吠える中国。コロナ下の空白を利用して世界を威嚇する隣国の恫喝

 

その主なものはもう3年以上続く米中対立です。米中貿易戦争、南シナ海での覇権争い、そして今回のCOVID-19を巡る情報戦とその裏にある経済的利権争いという三正面での対立になっています。

米中貿易戦争は、一応、コロナ騒ぎ前に米中合意の第1段階が発表されましたが、その履行は、新型コロナウイルス感染拡大を“理由”に、中国側が停止させています。特にアメリカの農業にとって大きな生命線になりかねないのが、米国産農産物を中国が大量に購入するという合意の履行を、習近平政権が拒否するという恐れです。米国農業が直面している危機については、先週号でもお話ししていますので、今回は詳しくは触れませんが、見方によっては、これは習近平国家主席からトランプ大統領への威嚇・挑戦状と言えます。

このような状況の背景には、「誰がコロナを世界にばら撒いたか」という起源説での米中間での情報戦があります。これについても以前、このメルマガでお話ししていますが、「武漢の生物兵器研究所からの漏洩」、「米軍がウイルスを中国に持ち込んだ」という米国によるバイオテロ説、逆に中国によるバイオテロ説もあれば、「誰の仕業でもなく、あくまでも『自然界から人類への警告』」という自然発生説まで、様々なチャンネルを通じて、米中間の撃ち合い合戦となっています。

真実の在りかは、現時点では謎ですが、コロナの大きな渦に飲み込まれた欧州各国(独仏などの西側)は米国寄りの主張をして中国の非難を行っています。米国はトランプ大統領のみならず、ポンペオ国務長官も激しく中国を非難し、つい先日は「武漢から流失してばら撒かれた確証がある!」と言っておきながら、数日後には「わからない」とトーンダウンしており、よく練られた洗練された情報戦というよりは感情論での非難合戦に見えますが、確実に米中にとって掲げた拳を下げるきっかけを失わせていると思われます。特にトランプ大統領が今週「中国とのすべての関係の断交の可能性」に言及した際には、中国政府は何とか平静を保った反応をしたように思われますが、すでに米中の争いはpoint of no returnを超えてしまった感があり、今後、どちらの方向に跳ねるか戦々恐々としています。

中国はコロナ下の力の空白を利用して、世界中で威嚇行為を加速させています。その一つが、南シナ海での実力行使でしょう。以前お話ししましたが、南沙諸島海域を行政区に組み入れる決定をし、軍事基地化を進めることで、その海域の領有権を主張するフィリピンやベトナム、インドネシアとの緊張が一気に高まりました。しかし、今はコロナ渦の影響下にあるため、フィリピンなどは正面から対抗する余力がなく、また、アメリカの軍事的な影響力(プレゼンス)の著しい低下を受けて、中国の思いのままにされている感があります。今後、アメリカ海軍のプレゼンスが戻り、かつ周辺諸国が反応できるようになってくると、今までの緊張を超える武力衝突の危険性も生まれてくるでしょう。

よく似た状況は東シナ海でも起きています。特に尖閣諸島への中国の漁船や海警艦船の侵入が常態化してきており、日本政府と中国政府の間に緊張が生まれています。ここ数年、日中関係はこれまでにないほど良いとさえ言われてきましたが、ここにきて、“領土問題”(帰属問題)を、日本がコロナ渦で弱っている時にぶつけてきました。これは日米への威嚇とも考えられますが、これは長年、中国政府と軍が仕掛けてきた“念願の太平洋への進出路の確保”という大目的に沿った動きであると言えます。

アメリカの太平洋における覇権に挑戦するにあたり、中国としては“いつでも安全に太平洋に出ていける道”が必要であり、東シナ海・日本海などの地理的な現実に鑑みた際、尖閣諸島・沖縄石垣海域が最も効率的と分析していることから起きています。先ほどの南シナ海での米中の緊張と同じく、アメリカがどのように対抗し、力のバランスを変えようとする企みを中和するかに、東アジア地域の地政学上の命運がかかっていると言えます。

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