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緊急事態宣言も東京はロックダウン無しで感染爆発を防げるのか?

発令のタイミングがあまりに遅すぎたとの批判もある我が国の非常事態宣言ですが、その措置の内容の「甘さ」にも疑問の声が上がっています。はたして日本は爆発的流行を防ぐことはできるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、政府の対応に国民が不安を抱くのも理解できるとした上で、それでも国と都が東京のロックダウンを選択しない「肯定的理由」を考察しています。

改めて、東京は都市封鎖(ロックダウン)すべきなのか?

日本の非常事態宣言については、6日に東京都が会見、7日に公表、8日午前零時に発効ということになったようです。個人に対して強制力を伴う条項はないので、直ちに発効としても良かったのでしょうが、即時発効(effective immediately)という概念は日本のお役所にはないわけで、妙に落ち着いた導入になっている感じです。

さて、この非常事態宣言ですが、ザッとした印象としたところでは、人と人との接触度の削減目標(「q」)を例えば3月中旬との比較で言うと、40%から60%削減といった程度のもののようです。

そこで気になるのは、「接触の削減」をどうやって実現するかという「ポートフォリオ」の構成です。非常に単純に言えば、この「接触の削減」は「ゼロ化」というのはできません。食料は各家庭が備蓄して一切購入は認めないし、配達もない、電気や携帯が故障してライフラインが尽きても修理に人を動かすのもダメ、もっと言えば、警察も国防もダメというような厳格なものでなくては「ゼロ」は達成できませんし、その場合はメリットよりも弊害の方が大きいのは明らかだからです。

仮に0.2、つまり80%削減とすると、逆算して考えた場合に、20%の活動でライフラインの維持をしなくてはなりません。例えば、アメリカの場合は(一部の専門家の指摘では)18%程度ということでやっているようですが、具体的には、その18%というのはどのぐらいかというと、ニュージャージー州の場合は、以下のようになっています。

まず個人については、原則は家の中にいなくてはなりません。「STAY HOME(家にいること)」というのが強いスローガンとしてあります。では、どんな場合に外出して良いのかというと、

が例外として認められるだけです。また、家族への訪問は1名で行くことが望ましいとか、75歳以上の家族を訪問する際は検温しなくてはならないといったルールを設けている町もあります。散歩や買い物などの場合、同居の家族とはいいのですが、それ以外の人間の場合は6フィート(1.8メートル)の「社会的距離」を置くことも義務付けられています。

上の欄でご紹介した警察の捜査ですが、厳しい市町村になると、ポリスカー(パトカー)が巡回していて、「バスケットボールをしていたら摘発する」「家に複数の車両が停まっていたら踏み込んで集会を解散させる」「事務所専用のビルの駐車場にクルマがあったら踏み込む」などの対応を取っています。

改めて強調しておきたいのですが、別に警察国家にしようとか、人権を抑圧して19世紀に戻そうというのではありません。「接触削減率」を達成するには、そのような強めの規制をしなくてはならない、という感染症制圧のセオリーに基づいて行政が実施しているだけです。

ちなみに、捜査当局が神経を遣うのがカトリックとか、ユダヤ教の正統派などで、彼らは非常に家族の結束を大事にするので、大家族で集合したり、コロナ禍の中でも10人集めて「婚約式」をしてしまったりという話があります。そこに警察が介入すると双方イヤな思いをするわけですが、そうした件も含めて、とにかく「削減率」を達成しなくてはならないということで、やっています。

さて、その場合に気になるのが「営業許可の出ている業種」です。これ以外の場合は、絶対に「出勤、営業禁止」で、自宅で「リモート」をやるしかありません。では、どんな業種が許可されているのでしょうか?非常に詳しく定義づけをしているのがNY州です。ここでは、全体が次の12のカテゴリに分けられています。

  1. 医療サービス提供
  2. 基幹インフラ(ライフラインと運輸、宿泊)
  3. 基幹の製造業(医療関連、食品関連、生活関連、化学、半導体、通信、防衛)
  4. 基幹の小売業
  5. 基幹のサービス業
  6. ニュースメディア
  7. 金融サービス
  8. 貧困層支援事業
  9. 建設業
  10. 防衛関連
  11. 社会インフラとしての行政サービス等
  12. 民間の経済活動を維持するインフラ

この中で、例えば4.の基幹の小売業についてはもっと具体的に次のように定義されています。

更に5.の基幹のサービス業についても具体的に決められており、

となっています。つまり、消費者としてこうした4.と5.に行く場合は外出していいし、同じように4.と5.のカテゴリの職種に従事している人は、出勤していいわけです。

という具体的な例外を除いては、一切ダメということになっています。例えばですが、金融サービスは許可業種ですが、その金融サービスの企業において、経理や人事の仕事をしているとか、ソフトウェアの開発や保守をしているという場合は、ダメです。職種が許可されていないからで、こうした業務は全てリモートになります。

この具体徹底してやって、ようやく削減率で72%になるようです。例えば、スペインやフランスなどの場合は、接触率を1から2%程度にまで削減しようとしていますが、そのためには「基本的にあらゆる経済活動を停止」とか「自宅の前数十メートルまでしか出てはいけない」というような話になります。

武漢の最も厳しい時期には、買い物は「家族の代表1名が一週間に一回」というような規制をして、それをアプリで管理し、アプリの上で「きちんと守っている」という証明がないと、買い物もできないといった厳格な運用をしていたようですが、そうしないと「1%」というのは達成できないわけです。

こうした対応と比べると、日本の場合は非常に緩いわけです。非常に粗っぽい見方をするのであれば、非常事態宣言をするのとしないのとでは、

「3密業種とイベントの規制」

ぐらいしかできないことになります。一方で、一般的なオフィス業務を継続する分は、大学以下の学校と塾を閉じることで、削減率をチャラにしようという設計も見え隠れします。トータルでの削減は40%ぐらいで、あと、これに人々の自主的な危機感で20%乗せて、全部で60%位を狙っているように見えます。

そう考えると、日本の対応はいかにも甘く、欧米と比較すると、このままでは爆発的流行になってしまうのではないかという心配が出てくるのも分からないではありません。

ですが、とにかく現時点では新型コロナによる死者数を比較してみると、

という歴然とした差があるのは事実です。後述しますが、肺炎死亡者数にコロナ死者が紛れているという説は否定できませんが、それでも、どんなに多くてもプラス100程度であることを考えれば、やはり東京の現状については、

のいずれについても、「爆発」には至っていないように考えられます。問題は「爆発に至っていない」ということではなく、感染を拡大する率(R0)が

ならどんどん感染が拡大する一方で、

であれば、感染は収束するわけで、東京の場合はこのようなマイルドな対策でこの「1以下」ヘ持っていける、そうした判断があるのだと思います。そのために大切なのは「これ以上、メガクラスターを出さない」ということで、大学を休校にして、イベントとライブハウス、夜の飲食をシャットアウトすれば、出口が見えるということだと思います。

米欧や中国から見れば、東京の対策は本当に「甘くて心配」…という感想になるのは分かります。ですが、先進国中で日本の経済は非常な脆弱性を持っています。その日本経済を崩壊させないで、何とかコロナを収束に持って行く、そのためには、この政策パッケージで数字上は収束に行ける、そのような判断が安倍政権、特に厚労省と都庁の間で合意されている、それは確かです。

その意味で、当面は「ロックダウンなし」で進めようということなのだと考えます。繰り返しになりますが、東京がロックダウンしないのは、人権意識が高いからできないとか、企業エゴが強いというのではなく、「しなくても、あと一歩の対策が徹底できれば」効果が上がって収束が見えてくる、そのような「欧米よりはマシな状況」があるということだと思います。

治療薬の現況と、政治家の安易な発言問題

治療薬については、とにかく重症化のプロセスにおいて、様々な試行錯誤がされています。患者の体力が残っているうちに、患者自身の免疫力によってウィルスを撃退できるようにするには、少しでもウィルス増殖を抑制するのが効果的であり、様々な薬剤が試されています。現時点では、

  1. ファビピラビル(アビガン)などの抗インフルエンザウィルス薬
  2. ロピナビル・リトナビル配合剤などの抗HIV薬
  3. レムデシベルなどの抗エボラ出血熱ウィルス薬
  4. 吸入ステロイド薬であるシクレソニド
  5. 抗マラリア薬であるクロロキンやヒドロシクロロキン
  6. 実際に新型コロナに罹患し、回復した患者の血清

などが、話題になっています。この6つの薬剤等に関しては、実際に武漢でも、そして日本における「ダイヤモンド・プリンセス」乗船者への治療においても、多様な試用が行われています。勿論、認可前のものであったり、目的外試用になるので、日本の場合は各病院が倫理委員会を開催して承認を得て例外的な投与をしているわけです。

その結果としては、現時点ではまだ決定的なものは発見されていません。ある薬剤等が、ある患者には明らかに効果があったという報告は色々と出てきているのですが、薬剤として承認できるだけのエビデンスには欠けるようで、まだまだ慎重に見てゆく必要があるように思います。

そんな中で、5.については、何故かトランプ大統領が「使ってみたい」とか、予防目的で自分が打つなどと勝手な発言をしています。また1.に関しては、色々な問題も指摘されているにも関わらず、安倍総理が必要以上に期待を持たせるような発言をしています。

とにかく医療の現場、薬剤開発の現場は100年に一度の危機に対して、必死に頑張っているのですから、政治家が安易な発言をするのは慎んでいただきたいと思います。

image by: Camillo Cinelli / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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