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賭け麻雀疑惑も飛び出した検事長問題、「法改正」見送りの大誤算

政府与党により採決が強行されると見られていたものの、一転して今国会での成立が見送られることとなった検察庁法改正法案。先日掲載の「小泉今日子ら『#検察庁法改正に抗議します』きゃりーは削除」等でもお伝えしたとおり、多くの国民が巻き起こした「うねり」を無視することはできなかった安倍政権ですが、現行案のまま成立めざす姿勢に変わりは見られません。当の黒川弘務東京高検検事長については20日に文春オンラインに賭けマージャン疑惑が報じられるなど、さまざまな思惑が蠢いているようにも受け取れる検察庁法案周辺ですが、新聞各紙は今回の「見送り」をどのように報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、詳細に分析・解説しています。

検察庁法改正見送りを、新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…検察庁法改正 今国会断念
《読売》…検察庁法案 今国会見送り
《毎日》…検察庁法改正見送り
《東京》…検察庁法案 今国会断念

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…民意 見誤り打撃
《読売》…政府 強気から一転
《毎日》…怒りのツイート 政権直撃
《東京》…人事介入なお懸念

プロフィール

各紙、今国会での検察庁法改正案成立を政権が断念したことを大きく伝えています。この問題をどう捉えているのか、各紙の「論」を検証します。その前に、記事文中、「法案」を主語とする場合に、各紙はどのように形容してきたか、まずはこの欄で触れておきたいと思います。法案をどのように呼ぶか。ここに問題の捉え方のエッセンスが含まれていると思います(《朝日》は昨日の紙面から拾っています)。

ご覧の通り、《毎日》が一番丁寧で正確ですが、《朝日》《東京》も言わんとするところは同じです。《読売》は、国会でこの点の改正には野党も反対していないということから考えても、ほぼ「間違い」のレベル。少なくとも、これでは問題の意味が全く分かりませんね。

国民の政治意識は高まっていた

【朝日】は1面トップ記事の末尾に国会取材キャップ・蔵前勝久記者による「視点」が点いている。1面トップ記事の見出しから。

「視点」はまず、今回の「断念」の背景には「新型コロナウイルスの危機にさらされる国民の政治意識の高まりがあった」とする。検査は受けられるのか、給付金は届くのかと政府対応に疑問を感じながら、自粛を求められるばかりの国民。他方、政府は野党の質問にもまともに答えず、国会もその機能を果たしていないという不満。そのような不満が「#検察庁法改正案に抗議します」のもとに噴き出したとする。

政府は、恣意的な検察人事を可能とするような法案を出しながら、特例の対象とする際の基準さえ示さない。コロナ禍に広がった意識が、政治の傲慢さを見過ごさず、世論のうねりにつながったと。

uttiiの眼

冒頭の指摘は非常に重要。コロナ禍の最中だからこそ、強引に通せるだろうと高を括っていた政府に対しては、「火事場泥棒」という批判がなされたのだが、市民の側からすれば、「火事」(コロナ禍)でむしろ危機感が高まり、警戒感も鋭敏になっていたところに、「泥棒」(検察庁法改正案)がノコノコとやってきたことになる。政権は、国民をなめきっていた。政権からすれば、特定秘密保護法のことを見ても、批判は一時的であり、すぐに忘れてくれるという“成功体験”があり、その記憶にすがって強行しようとしたことになる。

記事の末尾。記者は政府・与党がこの法案を先送り、引き続き「世論の反発を受けてもほおかむりして逃げ切る」手法を繰り返そうとしていることを、正しくも批判している。

秋になっても世論は許さない

【読売】は1面の定番コラム「編集手帳」を取り上げる。

uttiiの眼

今朝の《読売》は、相変わらずこの問題を「国家公務員の定年を65才に引き上げる国家公務員法改正案に合わせて、検察官の定年を63才から65才に引き上げる内容」などとし、今国会での成立断念についても「改正案に野党が徹底抗戦することで、第2次補正予算案の審議日程に影響するのを回避する狙い」などと、飽くまで「政局的な判断」とみなすことで、検察庁法改正案が持つ真の意味を隠そうとしているように見える。ただ、編集手帳だけは少し様子が違っていて、記者らしい気骨を見せているところがあるので、ここで取り上げることにする。

手帳子は、ロッキード事件などの捜査を指揮したことで有名な吉永祐介さん(故人)が検事総長に就任した時の記者会見の思い出を語っている。

意外なことに、吉永氏は、組織の説明から始め、「検事は準司法官です」と言ったらしい。行政の一部でありながら、司法に準ずる権限を持つという微妙な立ち位置であり、「政府からの独立性」を国民に理解してもらいたかったのだろうと手帳子は推測している。当時は、ゼネコン汚職の捜査の中で取調中に検事が暴行事件を起こし、「検察権力への国民の信頼が揺らいでいた」という。

手帳子は、検察の独立性が揺らぐのは、ゼネコン汚職の取り調べで検事が暴力を振るったときような、「暴走」が起きた場合だと思っていたという。不祥事をきっかけに、政治が検察に介入を目論むというケースだ。ところが今回、そのような「必然」が見当たらないことに、「疑問を禁じ得ない」という。

今回の法案を「政府と準司法官の関係を変えかねない検察庁法改正案」と性格付ける手帳子は、「幹部の定年を内閣が延長できるとした特例規定に、政治家の顔色をうかがうようになっては困ると世論の反発は強い」とし、それは「涼しい季節が来ても、世論は冷えてはいまい」とまとめている。

よく見れば、手帳子は自身の見解を明確には口にしていない。「世論」は許してくれないだろうという言っているだけだから、この言い方は、狡いとも言える。それでも《読売》の1面にこのような記事が載るのは珍しい。

庶民のシンプルな正義感の勝利

【毎日】からも、1面の定番コラム「余録」を取り上げる。《読売》の手帳子は吉永祐介検事総長の話だったが、余録子はその4代ほど前の検事総長だった伊藤栄樹氏(故人)についての逸話。

uttiiの眼

「その昔、司法研修所で昼食後の眠たくなる時間なのに居眠りする修習生がいないので評判の講演があった」という書き出し。それがミスター検察こと、伊藤栄樹・元検事総長の講演だったという。「巨悪を眠らせない」のフレーズで有名な伊藤さん、のっけから「悪いヤツほどよく眠る」と切り出されては、修習生も眠るわけにはいかなかったという、ここは「笑い話」。

その伊藤栄樹さんが、悪の大小の順番をつける方法はただ1つで、「検事がいつも庶民の心を失わないことだ」と言っていたらしい。そのことが、戦後、検察の公正さに対する国民の信頼をつなぎとめてきたのだとする。今、コロナ禍の中で暮らしと生業を脅かされている庶民が、内閣が検察官の定年を特例延長できるようにする検察庁法改正案という「見当違い」を許すはずもないと。

最後に「過去の疑獄では検察の士気の源泉となってきた庶民のシンプルな正義が、検察の独立と中立を救った一幕である」と結んでいる。

責任を取るのは誰か

【東京】は1面トップ記事の末尾に、上野実輝彦記者による解説的な部分がある。1面記事全体の見出しから。

uttiiの眼

政府の法案成立断念の理由を、「世論の怒りや反発が想定以上だったため」とする。採決が強行されるのではないかという懸念を多くの市民が抱いていたところに、正面突破をしてしまえば政権運営に大きな打撃となり、政府・与党は先送りに追い込まれたと。

今回、世論の「声」の高まりはツイッターなどを使った「ネット・デモ」となったが、「政府は当初『声』を軽んじた」。ところが世論のうねりは続き、検察OBが反対の意見書を提出。最終的には18日、「複数の報道機関が公表した世論調査で、軒並み内閣支持率が低下し、検察庁法改正案では反対が賛成を大きく上回った」ことで、第2次補正予算案の成立優先を口実に、先送りに舵を切ったことになる。

記者は最後に、自民党中堅の反応を紹介している。「誰かに責任を取らせなければならない。進むも地獄、戻るのも地獄だ」と。

責任の所在は勿論第一に安倍首相だが、安倍氏が部下に責任を取らせるのであれば、真っ先に上げられるのは森法相だろう。黒川検事長は辞職が当然だが、どう判断するのか。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

《読売》と《毎日》からは定番コラムを取り上げたのですが、《朝日》の「天声人語」もこの問題でした。米国のポップ歌手、テイラー・スウィフトさんが政治的な発言を表明するようになった経緯を描くドキュメンタリーの話から、今回の小泉今日子サンのことへ。小泉さんは何回も投稿を続け、検察OBの意見書を読んだ日には「泣きました。そして背筋が伸びました」と書いている。発言した多くの著名人や芸能人の存在。他方で、猛反発を浴びて投稿を削除した人気歌手もいたことなどについても書いている。

image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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