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在NY日本人社長がコロナ禍で叫ぶ「もっと前のめりになれ」の意味

数多くのセミナーで講師を務め、大学生などの若者からさまざまなアドバイスを求められるメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者でNY在住20年、『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さん。「したいことがあるなら時間をおかずにやるべき」「ゼロから1歩踏み出せば成功したようなもの」などの助言をしてきましたが、ロックダウンを経験し、その考えはさらにスピード感を求める方向に変わったようです。高橋さんは、「1歩踏み出したことで安心してしまい、結果を出すことから逃げていないか?」と問いかけています。

ロックダウンの渦中で気づいたこと。気付かされたこと

先日、ロサンゼルスの、ある社団法人のセミナーにスピーカーとしてご依頼頂き、ニューヨークにいながら、ZOOMにて90分ほどお話させて頂きました。定期的にセミナーを主催するその会合の、ありがたいことに歴代最多の参加者がアクセスしてくださいました。と言っても、100名ほどのそう大きくないセミナー。

それでも、シッカリとした著名法人グループなので、いつもは、ぶっつけ本番でしゃべるくせに、この日ばかりは珍しくも、台本とまで言わずとも、話す内容の簡単なアウトラインくらいはメモして臨みました(いつもはそんなのすら用意していない)。

で、セミナーは始まり、メモしたアウトランどおり、順調にパソコンの前でしゃべっていきます。今の時期は、当然、ニューヨークのロックダウンの現状と、そして、その渦中にいながらにして感じたことを話していきます。「今、できることをやろう!」「こんな時期だからこそ、現状にアジャストしてビジネスモデルを変化させていこう!」そんなような内容です。おそらく、どこのセミナーでもよく聞くロジック。無難にやりこなすため、アウトライン通り話していきました。

中盤を過ぎたあたりでしょうか。ふと、我に返り、冷静になってしまいます。本当に、これが自分の話したい内容なのだろうか。ネット上のどこででも見つけることのできる、手垢のついた説教めいたことをいまさら聞きたい人間なんているのだろうか。

しゃべりつつ、セミナー開始数時間前に、故郷岡山のおさななじみからかかってきた電話を思い出します。気づけば、メモしたアウトラインを放り投げ、「スイマセン、ちょっと当初予定したいた内容を変えて、今から、本音トークに切り替えていいでしょうか」とラップトップに向かって話していました。100人の参加者に向かって。というより、自分自身に向かって。

おさななじみは保育園の頃から知っている同い年の女の子。同い年ということは、もう女の子ではない。立派なおばさん。ステージ4の大腸ガンが、肝臓にも転移されたと電話で切り出されました。幼稚園の頃の彼女の姿が思い浮かびます。いつもやさしかったおばちゃん(彼女の母親)も同じ病気で数年前に他界されました。つとめて明るく話す彼女に「…絶対に負けるなよ」と月並みな言葉しか僕は言えませんでした。

決して、お涙頂戴の話を書きたいわけじゃないんです。ただ、彼女のセリフの中であまりに印象に残った言葉があったので、それを書きたかった。ここで紹介したかった。
「先月の23日に医者に告知されたんよー。それまでは自分がガン患者なんて思ってもみなかった。だから22日以前のアタシと、23日以降のアタシはまったく違う人生を歩いてるってわけ」

いつも以上に明るく話すからこそ、胸に刺さる。ある日を境に、それまでの価値観も人生観もすべてをひっくり返される。多くのガン患者さんは同様の経験をされていることと思います。そう、ある日を境に、「急」、なんです。

ロックダウンも急でした。確かな記憶ではありませんが、おそらく、ロックダウンすると行政が発表してから、実際に敢行されるまで、30時間くらいしかなかったと思います。30時間だと何もできない。もちろん食料などの生活必需品を買い揃えることはできます。でも、事業において、クライアントへの説明、継続決定のミーティング、弊社であるならば、新聞発刊に向けての印刷所、配送業者への手配、家庭に目を移すと、臨時のベビーシッターさんも手配できない。あまりに「急」でした。

前のめりに結果を求めよう

たぶん、人生の不測な事態は、すべて「急」なんだと思います。人間ごときが「今はちょっと…」と交渉したところで、ウイルスも、ガン細胞も、交通事故も、身内の不幸も、待ってくれない。おかまいナシ。予測なく来る。こっちの都合なんて関係ない。あまりに急です。待ったナシ。それらにこちらの都合を忖度する気は限りなくゼロ、です。目の前に「ドンっ」とくる感じ。問答無用です。

そんなことはわかっている、と言われるかもしれません。なにをいまさら、と。でも果たしてそうでしょうか。本当に僕たちはそのことを心から理解しているのでしょうか。頭でわかったような気になっているだけなんじゃないだろうか。ふたりにひとりはガンになると言われて、ならないひとりに自分はなると根拠なく思い込んでいないだろうか。今から予防すればなんとか避けられると、去年も、一昨年も言い聞かせてなかっただろうか。その前の年も。その前の前の年も。

街の封鎖と、おさななじみからの告知を同時に受け、そんな僕がセミナーで話したいことは、セオリー通りの「ありがたいおはなし」ではありませんでした。だからと言って、「不測の事態は急に来るから、常日頃から一生懸命生きましょう!」なんて人生訓を言いたいわけでもありませんでした。メモしたアウトラインをモニターの前で捨てた僕の本当に伝えたいことは、「みなさん、前のめりになって、焦って、いちいち結果を求めましょう」ということ。

「前のめりになって、焦って、結果を出す」―。一見すると、あまりに間違ったセリフです。事実、参加者のみなさんは「え!?」という顔に一瞬なりました。常日頃から「人生」を「人の生きる道」を勉強されている集団です。聞き慣れない、あまりにツッコミどころ満載のセリフに、次の瞬間、異論、反論を浴びせようという空気になりました。「なにを言っているんだ!?」と。

なぜなら、僕たちは、特に僕たちより上の世代の方は、何十年も言われて続けてきたから。「結果なんかより、その過程の方がずっと大切」「焦って結果ばかりを求めてもロクなことはない」「実力もないのに、前のめりになっても失敗するだけだ」と。こんな正論を、人によっては半世紀以上、聞かされてきたと思います。親に、先生に、上司に、先輩に、映画に、ドラマに、小説に、漫画に、セミナーに。

僕自身も実はそう思っています。反論の余地はない。100%正しい。結果よりもその過程の方が重要。焦って結果ばかりを求めても、ことがうまく運ぶことはない。賛成です。その通り。でもね。あんまりにも、日本全国でそんな言葉を聞き過ぎて、ひょっとして一周回って「結果はどうでもいい」とか「いつまでも過程だけでいい」と無意識にもみんな思っていないだろうか。

小規模も含めると、日本全国で100を超えるセミナー、講演会をやってきました。基本、学生さんに向けてのセミナーが多いということもありますが、講演会後、挨拶にきてくれる若い世代の多くはみんなこう口を揃えます。「●●をしようと思っているんです」と。

こんなテーマで小説を書こうと思っているんです。今までにないこんなジャンルのコンピューターゲームのプログラミングをしようと思っているんです。ギターさえ揃えば、バンド組んで売り出そうと思ってるんです。今の時代、何々の資格より、実は何々の資格の方が稼げるってことが案外知られていないので、僕はその資格を取ろうと思っているんです。今度、友人3人とこんなサービスのビジネスで起業しようと思ってるんです。etc…….

始めることから逃げてるだけじゃ?

今まで、おそらく100人以上の若い参加者に、そう話してもらいました。でも、100人を超えたあたりから、僕が思うことは「で、いつ始めるの?」ということ。嫌味や皮肉じゃありません。本当にリアルに疑問に思ってしまう。もちろん年代にもよると思うのですが、で、いつ始めるんだろうと心からクエスチョンになる。

もちろん、社会的にも規模的にも巨大企業の、たとえば140億円を投資する新規事業であれば、社会情勢、人材確保、為替等マーケティング期間は必要となります。開始するタイミングを見合わせる必要性を感じます。他にも例えば、「住宅ローンを返済し終わったら」「下の子が大学を卒業したら」そこから始めようと思う、というのならまだ理解もできます(いや、実はこの場合もそう理解はできないけれど)。

でも、僕ごとき、あるいは僕のセミナーに来てくれる大学生くん達が、なんのタイミングを待つ必要があるのか。始めることから逃げているんじゃないのか。そう本人たちに言うと、怒るはずです。無意識だから。逃げている自覚自体がないから。でも、その「いつか」がずっとこないまま、人生も定年を迎えている諸先輩方を僕はあまりに多く見すぎてきた。

100人、挨拶にきてくれる彼らのうち、10%、つまり10人くらいは「すでに始めています」と言ってきてくれます。すでに小説を書き始めています。プログラミングを手がけています。スタジオで音合わせもして自主制作のCDを作り始めています。受験勉強を始めています。会社登記を終えました…etc.。

ロックダウンまでは、その10%を僕は「偉い」と褒め称えていました。拙著『武器は走りながら拾え』にも「ゼロから1歩踏み出せば成功したようなもの」といった類のことも書きました。「●●を始めたい、と言ってるだけより、すでに1歩でも何かを始めています、の状態の方がずっと偉い。両者の間には、すでに夢に向かって具体的な行動を起こしているか、いないかの、決定的な溝がある」みたいなことを書きました。

でも、今回、世界的ロックダウンを身を以て経験して、僕は、その10%ですら、ダメなんじゃないか、と思ったのです。それすら全然、十分じゃないんじゃないか、と。「すでに1歩を踏み出した」、「ゼロではない」、「夢にむかって生きている」層は、それだけで安心しきっちゃってると気づいたからでした。

高橋センセに言われたように、もう、僕は、アタシは、1歩を踏み出しました。いつか、いつかと口で言ってるだけの連中とは違います。そう安心しきって優越感に浸っている表情の参加者も10人中、9人ほどいたからでした。

スタートを切った後は?無意識に結果を出すことから逃げている。白か黒かをつけたくない。なぜなら、せっかく、今、夢にむかってる真っ最中な身分を手に入れたのだから。

小説1冊書き上げたけど出版社から断られたので、もう1冊書こうと思ってるんです。ゲームプログラミングで1回当てたので、次また違う作品作ろうと思ってるんです。1回CDデビューしたけれど、思ったほど売れなかったので、次はヒット曲書きますよ。受験落ちたけど、もう傾向と対策はわかったので、次はなんとか合格します。事業で黒字を出したので、それを元手にまた新たなビジネスモデルに挑戦しようと思ってるんです…etc.。

ここまで話してくれる参加者は10人中、ひとりくらいでした。つまり、挨拶にきてくれる100人中ひとりくらい(もちろん、すでにそこまでやっている人間は、僕のセミナーに参加する必要性もないのが最大の原因だとは思います)。だからこそ、白黒、つけよう。焦って、前のめりになって結果を求めよう。

成功でも失敗でも結果が大事

もちろん、そんな焦って前のめりになっても失敗する可能性の方が高いかもしれない。だったらまた挑戦すればいい。企業のように数億円の損失も出ない。なにより「いつか」「いつか」と言い続けて、結局、「もう少し若かったらなぁ」と自虐的に笑う晩年になるより数倍マシだ。

僕自身もそうです。子供の頃からベストセラーを書くのが夢でした。2冊目以降は別にして、1冊目は結果を出したかった。つまり「売れ」たかった。ここで繋がってくださるみなさまと、出版社の営業のおかげで、いちおう無名作家のデビュー作としては上々の売れ行きでした。本が売れない今の時代、ベストセラーと言っても支障ないほどには売れました。この事実だけを見れば、いちおう「夢は叶った」わけです。

では、なにか、僕自身の周囲で世界が変わったか。…そんなに変わってない(笑)いや、全然、変わってない。もちろん印税も入ってきたし、フェイスブックでは2000人以上が友達申請してくれました。でも、その程度。それでは、個人的に自己顕示欲が満たされたとか、承認欲求が満たされたとか、そういった気持ち的な変化はあっただろうか…。いや、そっちも、そうでもない(笑)

てことは。もし売れなかったとしても。つまり、失敗に終わったとしても。そう自分の環境は変わらなかったんじゃないだろうか。何も結局、変わってないんです。もちろん、いい意味で。

あえて言います。大手企業の事業目標や、政府の政治方針に比べて、特に、僕ごときや僕のセミナーに参加してくれる若い世代の「夢」や「目標」や「成功」や「失敗」なんて、その程度のもの。それくらいに自覚した方がいい。だからこそ、無意識に逃げなくてもいい。とっとと決着をつけた方がいい。

前述の「結果を求めよう」というのは、なにも「成功して実績を上げよう」と言ってるわけではありません。成功でも、失敗でも、どっちゃでもええから、どっちかハッキリさせようぜ、と言いたいだけなんです。

デビュー作が売れた。でも、そう何かが変わったわけでもない。もし売れていなかったら。おそらく、それでもそう大きく変わらない。つまり、僕のあれだけ望んだ「ベストセラー」という成功も、あれだけ恐れた「まったく売れなかった」という失敗も、結果を受けて、僕が次に取るアクションは変わらない。「2冊目を書こう」。デビュー作を担当してくれた編集者の彼女と約束しました。「次は、もっといい作品を世に出そうね!」と。

結局、アカデミー賞を受賞した映画監督ですら、次回作を撮らないと「一発屋」と言われます。アーティストもそうです。アスリートもそうです。生きている限り、挑戦は続く。「前のめりになって、焦って、いちいち結果を求めよう」とはつまりは、そういう意味なのです。白なのか、黒なのかを、現代のアメリカや日本で「一般市民」をやっている僕たちが恐れる必要はない、ということなんです。「ドンっ!」と目の前に予期できない不測の事態が来るときは来るのだから。

今回、世界の中心でロックダウンを経験し、もしこのまま生涯ロックダウンが解除されないとしたなら…、そんな想像をしました。もしくはロックダウンでなく、隕石が明日、落ちてくるとしたなら。「今、夢を追ってる最中なんだあー。夢を追ってる状態で死んでいけるうー」と幸せな顔で死ぬのは、実は、それがいちばん幸福なのかもしれない。

でも、僕は。悔しい顔で死ぬかもしれないけれど、悲しい顔で死ぬかもしれないけれど、やっぱり、白か、黒か、自分の手がけたことの結果を知りたい。で、次の一手を考えたまま死んでいく。

image by: hsc.tv / Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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