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日本式「クラスター潰し」の新型コロナ対策は本当に正しいのか?

医療関係者らの懸命な「クラスター対策」の甲斐あって、新型コロナウイルスによる感染が最小限に抑えられていると言われる日本。とはいえオーバーシュートの可能性も否定できないなど、予断が許されない状況でもあります。現在の日本の新型コロナ対策は、果たして「正解」なのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で日本式の「功罪」を考察するとともに、「都市封鎖」を選択したアメリカの現状を記しています。

改めて「日本式」の功罪を考える

新型コロナ対策について、明らかに日本の方式はユニークであるように見えます。

具体的には、

「成人の活動制限はせず、子供の休校だけを行う」
「徹底的に検査数の抑制を行う」

という2つの対策は、中国、韓国、欧州、アメリカのどこにも見られないものです。これには理由があるわけで、その分析については以下のような説明ができるとしてきました。

ですが、この説明だけでは不十分でした。一連の報道や政府発表を総合しますと、日本の戦略というのは、

「クラスターの発見、追跡、収束を徹底的に行う」

ことで、全体的な終息を狙うという、緻密な考え方がベースになっているようです。検査数の抑制というのは、医療崩壊防止ということもありますが、とにかくPCR検査というのも「クラスターの発見、特定、経過観察」の徹底的な調査を主目的として使うということにしており、そのために数的には抑制しているように見えるわけです。

一方で、19日の専門家会議で尾身茂博士の言っておられた「オーバーシュート」というのは、経路不明の感染が巨大な数となってクラスター追跡が破綻するという意味のようです。

実は、やみくもに「都市封鎖をやっても不十分」であり、とにかく「クラスターを追跡して潰す」ことをしないと全体の終息もありえないというのは、他でもないWHOのテドロス博士が、今日、現地の23日に言明しているわけですが、日本はその模範となるような戦略でこれまでもやってきたわけです。

問題は、この「クラスター潰し」という正攻法を最優先にして愚直にやっているにもかかわらず「オーバーシュートの危険」が否定できないということで、日本は日本で非常に厳しい状況にあるということです。

コロナウイルスと政治

アメリカの場合は、3月12日の株価の大暴落を反省して、13日(金)からは、トランプ大統領がファウチ博士など専門家と歩調を合わせる姿勢に転じたのが、まずは良かったとされています。ヒドい大統領だが、どうやら今回は真面目にやるつもりのようだし、とにもかくにも団結するしかないという感じです。

その一方で、毎日のように長時間の会見をやって評価を高めているのはNY州のアンドリュー・クオモ知事です。事実関係、具体策、理念と方向性の3つを必ずパッケージにして、しかし混同せずに語るクオモ知事のスタイルは、日に日に評価が高まっており、中には大統領選出馬の待望論まで出てきています。

現時点では、例えばニューヨーク州などの外出禁止令においては、70歳以上の高齢者は特に厳格に保護することとしており、高齢者家庭を訪問する場合は原則1名で行い、検温してから家に入るようにといった対応が推奨されています。

仮にこのような危機的状況が長期化した場合に、11月の選挙において、候補者が双方ともに検温しないと会ってはいけないような高齢だというのは問題になります。真剣に思うのですが、問題が長期化した場合には、少なくとも民主党の大統領候補は70歳以下、いや65歳以下にするのが自然ではないかと思うのです。そうなった場合に、党大会でクオモが彗星のように登場したら、という意見も出始めています。

日本の場合ですが、問題の深刻度を考えると、やはり総理も厚労相も、ブリーフィングをもっとしっかり受けて、疾病のメカニズムや対策、各国状況も含めて十分に理解し、その上で自分の言葉で語れるようにしないと、国民に安心感を与えるのは難しいと思います。

この間の地方首長の対応の中でも、北海道の鈴木直道知事、和歌山の仁坂吉伸知事などは、かなり基本に忠実にやっていたようで、そうした人材がもっと評価されるようになることは大切です。特に鈴木知事は東京が逃げ、道庁の官僚組織や、日頃は声の大きかった道内の市長連中が逃げた中で孤独な判断を下したということは、立派だと思いますがどうでしょうか。

都市封鎖の現状~アメリカ東海岸から

それにしても、事態は日替わりで動いており、しかもその動きが加速しています。

例えば、私の住む米国東海岸のニュージャージー州を中心としたタイムラインを振り返ってみることにしましょう。

ということで、このニュージャージー州としては、最初の感染が確認されてからわずか12日で外食一斉休業、学校の一斉休校、17日で外出禁止ということで、時の流れの速さに驚かされます。

全体的に一斉休業にしても、外出禁止にしても知事の政令という形を取っていますが、強制力を伴っており、特に許可外業種の営業や、事務所での業務については警察が出動して禁止するという運用になってます。

基本的にクルマ社会のニュージャージーでは、会社の駐車場にクルマが停まっていると、警察に踏み込まれて「解散」を命じられるという運用です。また、結婚式を強行したケースでも警察が解散を命じています。

その一方で、食料品スーパーなどは営業しており、行くのも構わないということになっているのですが、営業時間を限定しているので混雑が激しく、危険を避けるために入場規制があったりします。

営業時間が短いのは、人手の確保が難しい一方で、生活必需品の売れ方が速いので商品の補充に手間がかかるためのようです。ちなみに、生活必需品については、政府は「買いだめ」を推奨しています。というのは、仮に万が一検査で陽性になったら完全に外出禁止になるので、その場合に備えて14日間は「籠城」できるようにしなさいということです。

従って、消毒液や、トイレットペーパーは勿論、缶詰やパスタなど保存食から、精肉まで「まとまった」品物は品不足になっており、かなり広い範囲の商品が「お一人様2個限り」になっていたりします。

本日(現地23日・月)は私の住む州中部では冷たい雨が、そして州の北部では雪になっており、町はひっそりとしています。ただ、この23日からは、全国的に少し社会のニュアンスが変わってきたようにも思います。

1つは、経済の先行き不安が一気に増大しているということです。議会が景気刺激策パッケージ法案の可決に失敗しているということがまずあり、通常なら出てきているはずの雇用統計が先送りになっている中で一気に雇用が崩壊しているという疑心暗鬼がありということで、結局NYダウは582ドル安(マイナス3%)で引けました。

これと裏返しになりますが、多くの州で実施されている「外出禁止=都市閉鎖」をいつまで続けるのかという問題が真剣に議論されるようになって来ました。この点に関しては、NY州のクオモ知事は「今やっているのは経済のポーズ(一時停止)」であり、時期を見て再開しなくてはならないとした上で、その見極めは非常に難しいとしていました。

例えば、健康な者は出勤していいことにするのか、感染しても重症化の可能性が少ない年齢から出勤可能とするのか、といった問題を設定しても、答えは簡単ではないというのです。

今現在の社会の雰囲気からすると、この「外出禁止=都市封鎖」については、とても数週間ではダメで、数ヶ月、つまり5月から6月に解除できれば良いほうだ、という認識ができつつあるわけですが、その一方で、そこまで経済の空白を作ってしまうと、影響は大変なことになるという中で、とにかく週明けの今日はひたすら動揺しているという感じです。

そんな中、NYでもニュージャージーでも、「外出禁止の長期化」によるメンタルヘルスの問題が喫緊の課題になっています。とりあえず電話相談の窓口が設置されたりしています。

週末に近所を走っていたら、ある一軒の家にイタリアの国旗が掲げてありました。イタリア移民の家なのでしょう。意味としては2011年の「がんばろう東北」とか、2012年のハリケーン・サンディに際しての「ジャージー・ストロング」というのと一緒だと思うのですが、毎日のようにイタリアの苦闘に関してニュースが流れる中で、その国旗を見た私はエモーショナルな感じになるのを抑える事ができませんでした。

ところで、この23日には、そのイタリアの死者数に注目が集まりました。数がスローダウンしていれば、大きな山を超えたことになるし、そうなればアメリカや欧州各国にも希望になるからです。結果は、1日の死者が607で、累計6,077。数字としては厳しいですが、1日の数字の増加が大きく減ったという解説もあります。また、検査陽性は1日で4,789(累計6万3,927)で、過去5日間の中では最低だそうです。但し、これは週末のために検査処理数が減っている影響という解説もあり、油断はできないということです。

この検査処理数についてですが、NYは先週から大量検査体制に入っており、累計で2万人を越える陽性者を発見しています。では、その全てを入院させているのかというと、入院は13%に抑制して残りは自宅療養としているそうです(知事会見による)。にも関わらず、病院の現場では資材の不足が迫ってきており、そこから逆算して検査をやや抑制するという動きになってきているようです。

一方で、ニュージャージーの側では、検査拡大方針は継続しており、本日、23日(月)には大西洋岸のホルムデル町で新たにドライブスルー方式の検査が開始されています。ハッキリは分かりませんが、郊外型のコミュニティがほとんどであることから、検査で陽性を見つければ、クラスターが追えるという判断でやっているのではないかと思われます。

いずれにしても、今週は大きな山場となりそうです。今後の観点としては、

  1. 連邦議会で総額2トリオン(220兆円)という景気刺激策パッケージ(産業救済含む)が可決できるか?
  2. どこかの時点で失業数など雇用統計を出さねばならないが、市場や社会がその数字に耐えられるか?
  3. NY州などで医療現場の資材不足(防護服、マスク、手袋、人工呼吸器)の解消、更にはベッド数の確保ができるか?

という直近のテーマをクリアしながら、少しずつ「出口」を模索することになるわけで、大変な一週間になりそうです。

image by: 首相官邸

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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