中国に忖度なし。日本が学ぶべき、台湾の蔡総統「新型肺炎」対応

 

台湾人と中国人の衛生観念はまったく異なります。台湾は世界でも有数の医者の産地となっていますが、中国では儒教の影響で医者の地位は低く、現在でも患者による医者への暴力が横行していることは、このメルマガでも何度かお伝えしました。

台湾が今回の新型肺炎で徹底した衛生管理を行ったのは、2003年のSARS流行時に中国の嫌がらせでWHOからほとんど無視され、そのうえ中国政府が情報隠蔽をしたことによって、感染者346人、死者73人で、さらに感染疑いも含めると死者180人にも達する、多くの犠牲者を出したという記憶があるからです。

今回は3月3日時点で感染者42人、死者1人にとどまっています。

とはいえ、台湾人の衛生環境が最初から良好だったわけではありません。むしろ19世紀末まで「瘴癘」(伝染病)の地として、渡来人が住めない島でした。その頃の様子は「十去、六死、三留、一回頭」(10人行っても6人が死に、3人が留まり、1人が戻る)という諺が残っています。

そのような疫病がはびこる土地であったことは、中国の歴史書にも数多く書かれています。1697年、郁永河の『裨海紀遊』には、「瘴癘所積、人至即病、総戎王公命弁率百人戍下淡水(屏東)、才両月、無一人生還」(瘴癘がはびこり、人は死に至る、総戎王公は兵100人を率いて屏東に派遣するも、1カ月後には誰一人生還する者はいない)、1717年、陳文遠の『鳳山県志』には、「水土毒悪、歴任皆卒於官、甚至闔家一無生還者」(水土悪く、役人はすべて死に絶え、一家揃って帰ってこなかったこともある)などと書かれています。

こうした劣悪な環境を変えたのが、日本統治でした。日清戦争後の下関条約で台湾を永久割譲された日本は、すぐに基隆病院を設置し、医師や看護婦を送り込みました。とくに4代目の台湾総督・児玉源太郎の時代に民政長官となった後藤新平は、医者でもあったために、とくに衛生を重視した施策を行い、医学校の設立や医師免許の制定を行い、台湾医療の近代化と制度化を推し進めました。

また、亜熱帯地域特有のスコールの多い気候を考えて、市街地の建物に「亭仔脚」(廊下)を設けたのも後藤新平です。現在も台湾の都市部の建物の下には、雨に濡れずに歩けるアーケードがありますが、もともと後藤新平が導入したものなのです。

このように日本によって台湾の衛生環境が整えられ、同時に台湾人に衛生観念が植え付けられたことで、台湾はわずか日本統治50年で「瘴癘の島」から近代国家へと大変貌したのです。

台湾は世界一の医者の「産地」としても有名です。戦後日本の無医村には多くの台湾人医師が出向きましたし、戦前の満州国でも医師といえば台湾人が主役でした。

私の友人で、アメリカに渡り大学教授を長年務め、定年後に台湾に帰国した人がいますが、彼の話を聞くと、アメリカ政府から退職金をもらい、老後は台湾で生活するというパターンが最高だと思います。

というのも、台湾は医療費が非常に安いだけでなく、世界超一流の医療制度があるからです。ビジネスのため中国で暮らす台湾人も、病気になると必ず台湾に戻ってきます。それは中国の医療制度とは比べものにならないほど台湾のそれは素晴らしいからです。

2014年の夏、私は台湾の野党議員(当時)と一緒に、ポーランドのワルシャワから約3時間離れた医学校へ実地調査に行ったことがあります。ポーランドの医学校では、ロシア語ではなく英語で講義していました。

ポーランドの医学校では約600人もの台湾人が卒業していますが、台湾では、彼ら留学生に医師免許を出すかどうかで国会でも賛否両論が渦巻いています。とくに台湾の医学校出身者からすると、「台湾の医学校に入れないから海外に留学した落ちこぼれ」ということになり、彼らは医師免許の交付に大反対しています。

中国での漢方医の教育はたいてい7カ月程度であり、西洋医とは大きな差があります。

台湾の言語学者にして台湾独立運動の創始者、明治大学教授なども歴任した王育徳氏は、著作『台湾─苦悶するその歴史』で、台湾経営における日本の貢献に関して「衛生」という項目をはじめて評価すべき点として加えています。

その後、1997年に台湾で新しい歴史教科書として採用された『認識台湾』(歴史編・社会編)では、王育徳教授の説を忠実に受け継ぎ、大日本帝国の貴重な遺産として、「衛生」的貢献を記述、評価するようになりました。

台湾の衛生医療が進んでいるのは、日本時代があってこそです。これまでも述べてきたように、アジアのみならず世界の疫病の発生地となってきたのは中国ですが、20世紀以降、その疫病を治療、感染防止により収束させてきたのは日本だったのです。

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