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9月入学は「世界標準」の大ウソ。独も豪も「9月以外」の現実

新型コロナウイルスの影響により予想外に長引いた休校を受け、導入が検討された「9月入学」。導入賛成派の多くがその根拠として、「9月入学はグローバルスタンダード」という面を強調していましたが、果たしてその論に疑いを差し挟む余地はないのでしょうか。今回の『きっこのメルマガ』では著者で人気ブロガーのきっこさんが、世界各国の入学時期のデータを提示し「9月入学=グローバルスタンダード」という嘘を暴くとともに、日本人の言うところの「グローバルスタンダード」は単なる「米国標準」であって「世界標準」ではないという歪んだ状況を批判しています。

「グローバルスタンダード」は「米国に倣え」の意味

未だに何ひとつ解明されていない「加計学園問題」で、安倍晋三首相の伝書バトとして裏工作に飛び回った当時の官房副長官、萩生田光一氏は、この時のご褒美として、昨年2019年9月の内閣改造で、安倍晋三首相から文部科学大臣のイスをプレゼントされました。「加計学園問題」で暗躍した人物を文部科学大臣に任命するなんて、まるで空き巣に留守番をさせるような話ですが、これこそか安倍晋三首相が胸を張る「適材適所」という名の「お友だち人事」の真骨頂なのです。

そんな、およそ「教育」とは似つかわしくない萩生田光一氏ですが、就任からわずか40日ほどで、あたしの期待に応えてくれました。まだ覚えている人もいると多いと思いますが、当事、安倍政権が導入を強行しようとしていた「大学入試の英語試験の民間化」の問題点、裕福でない家庭の受験生が極めて不利になるという「受験格差」の問題点について、萩生田光一氏は10月24日のBSフジのテレビ番組内で「受験生はそれぞれの身の丈に合わせてがんばれ」と述べたのです。

すべての受験生が平等に受験できる環境を整備するのが政治の仕事のはずなのに、それどころか、萩生田光一氏は裕福な家庭の受験生だけが優遇される欠陥システムを強引に推し進めるために「貧乏な家庭の受験生は自分の身の丈に合わせたそれなりの受験をしろ」という主旨の発言をしたのです。当然、この発言は大問題になり、萩生田光一氏は謝罪と発言の撤回を余儀なくされ、結局、この法案は見送られることとなりました。

しかし、この直後、経済産業大臣だった菅原一秀氏と法務大臣だった河井克行氏が、公選法違反の疑惑で相次いで辞任に追い込まれたため、萩生田光一氏への責任追及の声はフェードアウトしてしまいました。安倍晋三首相が「適材適所」だ「最強の布陣」だとドヤ顔で述べた新閣僚が、組閣からわずか1カ月半で2人も辞任に追い込まれ、もう1人も辞任レベルの問題発言をしたわけです。

萩生田光一氏の場合は、すぐに謝罪して発言を撤回し、法案自体も見送られたことで、土俵際で何とか踏ん張り、辞任だけは回避して首の皮1枚でつながりました。しかし、このドタバタ劇に振り回されてしまった全国の受験生たちは、本当に気の毒でした。それなのに萩生田光一氏は、これほどの騒動を起こしたのにも関わらず「何から何まで他人事」という本質はまったく変わりませんでした。そして、そんな萩生田光一氏が最近まで、この新型コロナ禍であーだこーだとやっていたのが、取りあえずは先送りされましたが、「小中高校の9月入学」の問題でした。

そもそもは新型コロナによる休校が長く続いたため、授業が遅れてしまった子どもたちの授業カリキュラムを調整するための1つのアイデアでした。しかし、推進派や賛成派の多くが「4月入学など世界では日本とインドくらい。今や9月入学がグローバルスタンダードだ。日本もこの機会にグローバルスタンダードに足並みをそろえるべきだ」という主旨のことを言い出し、議論は本質的な「子どもたちの救済」からズレ始めて行ったのです。

特に大きな声を挙げのが、具体的な数値目標を提示した新型コロナ対策で、後手後手で曖昧な安倍政権との差を見せつけた大阪府知事の吉村洋文氏と、7月の都知事選での2選を狙うために新型コロナ対策の大半を自分の宣伝に使い続けている東京都知事の小池百合子氏でした。吉村洋文氏は全国知事会で「今や9月入学はグローバルスタンダード。実現するならこのタイミングしかない。今年できなかったらもうできない」と述べましたし、小池百合子氏に至っては「9月入学はグローバルスタンダードである。私は長年、9月入学論者の1人だった。このような機会に社会改革の1つとして行なって行くべきだ」と、あたかも自分は昔から「9月入学」を主張していたなどと言い出したのです。

ま、この「9月入学」には賛否両論あると思いますし、細かいことを言えば「9月入学には賛成だが、新型コロナ禍の今、無理に進めて準備不足になると現場が大混乱する。新型コロナが収束してから、じっくりと議論すべきだ」という意見もあります。改憲派の憲法学者の97%が「改憲には賛成だが現在の安倍政権下での改憲には断固反対」と言っているのと同じことです。先日の「黒川法案」のように、安倍政権は国民の批判が大きい法案を何かのドサクサに紛れて強行採決するのがお家芸ですが、「9月入学」にしろ「憲法改正」にしろ、とても大きな問題なので、十分に時間を掛けてじっくりと議論すべきだと言う意見が大半なのです。

そのため、今回はあたしの私見は書きませんが、ひとつ気になった点があるので、その点に触れたいと思います。それは、吉村洋文氏しかり、小池百合子氏しかり、その他の賛成派の国会議員や有識者しかり、みんな口をそろえて「今や9月入学がグローバルスタンダードだ」と繰り返したことです。そもそも、これって本当なのでしょうか?だって、あたしの韓国の友人は「韓国では3月から新学期」と言ってましたし、オーストラリアの友人は「入学は1月から2月」と言っていたからです。そこであたしは、各国の小中高校の入学式が何月なのか調べてみました。

1月 シンガポール、マレーシア、フィジー
2月 オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル
3月 韓国、アルゼンチン、ペルー、チリ
4月 日本、インド、パキスタン、パナマ
5月 タイ
6月 フィリピン、ミャンマー
7月 インドネシア
8月 ドイツ、スイス、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、台湾
9月 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ロシア、カナダ、中国、ベトナム
10月 エジプト、ナイジェリア、セネガル、カンボジア

皆さん、これを見て「9月入学がグローバルスタンダード」だと思いますか?世界の国々は北半球と南半球とで季節が逆になりますし、日本のように四季のある国もあれば、雨季と乾季しかない国もあります。また、毎年同じ時期に宗教的な大きなイベントがある国もあります。あたしはこの一覧を見て、世界の国々は「他の国々の多くが●月だから我が国も●月にしよう」という理由で決めているのではなく、それぞれの国がそれぞれの国の季節や事情に合わせて入学時期を決めているように感じました。

それから、もうひとつ、あたしが気になったのは、吉村洋文氏や小池百合子氏や他の賛成派の国会議員たちが、まるで水戸黄門の印籠のように連呼していた「グローバルスタンダード」という言葉です。他にも教育の専門家のような人が「ワールドスタンダード」と言っていました。たぶん「国際標準」とか「世界標準」とかの意味で使っているのだと思いますが、どちらも日本人が勝手に作った「和製英語」です。

「国際標準」や「世界標準」の意味であれば、英語では「international standard (インターナショナルスタンダード)」と言います。しかし、これは主に技術分野における国際工業規格や国際会計基準を意味する言葉なので、ISO(国際標準化機構)規格と同じような意味になります。そこで日本人は、約20年ほど前に「世界標準」という感覚をビジネスや金融の分野にも広げるために「グローバルスタンダード」という和製英語を作り、多用するようになりました。

でも、昔から「アメリカがくしゃみをすると日本が風邪をひく」と言われているように、これまでの日本の政権は、軍事だけでなく経済でもアメリカの属国ですから、日本人が口にするビジネスや金融の分野での「グローバルスタンダード」は、所詮は「世界標準」ではなく「米国標準」だったのです。日本の政治家たちは、アメリカのやり方に足並みをそろえる時に、この「グローバルスタンダード」という和製英語を連発し、あたかも世界中の国々がそうしているかのように日本国民を騙して来たのです。

アメリカ人たちは「自分たちこそが世界標準」と思ってますから、あえて「スタンダード」という表現は使いません。でも、アメリカ従属の日本人が「グローバルスタンダード」という和製英語を作り、アメリカにシッポを振り続ける日本の政治家やビジネスマンたちがアメリカを標準として「グローバルスタンダード」という言葉を使い始めたため、アメリカもこれに倣うようになったのです。

さすがに「ワールドスタンダード」などというアホらしい和製英語を使う英語圏の人はいませんが、もうひとつの「グローバルスタンダード」という和製英語は、直訳すれば「世界標準」という意味なのに、アメリカにシッポを振り続ける厚顔無恥な日本の政治家やビジネスマンのお陰で、「米国標準」という裏の意味を持った新語として英語圏にまで浸透してしまったのです。

和製英語「グローバルスタンダード」を直訳すれば「世界標準」、つまり「世界中どこでも共通して使える基準、規格、ルール」という意味になります。でも、先ほどの各国の小中高校の入学式の一覧を見てください。あれを見て「9月入学」が「世界中どこでも共通のルール」だと言えるでしょうか?確かにアメリカやイギリスは「9月入学」ですが、そうでない国もたくさんあります。それでも「9月入学」を「グローバルスタンダード」だと言い張る一部の日本人は、世界は「アメリカとイギリスだけでできている」と思っている人たちでしょう。

高卒のあたしの拙い英語力で、あまり偉そうなことは言えませんが、少なくとも先ほどの一覧を見たら、どう見ても「9月入学」は「世界標準」ではありません。もしも日本で「9月入学」を推進したいのであれば、「9月入学」が「世界標準」だなどという事実に反した嘘などつかずに、正々堂々と「9月入学」のメリットを述べた上で、ここは「これから9月入学を世界標準として世界へ広めて行きたい」と正直に主張すべきなのです。

そして、この場合は、「グローバルスタンダード」などという曖昧な意味の和製英語ではなく、ちゃんと正しい英語で「globalization (グローバリゼーション)」と言えば良いのです。これなら「ひとつの基準や標準が世界的に拡大して行くこと」を意味するので、英語としても単語の意味合いとしても完璧だからです。このくらいの英語、高卒のあたしでも分かるのに、どうして大学まで出ている政治家たちの多くが理解していないのでしょうか?

あたしは、ヤタラと横文字を使いたがる安倍晋三首相や小池百合子氏を見ていると、本当にイライラして来ます。それは、英語の使い方がトンチンカンだからです。英単語を使ったほうが分かりやすい場面なら理解できますが、日本語で言ったほうが遥かに分かりやすい場面で、あえて分かりにくい英単語を使う安倍晋三首相や小池百合子氏、まるで敗戦後の「外国コンプレックス」のようです。

あたしは、しばらく前に小泉進次郎氏の酷すぎる英語にもツッコミを入れましたが、どうしてこの人たちは英語が堪能なふりをしたがるのでしょうか? 英語なんて英語圏の国に生まれたら幼稚園児でも普通に話せる単純な言語なのですから、話せたところで別に偉くも何ともありません。それなのに、母国語である日本語も正しく読み書きできない恥知らずが、国民の前でヤタラと英単語を使いたがる風潮。見ているこっちが恥ずかしくなります。

その上、日本人が勝手に作った「グローバルスタンダード」という和製英語が、今や英語圏で「米国標準」という意味で使われているということすら気づかない日本の政治家やビジネスマンたち。あたしは1人の日本人として、本当に恥ずかしいです。

これは以前も書きましたが、英語はイギリスの言葉なのに、子どもたちにアメリカのジャンク英語などを教えているのは世界でも日本とフィリピンくらいなのです。他の大半の国々はイギリスの由緒正しき英語を教えているのですから、本当に「グローバルスタンダード」などと言いたいのなら、学校の入学時期うんぬんの前に、まずは日本の英語教育を、世界的にマイナーなアメリカ英語から世界的にメジャーなイギリス英語に変えるのが先だと思います。(『きっこのメルマガ』2020年6月3日号より一部抜粋)

image by: tera.ken / Shutterstock.com

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