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深まる謎。なぜ、政府は「イージス・アショア」を中止したのか?

以前掲載の「住民説明会で居眠り、Google Earthで測量。防衛省の呆れた不始末」等でもお伝えしたとおり、国の不手際ばかりが目立った新型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備計画ですが、6月15日、その停止が発表されました。なぜ政府は突然このような判断を下したのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、「分からないことだらけ」としながらも、考えうる複数のストーリーを挙げつつ「謎解き」を試みています。

イージス・アショア中止、ストーリーは更に奇々怪々に

6月15日(月)、河野太郎防衛大臣が、イージスシステムを地上に設置するタイプのミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると発表しました。発射される迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」(改良型)は発射後、ブースター(一段目、二段目の推進ロケット)を切り離すのですが、これを基地周辺の住宅などに落下させないためには設計変更がソフト面だけではダメで、ハードまで改修しないとダメ。そこで開発は断念するというのです。

このミサイルは、日米両政府が共同開発中の迎撃ミサイルで、陸上自衛隊の新屋演習場(秋田市)と山口県の陸自むつみ演習場(萩市、阿武町)への配備を計画していたわけです。このうち、秋田の方は5月に「断念か」という情報が流れ、河野大臣は「フェイクニュースだ」として否定していたのでした。

このニュースですが、何とも分からないことだらけです。

1.北朝鮮危機に対処といいながら稼働は2025年。ということは核危機はそこまで続くという前提?韓国の大統領も、トランプも別の政権になっている時期なのに?

2.秋田も山口も地元は猛反対。にもかかわらず安全保障上の問題だということで、反対へのカウンターも起きなかったのは何故?世論では、そんなの不要だという合意形成ができていた?

3.本当に北朝鮮対策?韓国、中国、ロシアも仮想敵?仮にそうなら、対立を煽るトランプのインチキ外交に乗せられているだけ?

4.トランプの貿易摩擦対策ということも、堂々と語られていたが、再三この欄でお話しているように、自動車の完成車輸出は極小化している中で、全く根拠はないのでは?

5.もしかして、一連のトラによる「デモ鎮圧にペンタゴン出動令」のために、ペンタゴン中枢が「ブチ切れ」という状況下で、これをキャンセルしたというのは、太郎さんのスマッシュヒット?

6.にしては、太郎さんの会見はマスク姿が妙で(もう外してもいいのでは?)、切れ味もあまりなく、そう単純な話でもない印象も…。

7.しかしまあ、自分たちの主張が通ったのに「政権の態度に一貫性がない」とか言って批判して、勝ち負けの点数をゲットしようという野党には呆然。

8.全く別の見方をすれば、実は金正恩はコロナで重体になっていて、与生が全権を掌握しつつある中で、「止めても大丈夫」という確証があった可能性も。

アメリカでのコロナ第二波、本当は時間差での第一波

米国全体の新型コロナウイルスの感染状況は決して改善していません。反対に、中西部、南部では感染が拡大しており、一部には「第二波」を懸念する声もあります。ですが、この点に関していえば、現在の感染拡大は「南部と中西部」における「時間差の第一波」だと思います。NYなどが苦しんでいる時期には、まだ感染拡大していなかった地方が、今、ピークを迎えているのです。

その中心は、やはり高齢者向けの福祉施設であるようです。ということは、ここニュージャージーで6,000名が落命したという、悲惨な教訓が中西部や南部には伝わっていないということです。と言いますか、実はニューヨークや、ニュージャージーもそうなのですが、それぞれの施設では「分かっていない」のではないのだと思います。

そうではなくて、感染防御をしようとしてもできない構造というのが、アメリカの場合はあるようです。入所者の家族については、面会禁止、入場禁止をしています。ですが、問題は職員です。施設の職員については、高給が用意できない、そのために大都市の貧困層が主要な担い手になる、彼らは公的交通機関で通勤するか、公的交通機関で通勤する家族と同居している。

その人々からの感染は完全に遮断できない。その一方で、感染拡大期には、病院は若い(60代以下)コロナ患者で手一杯で、高齢者の救命優先順位は下げられてしまう。この悲惨な繰り返しが、各州でタイミングをずらしながら続いているのだと思います。

アメリカの高齢者施設の多くは完全に民営で、NPOではなく会社組織になっています。そのビジネスのスキームは、入居者が利用料を払い続けて、カネがなくなったら「生活保護+高齢者医療費」で残りの利用料を賄うという、絶望的なスキームになっています。従って認知症患者はモノ扱いだし、コロナ対策の設備も人もモノもありません。

つまり、州政府の中に「高齢者を守り切る」とか「医療崩壊を防止して死者の増大をさせない」という気迫と実行力のある人物がいなければ、同じことになるということです。

そこで1つの疑問が湧きます。

ニューヨークはどうして、ここへ来て感染拡大が収束したのでしょう?確かに2万4,000人以上の死者というのは猛烈ですから、この辺りで止まっていいとも思いますが、それほど感染対策、衛生管理が向上したとも思えないのです。ロックダウンの効果という割には、14日ではなく3ヶ月の時間を要したのも不思議です。

もしかしたら、20%の抗体が壁になってR0(再生算数=感染率)を1より大幅に小さくしているのかもしれません。だとしたら、第一波が順次西へ、南へと移動していることにも説明が付きます。カリフォルニアだけは第二波に見えますが、これも第一波が都市部から地方に伝播するのに時間を要しただけなのかもしれません。

いずれにしても、「第二波」に怯えて株価が乱高下していることを含めて、アメリカ全体の「議論の浸透」にはかなり怪しいものを感じます。

image by: 防衛省 - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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