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全てチグハグ。新型コロナ対策で露呈した首相「側近政治」の弊害

新型コロナウイルス対策を巡っては、その全てが後手に回り、場当たりの感すら漂う安倍首相の決断。隣国の台湾が次々と有効な対策を打ち出し感染拡大防止に大きな効果を上げていますが、なぜ我が国はこのような状況となっているのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その原因を探っています。

ちぐはぐな新型コロナ対策は側近政治の弊害か

時節柄、みんなうちそろって、家でゴロゴロしておれば、そのうち新型コロナウイルスとやらも退散してくれそうなものだが、人間、食っていくには、籠ってばかりもいられない。

防疫と経済をどう折り合いつけて、国を航路上に保っていくかは、船頭である安倍首相の舵さばきしだい。とはいえ、水際作戦の失敗といい、唐突な“学校閉鎖”といい、やることなすことがチグハグなところを見ると、この濃霧のなかをくぐりぬけて、東京オリンピックにたどりつくにはもはや、奇跡を祈るしかなさそうである。

時は令和2年2月28日の夜。東京は永田町のど真ん中、安倍首相の公邸に当世の流行作家、百田尚樹氏と、売り出し中の右派論客、有本香氏のご両人が招き入れられた。夕食をともにするためである。

気が合う二人との会食とはいえ、よりによって、国民に痛みを強いるイベントの中止や学校の臨時休校を、一国の首相が粛然と呼びかける前夜のこと。よほど深いワケがあるのではないかと、記者たちが色めき立つのも無理はない。

なにしろ、百田氏は安倍首相をして「有名になられる前から私は百田さんの作品の愛読者」といわしめた作家だ。その人が昨今、ツイッター上で安倍政権に手厳しい意見を吐いている。

「鳩山由紀夫・菅直人以上に無能な首相」。これは、安倍首相には骨身にこたえる言いぐさである。なにかといえば民主党政権を持ち出して、安倍政権の良さをアピールしたがるオコチャマ宰相なのだから。

そして同じ日に百田氏は「今後1ヵ月、中国と韓国からの入国を全面禁止」とツイートした。

そのころ、右派の政治家や論客の間で、習近平氏を国賓として日本に招くのはケシカラン、という空気がいちだんと広がり、安倍首相への風当たりが強くなっていた。安倍首相はネットで褒めそやしてくれる応援団の声を楽しみにし、心の支えにしているフシがある。とりわけ、百田氏や有本氏のような影響力がある著名人はお宝だ。

もちろんツイッターのうえではあっても、安倍首相につれない素振りをする百田氏には、それなりの計算がなかったとはいえまい。糸を引いたところに食らいついてきた一国の宰相の居城に乗り込んで、特別なもてなしを受けた百田氏らは満足度100%だったようだ。

<2月29日の百田氏ツイート>

言うべきことは言ったというのだから、「中国と韓国からの入国を全面禁止」という主張も当然、伝えたに違いない。

安倍首相が、なぜか市中感染が広がっている今ごろになって、中国と韓国からの入国者を2週間にわたり指定場所に足止めさせる水際対策を表明したのは、習近平国家首席の国賓来日の延期が発表された3月5日のことだった。

その3日前のツイッターに、百田氏はこう投稿した。

まさか、百田氏の言うことをそのまま実行したわけではないだろうが、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の意見も聞いていないらしく、ほぼ安倍首相の独断専行だったのは確かなようである。

支離滅裂ながら思いつくかぎりの手を打ち、実行力あるリーダー像を自己演出したつもりでも、巷の意見は「遅すぎる」のオンパレードだ。

もはや水際作戦の段階は終わったと、百田氏ならずとも思うだろう。だが内閣支持率の急落で、安倍首相は失地回復に焦っている。それが、このところの政策判断にあらわれているのかもしれない。とくに“学校閉鎖”のもたらす市民生活への影響は甚大だ。

事実、“学校閉鎖”に科学的根拠がないことは、3月10日の参院予算委公聴会で、公述人の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長、上昌弘・医療ガバナンス研究所理事長がそろって認めている。専門家会議のメンバーでもある尾身氏は「安倍首相のなんとかしたい気持ちは理解できる」と、配慮をにじませた。

専門家の意見を聞こうとしない側近政治は、肝心なところでボロを出す。そういえば、なんと安倍首相がイベントの開催自粛を要請したその日に、地元仙台市内で政治資金パーティーを開いた総理補佐官がいた。

その補佐官、名前は秋葉賢也というが、本人はこう開き直る。「危機管理をしていく立場にいますのでね、延期も検討したが、東北は6県とも感染者が出ていない。感染者がいる東京と違うんですよ」。日本列島にウイルスの“関所”があるわけでもあるまいに、よくぞ、たわけたことが言えるもんだ。

こういう人物がこの国の「危機管理」を、総理側近として担っているというのだから、たまったもんじゃない。

人物鑑識眼の乏しさか、お友達優遇か、つまるところ自業自得とはいえ、安倍首相はなんとも能天気な側近に囲まれて、頭の整理がつかないことだろう。

海外出張するたびに女性官僚を高級ホテルのコネクティングルームにはべらせていた和泉洋人総理補佐官なども、国会やメディアの追及から逃げまくるのに躍起で、とても的確な判断ができる状態ではなさそうだ。

なにはともあれ、専門家会議が新型コロナ流行の長期化見通しを表明した以上、延々と「自粛、自粛」で経済を犠牲にするわけにもいかない。どこかの時点で安倍官邸も頭の切り替えをする必要が出てこよう。そうなると、いま安倍首相が全力で取り組むべきは、医療体制の確立だ。

いま、この感染症の受け入れが可能なベッド数は全国で5,000ていどだといわれるが、これでは甚だ心もとない。人工呼吸器の数が足りるかどうかも不安があり、厚労省は2月5日付で、感染症指定医療機関と結核指定医療機関を対象に人工呼吸器の保有数などを調査するよう各都道府県に指示している。

感染爆発状態で死亡者数が半端じゃないイタリアでは、引退した医師の現場復帰を呼びかけて、医療従事者不足を補おうとしているらしい。重い患者に必要な人工呼吸器が足りず、もはや医療崩壊に近いのではと推測されるが、むろんそれはヨソゴトにあらず。

よほど病院側が用心してかからないと、潜在感染者から医師や看護婦がウイルスを移され、院内感染が広がって、一定期間、その病院の診療がストップする。そんな病院が増えていけば、ことは新型コロナだけの問題ではなく、国の医療そのものの崩壊につながりかねない。

福島第一原発事故は「東日本壊滅」を招きかねないほど「国家存亡の危機」だったが、元福井地裁裁判長、樋口英明氏が語る「二つの奇跡」により免れた。

たまさかの工事の遅れと設備のズレで4号機プールに水が流れ込んだこと。2号機の原子炉の欠陥部分から蒸気がもれ、圧力が逃げたこと。本来ならマイナスである二つの偶然が、奇跡的にプラスに働いたのであった。

安倍政権の後手後手としか思えない対策逐次投入が劇的な効果をもたらし、特効薬も見つかって全世界の感染拡大が終息、ぎりぎりで東京オリンピックの開催にこぎつけるという奇跡がこの日本で再び起こってほしいものだが、奇跡はたびたび起こらないから奇跡なのである。

安倍政権は“反知性主義”と言われてきた独特の見せかけ政治から脱し、最悪のケースも想定したうえ、お友達の進言よりも、科学的知見に基づく危機対応政策を打っていくべきであろう。

image by: 首相官邸

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