MAG2 NEWS MENU

フジサンケイだけじゃない。繰り返されるイカサマ世論調査の手口

フジテレビと産経新聞が、過去約1年にわたる世論調査において架空回答の不正があったと謝罪し、関連する放送や記事を取り消しました。新型コロナに埋没させ、不正を働いた下請け側の問題で片付けてはいけない大問題です。メルマガ『きっこのメルマガ』を発行する人気ブロガーのきっこさんは、自民党の御用メディアにより誘導的な設問での調査が繰り返されてきた歴史を紹介。今後についても、憲法改正を企む安倍政権の意向を汲んだ偏向世論調査が実施される可能性があると注意を呼びかけています。

自民党発祥のイカサマ世論調査

ちょっと前の話題で申し訳ありませんが、6月19日、とんでもない報道がありました。フジテレビと産経新聞社が合同で行った「内閣支持率」などの政治に関する世論調査で、昨年5月から今年5月までの1年間に計14回も「不正」が行なわれていたというのです。

皆さんもニュースを見聞きしたと思いますが、フジテレビと産経新聞社は自社で世論調査を行なっておらず、すべて「株式会社アダムスコミュニケーション」という調査会社に外部委託していました。その会社が、さらに調査の一部を「日本テレネット株式会社」に再委託していたのですが、この会社が請け負った調査数の半数を実際には電話調査せず、架空の回答をデータ入力していたというのです。

この架空の回答は、全体の17%にも及んでいたそうです。たとえば「内閣支持率」の項目で、すべて「支持する」とデータ入力されていたら、これだけで17%も支持率がアップしていたのです。

今回、あたしが何よりも「怪しい」と感じたのは、この不正発覚に対するフジテレビと産経新聞社の対応です。両社ともに謝罪文をリリースし、これまで14回の調査結果を取り消すと述べました。それは当然です。しかし「不正の17%を削除した上で正式な調査分の数字を公表すべき」との指摘は断固として拒否したのです。

本当に下請けの下請けが勝手にやった不正であれば、不正分のデータを削除して正式な調査結果を堂々と公表できるはずです。しかし、フジテレビも産経新聞社もそれは絶対にできないと言います。何故でしょうか?何か都合の悪いことでもあるのでしょうか?たとえば「不正分を削除すると内閣支持率がちょうど17%下がってしまう」とか。

…そんなわけで、日本の世論調査が怪しいのは今に始まったことではありませんんが、特に酷いのが読売新聞社の世論調査です。ちょっと古いですが、分かりやすい例として、福田康夫政権下の2008年5月に実施された読売新聞の「ガソリン税暫定税率」に関する世論調査の設問を紹介します。

「ガソリン税の暫定税率が復活したことで、ガソリンの値段は上がりましたが、国と地方自治体の税収に穴があく期間は1か月で終わりました。あなたは、暫定税率の復活を、良かったと思いますか、良くなかったと思いますか。」

これは、悪しき「ガソリン税暫定税率」が2008年4月に期限を迎えてようやく消滅してガソリンが値下げされたとたんに、自民党と公明党が伝家の宝刀「数の暴力」を使ってガソリン暫定税を復活させた直後に実施された世論調査の設問なのです。ですから、自民党のスポンサーの読売新聞としては「良かった」という回答を多くしたかったのです。

ここで問題なのは、誘導が見え見えの偏向的な設問自体も当然として、最後の「聞き方」なのです。読売新聞では「良かった」と回答させたい設問は「良かったと思いますか、悪かったと思いますか」ではなく「良かったと思いますか、良くなかったと思いますか」という聞き方をするのです。

これは、心理学で証明されていることですが、人間は「Aか、Bか」と聞かれた場合には自分の思った通りに回答しますが、「Aか、Aじゃないか」と聞かれた場合には、「A」と回答する人が増えるそうです。このような質問の仕方をすると、「A」が正当になり、「正当なものと、それに反するもの」というイメージを摺り込むことができるため、その設問にあまり興味のない人や「どちらでもない」と考えている人は、無意識のうちに「A」を選択するケースが多くなるそうです。

さて、世論調査と言えば、昔から「憲法改正」に関する調査も各社が定期的に実施しています。時代によって回答に変化があるのは当然ですが、あたしがいつも不思議に感じているのが、読売新聞の世論調査だけ、常に「憲法改正すべき」が過半数を占めているという点です。他の主要紙がすべて「憲法改正すべきでない」が「憲法改正すべき」を上回っていて、NHKの世論調査でも「憲法改正すべきでない」が7割近くに上っていても、何故だか読売新聞だけは「憲法改正すべき」が過半数を占めているのです。

読売新聞が偏向的な世論調査で自民党政権の政策を後押しするというのは何十年も前からのお約束ですが、この「憲法改正」の世論調査に限って言えば、そもそもの発端は政府なのです。とても古いデータですが、今から30年以上前のソビエト連邦時代、中曽根康弘政権下で総理府(現在の内閣府)が実施した世論調査の設問と回答の選択肢を、以下、紹介します。

【問1】ソビエト連邦が軍事力を拡張していますが、いつかそのうち日本が戦争に巻き込まれる可能性があると思いますか?
・大いにある ・ある ・可能性は否定できない ・いいえ

 

【問2】上記で、「大いにある」、「ある」、「可能性は否定できない」とお答えになった方にうかがいます。現在の憲法では、戦争放棄で国の交戦権を認めないとなっていますが、それで国を守れると思いますか?
・はい ・いいえ

 

【問3】あなたは、九条を含めて、憲法を改正する必要があると思いますか?
・はい ・どちらかと言えば必要 ・いいえ

皆さん、これ、どう思いますか?問1の選択肢は、4つのうち3つまでが実質的には「はい」ですし、問3の選択肢も偏っています。「はい」と「いいえ」の間に3つめの選択肢を入れるなら、普通は「どちらとも言えない」ですよね?それに「どちらかと言えば必要」を入れるなら「どちらかと言えば必要ない」も入れないと公平にはなりません。

こんな偏向的な選択肢では、明確な考えを持っていない人たちの多くが「可能性は否定できない」や「どちらかと言えば必要」を選択してしまいます。そして、それらの回答は、自動的に「はい」にカウントされてしまうのです。

たとえば問3で、憲法改正すべきだと考えていて「はい」と回答した人が20%、憲法改正すべきでないと考えていて「いいえ」と回答した人が40%だったとします。残りの40%は、これまで憲法のことなど考えたこともなく、本来なら「どちらとも言えない」と回答したい人たちだとします。しかし、この選択肢に「どちらとも言えない」がありませんから、明確に「はい」でも「いいえ」でもない人たちは「どちらかと言えば必要」と回答してしまいます。そして、政府は「九条を含めた憲法改正に賛成の国民は60%、反対は40%」と発表するのです。

この偏向的な世論調査は、問1で仮想敵国の脅威を印象づけ、問2で防衛のためには憲法の戦争放棄の条項が問題だと飛躍させています。憲法は交戦権を認めていませんが、他国が攻めて来た時には個別的自衛権によって交戦できますから「憲法改正しなければ自衛できない」というロジックは改憲のための詭弁です。つまり、あまり良く憲法を理解していない多数の人たちを、問3で「はい」や「どちらかと言えば必要」と回答させるための前ふりなのです。

自民党政権は、自衛のための交戦ではなく、こちらから仕掛ける戦争がしたいのです。アメリカと一緒に世界各地の紛争に首を突っ込みたいのです。だから憲法改正を進めているわけですし、安倍晋三首相はお得意の閣議決定だけで憲法解釈を180度も変更して集団的自衛権の行使を容認したのです。これ自体が憲法違反ですが、安倍首相には「日本をかつてのように戦争のできる国にしたい」という大きな野望がありますので、憲法違反などビフォーブレックファースト、朝飯前なのです。

自民党政権が30年前に煽っていた「ソビエト連邦が起こした戦争に日本が巻き込まれる」という妄想は現実になりませんでした。また、現在、仮想敵国に挙げている中国が日本に攻めて来ることもありません。そんなことをしたら第三次世界大戦が勃発し、ICBMによる地球規模の核戦争に発展し、いくつもの国が消滅してしまうからです。北朝鮮もしかりで、もしも北朝鮮のミサイルが日本国内に着弾して被害が出たら、日本の後ろにはアメリカが、北朝鮮の後ろには中国がいるのですから、やはり同じことです。

ヘタをしたら自国が消滅する。最低でも大きな被害が出る。こんなことを望んでいる国などありません。こうした現状を冷静に分析すれば、やたらと国の近隣脅威を煽り続け、それを理由に憲法改正を進めようとしている安倍自民党の本当の狙いが何なのか、簡単に透けて見えて来ます。それは、アメリカの戦争ビジネスへの参入であり、メイド・イン・ジャパンの武器兵器を開発・販売するための軍事産業の確立なのです。

自民党政権のスポンサー各紙による偏向的な世論調査によって、あたかも現在の憲法では自衛のための交戦もできないかのように信じ込まされ、その流れでウッカリと「憲法改正に賛成」などと回答していると、そのうち「国民投票」でもウッカリと同様の投票をしてしまうかもしれません。まずは「内閣支持率の世論調査でも不正が行なわれていた」という事実を重要視し、他紙の世論調査の結果も鵜呑みにしない習慣を身につけましょう。

image by:Sharaf Maksumov / Shutterstock.com

きっここの著者の記事一覧

「きっこのブログ」のメルマガ版です。ブログと同様に、政治や芸能から文学やお料理、流行やファッションから日々の出来事まで、多岐にわたって綴って行きますが、よりディープに攻めて行こうと思っています。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 きっこのメルマガ 』

【著者】 きっこ 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第1水曜日・第2水曜日・第3水曜日・第4水曜日予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け