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NYの地下鉄は赤字1兆円。米にジワジワ押し寄せるコロナダメージ

世界で最も新型コロナウイルスの感染者数が多いアメリカ。経済活動が一時完全にストップしていたその余波が、徐々に今アメリカに押し寄せていると言います。米国の邦字紙「NEWYORK BIZ」CEOでメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者である、ニューヨーク在住の高橋克明さんが、そのコロナダメージについて解説。約1兆円にものぼる赤字となった、ニューヨーク州都市交通局(MTA)を例に、その経済損失を検証します。

徐々に始まってきたコロナダメージ

6月24日、ニューヨーク州都市交通局(MTA)が100億ドル(約1兆円)の赤字を抱えていることを発表しました。 もちろんこの額は史上最大の財政難を意味しています。 理由は当然、コロナ。 肉眼では見えない微細なウイルスが、この街の動脈源を根本から破壊しました。 ここから先、MTAは4年の歳月をかけての資本計画の検討を余儀なくされました。

具体的に僕たち庶民がどうこの検討計画に関わっていくのか、今の所は具体的な案件は出ていません。 もちろん運賃の値上げは避けられないと思います。 僕が初めてこの街に来た今から20年前は、シングルライド(片道)1ドル50セントでした。 2020年現在、2ドル75セントです。 20年で、倍近く上がりました。

そう考えると、JR東日本は良心的だなと思う反面、当初の1ドル50セントという料金設定自体が安すぎたのかもしれません。 東京と違って、こっちの地下鉄はどこまで行っても同料金。 隣駅でも端から端まででも同じ。

当時は、ホームレスの巣窟でした。 この街の冬は日本の北海道の冬と同じです。 路上で寝て凍え死ぬよりは、1ドル50セントで暖房の効いた車内で寝るほうがずっといい。 彼らにとっては命がけで得た24時間のホームでした。 今はめっきり見なくなりました。 行政がなんらかの対策をしているのかもしれませんが、ひょっとしたらこの倍近い値上げも彼らが地下の暖かい寝床に来られなくなった理由のひとつかもしれません。

仕事柄、この20年間、MTAの「ちょっとずつ」の値上げをニュースにしてきました。 編集部で「まぁた、値上げだったよ、サブウェイ!」という編集部員の会話を何度も聞いた記憶があります。

おそらく、次は、今までのようなレベルの値上げではない。 致し方ないとしても、この街のある種、象徴であった庶民の乗り物が、どんどん庶民からかけ離れた贅沢交通機関になっていく気がします。 しかも、今度は乗る側の利用者の財布も今まで以上に厳しくなっている。 アフターコロナの厳しい現実が、少しずつ顔を見せ始めてきた感じです。

THE HEROES ACT(ヒーローズ法)という、新型コロナウイルスによる経済打撃の対策案として可決された法も、実質的には機能していません。 とにかく、あらゆる機関、民間も含め、承認待ち状態が続いています。 現段階でMTAが発表した対策「具体」案は、「とにかく経費を削減していく」という、どこが具体的なんだ、な対策。 それも仕方ないのかもしれません。 とにかく国も行政も民間もそして、僕たち一般人も含め「これから、どうなっていくんだろう」状態です。

それにしても、地下鉄の打撃は相当なものだったと想像します。 ビフォーコロナには、毎日のように、利用していた僕も、この4カ月1度も利用していません。 実は3カ月ほど前からすでに本数は減れど、営業はしていました。でも、やっぱり、心理的にも乗りたくはない。

飛行機や車を利用しないといけない場所なら、他の代わりはありませんが、地下鉄の場合、目的地は、大抵は少し頑張れば歩いていける距離になります。 なら、歩く。 もともと、コロナ前からも衛生的なイメージがない交通機関ではありました。 なので、余計に、です。

一昨日、4カ月ぶりに利用しました。 目的地はブルックリンだったので、地下鉄に乗るしか方法がなかった。 多少、緊張した感じで乗車するも、やはり人はまばら。 ガラガラというわけではありませんでしたが、いつものすし詰め状態に比べると、ひとつの車両に数人しかいない光景は、そこがまるでニューヨークの地下鉄とは思えないほどでした。

当然ですが、法律で決まっているので、乗車客は一人残らずマスク着用。 ほんの半年前、今年の頭に、「数カ月後、ニューヨークの住人、みんながマスクを着用するようになるよ」と言われても、この世の誰一人、信用しなかったと思います。 今さらながら、ニューヨークに20年住んでいる自分は、地下鉄の乗客全員がマスクをしている目の前の光景に、愕然としてしまいました。 「ここ……ニューヨークだよな…」と。

まばらな乗客を見て、この3カ月間、MTAは収入源がほとんどなかったという記事を思い出していました。 そのため以前から検討されていた地下鉄とバスの近代化計画は、延期するという記事も。

今回のMTAが発表した損失額は、毎月5億ドル(約536億円)、そして必要な80億ドル(約8577億円)の給付金の約半分しか受け取ってないとのこと。 累積赤字は100億ドル以上。 ここから、人件費の削減、運賃および通行料の引上げ、サービスの削減など、さまざまな救済策が出てくるはずです。

今回のニュース、個人的には非常に衝撃的でした。 頭ではわかっていたものの、なかなかリアルに体感はできていませんでした。 やっぱり、来るか…といった感想。 当然といえば、当然ですが、実はロックダウン以降、引きこもっている分、現実として実際の経済的ダメージを身を持って感じていた人はまだまだ多くはなかったはずです。

今現在も、世界で記録的な失業率を出しています。 4月にアメリカ全体で失業率14.7%という、世界恐慌以降で最悪の数字を出したのは記憶に新しい。 そこから再雇用率はまったく変わっていません。 で、なにより重要なのは、この数字に「休職者」が含まれていない、ということ。

従業員を解雇する前に、コロナが収まるまで一定期間の「休職」という形にしている企業は想像以上に多い。 それが長引くにつれ、結局、やっぱり「解雇」になるケースは想像に難くない。 つまり、今でさえ戦後最大の数字はさらに悪くなる可能性があるということ。 だからと言って、今ここで経済活動を焦っては、感染第2波が来る、というのが多くの専門家の予想です。 SNSでとりあえず「明日に希望を託そう!」と安易に書き込んでいる状況ではないかもしれません。

一般市民にも、実質的に今後は、体感するほどの経済損失がやってきます。 不必要に脅したり、煽ったりするつもりはないけれど、ここからどう自分たちは戦っていくのか。 耐え忍ぶのか、逆に打って出るのか、思い切ってビジネスモデルを切り替えるのか。 少しずつ感染リスクが下がってきている今、今度は、経済的サバイブについて、今一度、真剣に考える時が来ているようです。

image by:PatSaza / Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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