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中国の暴挙。香港「国家安全維持法」を日本の各紙はどう報じたか

香港で大勢の市民が1日、施行されたばかりの「香港国家安全維持法」に反対する抗議デモを行いました。香港警察はこれまでに300人以上を逮捕し、中国からの独立を主張する人々への取締りを強めています。この事態を日本の新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で解説。今後の香港の行方を憂いています。

香港はどうなってしまうのか?日本の新聞各紙が伝えたこととは

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…一国二制度 骨抜き
《読売》…香港国家安全法 施行
《毎日》…香港国家安全法施行
《東京》…都が新指標 数値目安なく

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…香港の自由に影
《読売》…香港の自由 瀬戸際
《毎日》…香港の自由 暗転
《東京》…香港 瀕死の民主派活動

【プロフィール】

■心配なのは「経済都市・香港」の行方?■《朝日》
■瀬戸際の香港民主派■《読売》
■マカオのようになる香港■《毎日》
■香港を震え上がらせる法律■《東京》

心配なのは「経済都市・香港」の行方?

【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」。見出しから。

香港の自由に影
「民主化運動 命に関わる」次々団体解散
「独立論」放置できぬ中国
経済界にも広がる不安
米、輸出規制の対抗措置

●uttiiの眼

リードでは、この事態について「繁栄を支えてきた自由が侵されることは、経済都市としての香港にも影が差す」として、「かたくなに導入を進めた中国に、米欧などが批判を強めている」と“懸念”を滲ませるような書き方をしているが、心配しているのは「経済都市としての香港」であり、香港住民の自由や民主主義ではないようだ。全体にどこか他人事のようであり、むしろ、国家安全維持法を制定せざるを得なかった中国の立場なるものに理解を示すような雰囲気さえ漂っている。

そのような《朝日》の姿勢がはっきり見えているのは、見出しの一つに「「独立論」放置できぬ中国」とあるあたりだ。《朝日》は、「共産党政権にとって、香港の国家安全法制は長年の課題だった」として、2003年に香港政府が条例の制定を目指したが50万人規模のデモで断念させられたことについて、「共産党政権には、その後も香港政府に任せて立法化を先延ばしにしてきたツケが、昨年「逃亡犯条例」改正案を機に広がった混乱だとの思いがある」などと、習近平政権の「課題」を論じ、「思い」を汲み取る姿勢を見せている。万が一、香港民主派に味方しているように見られ、支局でも閉鎖させられたらかなわないと考えているのだろうか。

《朝日》が心配する「経済都市・香港」については、「外国企業を中心に不安が広がる」とは言うものの、事業を縮小・撤退する動きは広がっていないとし、その理由として「中国の巨大市場への足がかりを維持したいとの思惑に加え、抗議デモが収まれば安定したビジネス環境が回復するとの期待もある」という計算を披露。米国も、「香港の立法会選挙に中国がどう介入するかを注視する考え」とは言うけれど、「対中圧力が米経済への打撃になるのは避けたいのが本音」と、こちらも計算高さを指摘したところで話が終わってしまっている。

解説面でここまで腰砕けの様子を見せつけられてしまうと、社説が「自由と自治 破壊を憂う」と少々憤って見せたところで、所詮はポーズのようなものだろうと見当がついてしまう。今朝の《朝日》、実に哀しい。

瀬戸際の香港民主派

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」。見出しから。
香港の自由 瀬戸際
国家安全法
民主派 相次ぎ解散
習氏強権 スピード成立

●uttiiの眼

《読売》は、解説記事の3分の2近くを、香港民主派の動きに充てている。取り締まりを警戒した各団体は解散を表明、「言論や集会などの自由の下で活動してきた民主派は、瀬戸際に追い込まれつつある」(リード)として、「勇気を振り絞り、抹殺されるまで戦う」とか「生きてさえいれば希望がある」といった、指導者たちの悲痛な声を伝えている。

国家安全法の下では、場合によっては中国本土に連行される可能性があること、今後は「中国化」を受け入れる層と受け入れない層との選別が進められると思われること、民主派が行ってきたような抗議運動は中国共産党や中国政府に対する挑戦と見なされること、など、民主派がおかれている窮状が説明されている。

当面、9月の立法会選挙が焦点となるが、国家安全法は議員や公務員に香港の憲法(基本法)に忠誠を誓うことを義務づけており、今回の新法が基本法に加えられているため、新法に反対すれば立候補自体が認められない可能性があるという。民主派の中には、英国に拠点を移そうとするもの、また「地下組織化」を呼び掛ける書き込
みもネット上には増えているという。

7月1日の返還記念日恒例のデモは、新型コロナウイルス対策を理由に許可されなかったが、民主派議員らはデモを呼び掛けた。その動きに対して中国政府は、民主派を威嚇するように、中国軍香港駐留部隊の陸海空3部隊による合同訓練を、香港で行ったという。

記事の残り3分の1は、「毛沢東の後継者」を任ずる習近平主席が容赦なく「一国二制度」を攻撃してきた過程が解説されているなか、注目すべき記述があった。中国では7月後半以降、党の指導者や長老が集まり、重要案件を巡って非公式に意見の調整を行う「北戴河会議」が開かれる見込みだという。習氏が国家安全法の制定を急いだのは、「会議の前に党内でも批判が強かったとされる香港問題の早期決着を図る思惑があった」という。

中国共産党の指導部あるいは長老たちの中に、習氏の香港政策に批判的な部分が存在している可能性がありそうだ。ただし、「異論」といっても、「もっと強硬にやれ!」ということかもしれないが…。

マカオのようになる香港

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」。見出しから。

香港の自由 暗転
市民萎縮 国安法恐れ
中国「反乱の芽」摘む

●uttiiの眼

《毎日》も《読売》と同様、香港における言論の自由や民主主義の圧殺の懸念を中心に解説をしている。

リードでは「香港の自由や繁栄を支えた「1国2制度」の崩壊は、既に始まっている」として、30日のデモが警官隊によって蹴散らされた状況、民主派指導者たちの脱退と団体自体の解散、そして、既に海外に「逃亡」した幹部もいるとする。そうした幹部はSNS上で「海外に拠点を置く勢力が香港独立を達成するまで運動を続け
る」と書き込んだが、《毎日》は「運動の継続は事実上、困難な状況に陥っている」とする。

《毎日》は最後に、マカオの例を引いている。99年にポルトガルから中国に返還されたマカオの政府は、自ら国家安全法を施行。まだ摘発例はないそうだが、マカオ立法会の民主派議員は「首の真上に刀が吊されている感覚だ。市民は恐怖心から過度な自己規制をするようになり、マカオで言論の自由は事実上なくなった。香港も同
じ運命をたどるかもしれない」という。

香港を震え上がらせる法律

【東京】は2面の解説記事「核心」。見出しから。
香港 瀕死の民主派活動
国家安全法が成立
中国の強権的介入 必至
「習主席の来日に重大な影響」
協定維持 トランプ氏の本音
「香港より対中貿易合意」

●uttiiの眼

《東京》も、《読売》《毎日》と同様、民主派の窮状から書き起こしている。リードでは、今回の国家安全法成立によって、「昨年から続く抗議活動も事実上、継続困難な状況で、共産党独裁の中で何とか保たれてきた香港の自由は、瀕死の危機に直面している」とある。

民主派に対する強硬姿勢は既に見えていて、中国政府の香港マカオ事務弁公室の声明では、「中国政府と香港政府の関係部門は徹底的に法を執行し、国家安全を脅かす活動を震え上がらせ、法律の威力を見せつける」としているという。

林鄭月娥行政長官は、香港警察内に新設する国家安全部門に150人の警官を配備すると表明。また香港政府に新設される国家安全維持委員会の人事なども既に報じられているという。親中派の前行政長官は、同法違反者の逮捕を効率的に行うため、最高で百万香港ドルの懸賞金を出すと明らかにしたという。

注目すべき記述は2つ。

1つは亜細亜大学の遊川和郎教授のコメント。89年の天安門事件では軍を投入したが、今回は法による弾圧で「デモを強制終了に持ち込んだ」というもの。しかし、条文も国民に明らかにされないまま“可決”される法とはなんだろうか。少なくとも議会制民主主義の形だけは維持してきたわれわれの常識とは別次元の「法」は、暴力
装置による威嚇を背景にした、権力の命令に他ならない。

もう1つは、解説の隣の記事。見出しに「習主席の来日に重大な影響」とあるのは、河野太郎防衛相が語ったとされる言葉。河野氏は84年の中英共同宣言を念頭に「国際社会への約束が守られていない。一方的な現状変更の試みだ」と中国政府を非難したという。

これが安倍内閣の方針となるのかどうかは分からないが、注目しておくべき要素の1つだろう。

image by: Jimmy Siu / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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