米中対立激化で一気に進む開戦シナリオ。その時日本はどうする?

 

これまでにも対中強硬論もあれば、中国との確執はありました。George W. Bush政権でも、オバマ政権でも中国に対する制裁や外交上での争いもありましたが、これまではIssue by Issueという【個別案件での対立】という理解で、何とか全面的な対立は避けてきました。

その反面、年々高まる中国の国際情勢におけるプレゼンスと影響力への懸念と警戒心が渦巻いては来ましたが、アメリカ経済の発展のために中国との関係は欠かせないとの認識が強く、中国のWTOの加盟を後押ししたり、オバマ政権下では、気候変動のパリ協定採択に向けて米中首脳が協力し合うという演出まで行ったりして、米中新時代をアピールするなどして力の均衡を保ってきました。

しかし、今年に入ってアメリカ国内での中国脅威論は『中国という存在とその野心を支える共産党』という一括りで描かれるようになります。

アメリカおよび同盟国に対する中国によるサイバー攻撃(以前、『もう一つのウイルスとの戦い』でお話ししたように)、コロナウイルスの感染拡大でのアメリカのプレゼンスの空白を狙ったアジア・太平洋地域での中国政府及び人民解放軍の強硬姿勢の高まりに加え、コロナウイルスの感染拡大において、“元々は中国共産党による情報隠蔽と対策の遅延”がパンデミックを引き起こしたとの感情が、アメリカ政府内および国民感情を極端に刺激したことで、中国そのものの存在を悪とみなすような風潮と姿勢に舵を切ったものと思われます。

もちろん、中国政府も折れることはないですから、このまま折り合うキッカケを見つけられないまま、相互非難が激化するような事態になれば、米中2大国による自滅戦争へ発展する可能性があります。

それは、武力衝突という世界にとっては恐怖のシナリオから、米中経済の相互潰しあいという経済戦争、そして、アジア・太平洋地域、アフリカ、ラテンアメリカ諸国、さらには欧州における【勢力圏拡大の争い】までいろいろな“自滅戦争”のシナリオが考えられます。

そう、かつての米ソ冷戦における分断のように、“負け”るか“自滅”する側は、その後、大きな経済的、政治的、外交的なスランプに陥るという形式です。今の中東欧諸国、旧ソ連の国々を見れば想像できるかと思います。

そのような中、日本を含む国々や地域はその影響をもろに受ける羽目になっています。香港国家安全維持法の制定は欧米諸国を“キレ”させ、日本やオーストラリアというアジア・太平洋諸国政府にとっても、政治的に中国に対処しないというオプションが非常に困難になっています。

今のところ、アメリカとオーストラリアという対中強硬派のハードライナーから、中国との経済関係を重視するがゆえに、政治外交と経済を分けて対応する欧州各国や日本という図式が出来ていますし、東南アジア諸国についても、【中国の所業は許しがたいが、同時に中国との経済的なつながりは切ることが出来ない】という欧州や日本とは別の意味でのジレンマゆえ、対中包囲網は効果的に機能していません。

アメリカは日本や欧州の巻き込みに必死ですが、それぞれの国内・域内事情に鑑みて、日欧ともに少しアメリカの強硬策とは距離を置く戦略を取っています。

欧州については、直接的な香港問題を抱える英国という例外を除けば、欧州はロシアによる領土拡張の脅威に対抗するため、安全保障面ではアメリカに依存しています。NATOの分担金問題でトランプ大統領からぼろくそに批判され、フランスのマクロン大統領が推進するように【欧州防衛軍構想】がアイデアとしては持ち上がりますが、実質的にはEUのアメリカ離れはしばらく起きません。

アメリカにとっては、欧州をロシア(そして中国)の脅威から守るという役割を徹底する立場を示すことで、欧州としては、その防衛の引き換えに南シナ海での米中対立においてはアメリカに協力するという“取引”が成り立ちます。そのためには、以前にもご紹介したアメリカ軍のrelocationの方向性を再考する必要がトランプ政権と次のアメリカの政権にも必要になるでしょう。

今のところ、フランスは中国との経済的なディールを重んじるあまり、香港国家安全維持法の制定に対する懸念は表明しても、対中制裁の輪には加わりませんし、英国やドイツについても、5G市場においてkey playerとして踏みとどまるには、中国との関係(特にファーウェイ)は切れないとの政治的な判断が働いていますので、そう簡単に全面的な反中親米への徹底は困難かと考えます。

しかし、その可能性が高まってきているのが、【2年ぶりのセルビア共和国とコソボ共和国とのトップ会談】を巡る国際情勢です。

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