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スーパーチューズデーに躍進のバイデンはトランプに勝てるのか?

米大統領選挙の民主党候補者を決めるための予備選は、3日のスーパーチューズデーを終えてバイデン氏が躍進。これまでリードしてきたサンダース氏を逆転しました。票を伸ばせなかった候補者の撤退が相次ぎ、一騎打ちの様相となったこの予備選の行方と、その後の大統領選の展望を各紙はどう伝えたのでしょうか?ジャーナリストの内田誠さんが、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、詳しく解説します。

バイデン氏とサンダース氏

【プロフィール】

■「穏健派」対「革新派」■《朝日》
■「中道派」対「急進左派」■《読売》
■「穏健派」対「急進左派」■《毎日》
■「中道派」対「左派」■《東京》

「穏健派」対「革新派」

【朝日】は1面トップに2面は大統領選特集、8面に関連記事。見出しから。

(1面) バイデン氏復活 9州制す
サンダース氏と一騎打ちへ
ブルームバーグ氏 撤退表明

(2面) 穏健・革新対決 鮮明に
危機意識が生んだ一本化
バイデン氏ならトランプ氏に勝てる
支持層2分 長期戦か
本選 70代の争い

(8面)
劣勢2氏 立て直せず
民主党候補者選び 票の集中焦点
撤退 バイデン氏支持へ
穏健派ブルームバーグ氏
トップランナーから失速
革新派ウォーレン氏
「革命が必要」サンダース氏に
「秩序取り戻して」バイデン氏

uttiiの眼

《朝日》は、バイデン氏を「穏健派」、サンダース氏を「革新派」と呼ぶ。《読売》は「中道派」と「急進左派」、《毎日》は「穏健派」と「急進左派」、《東京》は「中道派」と「左派」となっていて、それぞれ微妙に違う。少なくともきょうの時点での呼称はこのようになっているのだが、この間、呼び方に変化あるいは揺らぎがあったかについては詳らかにしない。それぞれの呼び方を選ぶ根拠もありそうだが、敢えて深入りしない。ただ、「穏健派」というのは如何なものだろうか。

各紙、復活したバイデン氏とこれまで首位を保ってきていたサンダース氏の一騎打ちと報じる点で違いはなく、両派の対立、あるいは「溝」は一層深まるだろうと推測していて、《朝日》も「穏健・革新対決 鮮明に」と2面記事の見出しに大書している。

ユニークな論点が2面記事最後段に見えている。見出しは「本選70代の争い確実」というもの。民主党候補がバイデンになろうがサンダースであろうが、いずれも70代。共和党候補はトランプ氏で決まりだろうから、やはり70代。共和と民主、どちらが勝っても新大統領は70代の白人男性ということになる。

「若者や女性、黒人やヒスパニック、アジア系らを含めた多様な候補者の中から、高齢の白人が残ったのは、「トランプ氏に勝ちたい」という民主党支持者の考え方が影響しているとも言われる」のだそうで、昨年の世論調査で次の大統領候補としては「中年以上の白人男性」が適しているという回答が多かったのだという。

候補者が高齢の白人男性になったことと世論調査の結果との連関は今ひとつうまく読み取れないが、《朝日》の指摘の中で間違いなく当たっていると思われるのは、「本選に向け、健康不安などが焦点となる可能性もある」という部分。おそらくは候補者中最高齢で、いくつか具体的な健康に関する不安材料が公になったサンダース氏のことを指しているのだろう。

「中道派」対「急進左派」

【読売】は1面上段中央に本記。3面の解説記事「スキャナー」と社説、6面と7面に関連記事。見出しから。

(1面)
バイデン氏 躍進
サンダース氏と一騎打ち
民主予備選

(3面)
中道結集 バイデン支持
「急進左派」サンダース氏を警戒
スーパーチューズデー
国民皆保険47兆ドル、大学無償化2兆ドル…
財源 富裕層に増税
左派と中道の溝は埋まるのか(社説)

(6面)
支持基盤 手堅く
サンダース氏 若者、ヒスパニック
バイデン氏 中高年、黒人
ブルームバーグ氏 撤退

(7面)
民主対立 トランプ氏に利
社会主義イメージ植え付け
支持者も対抗意識
「中道派にうんざり」■「主張極端だ」
代議員 得票率で比例配分
「大本命」不在時に長期化も

uttiiの眼

《読売》は「中道派」対「急進左派」。急進左派に対する警戒感から、撤退するブティジェッジ氏とクロブシャー氏がバイデン氏支持を表明して「中道結集」がなったことで、でバイデン氏が復活したという筋を強調。

記事にはサンダース氏の公約がいかに過激なものであるか、わざわざ図表のすぐ近くに欄を設けている。そこには見出しとして「国民皆保険47兆ドル、大学無償化2兆ドル…」と「財源 富裕層に増税」とある。記事を読むと、47兆ドルは10年間での話、他に温暖化対策に16兆3000億ドル、そして大学無償化と学生ローンの債務免除に2兆2000億ドル、ホームレスをなくすための住宅供与に2兆5000億ドル拠出するといっているらしい。財源は金融取引への課税や日本円で34億円以上の家計資産への課税などだが、民主党の他候補からは「計算が合わない」とか「中産階級も増税のあおりを食う」などと批判され、米国が債務危機に陥るとの指摘もあるという。国債発行のことを言っているのだろう。

確かに「べらぼう」と思えるような計画が並んでいるようだが、こうした「急進左派」の主張を一番警戒しているのは、米国の中道派ではなく、《読売》なのではないかと思いたくなるような書きぶりになっている。

因みに、社説は、サンダース氏が国民の既成政治への怒りや将来の不安に訴えかける点で4年前のトランプ氏が白人労働者層を支持基盤に据えたのと酷似していること、そしてサンダース氏が「妥協を拒み、政敵への個人攻撃を繰り返す姿勢まで同じなのは評価できない」と言っている。サンダースは「赤いトランプ」ということか。

「穏健派」対「急進左派」

【毎日】は1面上段中央に本記(大統領選特集)、7面に関連記事とミニ論点。見出しから。

(1面)
バイデン氏首位
民主予備選 スーパーチューズデー
代議員数 サンダース氏を逆転

(7面)
トランプ氏、候補者挑発
民主の結束不足強調
次の脱落者が鍵
「勝てる候補」選択

uttiiの眼

《毎日》は「穏健派」対「急進左派」と呼んでいる。3面記事では最後段で、「急進左派」のサンダース氏の票が伸びなかったことについて分析している。サンダース陣営は大票田のカリフォルニア州で総取りを目指し、州内22カ所に選挙事務所を置くなど、膨大な資源を注ぎ込んで闘ったという。事前の予想でもサンダース氏が圧勝するとみられていたが、実際は3割台しか取れず、総取りは無理な状況に。「民主的社会主義」を掲げるサンダース氏に対して、年齢層の高い有権者に拒絶反応が強く、また黒人有権者の支持も弱いため、「多様な民主党の支持層が支える候補としては疑問符が付いている」と引導を渡している。

7面の「ミニ論点」では2人の識者の話を聞いている。津田塾大教授の西川賢氏は、サンダース氏とバイデン氏は互角だとみていて、次に撤退するのが誰になるかが重要と言っているのだが、インタビューの時点ではまだブルームバーグ氏撤退の情報が入っていなかったのだろう。「ウォーレン氏が撤退した場合、サンダース氏が左派の支持を集め、勢いが増すことも考えられる。一方、ブルームバーグ氏が先に音を上げれば、バイデン氏がさらに有利になる」と言っている。実際、ブルームバーグ氏は「バイデン支持」を表明しながら撤退したので、西川氏の論法で言えば、バイデン氏が有利になったということになりそうだ。

トランプ氏はサンダース氏には「本物の支持者がついている」と語ったことがあった。確かに、中道結集によってバイデン支持に変わった人々は「本当の支持者」ではなく、極端な場合、「鼻を摘まんで」バイデン氏に投票する人たちだ。ただ、鼻を摘まもうが片手間だろうが、投票は投票。問題は、バイデン氏が候補になった時に、サンダース氏の支持者が投票に行ってくれるのかどうかということだろう。サンダース支持者がバイデンに投票するのは大変なことで、そのためにはガスマスクでも付けなければならないだろう。この種の懸念は、サンダース氏が候補者となっても、同じだが…。

「中道派」対「左派」

【東京】は1面下段に本記。関連は2面の解説記事「核心」と9面に。見出しから。

(1面)
バイデン氏9州確実
サンダース氏は4州
スーパーチューズデー
ブルームバーグ氏撤退

(2面)
2強集約
バイデン氏 復活 一本化奏功
サンダース氏 堅調 勢いは維持
接戦、溝深まる恐れ

(9面)
14州 勝利なき2陣営落胆
ブルームバーグ氏 出馬遅れ 伸び悩み
ウォーレン氏 左派路線、人気埋没
「回帰」と「革命」 揺れる民主

uttiiの眼

《東京》は「中道派」対「左派」。9面記事ではブルームバーグ氏とウォーレン氏の動きについて書いている。ブルームバーグ氏はスーパーチューズデーから参戦するという異例の「出遅れ出馬」が響き、結局スーパーチューズデーで1州も取ることができず、早くも撤退を余儀なくされてしまった。ウォーレン氏の方は、「民主党内の「左派路線」でサンダース氏の人気に埋没している」との指摘があり、「政策が明確で財源も説明できるが、サンダース氏やトランプ氏のようなカルト的人気がない」という。ただ、撤退を踏みとどまっているのは、サンダース氏の健康不安があるからだという。サンダース氏は昨秋、心臓のステント手術を受けている。

7面記事には識者へのインタビューが掲載されている。南山大の山岸敬和教授は、米民主党は「回帰」と「革命」の狭間で揺れていて、このままではトランプ大統領に勝てないだろうとハッキリ言っている。バイデン氏はトランプ政権への怒りを掬い上げ、オバマ時代への「回帰」を訴える。他方サンダース氏は経済格差の拡大など、より構造的な問題を取り上げ、党主流派がこれまで慎重だった国民皆保険や公立大学の無償化などの「革命」的な施策を実行すべきだという。

本選で民主党が勝つためには、「回帰」と「革命」を巧みに結びつけ、「党支持者全体を熱狂させ投票に向かわせる必要がある」という。残念ながら、可能性があるとは思えないが…。

image by: lev radin / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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