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YOSHIKIさんなど多くの在米日本人が「Stay Home」を叫ぶ理由

新型コロナウイルスの感染爆発により、3月22日から外出禁止(ロックダウン)が続くニューヨーク。感染抑止の効果が見え始めているようですが、まだまだ深刻な状況にあります。そんなマンハッタンのど真ん中から、日本に向けて「Stay Home」を叫び、その訳を語るのは、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんです。高橋さんは、日本での影響力ある人たちによる「逆張り」的な「アンチ自粛」の考えに感化される人の多さを危惧。耳を傾けるべきはYOSHIKIさんのようなブランディングする必要のない人の言葉だと訴えています。

「アンチ自粛派」の通ぶる姿に嫌気

ニューヨークがロックダウン(都市封鎖)されて、今日でちょうど25日間が経過します。世界のロックダウンはそれぞれにルールが若干、異なりますが、基本的には「不要不急の外出を禁止」という点は一致しているはずです。従来の企業は出社自体が禁止、飲食店での店内での飲食が禁止、これも国によっての例外はないようです。

海外に住んでいて日本を眺めると、国内にいるよりもわからない点は当然、多い。報道や人からの伝聞だけでは実態は掴みにくい。その反面、逆に冷静になって母国を観察できることも、またあります。

今ではどうかわかりませんが、3月いっぱいくらいまで、日本は「アンチ自粛派」の人の方が多かったように、こちらからは見えました。いや、多くはない。ただ「アンチ自粛派」の意見の方が強い、もしくは正しい、もしくは論理的、のように映りました(もちろん、あくまで遠く離れた国から、報道やSNSを見る限りの印象なので実際はどうかわかりませんが)。

それまでは、当然のように「自粛しましょう」という声しか聞こえませんでした。でも、一旦、見識者、コメンテイター、文化人、学者、などの一部の「日本の頭のいい人たち」、インフルエンサーの方々がそれなりの根拠とロジックを持ち出して「自粛は悪だ!」とYouTubeなどのSNSで発信すると、今度は、右にならえ、と今まで「自粛派」だった人間(もしくはまったく興味すらなかった人たちまで)が、意見を180度変え、その意見にフォローしていったように見えました。「いたずらに煽って、自粛するなんてバカだ」と。まるで、その「頭のいい人たちと自分は同レベルだ」とでも言いたいかのようにように。

その風潮は、すぐにコロナと同じくらいのスピードで「感染」し、僕の日本の知り合いはみんな揃って「安易に自宅に閉じこもる必要ないんだよね」「今、あえて自粛しないことこそが、日本の経済を支えることに繋がるんだよね」「出歩かないことを受け入れるってことは、日本の文化の衰退につながるってことがわかんないかなぁ」「知ってた?科学的にコロナってインフルエンザより致死率低いって」とか言いだしました。あぁ…またか、日本人。と僕は思いました。

ちなみに僕はこのメルマガでしつこいくらい書いているように、いわゆる“欧米かぶれ”ではありません。世界で日本が一番好きで、日本人が一番好きです。自分が日本人で心から良かったと思っているし、日本人であることに誇りすら感じています。

でも、この、インフルエンサーたちのフォロワーが、そのインフルエンサーの意見をまるで自分の意見のように錯覚して、世間とは真逆の「逆張り」をすることで通ぶる風潮には嫌気が差していました。それがまるで少数派の意見のように振舞っても、フォロワーはおまえだけじゃない。数十万、数百万といる。マイノリティーを狙ったブランディングは、結果、メジャー意見になって、失敗している。

「自分の意見」はどこへやら。SNSは受け売り横行

2年ほど前だったと思います。サッカーのワールドカップ予選で、日本代表が決勝トーナメントに進出するため、その試合に負けているにも関わらず、パス回しなどで消極的なプレーを展開しました。時間稼ぎのため、一切、攻めず、試合終了まで粘りました。得失点差だかなんだかで、試合に負けても、これ以上点さえ入れられなければ、決勝トーナメントに進出できる、と。

もちろん、会場はそんな消極的プレーに大ブーイング。世界からもこの戦い方は批判されました。直後、日本のSNS上でも「情けない」「後味が悪い」「みっともない」などの声が続出しました。その時までは、母国の代表のこの戦い方に日本国民もおしなべて批判的だったはずです。

ところが数日後、日本のトップの頭脳たち、見識者たち、有力なインフルエンサーたちが、「あれはあれで良かった!」と発信し始めます。「戦略とはそういうものであり、勝ちにこだわる姿勢こそが必要なんだ」と。「スポ根マンガじゃあるまいし、監督は批判覚悟で、日本のため、選手のために、決勝トーナメント進出への道を取った英雄だ」と。なるほど、さすが頭のいい人たちです。説得力もあるし、理にかなっています。腑にも落ちる。

ただ…それ以降、一気にSNS上では「あれはあれでよかったんだ派」が急増したように見えたのは驚きました。海外から離れて冷静に見ると、まるでマグロの魚群のように、一斉に大群で方向を変えた。それまでの「自分の意見」はどこへやら、今度は「あんな戦い方はみっともないし、情けない」とツイートした芸能人をみんなで糾弾し始めました。

確かに僕も、その見識者たちのロジックに納得はしました。それでも、やはり、サッカー好きの子どもたちに見せたい試合かと言われると、断じてそうは思わない。価値観の中で、決勝進出より重要なモノがあるから、納得はしても賛同はしない。ましてや、それまで自分と同意見だった有名人を糾弾したりはしない。自分の意見は異なるということを忘れない。

今回、前述の電話で話した、アンチ自粛派の友人に「知ってた?それ…自分で気づいてないかもだけど、驚くかもしれないけど、今、おまえの言った、“おまえの意見”。それ、実は、“おまえの意見”じゃないんだよね」と言ってしまいました。「ただの受け売りって言うんだよ、それ。ビックリしたかもしれないけど」と。

「それの何が悪いんだ!」と言われるかもしれません。新たな意見を聞いて、納得して、気がつかされて、考えが変わるのは、それ自体勉強であり、インプットであり、いいことなんじゃないか!と。

確かに、いいことです。でも、それは、ストラクチャー的に、体系的にその物事の本質を知らないということを意味します。たまたま入った情報がすべてになってしまう。つまり、もともと、そこまで深く考えてなく、見識者の意見を自分の意見のように、居酒屋で部下に、恋人に、友人に、語りあげたいだけなら、また次に、新たな見識者が違うことを言うと、そこでまた意見が変わる可能性がある。

僕がStay Homeを叫ぶ理由

昨日のツイッターが、どこどこ大学の“助”教授なら、今日見たツイッターの教授の意見にフォロー替えする。先週見てカブれたYouTuberのチャンネル登録者数が10万人なら、今週100万人登録者数のYouTuberの意見に、また“引っ越しかぶれ”する可能性が出てくる。アクシデント的に入った情報をそのまま鵜呑みにしたら、それがすべてになる。

それだって、もちろん、悪いことじゃない。勉強に勉強を重ね、仕入れる情報によって、そのつど意見や考えが変わることは、いいことだとも言えます。ただ、今回はサッカーのワールドカップ予選でもないし、慰安婦像問題でも、自衛隊駐屯地問題でもない。人間の都合なんてかまっちゃくれない人が人に感染させるウイルスが相手です。今回に限っては、逆張りするインフルエンサーの真似して通ぶるより、やっぱり、#Stayhomeするべきだったと僕は思っています。命に関わる問題だから。

なにより、その「アンチ自粛派」のインフルエンサーの方々は、圧倒的な過去のデータと、豊富な知識と、常人にはない先を読む力で、そして、自身の名前をかけて、発言しています。ひょとすると、取り返しのつかない事態になるのを覚悟して発信している。自分のタレント生命、教授生命が終わることも覚悟して、日本の経済の為、医療の為、発言しています。すごいことだと、素直に感嘆します。僕がもし有名人ならできない。それを一般のサラリーマンが、飲み会に出席したいだけで、お花見行きたいだけで、その意見を自分の意見のように利用して言い回るのは、ちょっと卑怯じゃないかなとも思うわけです。

次に、自粛派である僕も、「同じじゃないか」と言われるかもしれません。医療のスペシャリストでも、経済学者でもない僕も、結局は、同じように「自粛派」の報道を、SNSをフォローしているだけじゃないか、と。アンチか、そうじゃないかだけで、実はまったく同類なんじゃないか、と。

確かに、その一面はあります。でも、決定的に違うこともあります。それは「ロックダウン」の経験者である、という事実。世界一、オーバーシュートがあった街のその真ん中に今現在も住んでいるということ。日々、更新される死者数のニュースが報道される、その街の渦中にいるということ。そこはちょっと感情論になってしまうかもしれません。アンチ自粛派に、「コロナで亡くなった遺族の前で、コロナなんて大したことないなんて言えるか!」という感情的意見とそう変わらないかもしれない。だからこそ、誰もが読めるブログではなく、ここメルマガでしか書けなかったのですが。

もちろん、インフルエンサーにかぶれているアンチ自粛派は少数だとも理解しています。その他大勢は、心から、日本の経済の危機を、日本の文化の衰退を心配していらっしゃる方が、ほとんどだとわかっています。確かに、外出自粛であるロックダウンは経済にモロに影響します。他人事じゃない。零細新聞社の僕自身、かつてない危機を覚悟しています。予定されたイベントを簡単に中止されたら、会社自体が潰れる、という経営者の苦悩は痛いほどわかります。

前述の、「インフルエンサーにカブれてる一般人」とは明らかに違い、会社の為、社員とその家族の為、あえて自粛しなかった経営者たちもいます。批判覚悟で、会社と社員を守るため、強行した会社役員たちは、考えに考え、悩みに悩み、それ以外、存続の道はなく、あえて自粛しなかった。どれだけの苦悩だったか想像に難くありません……。だからこそ、そうでない連中は花見は行くなよ(笑)飲み会は中止しちゃえよ(笑)。

今となっては、おまえひとりが飲み歩いたって、日本経済は元には戻らないよ。言葉は乱暴かもしれませんが、いまだに意地でも飲み歩いたり、風俗に通う、一般のサラリーマン、学生さんには、そう言いたい自分もいます。

「みんながそう思うから、経済がダメになるんじゃないか。ひとりひとりの力は大したことなくても、みんなが一丸となれば!少しでも、経済を回せるのなら!」今度は、そうも反論されるかもしれません。いや、そうかもしれないけどさ。今の時点で、もう、日本は通常ではないわけで。それに、「人種差別問題」や、「環境問題」だったら、そんなカッコいい理屈、似合うかもだけど、カラオケボックス行く口実に言われても…。心には響かないかもしれません。どうか、収束した後に、いっぱい行って、日本経済の復活に貢献してください。

YOSHIKIさん呼びかけは掛け値なし

著名人の中で、最初に大きく「自粛」を呼びかけたのは、僕の記憶が正しければ、X JapanのYOSHIKIさんだったのではないでしょうか。当時は、まだ日本では「大袈裟に騒いで、イタズラに経済活動を邪魔するな!」という声の方が、主流だったと思います。その中でも、YOSHIKIさんは一貫して、日本人の健康の為、自粛を呼びかけていた。

YOSHIKIさんにかつて、僕は4回単独インタビューしました。北米での専属インタビュアーだね、と冗談をおっしゃってくれたこともありました。4回、対面に座って話をジックリ聞いて、思ったのは、「不必要なカッコつけ、をまったくされない人だな」ということ。

次のライブへの意気込みは?NYに来た際、必ず寄るお店は?そんな質問に対して、真っ直ぐにこちらを見て、真っ直ぐに答えてくださいます。あたりまえじゃないか、と思われるかもしれませんが、意外と日本のアーティストの中ではそんな人、少ない。

たぶん、他のアーティストさんは、みなさん、そのインタビュー自体もブランディングの場所と考えているのか、斜めから、スタイリッシュで、モダンで、一風変わったお答えをされる方が多い。独特の間で、空中の一点を見つめ、捻りすぎた答えをされる方も珍しくない。よくわからない。

YOSHIKIさんは、はぐらかさず、もったいつけず、どれだけライブが大切か、どれだけファンが大切かをちゃんと説明してくれます。ステージ上を見てもらえればいい、曲を聴いてもらえればいい、だから、不必要なブランディングはしなくていい。考えたら、当たり前で、YOSHIKIさんほど上り詰めれば、その必要はない。感覚としては、ハリウッドスターに近いかもしれません。

文化の違いなのか、ハリウッドではどんな大物監督も、どんなスーパースターも、インタビューでは、作品に対する思いを一所懸命、話します。あのシーンではどうだった。あのシーンの背景にあるのは何だった、と。カッコつけるのはあくまで作品の中。

日本の俳優さんは、作品への思いを聞かれても「…、うーん…そうですね…。ま、スタッフ一同(タメ)、必死で作ったんでね…、一人でも多くの人に(タメ)………。まぁ、見てもらえれば(タメ)、嬉しいかなって、、ゴニョゴニョゴニョ(最後、聞こえない)」。舞台挨拶上でカッコをつける。

YOSHIKIさんにとって、Twitterはブランディングの場所じゃない。その必要はない。日本のファンとつながる場所。日本のファンに伝えたいことを伝える場所。ということは、意味のない「逆張り」をするなんてことはない。ということは、当然、心から日本のファンを、人を、心配する内容になる。ということは、「自粛」を呼びかける。もう不必要にブランディングをする必要ないほどの域に達した男の話は、純粋に日本を心配する声。やっぱり聞くべきだと思います。

「アンチ自粛派」の理論武装は強固。それでも…

今回の外出禁止令で、思いがけず時間ができました。なので、普段の生活ではあまり見ないYouTubeもかなり見ました。コロナ問題について、日本の多くの医者、経済学者、大学教授、著名文化人、コメンテイター、タレントさん、他インフルエンサーと呼ばれる方々の意見をいっぱい見ました。アンチ自粛派の主張も、ほぼすべて、見たと思います。

さすが彼らのロジック、理屈には前述のフォロワーたちとは違い、かなりの説得力があります。もともと知識も教養も僕なんかとは段違い。自粛派の僕が、彼らと1対1のディベートをしても、勝てそうにない。簡単に論破されちゃいそう(笑)。

こうなったら、奥の手、最終奥義、を出すしかない。それ以外、太刀打ちできない。でも、この最終兵器を出しちゃうと、簡単に勝っちゃうから、つまんない、というか、面白くないから、本当は出したくなかったけど、でも、仕方ない。一見、頭の悪そうな、それでいて、絶対真理のトドメ。
「経済も文化も、感染して死んじゃったら意味ないけどね」

image by: GetCoulson / shutterstock

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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