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大人スイーツ「バスク風チーズケーキ」が日本で大ヒットした理由

これまでになかった食感が大受けし一大ブームとなっている、バスク風チーズケーキ。ポストタピオカ間違いなしとも言われる欧州生まれのこのスイーツ、なぜここまでの人気を博すに至ったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんは今回、その火付け役となったローソンの取り組みを詳細に記すとともに、バスク風チーズケーキのルーツや日本におけるパイオニア、さらに国内の名店等を紹介しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

コンビニで燃えるバスク風チーズケーキ戦争

昨年ブームとなり、今年に入ってさらに人気が加速しているのが、「バスク風チーズケーキ」という商品だ。今やスイーツ部門の人気度では、ポストタピオカの有力候補筆頭と言えるだろう。

この代表的な商品が、「ローソン」から発売されている「バスチー」。この「バスチー」は昨年、10ヶ月足らずでなんと3,600万個を売る爆発的ヒットとなり、バスク風チーズケーキは世に知られるようになった。

ローソン バスチー

追従した競合のコンビニ「セブン‐イレブン」や「ミニストップ」でも、バスク風チーズケーキはスイーツで最も売れている商品の1つである。

セブン-イレブン バスクチーズケーキ

ミニストップ バスク風チーズケーキ

今ではスーパーでも、「イオン」系列の店舗をはじめ、高級スーパーの「成城石井」や「紀ノ国屋」で類似の商品が広く販売され、「銀座コージーコーナー」のような伝統ある洋菓子店でも売り出した。

紀ノ国屋のバスク風チーズケーキ

外食では、ファミレス「ココス」、回転寿司「スシロー」(現在は販売終了)、イタリアンカフェチェーン「セガフレード・ザネッティ」、居酒屋チェーン「くいもの屋 わん」の他、市中のスペイン料理店やカフェなどで提供されている。

セガフレード・ザネッティのバスク風チーズケーキ

また、バスク風チーズケーキ風味の菓子パン、プリン、アイスなども各メーカーから発売され、「ミニストップ」では店内調理でソフトクリームを販売と、関連商品にまで広がってきている。

「Yahoo!検索大賞2019」で、「ローソン バスチー」はプロダクトカテゴリーにて、スイーツ部門賞を受賞している。

一昨年は北海道のチーズケーキ「赤いサイロ」がスイーツ部門賞、「ルタオチーズケーキ」がお取り寄せ部門賞(2年連続)を受賞しており、近年の流れとしてチーズケーキ全般に関心が高まっている。

バスク風チーズケーキはいかにして日本に上陸したのか。その魅力はどこにあるのかを探ってみた。

ローソンがPB(プライベートブランド)「ウチカフェ」から、2019年3月に発売した「バスチー」は発売3日で100万個を突破。同社のスイーツ史上最速のペースで売れており、同年12月末までに、シリーズで3,600万個を販売した。

同社としては、2009年の発売5日で100万個を売った「プレミアムロールケーキ」以来にしてそれを超える、久々の大型のヒットとなった。なお、「プレミアムロールケーキ」は今では当たり前になった、コンビニスイーツというジャンルを確立させた記念碑的な商品である。

同社では18年より、スイーツ専門店でバスク風チーズケーキが人気になっていることに注目。実際に開発スタッフが、購入して食べたところ、今までのチーズケーキにない新食感の商品であると確信。

「ベイクドなのに中は滑らかで濃厚なチーズケーキ」というイメージを持って、本場のスペインとフランス、バスク地方を訪ねて食べ歩き、開発に活かした。

北海道産の生クリームやクリームチーズ、牛乳を主たる原料とし、何度も試作を繰り返して、焼き色がしっかり付き、なめらかな食感に仕上がる直火焼の製法に到達、発売にいたった。「バスチー」は1個1個のサイズが小さく、火の入れ方を工夫しないと焼き過ぎて風味を損なってしまう。そこが最も調整が難しいポイントであった。

製造は山崎製パンをはじめ、数社のメーカーが同じレシピでつくっている。表面と底辺にかかっている焦がしカラメルが、アクセントとなっている。

ローソンは昨年から、“新感覚スイーツ”と称して、「とろ~り」、「ぷるるん」など、毎日でもスイーツを楽しみたい甘党の人向けに、新食感のスイーツの開発に、継続的に取り組んできた。“新感覚スイーツ”はこれまで30品目ほどを出して、どら焼「どらもっち」シリーズが発売3ヶ月で約600万個、バターサンドクッキー「サクバタ」シリーズが発売2ヶ月で約300万個を販売するなど、全般にスマッシュヒットが続いて好評だが、「バスチー」シリーズは桁違いのビッグヒットだ。

「バスチー」がヒットした背景として、「プレミアムロールケーキ」の開発で磨いた、ローソンのクリームに対する絶対的な自信があった。

同社・広報によれば、「ローソンが出しているスイーツのクリームが、ペチャついておいしくない」といった顧客の声に発奮して、なんとかクリームの品質を認めてもらおうと頑張ってつくったのが「プレミアムロールケーキ」。生地が薄くて、クリームをスプーンで掬って食べる、独特なスタイルに注目が集まった。それ以来のクリームに対する知見が、今回も活かされた。

「バスチー」は、12月には初のリニューアルを行い、北海道産生クリームや卵黄を増量。配合や焼成の方法なども見直し、表面のベタ付き感を解消した。

また、昨年7月にナッツとクリームをトッピングした「プレミアムバスチー」、昨年12月には山盛りのクリームを降り積もった雪のように乗せた「スノーバスチー」を、期間限定商品として販売し、これらも好評だった。

ローソン スノーバスチー(期間限定、販売終了)

なお、「ローソンストア100」からは、今年1月、バスク風チーズケーキをイメージした「ばすCHEESE」という商品が発売されている。近頃人気のバスク風チーズケーキの雰囲気を知りたいという、入門者向けにはいいかもしれない。

ローソンストア100 ばすCHEESE

バスク風チーズケーキは、これまでのチーズケーキとは異なる特徴を持っている。表面はこんがりと焼かれていて、中が濃厚なプリンのような独特な食感を持つ。つまり、表面はベイクドチーズケーキよりもっと焦げるくらいにまでよく焼かれ、中はレアチーズケーキよりもっととろけるのだ。プリンみたいにカラメルやメープルシロップをかける食べ方、岩塩を付けて旨みを引き立てることもよく行われている。

バスクとは、スペイン北部とフランス南西部にまたがるビスケー湾に面した地域を指し、独特の文化、言語を持っている。そのバスク地方のスペイン領にある、美食の街で知られるサン・セバスチャンという都市で誕生した、ユニークなチーズケーキが、いわゆるバスク風チーズケーキだ。バスク風チーズケーキは日本での名称で、現地では「タルタ・デ・ケソ(チーズケーキ)」、欧米では一般に「サン・セバスチャン チーズケーキ」と呼ばれているようだ。

サン・セバスチャンは人口20万人ほどの中都市であるが、スペイン有数の観光地であり、ミシュランの星付きレストランが3つ星を含めて十数店、集まっている。1平方メートルあたりの星の数では、京都に次ぐ世界2位の都市という。また、旧市街には庶民的なバル(酒場と食堂と喫茶が一体になったような店)が軒を連ねる。立食パーティーでよく提供される、爪楊枝や串が刺さったパンに少量の料理を乗せた一口おつまみの「ピンチョス」は、サン・セバスチャンが本場とされており、はしご酒文化の産物である。

このチーズケーキは、元々はそのバルの名物料理で、ワインなどのお酒にも合う大人のデザートであった。串こそ刺さっていないが、今では小皿料理全般が広義にピンチョスと呼ばれているので、その一種と考えても良いだろう。

さて、日本でバスク風チーズケーキを初めて販売した店は、東京都小金井市の洋菓子店、シュークリームが名物の「オーブン・ミトン」と言われている(「日経スタイル」2020年1月19日付『大ヒット「バスチー」 本場バスクではバルの名物』参照)。2013年クリスマスシーズンの新作であった。

オーブン・ミトン外観

パティシエの小嶋ルミ氏は、同年夏にサン・セバスチャンを訪問。現地のバル、レストラン、菓子店を視察する中で、バスク風チーズケーキ発祥の店、バル「ラ・ヴィーニャ」の提供する商品に目を見張り、日本でも当たると直感した。焦げ目のある表面と、中のレアっぽさのコントラストが新鮮だったからだ。

現地在住で地域の食事情に精通する女性から教わったレシピをベースに、焼いたが、小麦粉はつなぎ程度にしか使わず、大半がクリームチーズと砂糖だけという、チーズケーキの常識を覆すレシピだったので困惑した。

味も、日本人には甘過ぎると感じたので、全卵と卵黄をプラスしてコクを出し、砂糖の量を減らした。

試行錯誤の末に、オーブンで高温にて短時間焼く製法で、表面にカラメルができて、中はとろける、日本のバスク風チーズケーキが完成した。それを当初、「バル風チーズケーキ」と命名して販売したのだ。そのネーミングには斬新なチーズケーキを生み出した「ラ・ヴィーニャ」へのリスペクトが表わされている。

同店では、湯煎焼きのニューヨークタイプ「オリジナルチーズケーキ」も販売しており、2種類のチーズケーキを味わい比べることができる。

オーブン・ミトンのバスク風チーズケーキ(左 496円、税込)、オリジナルチーズケーキ(右 432円、税込)

18年7月にオープンした、東京・白金の「ガスタ」は、その本家サン・セバスチャンにある「ラ・ヴィーニャ」からレシピを直に伝授されてオープンした店だ。しかも「ラ・ヴィーニャ」は家族経営の店で、レシピを他人に伝えたのは、世界で「ガスタ」のシェフ・戸谷尚弘氏だけだ。

ガスタ外観

いくら腕利きだと言っても、なぜ地球の裏側に住む日本人が、と誰しも思うだろう。それは、戸谷氏の誰よりも熱心な姿勢が評価されたということだ。店名「ガスタ」は、バスク語で“チーズ”を意味する。

戸谷氏は製菓を学ぶために、7年ほど前に渡欧し、フランス領バスクのビアリッツの老舗菓子店、1872年創業の「ミルモン」で修業していた。そこで主に学んでいたのはバスクの伝統的な焼き菓子「ガトーバスク」だったが、折に触れてフランスやスペインのお菓子を食べ歩き、現地の食文化を吸収していった。

そうした余暇の活動で出合ったのが、「ラ・ヴィーニャ」のチーズケーキだった。料理やお酒を出す、バルのデザートの1つとして売られていたが、戸谷氏は「ベイクドでもレアでもスフレでもない、独特の味に衝撃を受けた」と語る。

戸谷氏は修業を終えて帰国し、15年にバスク菓子専門店「メゾン・ダーニ」を白金にオープン。本場・直伝の本格派として、たちまち人気店となった。

メゾン・ダーニ外観

メゾンダーニの主力商品、ガトー・バスク

新進気鋭のパティシエとして注目の存在となった戸谷氏であったが、「ラ・ヴィーニャ」のチーズケーキを学びたいというパッションを抑えきれず、「ラ・ヴィーニャ」に手紙、メールを送り電話も掛けたが、色よい返事はなかった。

それもそのはず。レシピは門外不出、世界中から問い合わせがあるにもかかわらず、誰にも明らかにされて来なかったからだ。

履歴書を送り、何度か現地にも行って交渉を試みたが、全く相手にされず追い返された。諦め切れずスペイン人の知人を介して、再度アプローチを試みた。

店に行くと、オープンキッチンの気軽な雰囲気のバルなので、客席からキッチンが見えた。戸谷氏は何度も店に足を運び、カウンターに座って飲食しながら厨房を観察し続けた。

そうしたある日、根負けしたのか、厨房責任者のミケル氏に「そんなところから眺めていないで、厨房に入って来たらどうだ」と声をかけられた。戸谷氏の熱意にミケル氏は心打たれて、初めて他人にレシピを伝える重い決断をした。しかも、「日本で製造するにあたり応援する」とのありがたい言葉までもらった。

そうして「メゾン・ダーニ」のすぐ近くに開業した「ガスタ」は、「ラ・ヴィーニャ」のレシピを忠実に再現して、日本でバスク本流のチーズケーキを確立したと言えるだろう。

ガスタのチーズケーキ

このチーズケーキを生み出したのは「ラ・ヴィーニャ」のオーナー、サンティアゴ氏。30年ほど前、サンティアゴ氏は、店の名物スイーツを生み出したいとフランスに渡り、チョコレートのムースケーキを学んだが、暖かいスペインではバルのスタイルで、常温にて店頭に並べていると、チョコレートだと溶けてしまう。そこで、ムースケーキの滑らかな食感をヒントに開発したのが、このチーズケーキだった。

つまり、バスク風チーズケーキの発想の原点は、チョコレートのムースケーキの食感を、どうすればチーズケーキで表現できるかであった。

そして、ローソンの「バスチー」はバスク本流「ガスタ」や日本流「オーブン・ミトン」の商品に刺激されて、現地をリサーチしてつくられた大衆商品だったのである。それをベンチマークしたのが、他のコンビニ、レストラン、スーパー、洋菓子店で販売されている幾多のバスク風チーズケーキということになる。

バスク風チーズケーキの専門店も増えている。東京・恵比寿の「ベルツ」(18年8月オープン)、東京・六本木の「ブロック・ブロック・トーキョー」(19年3月オープン)、名古屋・名駅と大阪・梅田の「マックロ」などといった店だ。「ベルツ」の店名はバスク語で“真っ黒”を意味し、漆黒の表面とチーズ感の強い味わいが特徴。

ベルツのバスクチーズケーキ 7cm(650円、税別)

「ブロック・ブロック・トーキョー」はブロックサイズの商品で、片栗粉を使ったグルテンフリーの商品、通販や催事で人気のカオリーヌ菓子店が監修。「マックロ」は、全国に約30店を展開するチーズタルト専門店「パブロ」の新業態で名古屋には19年11月、大阪には12月にオープンした。

渋谷のかき氷が人気の「セバスチャン」で販売されているバスク風チーズケーキは、17年に店長が「ラ・ヴィーニャ」を訪問し、サンティアゴ氏に試食してもらってお墨付きをもらった商品である

また、19年12月には、東京・秋葉原に「tukuruno(つくるの)」がオープンし、「テリーヌバスクチーズケーキ」専門店と銘打っている。夜はワインバーとなる二毛作店だ。これは小麦粉を使わずテリーヌ型で焼くチーズテリーヌ(テリーヌチーズケーキ)をバスク風にアレンジした、進化形のバスク風チーズケーキと言えるかもしれない。

つくるの、テリーヌバスクチーズケーキは糖質15.1グラムの低糖質とグルテンフリーをアピール(600円、税込)

このように、ここ1、2年で数多くの洋菓子専門店、洋菓子メーカー、カフェ、レストランが一斉に研究を進めて、商品化されてきた段階。中には、どこがバスク風なのか疑わしいものもあるが、今後の展開が楽しみだ。

バスク風チーズケーキは、日本のみならずアメリカ、トルコ、マレーシアなどでも近年人気が急上昇しているとも聞く。

日本は実は、世界的には「ジャパニーズスタイル・チーズケーキ」と呼ばれる「スフレチーズケーキ」を生み出したチーズケーキが盛んな国である。

味覚にうるさくコスパに厳しい、日本の消費者から選ばれた逸品が、世界を席巻する日も近いかもしれない。

image by: ガスタ

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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