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すべては再選のため。トランプ「対中強硬策」で板挟みのニッポン

11月の大統領選に向けて、米トランプ大統領が、ついに中国との対決姿勢を全面的に演出し始めています。大統領再選の目論みもあってのことですが、今後、米国と中国という大国の争いに挟まれた日本は、どう対応していくべきなのでしょうか? 今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、米中対立の構造を解説するとともに、日本の置かれた現状と取るべき行動について記しています。

米中対立の行方

香港への国家安全維持法の適用範囲が拡大して、民主勢力の行動を全て押さえ込む方向で、とうとう、米国は本気に中国との対決を決意した。今後を検討しよう。

トランプ大統領は再選するために対中強硬策へ

バイデン候補の経済政策は、トランプ大統領の経済政策より、強力であり、インフラ投資に、トランプ大統領は1兆ドルで、バイデン氏は2兆ドルと言う。特別給付もトランプ大統領は8月以降止めて雇用を増やすために雇用奨励金としたが、バイデン氏は8月以降も今の特別給付を続けるとした。このことで、世論調査すると、経済政策でもバイデン氏が優勢となっている。

今までは、米国民は、バイデン氏よりトランプ大統領の方が経済政策だけは上と見ていたが、これらにより逆転されたことになる。他の項目はすべて、バイデン氏優勢で、経済だけがトランプ氏大統領優位であったので、これで、すべての項目でバイデン氏優位となってしまった。

特にコロナ再拡大で、南部州でもバイデン氏が優位になり、トランプ大統領は、何か想定外の国民が歓喜する政策をする必要になっていた。

その上、前回述べた黒人ラップ歌手のカニエ・ウェスト氏は、大統領選挙出馬を諦めたようであり、バイデン氏の黒人票を減らすこともできないことになった。

バイデン氏の政策公約を見ると、対中政策が記載されていないし、容中派のスーザン・ライス氏を副大統領にする方向と言うことで、この中国政策を大統領選挙の最大争点化できると、トランプ大統領は見て、これしか逆転できないと見たようだ。

この政策を「米国の中国に対する戦略的アプローチ(United States Strategic Approach to The People’s Republic of China)」という報告書で5月20日議会に提出した。これ以後、米国はまるで中国へ宣戦布告をするかのように、ほぼ全領域にわたって中国への攻撃を開始した。

一方、中国は、香港に対しての締め付けを強化して、民主派の予備選は、国家安全維持法違反であり、民主派候補の立法会議員選挙への立候補を認めないという。

これに対して、香港の自治を阻害する中国当局者に制裁を加える「香港自治法」を米議会が下院6月30日、上院7月1日に通したが、トランプ大統領が署名するかどうかと前回に述べたが、対中政策を最大争点化する必要から7月14日に署名した。しかし、これを推進する中国政治家への制裁を当面しないとしたが、代わりに中国共産党員や技術を盗む中国留学生の米国入国を認めない方向のようである。

「香港自治法」「香港人権法」に寄り、香港への優遇処置は停止して、香港へのドル・ペッグ制を阻止する可能性も出てきた。クドローNEC議長が7月8日、ペッグ制阻止を検討すると言ったが、直ぐにホワイトハウスは否定した。この時、並行してトウモロコシの契約交渉が進んでいたことで、否定したようである。

その後、中国へ輸出するトウモロコシの契約も終わり、米中貿易交渉の第1弾合意の80%程度が実行されることになった。トランプ大統領は、米中貿易交渉の第2弾交渉はないと言って、これ以上の中国容認政策を続けないとした。

中国は、ドルと香港ドルのペッグ制を利用して、香港でドルを調達していた。これにより、中国の銀行が香港経由で借りているドルは、1兆2,000億ドルレベルである。

しかし、香港の優遇制度、特にペッグ制を米国が止めると、ドル調達ができなくなり、返済のためには、中国は米国債を大量に売って、ドルを手に入れる必要がある。

人民元は、まだ国際通貨として流通していないので、ドルを調達して、「一帯一路」構築の海外での投資や石油輸入の決済をする必要がある。

しかし、中国が大量の米国債を売る時には、米国債の金利が上昇する恐れがあるが、FRBは丸ごと買うことで金利を上げないようにするようだ。

そして、今後、中国はドルを手にいれることが難しくなる。中国経済の円滑油がなくなり、中国経済は縮小する危険もある。このため、世界の貿易量でトップの中国経済が縮小すると、世界経済も混乱する。当然、世界の株価も下落することになる。これをドイツは心配している。

このペッグ制廃止を米国がいつ行うかであるが、9月6日の香港議会選挙で、民主派候補が立候補できない時だと見る。

もう1つが、7月13日、マイク・ポンペオ米国務長官は「世界は中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うのを認めない」とした上、ハーグ仲裁裁判所の判決に「米国の立場を一致させる」と強調。これまで米国は、同海域の領有権問題には関与せず、当事者による平和的な解決を求めるとしていたが、これを変えた。その上、尖閣諸島にも言及している。インド国境での紛争も追い打ちを掛けている。

7月15日には、ポンペオ米国務長官は、中国と領有権問題争いをするフィリピンやベトナム、マレーシアなどを支援していくとした。始めに、偵察用無人機を援助するとした。米国が本格的に南シナ海の紛争に乗り出すようである。

ファイブアイズ諸国(英国、豪州、カナダ、ニュージーランド)や日本、インドなども米国に同調する方向であり、中国の孤立化が鮮明になっている。英国は空母を派遣し、日米英の3ケ国で南シナ海で演習を実施するという。その後も、英国空母は、この地域に滞在するという。日米英豪対中になる。

EU諸国は中国を非難するが、米国に同調はしないようである。

その上、米国のウィリアム・バー司法長官は、ハリウッドの娯楽業界やグーグルやアップルなどのIT大手が中国共産党との「協力にあまりにも前向き過ぎる」と語って、禁止する可能性を示唆した。

その上にファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ハイテラなど中国ハイテク5社の製品を使う企業との取引を禁じる「国防権限法」を、米国政府は8月に施行する。日本企業の800社超が調達戦略の修正を迫られることになった。この中国製品を使った企業は、米国政府への取引が禁止になるからだ。

これらを受けて、温厚な王毅外相は、米国を非難して、「マッカーシズムのパラノイア」と表現したが、中国も米国と全面的にぶつかるのは得策ではないと、強気の外交政策を変更するようである。

中国の変化

中国は「中国製造2025」や人材を呼び戻すプロジェクト「千人計画」を宣伝しないことや、孔子学院を中外語言交流合作中心と名称変更して政府色を抑えようとしている。

このように、中国の孤立化を招いている強硬的な外交である「戦狼外交」の見直しを行うようである。

そして、ペッグ制廃止により、今まで中国は対外経済に力点を置いていたが、内需拡大を優先的に行うことになる。ドルが調達できなくなると、一帯一路の対外投資ができなくなるので、その面からも変更せざるを得ないようだ。

これには、もう1つとして、国内の不満が大きくなり、国内で特に田舎の教育・環境整備を優先投資して、海外投資を抑える必要もあるからだ。やっと、田舎の貧困農民たちの生活整備に金を回すようである。1960年代の日本と同じような国家均衡経済政策へシフトする。

もう1つが、人民元決済システムの確立を急ぎ、ドルの決済システムSWIFT(国際銀行間通信協会決済システム)が使用できなくなるという最悪の局面に備えるようだ。人民元を国際通貨として確立するために、中国国債を外貨準備として買ってもらうように親中国家に勧めている。ドルから人民元に中国勢力圏では基軸通貨化したようである。このため、人民元のデジタル化も併せて行う。

今後、米中の対決は益々激しくなる。米中経済のデカップリングも、どんどん進んでいく。ファーウェイなどの中国ハイテクと関係のある日本企業も排除対象となる。

一方、中国は、米国との経済関係が切れても成り立つように、日本や韓国、ASEANなどの企業の工場などが中国に留まるように優遇策を出してくることになる。

日本の対応は?

特に11月までの大統領選挙期間中、トランプ大統領としては、対中強硬政策を中心に米国民にアピールする必要があり、激しくなると思われる。

日本も中国につくか、米国につくかの踏み絵を踏まされることになる。中国に進出している日本企業の利益を擁護する二階幹事長などの自民党内の親中派の存在を、トランプ大統領は許さなくなる。

自民党の中で親中派排除が起きるし、米国でビジネスをする日本企業も中国でのビジネスをすることができなくなる。トランプ大統領と友達の安倍首相は、この方向で早く対処することである。(メルマガより一部抜粋)

image by:Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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