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検察庁法改正問題、見出しだけでなく記事まで政府を擁護する読売

緊急事態宣言下の国会で審議されることになった「検察庁法改正案」について、ふだん政治的なツイートをしない芸能人を含む400万件以上の「#検察庁法改正に抗議します」の投稿があり、ツイッターのトレンドとなりました。この動きへの解説に加え、そもそもの「検察庁法改正」の問題点について、各紙がどう解説したか、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者で、ジャーナリストの内田誠さんが伝えます。内田さんは、「ツイッターデモ」を「民意」とは認めない政府・与党、見出しだけでなく記事まで政府擁護に徹する読売新聞に釘を刺しています。

「検察庁法改正案」について各紙はどう解説していたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…検察庁法改正案 抗議ツイート急拡大
《読売》…自粛解除へ独自基準
《毎日》…野党、定年延長で修正案
《東京》…週内採決 自民が方針

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「火事場泥棒」「後付け」批判
《読売》…オンライン診療 両刃の拡大
《毎日》…恣意的人事に懸念
《東京》…Zoom 映し出す欠陥

プロフィール

■ツイッターでの抗議は「民意ではない」■《朝日》
■法曹界が反発?■《読売》
■人々の怒りに火が点いた■《毎日》
■保身に走る政権■《東京》

ツイッターでの抗議は「民意ではない」

【朝日】は1面にトップ記事と「天声人語」、2面は解説記事「時時刻刻」。3面の関連記事、4面与野党論戦詳報、12面社説、25面社会面。見出しから。

(1面)
検察庁法改正案 抗議ツイート急拡大
首相 今国会成立の構え
自民「週内に衆院通過」

(2面)
「火事場泥棒」「後付け」批判
コロナ禍の中 法改正急ぐ政権に
法案束ねる手法 疑問
検察内にも異論 唐突な特例

(3面)
検察庁法改正案 問題点は
検事長定年延長「正当化」
特例規定 政治介入の恐れ
政府答弁 迷走の末
検察、元首相の逮捕も 独立性が必須
首相「恣意的人事ない」

(12面・社説)
国民を愚弄する暴挙だ

(25面)
「#抗議します」 芸能人も次々ツイート
俳優・演出家・歌手
「日米に土壌の差」

●uttiiの眼

一面記事の末尾、ツイッター上での抗議について聞かれた首相は「政府の対応について様々な反応もあるんだろう」と答えたという。随分とすっとぼけたようなリアクションだが、朝日が取材した政府高官が、「組織的な大量投稿が可能だとして「民意ではない」と語った」とされているのは興味深い。

「組織的な大量投稿が可能」なのはその通りであり、屡々、自民党がそのような“対策”を行っていることでも明らか。先日の星野源さんの動画を無断で利用した首相の「自宅でくつろぎ中」動画に寄せられたとされる35万件の「いいね」こそ、怪しい大量投稿の“賜物”だったと思われ、さすがに自分でやっているだけあって、よくご存じなのだなあと妙に感心してしまった。因みに、組織的な大量投稿かどうかはツイッターのアカウントを調べてみれば分かるはずだ。

ツイッター上に溢れる抗議の民意に対する政府・自民党側のこうした捉え方は、2面の「時時刻刻」にも見えている。11日に行われた党役員会でツイッター上の批判が話題になったが、「1人が何回もツイートできる」として、抗議の「大きさ」に疑問が呈され、党幹部の中には「1人が100万の声をでっち上げられる世界。批判どうこうという話ではない」と言ったという。天に唾する行為だろう。

法曹界が反発?

【読売】は4面政治面のベタ記事と28面社会面。見出しから。

(4面)
検察「定年延長」野党が攻勢
ツイッターで抗議拡大「火事場泥棒」

(28面)
検察定年 議論が過熱
特例延長に法曹界反発

●uttiiの眼

例によって、驚くほど扱いが小さい。読者のほとんどは気が付かないくらいではないかと思われる。しかも、4面記事の見出しに「検察「定年延長」野党が攻勢」とあるように、野党による政府攻撃の材料だという観点からの記事にしてしまっている。2行目になれば「ツイッターで抗議拡大」とあるけれど、1行目で、「また野党が批判のための批判を繰り返しているのだな」という印象が固まってしまう。固まらせたいのだろうが…。

この地合は28面社会面にも引き継がれていて、こちらは「検察定年 議論が過熱」となっている。「過熱」は必要以上に熱を帯びること。無駄なエネルギーが費消されているという印象が浮かぶ。ここは2行目も同様の角度からの印象操作が効いていて、特例延長に反対しているのは「法曹界」とみなされている。反対者は狭い範囲の利害の代弁者に過ぎないという含意だ。政権擁護の用語法。

読売の場合、記事の中身は比較的まともで、編集幹部がチェックする見出しにジャーナリズムらしからぬ政権擁護の姿勢が滲むことが多いのだが、きょうに関しては記事もひどい。

この法改正に関する政府側の説明を長々と文字化して、さも正当性があるかのような体裁を繕っている。例えば、「法務省は「少子高齢化が進む中、知識や経験が豊富な人材を最大限いかすには他の国家公務員と同様に検察官も定年引き上げが必要だ」と改正案の意義を強調しており、政府は今国会での成立を見込む」と、臆面もない。

人々の怒りに火が点いた

【毎日】は1面トップと3面の解説記事「クローズアップ」。見出しから。

(1面)
野党、定年延長で修正案
「検事総長68才」削除

(3面)
恣意的人事に懸念
検察庁法改正案
SNSで抗議400万件
生活優先されず「怒り」
「内閣が判断」の新規定

●uttiiの眼

《毎日》の特徴の1つは、1面トップの見出し。立憲民主党などの野党が、修正案を出す方針であることを重要視している点。修正案は、全検察官の定年を63才から65才に引き上げる規定はそのままに、検事総長の定年を特例的に68才まで3年間(1年ずつ3回)延長できるようにしている部分などを削除する。検事総長の政権に対する忖度を引き起こしかねない規定に照準を合わせようということだろう。

3面の解説記事は、ツイッター上にあふれる抗議の声に、野党側は気を強くしていて、「世論が味方に付く」と解して採決妨害などの物理的抵抗も辞さない勢いであること。与党側は、《朝日》のところで紹介したように「1人で100万件の可能性もある」と言ったり、数百万という数字に対する疑いを口にする議員がいたりする一方で、自民党の国対からは「やるしかないけど、本当に気が重い」とホンネも漏れているとする。

《毎日》は400万という数字を採用しているが、とにかく膨大なツイートが集まっていることについて、「特徴的なのは、政党支持者や、普段から社会や政治について発信している人以外からとみられる投稿が多いことだ」として、演出家の宮本亜門さん、俳優の浅野忠信さん、井浦新さん、小泉今日子さんら著名人の投稿が相次いだことをその要因に上げる。

昨夏の参院選で「れいわ新選組」が躍進した時は、特定政党を支持する動きであって、精々10万件程度だったが、今回はそれを突き破った。そうした広がりの「着火剤」と「燃料」になったのが、「(誰かが作ってツイッターに投稿した)法案と与党の相関図などの分かりやすい材料」で、威力を発揮したようだ。

重要なのは、人々が新型コロナウイルスの感染拡大で先行きを不安に感じ、政治が身近になりつつある時に、「検察官の定年延長」という「生活に無関係な問題が優先されることに対する水面下の怒り」が刺激されたとしている点。

政府は人々の頭が新型コロナウイルスでいっぱいになっている時だからこそ、「文句も出ないだろう」と高を括って身勝手な法案を無理やり通そうとしているのだが、人々はかえって、政府のそのような動きに怒りを持ったということ。われわれの命と生活をないがしろにしておきながら、気に入った検察官の定年を延長するとは何事かと、いわば怒り心頭に発したということだろう。与党は完全に世論動向を読み間違ったことになる。

保身に走る政権

【東京】は1面トップと5面の社説、20面21面の「こちら特報部」、22面社会面。見出しから。

(1面)
週内採決 自民が方針
定年延長 野党「コロナ悪用」
首相「恣意的 当たらない」
ネットデモ拡大 法相不在で審議

(5面・社説)
ツイートの抗議に耳を

(20面・21面)
ツイッターデモ 政治・社会 動かす?
470万件「#検察庁法改正案に抗議」
著名人の投稿 続々
途中で減少も 「世界記録」か
コロナ禍で「政治不信」うねり
「筋通らぬ違法行為」憤り可視化
沈黙NO 誰であっても発信OK

(22面)
「政治的中立性 脅かされる」
検察庁法改正案 日弁連が抗議声明

●uttiiの眼

《東京》の最大の特徴は、「ツイッターデモ」とか「ネットデモ」という言葉を当然の如くに使用している点。コロナ禍の最中で街頭に出て集まることができない怒れる市民が、ネット上で巨大な示威行動を起こしている点を重視している。

1面記事最後段には、立憲民主党などの野党が、政府が一体として提出している国家公務員法改正案などと検察庁法改正案を切り離すよう求めたのに対し、自民党が応じなかったため、安住国対委員長は「与党が修正に応じないなら法案の採決に応じない」と記者に語ったという。ここにも「強気の野党」の姿が出ているが、その背景にあるのは数百万の抗議のツイッターであることは見ておかなければならない。

「こちら特報部」は見開きで、このツイッターデモについて書いている。今回、芸能人や著名人がこの動きに加わったことについて。「芸能界では、政治的な発言はタブー視されがち。あつれきを起こしたくない番組のスポンサー企業に嫌われてしまえば、テレビに出演することができなくなってしまう」という。

だが、「今回はさすがにみんなの我慢の容量を超えちゃったんじゃないか。コロナのどさくさ紛れに検察権力を手中に収めようとする手法は『あまりにも姑息すぎる』」と(自らもツイートした落語家の立川談四楼さん)。記事の中には、きゃりーぱみゅぱみゅさん(ファンの間に賛否両論の激論が起こったことで後に消去)、小泉今日子さん(制作会社『明後日』)、浅野忠信さん、大久保佳代子さん、「大極宮」(作家の大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきの3氏が運営)のツイートが紹介されている。

ただ、ツイッター社は最高経営責任者が安倍首相と面会したり、日本青年会議所と情報リテラシー教育支援の協定を締結したりと、政権にすり寄る動きが顕著な会社。今回も、途中で「#検察庁法改正案に抗議します」のツイート数が突然数十万単位で減り、ツイッター社が削除したのではないかと言われている。政権からの圧力と取る人たちもいる。それでも、今回のツイート数(《東京》は470万件とする)は「世界記録」だという。

そして、今回、「新型コロナの問題を通じ、現政権が生活を守ってくれないと感じた人が多いはず。そんな中で『国民の生活よりも保身なのか』と怒りが向けられた」(「明日の自由を守る若手弁護士の会」の共同代表、神保大地氏)という見方を紹介している。

もう1点。今回、芸能人が多数この動きに参加した背景に、芸能界が「自粛」の影響を非常に強く受けた業界だったということがあるという。ライターの松谷創一郎氏によれば「芸能界は自粛のダメージが大きかった分野。ライブや収録が次々に中止となり、収入面で大打撃を受けた。にもかかわらず、政府の支援先は乏しく、政治不信が強まっている」と。そこに出てきた「不要不急」の法案に非難が殺到したということだ。

image by: 東京高等検察庁

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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