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トランプ正直発言が裏目。新型コロナ全米「パニック」モード突入

新型コロナウイルスについて、先月末には「米国ではよくコントロールされている」と述べていたものの、13日に国家緊急事態を宣言するなど、ここに来てその対応姿勢を一変させたトランプ大統領。この変化をアメリカ社会はどのように受け止め、どのような動きを見せているのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんが今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、新型コロナ渦に揺れる「アメリカの今」をレポートしています。

(ドキュメント)激しく揺れるアメリカのコロナウィルス対策

3月11日(水)の晩、ホワイトハウスの執務室から行われたトランプ大統領のTV演説は大変な不評でした。コロナウィルスに関して国民に説明するという触れ込みで行われたにも関わらず、内容は「30日間にわたりヨーロッパからの渡航を禁止する」というものだったからです。

大統領の論理ですが、この時は幼児のように単純に見えました。「米国は中国との国境を閉鎖したので感染を防ぐことができた」「だが、ヨーロッパは国境を開き続けて感染を拡大させた」「だから今度はヨーロッパとの国境を閉鎖する」というのです。ちなみに、BREXITを評価する観点からなのか、英国は除外するという支離滅裂なオマケもついていました。

また、ウィルスのことを数回にわたって“foreign virus”(外来のウィルス)と表現したことも批判を浴びました。孤立・排外主義のコア支持者には「ウケる」表現かもしれませんが、危機感不足と言われても仕方がないからです。

市場は、落胆というよりも激怒したと言っていいでしょう。12日の木曜日は、NY市場は取引開始前から先物が暴落、9時半にオープンすると投げ売りとなり、9時35分には、S&P指標が7%下落して自動的に「サーキットブレーカー」制度が発動して15分の取引停止となりました。再開後も株価は下がり続けて、午後4時の取引終了時にはダウ平均で10%(正確には9.99%)という猛烈な下げとなったのです。

そもそも、この時点までトランプ大統領は、コロナウィルスに関して非常に安易な姿勢を取って来ていました。

「コロナウィルスへの過剰反応は民主党の陰謀」
「致死率3.4%というのはフェイク」
「アッという間に消えてなくなるシロモノ」

というような発言を、特に国際交流の薄い中西部の支持者を相手に喋りまくっていたのです。

同時に、ウィルス検査(PCR)については、大衆迎合主義とでも言ったらいいのかもしれませんが、「検査はビューティフル」「数百万単位ですぐに受けられるようになる」などと、これまた楽観論を振りまいていました。

12日(木)の株式市場における史上最大の暴落は、そうしたリーダーシップ不在状況を前提に、広がる不透明感への恐怖と絶望から起きたのです。

そんな中で、13日(金)の午後3時30分からは、再び大統領の緊急会見が行われました。会場はこんどは屋外で、ホワイトハウスの「ローズガーデン」でした。多くのメディアは、再び大統領が的外れなことを言うのではないかと思って中継をしていたようです。

それにしても、通常は午後4時まで取引の続く株式市場がオープンしている時間帯に会見をぶつけて来るというのは、大胆不敵、そうとも受け取れるわけですが、会見冒頭の大統領は、2日前と同じように「ヨーロッパに対する国境閉鎖は正しかった」などと既定路線の繰り返しとなりました。この時点で、株価は500ドルぐらい下げたのでした。「国家緊急事態宣言」をしておきながら、その内容が水曜日のコピーであれば落胆が広がるのは当然です。

ところが、開始数分後に様子が違って来ました。株価は急速に上昇して、一気に1,000ドル以上暴騰、前日の下げのほとんどは戻してしまったのです。

その原因ですが、何と言っても「官民合同で対策に当たる」という方針をパフォーマンスとして示したことに尽きます。その柱は、「検査体制の充実」でした。この日の大統領の説明は次のようなものでした。

1.ロシュ社の開発したPCRのスピード検査キットを緊急承認する
2.民間の医療保険業界との協議により、PCR検査の自己負担をゼロにする
3.グーグルが全国規模のサイトを作って、検査場所へ誘導する
4.量販店、ウォルマートとターゲットは共同で「ドライブスルー検査」の体制を組む
5.大手検査会社「ラボコープ」と「クエスト」も共同で検査処理体制を作る

ということで、政府内の専門家3医師によるスピーチに続いて、この各社(グーグルを除く)の会長が順次短いスピーチをして協力を約したのです。

大統領の説明は、これまで批判が多かった検査体制を充実させることで、イタリアではなく、韓国をモデルにして「検査から隔離」の体制を強化させるというものでした。同時に、

6.病院のベッド数規制を緩和する
7.非常事態宣言を受けて、政府予算を投入して人工呼吸器の台数確保や、集中治療ユニットの増設を進める。

ということで、重症者数が拡大しても大丈夫だとしています。更に経済対策としては、原油価格下落に苦しむエネルギー業界を救済するために、

8.緊急で備蓄用石油の購入を進める

としました。できるできない、あるいは本当の意味で効果があるないは、とりあえず分からない中で、以上のことを宣言したのです。とにかく「検査をする」「ベッド数と機械を徹底的に用意する」ということを、専門家、当事者である各企業の会長と一緒に「徹底してやる」と言った、その雰囲気は2日前の「欧州からの渡航禁止」宣言の時とは全く違いました。

とりあえず、この日の会見は大成功で株価は暴騰したのです。

では、そのまま順調に推移するかと思うとそうではありませんでした。

15日の日曜日になって、FBR(連邦準備委員会=中央銀行)のパウエル総裁は、不況突入を防止するために「1%の金利引下げ」つまり「事実上のゼロ金利」にすると表明したのでした。

この「いきなり金利ゼロ」というのは、投資家をはじめ財界も含めて予想外のものでした。しかし、それが裏目に出たのです。パウエル総裁(とトランプ政権)は「予想以上に一気に金利引下げに踏み込めば、事態は好転する」と思ったのでしょうが、甘かったようです。市場は「そこまでやらねばならないほど、事態は深刻なのか…」というムードで受け止めて、日曜の晩から一気に悲観ムードが広がってしまいました。

そして、同時進行で欧州における感染拡大が加速していったのです。これを受けて、トランプ政権は「入国禁止」をEU26カ国だけでなく、当初は除外していた英国とアイルランドにも拡大せざるを得なくなりました。

週明けの16日(月)は、更に事態が進行しています。

まず、CDC(感染症センター)からは全国規模で「50名以上の集会禁止」という指示(強制力はなし)が発動されました。また、最後まで渋っていたNY市内の立学校がこの日から一斉に「リモート授業」に切り替わりました。

更にNYでは、前週に出ていた「500人以上の集会禁止」措置に伴うブロードウェイの閉鎖などに加えて、劇場、映画館、レストラン、バーの一斉閉鎖が始まりました。ちなみに、デリバリーとテイクアウトは営業継続していいことになっています。

私の住むニュージャージー州では、マーフィ知事が16日(月)の夜8時以降について、

「劇場、映画館、レストランとバーのイートインは全面禁止」
「これ以降、夜8時から午前5時までは不要不急の外出禁止」

を宣言しました。こちらでも公立学校は全州で閉鎖、リモート授業に移行となっています。

ところで、日曜日の利下げを受けてネガティブなムードで覆われていた株式市場は、16日に月曜は開始と同時に一気に下落して「サーキットブレーカー」が稼働して取引停止となりましたが、15分の停止を過ぎて再開後も一向に状況は好転しませんでした。

そんな中で、大統領は13日の金曜日に続いて、再び3時半という株式市場の開いている時間帯に会見を行いましたが、今回は全く手のつけられないという状態で、会見を通じて株価は下がり続けて結局ダウは2,997ドル(12.93%の下げ)、つまりほぼ3,000ドルの下落となっています。

今回は、大統領はとにかく「正直ベース」ということで、時間を取って記者たちとの質疑応答を真面目にやっていました。また不規則発言もなかったし、必要に応じて専門家に答えさせるなど、会見としては悪くなかったと思います。

ですが、内容はやはり非常に暗いものでした。具体的な外出禁止措置を全米一斉にというのは、現段階ではやらないとしながらも、

「以降は、全米で10名以上の集会は自粛」
「部分的にはリセッション(景気後退)が始まっている」

そして決定的だったのは、

「この状態は最悪7月から8月まで続く可能性がある」

という発言でした。この人としては非常に真面目に質問に答えていたのですが、とにかく本人は誠実に踏み込んで最悪の場合を語ったつもりなのでしょうが、市場は受け止められなかったとしか言いようがありません。

これが本稿の時点でのアメリカの現況です。

今後の見通しですが、大統領は、

「イタリアのようにはしない」
「韓国や中国のように穏やかな改善を早く実現する」

という見通しを持っているようで、専門家たちの言い方もそのようでした。

とりあえず、株価の暴落、集会禁止、外出禁止令とアメリカは「フル・パニックモード」という状況です。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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