あまりにも不可解。新型コロナ専門家会議「廃止」発表のウラ事情

 

6月24日、ちょうど専門家会議が日本記者クラブで、会見をはじめてから30分後。西村康稔経済再生担当大臣が臨時の記者会見を開いた。

専門家会議を廃止する。そして、新型インフルエンザ対策特別措置法(今年3月改正)に基づいて2012年に設置された有識者会議のもとに新たに「分科会」をつくり、そちらに機能を移行する。

概ね、そんな中身だった。廃止の一報は、日本記者クラブに集まった記者の耳に届き、それについて質問が飛んだ。

「今、大臣がそういう発表をされたんですか?私はそれは知りません」。尾身茂副座長は口ごもった。

政府が新型コロナ対策で頼りきっていた専門家会議の廃止を、会議のメンバーに知らせないまま、それも別の場所で発表したのである。尾身氏の狼狽はもっともだ。西村大臣と専門家会議の座長、副座長がうちそろって記者会見し、今後の体制を説明するのが普通ではないか。

それにしても、専門家会議に問題がなければ、廃止する理由はない。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいておらず「位置づけが不安定だった」ので、特措法に基づく組織を新たにつくる、という西村大臣の説明にすんなり納得できる人はあまりいないだろう。

専門家会議は厚労省と関係の深い顔ぶれで構成されている。政府の審議会や有識者会議はだいたいそのようなものだ。事務局の官僚たちがテーマや、議論の道筋を、あらかた決め、その方向に会議を誘導する。

コロナの専門家会議も最初のうちは事務局が用意したテーマについて意見を述べるだけだったと、脇田隆字座長(感染研所長)は語る。

しかし感染が広がり始めた2月中旬頃から姿勢を変えた。「迅速に行動し、対策案を政府に伝えないと間に合わないのではないか」と危機感が高まってきたからだ。政府に助言するだけではダメだと一致した。

そこから「前のめり」になった、と脇田座長は振り返る。

事実、2月24日には「これからの1~2週間が急速に感染拡大するか収束に向かうかの瀬戸際だ」という見解を記者会見して発表し、3月9日には、密閉・密集・密接を避けるよう要請、4月1日になると「爆発的な感染拡大が起きる前に医療現場が機能不全に陥ることが予想される」と声明を出すなど、国民に向けて積極的に発信する姿勢を示した。

これを受けるかたちで、安倍首相は4月7日、7都府県に緊急事態宣言、同月16日に宣言の対象を全国に拡大した。「専門家の皆様の試算では、人と人との接触を最低で7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じていくことができる」などと、専門家会議の見解に基づく判断であることを強調した。

ところが、国民経済に多大な犠牲を強いる緊急事態宣言が必要だったのかどうか、このところさまざまな方面から疑問の声が出ている。

というのは、外出の自粛とはほとんど関係なく感染拡大のペースが落ちていたことが分かってきたからだ。

日々発表される新規感染者が、実際にウイルスの侵入を受けた日は、発表日より2週間ほど前、といわれる。潜伏期間や、発症から検査を受けるまでの日数を勘定にいれると、だいたいそのくらいということだ。

そこで、新規感染者数のグラフとは別に、実際に感染したとみられる2週間前にずらしたグラフをつくってみる。今の感染者数は、2週間前の実態を示している。

すると、4月9日から11日にかけ200人近い新規感染者が出たときが感染拡大のピークであるかのように思っていたが、その人たちが感染したのは2週間前の3月26日~28日ごろであり、実は4月に入ると感染のペースは下降していたことがわかる。

つまり、緊急事態宣言が出た4月7日にはすでに収束に向かっていたということになる。この見方などから、「人と人との接触を8割削減」は無意味だったという議論が広がってきた。

京大大学院工学研究科の藤井聡教授、阪大核物理研究センター長の中野貴志教授、京大ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授あたりがその急先鋒といえる。工学や物理学など感染症以外の専門家も別の知見を提示しはじめている。

中野教授は、直近1週間における累積患者数の増加の割合を示す「K値」なる新指標を発案し、それに基づき、「自粛や緊急事態宣言の効果はなかった」と大阪府の専門家会議で断言した。

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