火事場泥棒と蔑まれても黒川氏を検事総長にしたい安倍官邸の魂胆

 

もともと、安倍首相個人の疑惑に端を発している。「桜を見る会」の問題点が国会で指摘され、公選法や政治資金規正法違反の疑いで東京地検に告発状が提出されたことから、昨年12月になって、突如として黒川氏を定年延長させる案が持ち上がった。

黒川氏は法務省の官房長や事務次官だったころから、検察と官邸の間で立ち回り、特捜が本格捜査を始めたら政権にダメージを及ぼしそうな事件にストップをかけてきた。

たとえば、後援会観劇ツアーで有権者を買収した小渕優子・元経産大臣、URへの口利きで現金を受け取った甘利明・元経済再生担当大臣。明白な証拠がそろっているこの二人の事件を潰したのは、当時は法務省の官房長だった黒川氏といわれる。

これらの“実績”を、安倍首相は評価していた。余人をもって代えがたい、と思っていたのだろう。

ところが、現行の検察庁法では、検事総長以外の検察官は63歳に達したら退官しなければならない。1957年2月8日生まれの黒川氏の退官日は今年2月8日だったが、法律に従ってやめられては、検察に対する官邸の切り札を失ってしまう。

そこで、検察庁法に規定がないにもかかわらず、国家公務員法の「定年延長」をむりやり黒川氏に適用し、今年1月31日、「黒川東京高検検事長の勤務を今年8月7日までとする」という前代未聞の閣議決定をしたのである。

現検事総長、稲田伸夫氏は今年7月に在任2年を迎え、慣例では退任時期にあたる。黒川氏の勤務を8月まで延長すれば、稲田氏の後釜に黒川氏を据えることが可能になる。晴れて検事総長となったなら、黒川氏は、その恩に報いるため、安倍政権の安泰のために全力を尽くすはず、というのが官邸の胸算用であろう。

周知のとおり、この定年延長問題については、国会で激しい議論が交わされた。そのなかで、人事院がこれまで「検察庁法に定年の規定がある検察官には、国家公務員法の定年制は適用されない」としてきたことが明らかになり、閣議決定の違法性が問われる事態となった。

窮地を脱するために安倍首相は2月13日の本会議でこう述べた。

「検察官も一般職の国家公務員であるため…勤務延長については国家公務員法が適用されると、解釈することとした」

立法時の精神を無視するお得意の「解釈変更」をまたも、やってのけたのである。

今回の検察庁法改正案は、そのような無理筋の「解釈変更」を塗り替え、正当な法律として固めて、後々文句を蒸し返されないようにするのが目的と思われるが、その法案の提出方法がこれまた姑息である。

第二次安倍政権になって以来、複数の内閣提出法律案を束ねて一本の法律案として提出する「束ね法案」が目立っている。この検察庁法改正案も、国家公務員法改正案として「束ね」られた。

いわくつきの検察定年問題を国家公務員法改正案のなかに紛れ込ませ、コロナによる混乱に乗じて、さっさと通過させてしまおうという魂胆がありありだ。

案の定、改正案の審議が始まった5月8日の衆議院内閣委員会は、黒川問題で追及され続けた森まさこ法務大臣の出席を与党側が拒み、野党が反発するという波乱のスタートとなった。

いかに内閣委員会の場とはいえ、検察庁法改正については当事者である法務大臣が出席しないというのはどうみても異常である。それなら、内閣委員会と法務委員会の合同開催とし、森大臣を出席させよ、という野党の意見にも、与党はまったく聞く耳を持たない。

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