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日本経済は本当に底を打ったのか?新聞各紙から透けて見えた現状

多くのお店が営業を再開したり、企業活動を通常に戻したりと、少しずつ日常を取り戻しつつありますが、新型コロナウイルスの感染者が再び増加傾向に転じています。感染前の姿とは程遠く、日本経済は心配な状態にあると言えるでしょう。そんな経済情勢を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で解説。景気はまだ底を打っていないのではと推測しています。

心配なゾーンに入ってきた日本経済、各紙の分析と識者の見解は?

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…香港国家安全法 初の逮捕者
《読売》…石炭火力100基 休廃止
《毎日》…香港国安法適用 9人逮捕
《東京》…宿泊・飲食 客足戻らず

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…沈む景気 苦境の現場
《読売》…リーマン級 冷え込み
《毎日》…景気底ばいの恐れ
《東京》…養育費不払い解消へ法改正

【プロフィール】

■消費減税を■《朝日》
■需要を喚起する??■《読売》
■景気はまだ底を打っていない■《毎日》
■外国人観光客の需要は「消失」■《東京》

消費減税を

【朝日】は1面左肩と2面の解説記事「時時刻刻」、7面に識者の見方。見出しから。
(1面)
景況感 11年ぶり低水準
6月短観 増税・コロナで
雇用・設備投資に厳しさ(解説)
(2面)
沈む景気 苦境の現場
受注激減「工場開ければ赤字」
回復の兆し 米経済に不安
再開のTDR 光景は一変
中小支援 効果に疑問も
(7面)
日銀短観 エコノミストは

●uttiiの眼

1面記事は、本記に加え、今回の景気の悪さが「消費増税で進んだ景気悪化に新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかける」形であって、「急回復も見込みにくい」ものであることを強調している。

記事末尾に記者による「解説」が付いている。「急回復」どころか、「U字」のような底ばいもありえて緩やかに戻る」というような景気の将来像が、今回の短観から浮かんでくるという。指標で問題になるのは「雇用」と「設備投資」で、3月には大企業・製造業で強かった雇用の「不足感」が、一転して「過剰感」に変わったという。

設備投資も大企業・製造業の計画が2010年以来の低さだという。識者の見方(7面)には3人のエコノミストの話が載っているが、共感できたのはSMBC日興証券の丸山義正氏の話。小売りの業況判断指数では、大企業は改善したが中小企業では18ポイントも悪化。消費は戻りつつあるものの、小規模な小売店の場合、顧客が戻るまで耐えられずに廃業してしまうのが心配だという。宿泊・飲食サービスは訪日外国人が戻らないと回復しない分野なので、「時限的な消費減税」をしてもよいのではないかと提案している。その通りだと思う。

需要を喚起する??

【読売】は1面左肩と3面の解説記事「スキャナー」と社説。見出しから。
(1面)
景況感11年ぶり低水準
日銀短観 コロナ直撃 急落
(3面)
リーマン級 冷え込み
景況感 車の大幅悪化
「第2波」警戒 回復の足かせ
需要喚起へ予算執行を急げ(社説)

●ttiiの眼

1面は本記。「自動車」や「鉄鋼」の落ち込みの酷さが指摘され、非製造業でも「巣ごもり需要」が取り込めた「小売り」の9ポイント改善を除けば、総崩れの状況にあることが強調されている。

3面でも、「自動車」の落ち込みの深刻さと、同産業が基幹産業として国内景気の支え手であることから、その影響の大きいことが強調されている。

また新型コロナウイルス感染拡大との関係で、「景気の行方は世界の感染状況に左右されるため、リーマン・ショック後のような回復軌道をたどるかどうかは予断を許さない」としている。この辺りは《朝日》の認識と同じ。

《読売》らしさは社説に現れている。タイトルは「需要喚起へ予算執行を急げ」。ただし、中を読むと「需要喚起一本槍」というわけではなく、「政府は、企業の資金繰りを支えて失業の増加を防ぐとともに、需要の喚起を図らねればならない」と書いている。ということはこのあと、正真正銘の「需要喚起策」である「GoToキャンペーン事業」が出てくるのかと思うと、不思議なことに「G」の一字も出てない。なんと「一律10万円現金給付」や「持続化給付金」、果ては「資本投入もすべきだ」という話に飛躍していく。あれれ?

「需要喚起策はどこにいった?」と聞きたくなる展開。もしかしたらこの社説子、需要喚起策の何たるかを知らず、そのこととは別に、評判の悪い「GoToキャンペーン事業」については近寄らないようにしてビクビクしながら書いてしまったために、変な内容になってしまったのかもしれない。

景気はまだ底を打っていない

【毎日】は1面中央と3面の解説記事「クローズアップ」と論点(識者2人の話)。見出しから。
(1面)
製造業、大幅に悪化
景況感 11年ぶり低水準
日銀6月短観
(3面)
景気底ばいの恐れ
日銀6月短観
自動車下請け受注急減
「赤字垂れ流し、いつまで」

●uttiiの眼

1面は基本的に本記のみだが、最後に「設備投資」の先行きについて次のようなことを書いている。

「20年度の設備投資計画は大企業・全産業で前年度比3.2%増。6月短観では3月短観(1.8%増)から計画が大きく上振れするのが通例で、企業が設備投資に慎重になっている様子が浮き彫りになっている」と。1.8%増が3.2%になったことを「増えた」と評価してはならないということだろう。この点では、《朝日》も「設備投資も大企業・製造業の計画が2010年以来の低さ」と書いていた。

3面。見出しにある「底ばい」は景気や株価の動向を語る時に使われる経済用語で、「相場が下げるだけ下げて、下げ止まっても上昇に転じず、底を横ばいすること」というもの。《毎日》の景気動向に関する基本的な評価は、「底ばい状態が長く続く「L字型」の軌道を描く恐れが出ている」というもの。

識者2人の話は、実は《毎日》の記事以上に深刻な内容。1人目、野村総研のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、新型コロナによる経済の悪化は、2つの点で新しいステージに進んでしまったことを意味するという。1つは影響が製造業に広がった点、もう1つは、消費行動の変容で売り上げの落ち込みが恒常化しかねず、「一時的な悪化で済まなくなっている」点だ。

いわば、空間と時間の双方で悪影響が拡大してしまったことになり、そのため、「ショックは一回限りの打撃では収まらない段階に入っており、今後はより本格的な景気後退となるだろう」と予想する。木内氏も「L字型」の回復軌道という言葉を使っているがそれは当面のことであり、景気はまだ本当の底を打ったわけではないとも言っている。日本経済はまだ「L字」の縦棒に沿って、真っ逆さまに落ちていく途中にあると言っているようにも聞こえる。

2人目は第一生命経済研究所の主任エコノミスト、藤代宏一氏。政府・日銀の支援策によって今のところ企業の資金繰りは確保されているが、それでもコロナの影響が長期化すれば、融資が焦げ付くリスクが意識され、金融が滞るかもしれない。そのとき政府は力づくでも企業を護るべきだとする藤代氏は、「無制限に対策を打てる国だけがコロナ禍を生き残れるというシビアな展開になるだろう」と恐ろしいことを言っている。

外国人観光客の需要は「消失」

【東京】は1面トップと5面の社説。見出しから。
(1面)
宿泊・飲食 客足戻らず
6月短観 リーマン以来の低水準
(5面・社説)
景気の急激悪化
雇用維持に全力傾けて

●uttiiの眼

1面。本記の中に、深刻な状態が続く経営の現場取材が入っている。とくに厳しい状態にあるのが宿泊・飲食サービスで、「外国人観光客の需要消失と自粛要請の影響をまともに受けた」ことで、緊急事態宣言解除後も客足は戻っていないと。「外国人観光客の需要消失」は正確な表現。需要は「減少」したのではなく「消失」、つまり消えて無くなったのだ。

5面社説。歴史的な試練に直面する経済を立て直すのに必要なのは、「雇用の維持」だとする。5月の労働力調査では完全失業率が0.3ポイント上昇して2.9%となり、それでも世界の中では「踏みとどまっている印象を受ける」ものの、実体は数字以上に深刻だという。

1つには「失業予備軍」といわれる自宅待機などの休業者が増加していて、緊急事態宣言後、前年同期比で274万人増の423万人に達したこと。さらに、雇用調整金による救済は一時的なものに過ぎないことを挙げる。いずれにせよ、既存のやり方では対処できないほどの雇用の悪化が現実化するということだと思われる。

《東京》の社説子が薦める対策は多岐にわたっているが抽象的だ。雇用調整金制度に代わる強力な雇用維持策をとること、労働移動の活性化や新たな職域を生み出す仕組み、そして最後には「公共事業」を挙げている。そもそも、公共事業はちょっとどうかと思うところもあるが、そこまでいくのなら、ベーシック・インカムの議論に踏み込んでも良かったのではないかと思う。

image by: shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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