5月1日、政府は緊急事態宣言の枠組みを延長することを発表。期間や対象エリアなどの詳細は4日に決定すると報じられました。例年とはまったく様相の違う連休を前にして、新聞各紙は何を伝えたのか、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者で、ジャーナリストの内田誠さんが紹介。毎日新聞が伝えたこの時期に憲法議論を画策する自民党の動きや、東京新聞が伝えた都内での抗体検査の驚きの結果などに論評を加えています。
各紙はGW前に「新型コロナ」をどう報じていたか?
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…緊急事態 延長で調整
《読売》…緊急事態宣言 延長へ
《毎日》…緊急事態宣言 延長へ
《東京》…抗体検査 5.9%陽性
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…核以外の「抑止力」日本奔走
《読売》…軽症者ホテル 人手不足
《毎日》…都内感染 GW正念場
《東京》…韓・独 積極PCR 奏功
プロフィール
■欧米航空産業の黄昏■《朝日》
■米国経済の減速■《読売》
■自民党は「火事場泥棒的」■《毎日》
■抗体検査の驚くべき結果■《東京》
欧米航空産業の黄昏
【朝日】は5面の経済欄に、航空業界についての記事。昨日の《読売》の「後追い」感があるが、独自の内容も多そうだ。見出しから。
(5面)
欧米航空業界 コロナ急降下
ボーイング 680億円赤字 1~3月
1万人超削減案 英BA社
完全国有化へ 伊アリタリア
記事が対象にしているのは「欧米航空産業」。航空各社及び機体メーカーの苦境。
ボーイングは、コスト削減策として、「10%の人員削減に踏み切るほか、中型旅客機「787」シリーズの生産を半減させる」。売上高は前年同期比26%減の169億ドルで、主たる要因は事故が続いた主力小型機「737MAX」の運行再開が見込めないこと。そこに新型コロナウイルスの影響が重なった形。今は、「世界の旅客機」の3分の2が飛んでいない状態。業界が失う売り上げは今年、34兆円に達するという。
ボーイング787は「準日本製」とも言われる機体で、35%は三菱重工業など日本勢が担っているので、生産が半減する影響は日本にも直接及ぶ。
見出しにあるように、英BA社は人員の1万2千人削減を労働組合に申し入れ、アリタリアは政府が完全国有化の方針。ドイツのルフトハンザは支援を巡る政府との交渉で折り合いが付かない状態、エールフランスは8100億円の融資で政府が支援。
●uttiiの眼
どこもボロボロの状態で、これから数年は旅客が戻らないとすれば、ヨーロッパの航空産業は基本的に「国営」の性格を強めていくのだろう。既に半分そうなりかかっていたようだが、いっそう政府の財政支援がなければ成立しない産業になっていくように思える。
米国経済の減速
【読売】は1面から2面に掛けての記事で、米国経済について書いている。2面はGDPの中身の分析。見出しから。
(2面)
米個人消費 落ち込み鮮明
GDPマイナス
3月小売り 過去最大8.7%減
まずは【セブンNEWS】第3項目を再掲。
米商務省発表の2020年1~3月期実質国内総生産の速報値は、年率換算で前期比4.8%減となった。6年ぶりのマイナスで、リーマンショック時の08年10~12月期以来、11年ぶりの下げ幅。米国経済の収縮は貿易などを介して世界不況を増幅する可能性。
全体として年率換算4.8%のマイナスというのも大きいが、個人消費の部分が8.7%減というのは衝撃的な数字で、小売りや外食、宿泊のサービスを新型コロナウイルスが直撃、売上減少の結果、従業員を解雇するところが増えている。発表になったデータは3月までのもので、次の4~6月期についてはさらに悪くなる予測が多いという。調査会社ファクトセットによれば、主要500社の1~3月期決算は利益が前年同期比で15%以上減少したが、4~6月期の減少幅は30%に及ぶだろうという。
●uttiiの眼
再選を目指すトランプ米大統領としては、4~6月期30%減というのは耐えられない数字なのだろう。感染が再び激しくなる可能性があっても、経済活動を再開させなければ、11月の選挙は覚束ないと考えているのだろう。しかし、経済動向が芳しくなければ、またまたネガティブキャンペーンに頼ることになるのかもしれない。既に、バイデン氏のセクハラ関係の新しいスキャンダルが出てきているようだ。
自民党は「火事場泥棒的」
【毎日】は5面に、コロナ禍を奇貨として、自民党が憲法審査会を動かそうとしていることについての記事。見出しから。
(5面)
コロナ糸口に憲法審
開催焦る自民 野党「不急」
5月3日の憲法記念日が迫るなか、自民党が新型コロナウイルスの感染拡大を利用して、「緊急事態における国会機能の確保」なる名目で審査会を開こうと呼びかけたが、野党は「火事場泥棒的だ」(共産党・志位委員長)と批判して拒否。衆参の憲法審査会の停滞が続いていることに、自民党は焦りを募らせているという。
自民党が目を付けたのは、衆参の本会議開催に「総議員の3分の1以上の出席」が必要としている現行規定。
●uttiiの眼
自民党は国民投票法改正案(既に6国会を跨いでいる)を優先させようとしているが、野党はCM規制の議論を優先させるべきだとして、審査会はほとんど開かれていない。自民党のホンネは「改憲4項目」の議論だろうが、なんとか、野党側をテーブルにつけようとして出された新提案が「国会議員に感染が拡がった場合の憲法上の問題点の整理」だった。事態の「打開」を図って自民党は、佐藤勉憲法審査会長の職権で「与野党による幹事懇談会」をセットしたが、野党は応じず、逆に、「火事場泥棒的」などの激しい反応を引き出す結果となったという展開。
失言はなくても、新型コロナウイルスの感染拡大で「緊急事態」が宣言されている時に、「不要」はともかく、「不急」の課題を議論しようというのは非常識であり、与党の公明党からさえ、「いきなり衆院の任期と憲法の問題をからめることは飛躍している」(山口那津男代表)との批判を浴びることに。
抗体検査の驚くべき結果
【東京】は1面トップで、新型コロナウイルスの感染実態を探る東京都内の医師の調査について、大きく取り上げている。見出しから。
(1面)
抗体検査 5.9%陽性
市中感染の可能性
都内の希望者200人調査
実態把握へ検査拡大を
まず、【セブンNEWS】の第7項目を再掲。
新型コロナウイルスの感染実態を把握するため、感染症に詳しい久住英二医師が都内で希望者200人にウイルスの抗体検査をしたところ、一般市民で4.8%、医療従事者で9.1%が陽性で、過去に感染していたことが判明。既に蔓延の実態を窺わせる結果に。
この調査は、感染症に詳しい久住英二医師が理事長を務める新宿区と立川市のクリニックで21日から28日に実施されたもの。ホームページ上で希望者を募って、20才から80才の男性123人と女性79人について検査を行った。1ヵ月以内に発熱があったのは52人、同居者で感染者がいる人は2人、PCR検査経験者は9人で、うち1人は陽性反応が確認されていた人。検査の結果、一般市民147人中4.8%の7人が陽性。医療従事者55人中9.1%の5人が陽性。合計で202人中5.9%にあたる12人が陽性だったというもの。検査には、採血後15分で判定できるクラボウが輸入した試薬キットが使われた。
久住医師は、「原因不明の死者が増えていることからも、PCR検査を拡大して速やかに診断し、早期に治療を開始すべきだ」と訴えている。
記事には記者による「解説」が付いていて、この検査結果は「国内で感染が確認された人数を何十倍も上回る人がすでに感染した可能性を示している」とする。日本では検査例が圧倒的に少なく、「感染の拡大に検査が追いつかない状況が続く」と。慶応大学病院が実施した同様の検査(新型コロナウイルスとは無関係の入院患者67人へのPCR検査で4人、5.97%)でも驚くほど、今回の結果と近い数字が出ている。
記者は最後に「これまで検査数を絞ってきた世界でも珍しい日本式のやり方は見直しを迫られている。いったん決めた政策に固執せず、転換を図るべきだ」と。
●uttiiの眼
新型コロナウイルスに感染して既に治った人が6%近くもいて、市中蔓延状態であり、残りの大多数はこれから感染する可能性がある人たちということになる。感染爆発が起こるかもしれないのはこれからということだ。
東京の人口1390万人の中に同じ比率で「既に感染した人」がいるとすれば、その数は82万人を超える。これまでに確認された4百人あまりの数字は「氷山の一角」にもならない。「市中蔓延」はこの結果でも十分明らかだと思われ、一刻も早くPCR検査を拡充し、徹底したサーベイランスを実施して早期治療に結びつけていかなければ、犠牲者はどんどん増えていくことになるのだろう。
【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。
検査の精度とか確実性とか、色々問題を指摘する向きもあるようですが、抗体検査、大規模にやるべきではないでしょうか。蔓延の状況を周知し、かつ、自分が感染していないことが分かれば、よりいっそう、行動の自粛の徹底にもつながるように思います。
「自分の命」という、誰にとっても重要な「守るべきもの」を意識させるのが、日本人に社会的な行動を促す最も効率的な方法になっているようですから。もう1つ、政治的な指導者の発言や姿勢に対する、一般の信頼がどの程度かということも、対策を効率的に実施しうるか否かを決める重要な要素だと思われますが…。
image by: 首相官邸