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アサヒノマスク批判首相がアベノマスクで踏んだり蹴ったりの悲劇

それぞれの国民から批判的に受け取られることが多い、日米両首脳による新型コロナウイルスの流行防止策。彼らはなぜ初動を誤り、その間違いを完全に修正することができなかったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、安倍・トランプ両氏の現時点までの動きを改めて確認しつつ、その原因を探っています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年4月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

こういう時だからこそ問われる指導者の能力と品格――幼児性を競い合う?日米首脳

「AERA」4月27号の「リーダーたちの危機対応『通信簿』」では、主要国指導者の5点満点によるランキングは次のようである。

     総合 決断力 実行力 情報発信力 責任感 市民の支持

メルケル 5.0   5   5     5    5     5
蔡英文  4.2   5   4     4    4     4
習近平  3.2   4   5     2    3     2
ジョンソン3.0   3   2     4    3     3
トランプ 2.0   2   2     3    1     2
安倍晋三 1.4   1   1     2    1     2

なぜかここには文在寅が入っていないが、たぶん蔡英文の次くらいに位置するだろう。いずれにしても我が安倍首相は、あのトランプをも大きく下回って最低ランクである。

デマゴギーを振りまくようになったらお終い

トランプ大統領と安倍首相に共通するのは、自分の過ちを認めたくないが故に他人を引き合いに出して罪を逃れようとする、与良正男の表現を借りれば「しかられた子供が『だって○○ちゃんだって……』と言い訳するような……幼児性」である(毎日新聞4月22日付夕刊)。

その最近の典型例が、全国民的に不評な「アベノマスク」をめぐる安倍首相の朝日新聞記者とのやりとりである。17日の首相記者会見で朝日の記者が「最近では布マスクや星野源さんの動画でも批判を浴びているが、この間の一連の対応についてご自身でどのように評価しているか」と問うたのに対して、安倍首相はムキになってこう言った。

「御社のネットでも布マスク、3,300円で販売しておられたということを承知しておりますが、つまりそのような需要も十分にある中において、我々もこの2枚の配布をさせて頂いた」

これって、聞いている全国民には何のことやらよく分からないと思うが、朝日記者の質問の中に「布マスク2枚全戸配布が不評だがそれについてどう思うか」という意味が含まれていたのにイラついて、安倍首相は「朝日の通販サイトでも布マスクを3,300円の高額で売っているじゃないか。何でお前がそんな質問をできるんだ」という趣旨の反撃をしたのである。

しかし、これは安倍首相が聞きかじり程度の知識に基づいて朝日に一太刀浴びせようとしてデマゴギーを振りまいてしまった愚行で、さてこれをどう収拾するのだろうか。

起点は安倍応援団の上念司氏のツイッターから

なぜ安倍首相がここで「朝日が布マスク3,300円」という話を持ち出したのかと言えば、安倍応援団の片隅を占める経済評論家で、朝日新聞を縮小することを目的とする「朝日新聞縮小団」なる運動を推進する上念司氏が、自身のツイッターで「朝日新聞が2枚で3,300円のぼったくりマスクを販売中!買っちゃダメだよ!」と煽り立てたからである。ネット上では、「朝日新聞に特大ブーメラン直撃!ぼったくりかよ」「朝日新聞社は国民のことを何も考えていないぼったくり悪徳商法会社だった」などのツイートが相次いだ(21日付毎日)。おそらく安倍首相は、自宅で犬の背中など撫でながら寛いでいる時に、お友達のツイッターを読んで、「おっ、これは朝日攻撃に使えるネタだな」と思ったのだろう。

ところが、このマスクは実際に2枚で3,300円を定価とする高性能マスクで、「繊維の街」として知られる大阪府泉大津市の南出賢一市長と泉大津商工会議所がマスク不足解消を目指して、市内の繊維業者に呼びかけて製造・販売を始めたもので、そのうちの1社である1917年創業の老舗「大津毛織」が製造した150回洗濯しても使えるものを、朝日が販売していた。

上念氏は、経済評論を生業とするのであれば、朝日が売っている、高い、というだけでそれを慌てて攻撃対象とするのではなく、どこの地域のどこの企業がどんな思いでこれを製造しているのかを、少しでもいいから調べて、発言すべきだったろう。ましてや一国の総理が公式の記者会見でそれに言及するのであれば、このような人物のツイッターを鵜呑みにするのではなしに、大阪の地域末端の人々がどんな思いでコロナ禍に立ち向かっているかに思いを馳せ、心を寄せ、励ましの言葉を送るべきだったのではあるまいか。

4月22日には泉大津市の南出市長が首相官邸を訪れ、そのマスクを首相が装着するよう求めた。今の「アベノマスク」の貧弱な布マスクを止めて泉大津の高性能マスクに変えたら、安倍首相も大したものだと思うが、どうだろうか。

この「アベノマスク」騒ぎには、もう1つ、ダメ押しのような落ちがついた。政府が調達した布マスクのうち伊藤忠と興和を通じて海外から緊急輸入した分に、判明しただけで7,870枚に汚れがついていたり異物が封入されていたため、慌てて回収する羽目となった。踏んだり蹴ったりとはこのことである。

トランプ政権の「リア王」末期のような狂乱

さて、全世界の感染者数の33%、死者数の27%を出して突出的な最大被害国となった米国では、トランプ大統領がまるでシェークスピアの悲劇の主人公「リア王」のように、自らの無知と傲慢ゆえに孤立を深め、最後のアドバイザーだった宮廷道化師もいつの間にか姿を消してしまって、ついに狂気の淵にのめり込んでいくといった有様を演じている。

トランプは当初、全くと言っていいほど危機感を持たず、「4月になって少し暖かくなれば奇跡のように消えるだろう」などと超楽観的なことを言っていた(2月10日)。が、1カ月後になってようやく慌て出し、中国に責任を押し付けることで自分の不明ぶりが免罪されるかのように、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」の呼び名を広めようとした(3月16日あたりのツイッターから)。4月に入るとこれがさらにエスカレートし、「武漢の研究所からウイルスが漏れた可能性があり、徹底的に調査中だ」とし、中国政府が意図的にウイルスをばら撒いた可能性にまで言及した。そして、「WHOが中国寄りだ」と称してこの最中だというのに資金拠出を停止し、さらに米政府系の対外宣伝機関である「ヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)」が武漢市の封鎖解除を祝う市内の様子を映像で伝えたことなどを理由に「米国民の税金を使って米国の敵の声を代弁している」とホワイトハウスの公式ニュースレターで非難した。

こうなると、身内でも何でも当たるを幸い機関銃を乱射している風情だが、もちろんトランプの言い分はでたらめで、VOA側は中国政府による統計の不備や偽情報の振りまきなどを客観報道している証拠を列記して反論した。ワシントン・ポスト紙が「根拠も示さずに相手を中傷し、煽動的な攻撃で追い詰めるやり方は、1950年代のマッカーシズムのようだ」と指摘した。このトランプの乱射事件を演出しているのは、「そして誰もいなくなった」に等しいホワイトハウスに残った最後の宮廷道化師=ピーター・ナヴァロ大統領補佐官兼通称政策局長で、彼は他に類を見ない極端な嫌中派として知られている。

しかし、いくら中国非難を強めても、それによって米国のコロナ禍が静まるわけではない。窮したトランプは、「抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、クロロキンという成分が効くらしい」という危ない話を何度も持ち出し(3月20日以降)、医薬品認可の頂点に立つ米食品医薬局(FDA)から「心臓に深刻な副作用があるので使用は慎重に」と牽制を受けてきた。さらに最近は「消毒液を体内に注射できないのか」とまで言い募り(4月24日会見)、専門家たちから「塩素系漂白剤にせよ他のどんな洗浄剤にせよ、飲んだり吸ったりするのは自殺したい時だけだ」と呆れ果てられてしまった。

こんなことが続くと、いまホワイトハウスでほとんど唯一正気を保っていると言われる国立アレルギー・感染症研究所所長でコロナウイルス対策班長のアンソニー・ファウチ博士が、ついにトランプを見限って去ってしまうのではないかと懸念されている。79歳の今まで6代の大統領に助言をしてきた感染症対策の大家で、会見では常に後ろに控えてトランプの間違いや言い過ぎを遠慮なく訂正する気骨者ぶりが人気だが、そのぶんトランプの狂信的な支持者からは憎まれていて、すでに何度も殺害予告を突きつけられ、トランプ手配の護衛を連れて勤務している。

彼が辞めるか殺されるかした時には、トランプを牢に閉じ込めないと米国ばかりでなく世界が危険に晒されることになる。

image by: 首相官邸

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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