニュージーランド(NZ)。しかし実際に足を運んでみると、大きな違いも見えてくるようです。健康社会学者の河合薫さんは今回、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、NZを訪れる者に義務付けられている「約束事」を紹介。さらに、その「tiaki」という文化的価値観と日本の「おもてなし」の相違を考察しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年2月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

敬意とおもてなしの大きな違い

諸事情により6日(木)から11日(火)まで、ニュージーランドのクイーンズタウンに行っておりました。

世界各地飛んできましたが、ニュージーランドは初上陸!その場に行かないとわからない「その国の空気感」を満喫してきました。「ちょっと行ったくらいじゃ何もわからない」けど、「ちょっと行ったときに感じたこと」は、案外真の姿だったりするものです。

そこで今回は「裏返しメガネ」と「近況」をかねて、五感センサーをフル稼働させて触れまくった、ニュージーランド情報をお伝えします。

と、その前に。成田空港での異常事態からお話します。日々刻々と明らかになる「新型コロナウィルス情報」ですが、成田空港は大混乱になっていました。

とにかくチェックインに時間がかかる。通常だとどんなに混雑しても15分以上かかることがないのに、1時間半以上かかってしまったのです。理由はパスポートを確認するときに行われていた「渡航歴」の確認作業です。口頭で「数週間の渡航歴」を聞かれるのですが、中国系の人たちはその都度スタッフがパソコンで確認する担当の人のところに行って再確認する→再確認に時間がかかる→自動チェックインがメインになっているのでスタッフが少ない→流れない→時間がかかる…、といった悪循環です。夜遅い便だったにもかかわらず、ターミナルには人が溢れ、ほぼ全員がマスクをしているので、余計に異常さが際立ちました。

一方、オークランド国際空港では、入国審査の真正面の巨大なモニターに新型コロナウィルスのチェック体制について書かれ、4、5名のスタッフが対応。アジア系の人に積極的に声をかけるなどしていましたが、かなりスムーズで、日本を出る時のような緊張感はなし。マスクをしてる人もいませんでした。

といっても関心が低いわけではなく、空港に迎えにきたドライバーは「日本はクルーザーにたくさんの人が缶詰になってて大変だね(英語)」と聞いてきましたし、TVでも新情報が繰り返し報じられていました。ただ、オーストラリアの洪水の方が大々的に報じられていましたので新型コロナウィルスは、「海の向こうの話」なのかもしれません。

さて、そんなNZですが、とにもかくにも自然がすごい!表現は悪いですが「超大規模なディズニーランド」のようでした。そして、その夢のような大自然をささえているのが、tiaki promiseです。

飛行機に乗った途端、あちらこちらから“tiaki”の文字が飛び込んでくる。座席のモニター、機内雑誌、食事に付いてくバター、チーズ、そして、空港、ホテル、お店などなど、「ここでもかっ!」ってくらい、tiakiだらけです。やがて小文字で綴られたtiakiという文字に、心が魅かれていくのです。…ふむ。実に不思議な感覚です。

tiakiとは、マオリ語で「人と場所を守る」ことを意味し、tiaki promiseは現在から、未来の世代まで、ニュージーランドを守っていくという宣言のこと。NZに住む人だけではなく、旅行者にもそれを守る義務があるとしています。具体的には、

この3つの信条が「自然を守る、清潔を保つ、安全に運転する、きちんと準備する、敬意を払う」という5つのピストグラムで表現され、さまざまな商品にプリントされていました。

tiakiはキャンペーンでもなければ、上から押し付けられるものでもない。NZという国に根付く、文化的価値観です。

住む人たちが「自分たちは自然の一部」と考えている。「自然の中で生かしてもらっている」という価値観が刷り込まれている。それを旅行者に荒らされたくない、いや、荒らしてはいけないのだ、という気持ちが、tiakiの5つのピストグラムを作った。NZの自然が人にもたらす有形無形の豊かさを守るためのメッセージが、tiaki promiseなのです。

実際、街にはゴミが全く落ちてないし、トイレもきれいです。使う人が明らかに「きれいに使おう」と意識している事がよくわかります(女子トイレは顕著に出るので)。また、ホテルの部屋などに無駄なものがない。アメニティのすべてがエコ素材で、プラスティックがどこにもない。レストランにも調味料がほとんど置かれていません。

米国のナチュラル志向とは全く異なるし、レジ袋を有料にするだのしないだのでもめてる日本が、恥ずかしくなる徹底ぶりです。

さらに、NZの人々にはtiakiの「敬意を払う」姿勢が行き届いていました。

日本人の「おもてなし」とは全く違うのです。「ああ、これが敬意を払うということなのかも」と、とても勉強になりました。

つまり「おもてなし」がある意味、サービスする側の自己犠牲に成り立っているのに対し、「敬意を払う」にはサービスを受ける側も相手をリスペクトする気持ちが必要です。決して「お客様は神様」じゃないのです。

最前は尽くすけどお互いの状況を理解しあう。「みんなそれぞれ立場があるし、みんな違う」という前提が、互いのいい距離感を生み出していました。

つまるところ、敬意とは、優しさであり、心に余裕をもってつながること。「不便だけど、こんなもんだよ。人生おもろいね」と笑えるしなやかさが敬意なのかもしれません。

NZでは2017年10月に、女性のジャシンダ・アーダーン首相が世界で最も若い38歳で誕生しましたが、それもまさに「敬意」が生み出したリアルなんじゃないでしょうか。

昨年、クライストチャーチのモスク2カ所で計50人が犠牲になった銃乱射事件後に、アーダーン首相はすぐに記者会見を開き、

「They are us.彼ら(殺されたムスリム達)はわたしたち(ニュージーランド国民)だ」と、思いやりや共感、愛を持って対応することを主張し、銃規制と被害者への経済的な支援も公言しました。

翌日には、ムスリムリーダーたちを訪問し、ムスリムの人たちの声に耳を傾け、彼らの心に寄り添いました。一人の人間として、悲劇直後の影響を受けた人々の心に寄り添い、被害者の家族を抱きしめるアーダーン首相の姿を世界中の人々が目にすることで、ムスリムへの差別を阻止したのです。

まさに、tiaki promise。政治パフォーマンスが横行する欧米諸国とは違う若きリーダーの志の強さを、tiakiが支えたのです。

今、この原稿は11日(火)の朝、オークランド空港のカフェで書いているのですが、出発便の掲示板には、まだ搭乗口が決まっていない(搭乗開始まで時間のある)フライトに「relax」と書かれている。

「さぁ、みんな。ひと息つこうぜ!だってこんなに自然は美しい!私たちは自然に生かされている!のんびり行こうぜ!」とメッセージがrelaxに込められている。なんという心地よさでしょうか。

日本に帰ってからも、“relax”を忘れないように…ですね。

みなさまのご意見もお聞かせください。

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年2月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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