吠える中国。コロナ下の空白を利用して世界を威嚇する隣国の恫喝

 

同じ太平洋つながりでは、最近、“親中国”オーストラリアとの対立が仕掛けられています。これはオーストラリア政府がWHOをはじめとする国際的な第3者機関においてコロナウイルスの感染拡大における中国の影響について検証すべきと主張したことへの報復措置と考えられ、実際にオーストラリアからの食肉の輸入に報復関税を課す措置を発動しています。中国との貿易に経済を依存していると言っても過言ではないオーストラリア経済にとっては大きなダメージとなり得る危機です。今のところオーストラリア政府も脅しに屈する気配はなく、挑戦を受けて立つ姿勢ですが、アメリカの農業に対する問題と同じく、中国との対立の長期化と激化は、オーストラリア経済のコロナショックからの復興を遅らせることにつながってしまうでしょう。中国からの圧力に対抗するためには、地域のパートナー国である日本がオーストラリアを支援する必要が出てきますが、先のEPA/FTAの内容に照らし合わせてそれがどこまで可能か、頭が痛いところでしょう。オーストラリアやアメリカ、日本などが頭を悩ませている間も、中国からのプッシュは強まるばかりのようです。

そして意外なことに、中国はEUに対しても戦いを挑んでいます。事の発端は在仏中国大使館が、EUのコロナ対策を痛烈に批判したことですが、その後、中国が仕掛けた“マスク外交”の失敗も手伝い、欧州での対中批判が拡大・激化し、フランス政府高官の言葉を借りると「中国は欧州を失う」というほどのレベルに達しています。しかし、EUも中国に対して統一見解と姿勢を持っていないもの事実で、それがEUの“分裂”を引き起こしています。

例えばイタリアやスペインで新型コロナウイルス感染拡大が起きた際、EUに対して医療スタッフや物資の供給を依頼したにもかかわらず、フランスやドイツ、オランダは、自国の感染拡大への対応のために、イタリアやスペインに対する医療物資の輸出制限をかけるという決定になり、EUの結束の脆さが露呈しました。

そしてそこに付け込んだのが中国政府です。イタリアに医療スタッフとマスクやシールドなどの物資を大量に送り込み、また先日述べた情報工作を講じることで、イタリアにおける親中の雰囲気を醸成しました。スペインでも、質の悪い中国製マスクへの批判が起こりましたが、それでも迅速に支援に駆け付けた恩は忘れないとの声明を出すなど、EUの“南欧諸国”は、ギリシャも含めて、中国にシンパシーを感じているようです。そしてさらには、セルビア共和国をはじめとするEU加盟を考える中東欧諸国も、EUからの支援が全くないことに業を煮やし、中国からのマスク外交に乗ることになってしまいました。

Brexitで露呈した分裂、そしてCOVID-19の感染でさらに明確に見えた加盟国間の分裂というダブルパンチを食らい、そこに先述のEU内部で解消されない南北問題がさらなる分裂を引き起こしており、EUの統合など夢ではないかとの声も大きくなってきました。私個人としては、EUが分裂してしまうことはないと思う一方、今回の分裂の様相を見て、今後EUの統合が深化することもないだろうと感じます。

完全な分裂を回避できるかもしれない最後の望みが、ずっとこれまでドイツ政府の反対に直面して成立しなかった「コロナに対するユーロ債(コロナ債)」への拠出に、今週、ドイツとフランスが合意し、5,000億ユーロの拠出を決めたというニュースです。

これまでイタリアやスペイン、ギリシャといった南欧加盟国の経済政策の失敗を、EU内で裕福なドイツやオランダ、北欧諸国がしりぬぐいしてきたことへのフラストレーションが反対の根本原因にあったのですが、【EUの分裂の危機に直面する際には必ず独仏が合意する】という図式が今回も成り立ち、メディアに「メルケル首相の180度政策転換」と言わしめるほどの動きを見せました。

実際にはEU27か国の合意が必要で、かつオランダや北欧諸国が同意するかは分かりませんが、EU分裂回避に向けた大きな一歩だろうと考えます。

どうして今回独仏はこのような政策転換に至ったのでしょうか。その裏にはEU分裂回避という目標以外に、「いち早く欧州経済を再起動させて、After Coronaの国際競争で優位に立ちたい」との思惑があったのだと思います。First/Fast Moverが有利だという原則に則った戦略だと思いますが、その裏には、米中に牛耳られた世界秩序の下で、地政学上のメインプレーヤーの座に戻りたいとの切実な思いが見え隠れします。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』より一部抜粋。)

 

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