この新型ウイルス騒動で、北朝鮮の金正恩委員長が2月16日の父、金正日総書記の誕生日にあたり、金正日と金日成主席の遺体を安置した平壌の錦繍山太陽宮殿を参拝したが、金正恩の動静が伝えられたのは1月25日に旧正月の記念公演を観覧した翌日に報じられて以来の3週間ぶりであった。
例年ならば、金正日の誕生日には祝賀のための中央報告大会が開かれていたが、今年はなく、さらにはこの宮殿を参拝するときには大勢の党や軍幹部を引き連れてきていたが、今回公開された写真では、随行者は党の主要幹部18人に限られた。本来ならば旧正月の時に6年ぶりに現れた金慶姫や金与正、李雪主なども参拝させるべきであっただろうが、大勢が集まる行事に身内を参加させることを避けたのだろう。
北朝鮮は、隣国の中国でのコロナウイルスの感染拡大を受けて、早くに「国家非常防疫体系」への転換を宣言し、中国との国境を事実上、閉鎖するほど、国内への感染流入に神経を尖らせてきた。金正恩自身もそれまで見られた「現地指導」などの公の場での活動を最小限に抑えていたようだ。
北朝鮮の『労働新聞』は「公共の場所でマスクを着用しない一部の誤った行動」を批判する記事を掲載し、北朝鮮はこれまで新型肺炎の発症者はいないと主張しているが、果たして本当か。中国発の新型ウイルスによる発症者は中国との周辺国家ばかりでなく遠くヨーロッパやアメリカにも発症者が出ているのに、中国と国境を接している北朝鮮で発症者が1人もいないとはどういうことか。いち早く国境を封鎖し、感染流入を防いだというが信じられない。
北朝鮮が中朝国境を封鎖したのは1月30日あたりからと思われるが、北朝鮮は脱北者の中国からの送還も拒否しているとのことで、国境沿いでの密輸行為にも厳しく当たっているようだ。金正恩としては「我が国には感染者は1人もおりません」と中国の習近平主席に媚を売っているように見える。
また万が一、「現在3、4人の感染者がいます」などと言ったら、今度はいちいち国際社会に経過を報告しなければならない。しかし、「1人もいない。徹底した防疫体制をとっているのでこれからも発症者は出ない」と言っておけば、国際社会からあらぬ疑いもかけられないものの北朝鮮の発表は信じられない。もう少し経過を待つとするか。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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